最狂戦士は異世界を行く   作:Mr. 転生愛好家

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戦闘回です。試行錯誤して読みやすい文章にしたつもりです。


第3話 PVE

「……お、見えてきた……」

 

 イリス・ラトリアスから離れた場所にある平原地帯。獣人の大軍勢がイリス・ラトリアスの方に向かっていると報告を受けたアダムはブリュンヒルデと姉妹達にグレゴリー、ガーベラ・アンナ、ヴィクトリアを引き連れて、他のメンバーにイリス・ラトリアス防衛を任せて軍団の進行予想ルートに陣取っていた。

 現在のアダムの装備はアレスの遺鎧にオーバード・ワンのユグドラシルでも一度も組み合わせたことのなかった装備、NPC達も各々の武器を手に獣人たちがくるのを待ち構えていた。

 

 そして現在、アダムは双眼鏡で遠方から軍勢が迫ってくるのを視認したところである。

 

「……なあ。これ、どうやってアレを止める?」

 

「そうですね………あの大群を止めるとなると、何か大掛かりなことをしなければならないと考えます。ここはこの不肖グレゴリーが第8位階以上の魔法を打ち込むか、ブリュンヒルデ及び彼女の姉妹達による一斉攻撃、これらが必要となります」

 

「そうか。……だが攻撃はまだだ、あっちの目的がイリス・ラトリアスじゃないかもしれないし、もしかしたら意思疎通ができるかもしれない」

 

「分かりました、では威嚇までに留めておきます。ブリュンヒルデに姉妹達、攻撃はしなくていい、あの集団の上を飛び回ってくれ」

 

「了解。ではアダム様、行って参ります!」

 

 グレゴリーの指示によりブリュンヒルデと姉妹達は一斉に飛び立ち、そのまま獣人の軍勢の方へと飛行していく。あっという間にブリュンヒルデ達は獣人達の上に到着し各自散開、そのまま軍勢の上を縦横無尽に飛び回った。姉妹達がしばらく高速で飛び回ると獣人達の意識が彼女らに向いて、軍勢の進行がストップした。

 獣人達の上でしばらく飛んだ後、彼女達はアダムのところへと戻ってきた。

 

「ただいま戻りました。獣人達の意識は我々に向きました、これで奴らは我々を見れば止まらざるを得なくなるでしょう」

「ご苦労さん。攻撃されなくて何よりだ」

 

 労いの言葉の後、アダムの指示により彼を中心にして横一列に並び、ブリュンヒルデ達はランス、剣、斧などそれぞれの武器を構え、グレゴリーは武器である魔道書を開き、ガーベラは双剣を抜き、ヴィクトリアは持っていたザ・ブレイカーをアダムへと差し出し、彼が受け取ると細いガントレットを装着した両手を構えて、軍勢が近くに到着するのを各々が待ち構えた。

 

 そして獣人達の先頭が止まり、そのまま全体の進行も止まった。獣人達は一斉にアダム達へと威嚇のような唸り声を上げ始めて、アダム達もアダム以外は武器を構えており睨み合いの状態となっていた。

 

 すると一体のそれなりに豪華な装備を纏った虎の獣人が、獣人達の中から出てきた。その獣人はゆっくりとアダム達を見てから、ハッキリとした声で喋り始めた。

 

 

 

 

 

 その虎の獣人──ビーストマンは大将軍の息子であった。大将軍の息子として、未来の将軍として期待されて、若将軍という愛称で呼ばれている彼は、侵攻先の国への橋頭堡であった街の近くに突然現れた城塞都市への威力偵察の指揮官の役割を与えられた。

 父親から練度の高い兵達を与えられた彼は、あわよくばその都市を攻め落とし、将校として一人前だと認めてもらおうと考えていた。

 

 軍団を率いて進んでいた彼の前の現れたのは、翼を生やした人間達に角と尻尾のある人間などの奇妙な集団であった。翼の生えた人間達が自分達の上を挑発するように飛び回り、全員注意が目の前の人間? 達に向いてしまったために軍を止めることになってしまった。そして中央にいる全身鎧の兜が左右に開き、獲物を狙う獣のような鋭い目と汚れのない綺麗な白寄りの金髪の男の顔が現れた。

 

 都市で手柄を立てようと勇んでいた指揮官は急に進行を止められた事に怒り、自分達を止めた愚か者を見に来たのだった。

 

「貴様らは何者だ。誰の許しを得て、我々の道を邪魔している!」

 

「うわぁぁぁ喋ったぁぁぁっ!!? ふ、普通に喋りやがった…あ、でもこれなら意思疎通はできそうだな」

 

「……何を言っているのだ人間! 矮小な人間が我を愚弄するな──っ!?」

 

 矮小。目の前の人間に若将軍が言った途端、強烈な殺気が彼だけでなく後方にいたビーストマン達にも叩きつけられた。その殺気により先ほどまで騒がしかった軍勢は一瞬で静まり返りその場が静寂に包まれた。

 

「……おいおい、そうピリピリするなって。多少の悪口は慣れてるからさ」

 

 その殺気を感じた目の前の男が後ろに控えるもの達の殺気を鎮めたことで、若将軍は再び喋り始める。

 

「……も、もう一度聞く。お前達は何者だ」

 

「俺たちは……お前らが目指してるかもしれない街の住人だ。お前達がこっちに来るって分かったから、挨拶と一緒に話し合いでもしようかなって思ってな」

 

「話し合い、だと? 一応聞くが、なぜお前達と我々が話し合いをしなければならないのだ?」

 

「は? なぜって……当たり前だろ? 大軍で住んでる街に来てるんだ、何が目的なのか温厚に解決しようじゃないか」

 

「……つまりは、お前は我々と対等に話し合いをしようというのだな?」

 

「対等? いや、対等も何も……当たり前だろ?」

 

 どうして矮小な人間が自分達と交渉しようというのか、若将軍は意味が分からなかった。彼らにとって人間は餌でそもそも交渉する権利のない存在。目の前にいる者達は翼や尻尾など多少変なところはあるが、彼らには人間として見えた。

 

 殺気をぶつけられたことで一度は鎮められた怒りが、目の前の男の言葉により再び燃え上がった。

 

「……図に乗るなよ人間! 我々の餌である貴様らに交渉、いや我々と話す権利などないのだ! 貴様がこの先の街の何者かは知らんが、貴様らを食ってから街に住む人間どもを一匹残らず食い尽くしてやる!!」

 

「……え? おいおい、なんでそうなる。だから話し合いを」

 

「黙れ! 餌は喋るな! ただ悲鳴をあげて我々に食われろ!!」

 

「……失礼ながらアダム様。この獣達は意思疎通は可能ですが話し合いは相互理解は不可能と思われます」

 

「マジかー……グレゴリー、穏便に済ますのは無理そうか?」

 

「不可能、と考えられます」

 

 

 

 

 

 ちっ、と舌打ちをしてアダムは目の前にビーストマン達を見る。今にも飛びかかってきそうなほどビーストマン達は興奮しており、戦いは避けられない様子だった。

 

「……こうなったら仕方ないな……お前達はまだ手を出すな! 一番槍は俺がもらう」

 

「ご主人様!? どうかこのヴィクトリアを御身の近くに! 私で力不足と仰られるのなら、せめて六衛将の方々を!」

 

「いらん! お前らは俺の命令があるまで一切、手出し無用だ! こればかりは、自分の体で味わってみないとな。お前達はこいつらを包囲しておいてくれ。どうしても心配ってなら……ブリュンヒルデとヴィクトリア、お前らは空で俺のことをしっかり見ておいてくれ」

 

「……分かりました。ご主人様、ご武運を」

 

 極力戦いは避けたいとアダムは言っていたが、その反面戦い好きな彼はこの世界の強さに抑えられない興味があった。

 

 アダムが前に出てきたことで若将軍は戦う意思があると察して、兵達に始末するように言って後方へと引っこんだ。そのままゆっくりビーストマン達の先頭へと進んでいくアダムに対してビーストマン達はジリジリと彼に近づき、アダムの護衛達はすぐにでも飛び出せるように身構えていた。

 

 そしてお互い、どちらも駆け出せば攻撃できる距離まで近づく。アダムが足を止めて、カシャン! と音を立てて兜を装着したのをキッカケに目の前の獲物に我慢できなったビーストマン達が一斉に襲いかかり、そのまま各々の武器を振り、突き出した。

 

 その一瞬後に響く鈍い音。最前線にいるビーストマン達が見たのは、攻撃した仲間達の武器が全て弾かれた瞬間だった。重い一撃が来ると思い身構えていたアダムも呆気にとられていた。

 

「か、硬いぞこいつ! 武器が通らない!」

 

「全員で叩け! 囲んで叩き潰せ!」

 

 アダムより早くビーストマン達は動き始め、大量のビーストマンがアダムを囲み持っている武器で攻撃して袋叩きの状態となってしまう。それを見てブリュンヒルデ達は介入しようとするが、アダムの手出し無用の命令と攻撃がアダムに当たることへの危惧から動くことができなかった。

 

 そのまま全方位からビーストマンがアダムに集中していたが、突然アダムをとり囲んでいたビーストマンが一斉に吹き飛んだ。一拍遅れて吹き飛ばされたビーストマンたちの体が横一線に切断され、血や臓物がアダムの周囲や待機していたビーストマンへと降りかかってくる。

 

 中央ではアダムがオーバード・ワンを抜いており、回転斬りをしたのか刀身と鎧には真っ赤な血がベットリと付いていた。オーバード・ワンを構える彼の息はまるで興奮しているように荒くなっており、ゆらりとビーストマン達の方を向いた。

 

「どうしたぁ? 俺はまだぁダメージゼロだぞ? そんなナマクラで俺の最強装備にダメージ入るわけねぇだろ! さあもっとすごい武器持ってこい! お前ら全員かかってこいよぉ!!」

 

 アダムは心底楽しそうに叫びゆっくりとビーストマン達へと歩き出す。彼が近づくに連れてビーストマンの鼻に血の匂いが漂ってきた。その匂いはさっき殺された仲間の血の匂いだけでなく、人間や嗅いだことのない種族の、数え切れない程の色んな血が混ざった形容し難い匂いであった。

 彼の匂いを嗅いだビーストマン達は自分達が人間と侮っていた存在が、まるで別の何かのように思えてきた。

 

 だがビーストマンの誇りが、自分達が餌に負けるという屈辱感が彼らの恐れをかき消す。

 

「グオオォォォォォォッ!!!」

 

 先頭にいたビーストマン達が一斉にアダムへと突撃して、状況が把握できてない後方の者達もそれにつられて進軍する。軍団が一斉に自分へと突撃してくるのをアダムは兜の下で笑いながら見て

 

「〈刃伸ばし〉! 一気にぶった斬ってやるよっ!!」

 

 剣士系職業の特殊技能の一つ、刀身が淡い光に包まれ、その光が伸びて刀身の形となり武器のリーチが伸びるスキルを発動。勢い良くオーバード・ワンを斜めに振れば、彼の眼前まで迫ったビーストマン達だけでなくその後方にいたビーストマンごと一度に何体も切り捨ててしまう。

 

「さあ、俺を楽しませてくれよッ!!」

 

「なっこいつ突っ込んでうぎゃっ!?」

 

「ヒィッ!? こ、こっち来るぞっ!? 逃げェっ!?」

 

 そのまま剣を振りながらアダムは軍勢の中に突っ込んでいった。一度に何体も切り裂きながらどんどん中を進んでいく彼に四方から攻撃が来るも、全て鎧に弾かれるか届く前にアダムによって武器ごと体を切り裂かれてしまった。

 

「〈刃飛ばし(スラッシュ・ショット)〉!!」

 

 さらに剣士職の遠距離攻撃の一つである特殊技能を使用。オーバード・ワンを振ると同時に青色の三日月型の斬撃が放たれ、その直線上にいたビーストマン達がまとめて両断され叫び声と共に上半身が宙を舞った。

 

「あー、面白くねぇなぁ! なあ、もっと強い奴はいないのかよ!? 歯応えないぞ!? もっと俺を楽しませてくれよ!!」

 

 一度斬れば死ぬ雑魚を相手にする無双より、同じ強さの存在との死闘を好むアダムにとってこの戦闘はなんの面白さがなく退屈であり、剣を振りながら思わず言ってしまった。それにかき消せない恐れを、前線のビーストマン達は抱いてしまっていた。

 

 

 

 

「おいどうなってる?! なぜ前線は苦戦している!?」

 

「私も分かりません! ただあの人間の強さは予想以上です!」

 

「バカなことがあるか! 相手はいくら強くても人間一匹だぞ!!」

 

 軍の中央では若将軍が前線からの伝令係に怒鳴っていた。たった一人の人間相手に自分達が不利になっているということに伝令係も混乱しており、若将軍も我慢できず徐々に苛立ち始めた。その間もアダムはビーストマン達を斬りながら進んでおり、このまま行けば若将軍がいる場所に到達してしまう調子だった。

 

「……もう良い!! 役立たずどもが!! こうなれば俺が直接あの人間に手を下してやる。出陣の角笛を吹け!!!」

 

 若将軍の剣幕に押され側近は言われるがまま持っていた角笛を吹く。ブオオォ〜〜〜!! 、と大きな重い音が戦場に響けばアダムだけでなくビーストマン達も動きを止め、音がしてきた方向に意識を向けた。

 

 静まった戦場に角笛の音が響き続く中、一斉にビーストマン達が左右に別れ道を作り、その中央に残されたアダムの前方から大きな剣と盾を装備した若将軍がゆっくりと歩いてきた。その目は自分達を愚弄する、目の前の同胞達の血で真っ赤に染まった鎧の人間に向けられていた。普通のビーストマン兵士が恐れを抱く中、若く血気盛んな若将軍はアダムの姿を見ても恐れ一つ湧かなかった。

 

「お? ……ああ、さっきのお前か。なんだ、俺の次の相手はお前か?」

 

「人間っ!! 俺は未来の大将軍としてビーストマンを統べる者! 不甲斐ない兵どもに代わりお前を殺してやろう!!」

 

 怒りを込めた声でアダムへと吠えれば、それに周りのビーストマン達も雄叫びと歓声をあげ、そのままアダムと若将軍を輪になって囲む。

 

「そうだやっちまえ! 若将軍様なら楽勝だ!」

 

「人間に俺たちの恐ろしさを味あわせてやってくださいよ!」

 

「終わりだ人間! 俺たちが骨まで残さず喰ってやる!」

 

 取り囲んだビーストマン達が騒ぎ立てるのを聞きアダムは笑う。こいつならきっと楽しめるかもしれない、と。

 

「良いねぇ!! なら俺を傷つけてくれよ……俺に痛み、感じさせてくれよっ!!」

 

 挑発するかのように両手を広げてノーガード状態になるアダム。それを見た若将軍の怒りがついに爆発した。

 

「ナメるなよ人間んんん!!!」

 

 叫び、地面を強く蹴り猛スピードで盾を構えてアダムへと突進。そのまま正面衝突してアダムを押して大きく後退させた。だが同時に若将軍の腕にまるで壁や巨岩に体当たりをかましたかのような衝撃が返ってきて、それに若将軍も何が起こったのか分からなかった。

 

「オオオオオァッ!!」

 

 だがアダムがまだ立っているのを見ると再び雄叫びを上げて右手に持つ剣を何度も振った。ガムシャラに剣を振っており型も何もないが、彼は腕力と剣を振るスピードによる手数でそれを補っており、さらに剣も若将軍の攻撃に耐えられるように丈夫に作られていた。事実、彼と戦った人間は反撃する暇を与えられずに鎧ごと叩き潰されていた。

 

「死ね死ね死ね死ねっ!! お前も無様に潰されてしまえぇっ!!!」

 

 殴り殴り殴り殴り殴り──殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴りまくる

 

 自分の戦法に自信があるために、アダムに対してもそれで勝てるであろうと信じていた。さらに何体も同胞を殺されたことへの怒りから、いつもよりもガムシャラに剣を振り続けた──腕に返ってくる衝撃や、何度も攻撃を当てているのにアダムが一切体勢を崩していないことに気付かずに。

 

 そして終わりは突然やってきた。バッキィィィッ!! と大きな音が響き、若将軍の剣を振る腕が軽くなった。はっ、と我に返った若将軍が何が起こったのかと右手を見れば、彼の剣が真ん中から真っ二つに砕けていた。それに驚きアダムを見ると、剣を受け止めたのかオーバード・ワンを片手で横向きに構えており、その後方には折れた剣の一部が地面に刺さっている。

 

 若将軍の剣が折れたことに若将軍自身は呆然として、周りにいたビーストマン達も何が起こったのか分からずさっきのような歓声は無かった。

 

「……ああ、ガッカリだ。ガッカリだーっ!!」

 

 突然、アダムは叫びビーストマン達の意識がアダムに集中する。

 

「突進はちょっと痛かったけどさあ……他は全然痛くも痒くも無かったぞ!? おい、本気か!? これがお前の本気なのか!? だとしたらこの上なくガッカリだよ!!」

 

 アダム何を言っているのか、若将軍にも周りにも理解できなかった。あれだけ食らって痛く無かった? いくら鎧が優れていても、あれだけ食らえば少しは痛いはずなのに。

 

 そして若将軍も理解した。アレを人間と思うべきでは無かった、全く別の存在だった。見下していたことに、遅すぎる後悔をした。若将軍の足は、恐怖にガクガクと震えながらゆっくりとアダムから離れるように後ろに動いていた。

 

「……化け物……貴様は化け物なのかっ!!?」

 

「あん!? 失礼だな! 俺は普通の人間だ! 全く……」

 

 そう言ってオーバード・ワンをまっすぐ構えるアダム。ヒッ、と若将軍から恐怖の声が漏れ出る。

 

「期待させた挙句ショボい攻撃ばっかしやがって……それじゃあ……こっちの番だぁ!!!」

 

 斬っ!!! 

 

 決着は一瞬だった。

 

 若将軍めがけて走り、一気に距離を詰めながらオーバード・ワンを振りかぶる。若将軍は咄嗟に盾を構え、振り下ろされたオーバード・ワンは止まる事なく、盾ごと若将軍を縦に、綺麗な真っ二つに切り裂いた。若将軍は痛みを感じることも悲鳴を上げることもなく死亡、数秒遅れて斬られた所から血を吹き出して左右に裂け内臓を辺りに撒き散らした。

 

 若将軍が殺されたことにより間近で戦いを見ていたビーストマン達の戦意は喪失。だが後方の戦いが見えていない者達には何が起こっているのか分からず、軍は完全に指揮系統を失ってしまった。撤退しようにも動くことができない。

 

「……ブリュンヒルデ、ヴィクトリア。降りてこい!」

 

 アダムの声により彼の両隣に降りてくるブリュンヒルデとヴィクトリア。

 

「お疲れ様です。包囲はすでに完了しています。如何いたしますか、アダム様?」

 

「……皆殺しだ。ヴィクトリアは俺の近くに居てくれ。もうこいつらには飽きた……雑魚狩りほどつまらない物はねぇ。あとは頼んだぞ……」

 

「はっ!! ……護衛全員に通達! これより殲滅戦を開始する! アダム様に楯突いた汚い獣達を、皆殺しにしてしまいなさい!!」

 

 ブリュンヒルデによる死刑宣告が、ビーストマンへと下された。

 

 

 

 

 ヴィクトリアを除いたNPC達が残ったビーストマンを全滅させるのに、5分もかからなかった。アダムが大量に殺していたとは言え1000体近くは残っていたが、NPC達は手加減なしで戦ったためあっという間に殲滅が終了した。

 

 その間アダムは──ーボーッとしていた。彼が戦闘する意思が無くなった途端、高揚し熱くなっていた精神がスッと静まり、直後にポワポワと気だるさや虚無感が支配して思考がうまく纏まらない状態になってしまった。

 

 殲滅が終わり護衛達が報告に来てもアダムは「ああ、うん」や「お疲れさん」と生返事しかしてこないため、「きっとお疲れになられているのだろう」と判断した護衛達は少しでもアダムが快適になるようにとグレゴリーに転移でイリス・ラトリアスから椅子を持ってこさせて、それにアダムを座らせる。

 

 アダムが座らせられてから更に時間が経ち彼の意識がボーッとし始めてから20分後。

 

「……うあー……何だったんだこの変な感じ……」

 

 アダムの意識がハッキリしたのか、兜を開き顔を出せば両手で頰を叩く。

 

「お目覚めでしょうか、アダム様。それでは改めて、敵の殲滅を完了しました。一匹も生き残りはおりません」

 

「あ? 終わったのか? よくやったお前達、楽勝だったか?」

 

「はい。この程度の相手ならイリス・ラトリアスのシモベたちでも勝てるでしょう」

 

「ほんと、マジで弱かったな……っ」

 

 生臭い匂いがアダムの鼻を刺激する。改めて周りを見てみると、彼の目に映ったのは一面の血の海──ーそこらじゅうに死体と臓物が転がって、茶色が見えないほど赤一色の地面。さらに下を、自分が来ている鎧を見れば、アレスの遺鎧は真っ赤な血に濡れている。

 

 少しの沈黙の後、アダムは自覚した。この地獄絵図は自分達が作ったのだ、と。相手が人ではなかったためなのか、不思議と後悔や罪悪感は湧いてこず、ただ匂いや光景への気持ち悪さしか湧かない。

 

「……うえっ……いやな匂いだ……さっさと帰るか、あんまりここに居たくない」

 

「承知しました。死体はいかが致しましょう」

 

「……そのまま放置する訳にも行かないからな……燃やしてくれ」

 

「分かりました。グレゴリー、最大火力で全て燃やして」

 

「アダム様のご命令とあらば、血の一滴残らず焼き尽くしましょう!」

 

 グレゴリーに後処理を任せ、一足先にイリス・ラトリアスに帰還しようとするアダム達。この地から離れる前に辺りを見回して、アダムは呟く

 

「ほんと、最悪なファーストコンタクトだったな……」




本当に戦闘回は描写が難しいですね。
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