最狂戦士は異世界を行く   作:Mr. 転生愛好家

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第4話 この世界の者達

「イリス・ラトリアスに向かって歩く人の集団!? それ本当かブリュンヒルデ!?」

 

 ビーストマン相手の大虐殺から4日後の昼。襲撃もなく平穏に過ごしていたアダムへと、イリス・ラトリアスに近く人の集団が近づいてきているという報告を受けた。

 

「で、どんな奴らが近づいてくるんだ?」

 

『そ、それが……偵察に言ったロスヴァイセとグリムゲルデの二人によれば、ほとんどが戦士ではなく一般人のようでした』

 

「一般人? 数は?」

 

『おおよそ100人程度です。護衛らしき武装した者も複数見えますが、とても一般人を守りきれる数ではありません』

 

「そうか…だとすると前みたいな襲撃ではないかもしれないか?」

 

『恐らくは』

 

 報告にアダムはこれはチャンスではないか? と考える。自分達はファーストコンタクトに失敗し、この世界について何も知らない状況に置かれている。その状況下でのこちらに向かってくる人間の集団。人間が相手ならビーストマンと名乗っていた獣人達より話は通じるだろう、アダムはそう考えた。

 

「……ブリュンヒルデ、そいつらは確かにこっちを目指しているのか?」

 

『はい。進む方向的には確実に』

 

「ならロスヴァイセとグリムゲルデはそのまま監視を続行させろ、そいつらに危害が及ぶようなことがあれば救援に入って構わない。他の姉妹達は待機させろ、ある程度この街に近づいたら出迎えて案内してやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えてきました! 街です! 街があります!!」

 

「本当だ……すげぇ……あれ城塞なのか!? あんなデカい城塞見たことないぞ!?」

 

「ねえ……あれ本当に大丈夫…?」

 

「俺たちの近くにはここしかない。皆も疲れてる、もうあそこに行くしか手段はないんだ」

 

「アレが化け物どもの住処、だってオチは勘弁ですけどね! 四大神様、どうかご加護を……!」

 

 冒険者チームの彼ら──すでにメンバーはサブリーダーの槍使い、召喚士に女エルフの治癒士の3人しかいないが──は現在ビーストマンの進行から逃れた避難民達を連れていて、ある程度他の魔法も使える召喚士が自分達に一番近い街を「方位探知(コンパス)」で探しその方向に藁にもすがる思いで進んだ結果、運よく街を見つけることができた。

 

 あんな大きい城壁を持つ街の話題を一切聞かなかったことなど気になることはあるが、そんなことを言っていられる状況ではない。何より、避難民もあの街に希望を抱いており今別の街に進路を変えることは出来ない。

 

「皆! もうすぐだ、もうすぐ街に着く!!」

 

 槍使いの激励で避難民達に安堵と喜びが広がっていく。皆限界に近いが目の前の希望へと最後の力を振り絞り必死に歩く。あの街に入れば最低限の安全は確保されるかもしれない、その一心だった。

 

 すると先頭を歩く槍使いが足を止め、そして手を横に出して止まるようにジェスチャーをする。どうしたのかと召喚士とエルフ神官が槍使いの顔を見ると、彼の表情は戦場で迫る危険を察知するときの険しい顔で、彼の危機察知系の生まれながらの異能(タレント)が何か自分達よりも強い存在や危ない存在を察知していた。

 

「……何が、どこからきます?」

 

「わからない……でも強いのが来る……っ!?」

 

 バッ、と槍使いが空を見上げそれに他の二人もつられて空を見れば、太陽を背に何かが空から降りてくる。太陽を背にしているため眩しくてよく見えないが、それは人影のようだった。だが微かに、大きな鳥の翼のような物も見えた。それはこちらの方に降りてきて降り、降りてくうちに9つに人影が分かれた。

 

 先頭の3人だけでなく彼らの視線に気づいて上を見たもの達がそれらを呆然と見ている中、ゆっくりと彼らの目の前に9人の翼を生やした女性が降り立った。どれも見たことない装備をしており、槍使いの生まれながらの異能(タレント)がこれまでない最大限の警鐘を鳴らし続けていた。

 

「……ベルクス……ベルクス! どうするのこれ……」

 

「……どうもこうも、戦うのは無しで。ありゃ勝てない……」

 

 ベルクス、と治癒士に呼ばれた槍使いは引きつった笑みをすることしかできず、心の中で話が通じる相手だと良いなぁ、と思うことしかできなかった。

 

 誰も喋ることができない中、先頭に立つ一際装飾の豪華な服を来た女性──ブリュンヒルデが歩み出て、ベルクスに問いかける。

 

「あなた方に質問をしましょう。まず一つ、あなた方はどのような集団か」

 

「っ!? お、俺たちは竜王国の国民です! 俺たちは今、ビーストマンの進行から逃げてこの街にたどり着きました!」

 

 喋りかけられたことにより、直感的に活路を見出したベルクスはその質問に必死になって答える。他の面々はベルクスに全てを任せるのか、固唾を飲んで見守っている。

 

 ベルクスの回答のビーストマンにピクリ、と反応したブリュンヒルデはどこかに伝言(メッセージ)で会話──ベルクス達には内容は小声で聞こえなかったが、辛うじて敬語で話しているのは分かった──を始める。その会話はすぐに終わり、ベルクスへの質問が再開される。

 

「二つ目の質問…ここまで来たあなた方はこの街に何を求めるのですか? 」

 

「……俺たちは、保護を求めます。皆はもう限界なんです! 無礼なのは承知してます、ですが、一刻も早く落ち着ける場所が必要なんですっ!!」

 

 必死の様子でベルクスは彼女達に頭を下げる。見守っていた二人の仲間や難民達もそれを見て同じように頭を下げていく。皆カルマ値が高く善人である姉妹達はその必死の頼みを受けて、同情の悲しみの表情を浮かべていた。

 

「…ブリュンヒルデお姉様! 彼らを受け入れましょう! わ、私は彼らを見捨てることなんてできません!」

 

「ロスヴァイセ、気持ちは分かるわ。でも私たちに決定権は無いの……でもヒルディ、私もロスヴァイセと同じ意見よ」

 

「……わかっています、ゲルヒルデ。アダム様に報告しますが……いざとなれば……」

 

 それはブリュンヒルデも同じだが何よりも優先されるのはアダムの命令。もし受け入れられなければ、命を持ってアダム様を説得しなければ──そんな覚悟と共に、再度アダムへ伝言(メッセージ)を送る。

 

「アダム様、彼らはイリス・ラトリアスに入ることを求めています。……はい、彼らは一時的な避難場所を求めているようで……っ! …………分かりました! 御心のままに」

 

 話している最中でブリュンヒルデは驚いた表情になり、そのまま会話は終了する。ベルクス達と姉妹達がブリュンヒルデを見守る中、ベルクス達の方を向いたブリュンヒルデの顔は──この上ない喜びの表情で、ベルクス達や姉妹達がギョッとするほど満面の笑みで喋り始めた。

 

「おめでとうございます!! 私たちの主人であるアダム様はあなた達を歓迎するとのことです。それでは案内しましょう、最強なる三十三戦士の方々の栄光の結晶、魔導城塞都市イリス・ラトリアスに!」

 

 ブリュンヒルデの言葉はすぐに全体に伝わり、喜びが難民全体に広がっていくまであっという間であった。

 

 

 

 

 

 難民一行がイリス・ラトリアスに入った時から、彼らの感情は喜びも吹っ飛ぶほどの驚きに支配されていた。近くで見るほど桁違いの高さと堅牢さを誇る城壁に防衛の兵器と思われる何か。中も中で、街を防衛している金属質のゴーレムに見たことのない街の設備、何らかの魔法が付与されているのかいくら歩いても足が疲れないどころか速く歩けてしまう道路に、人を何人も乗せられる大きさの動く車輪付きの箱など、まるで御伽噺の中に入っているかのようだった。ただ一点、人のいる様子があまりないのが気がかりであったが。

 

 しばらく歩き、街の中心である巨大な建物の前のかなり広い広場に到着する。難民達にとって目の前に聳え立つ建物は見たことのない建築様式とは言え美しく荘厳で一種の芸術品のように見えた。難民達が感動などから誰も喋れないでいると、ここまで案内していたブリュンヒルデたち9人が建物の入り口を見る。そこから5人──ーブリュンヒルデ以外の六衛将たちが出てくる。それを見ていたベルクスは生まれながらの異能(タレント)により、あの5人はブリュンヒルデと同じくらいの強さの存在であると察知し、ただ1人冷や汗を流していた。

 

「アダム-O様のお見えとなります。皆の者、頭を垂れ平服するのです」

 

 ブリュンヒルデの声が、まるで魔法のように難民全員の頭の中に響いてくる。その有無を言わさない強い声に難民は皆平服してしまい、それを見た六衛将と姉妹達も入り口の方を向いて跪く。

 静まりかえる広場に近づいてくる重い足音。やがて入り口から出てきたのはアレスの遺鎧……ではなく普段使ってる準最強防具の、ボディラインがよく分かるほどすらっとした白いマント付きの金色の鎧を身にまとい、お供としてヴィクトリアを連れたアダム。

 

 皆ひれ伏しているのを見て「え、ここまでする必要あるか……?」と思うとブリュンヒルデに立たせるように合図する。それを受けたブリュンヒルデが「面をあげなさい」と号令すれば六衛将と姉妹達が立った後、難民達も立っていきその視線がアダムに集中した。

 おおよそ100人の視線にビビりながらも、必死に覚えたセリフ──ーグレゴリーとなんども打ち合わせして、ヴィクトリア相手に練習したセリフを難民達へと喋り始めた。

 

「諸君!! ここまでの辛い旅路、ご苦労だった!! 生まれ育った街を追われ、ビーストマンに襲われる不安を抱きながらもここまで来れた諸君らの頑張りに敬意を表する! 皆に落ち着ける住居を提供しよう! 怪我を負っているなら全ての怪我を癒そう! 埋葬して欲しい者がいるなら丁重に埋葬しよう! 安心してほしい、ここにビーストマンが攻め入ることはできない! 我々が全力をもって君たちを守ることを約束しよう!! このイリス・ラトリアスは難攻不落の要塞といっても良い。どれほどの軍勢がせめて来ようと、この街の全防衛力を持って殲滅してみせる! 胡散臭いかもしれないが、信用できないかもしれないが、俺は本気だ! ここまで来れた諸君らの努力に報いることを約束しよう!! 

 ……最後に、ようこそイリス・ラトリアスへ! この俺、アダム-Oは諸君を歓迎する!!」

 

 アダムの演説を、涙を流しながら黙って聞いていた難民達は彼の演説が終わると共にワッ!! と歓声が巻き起こる。中には喜びから泣き崩れる者も出てきて、その上六衛将と姉妹達も「アダム-O様万歳!!」と繰り返し言っており、近くに控えているヴィクトリアに至ってはアダムの勇姿に感動の涙を流していた。

 

「ブリュンヒルデ! ソルジャーゴーレムを使って彼らを家に案内しろ! どの家でも良い、ここには大量に空き家があるからな。それとそこのお前……その槍を持ってるお前だ」

 

「っ!? お、俺でしょうか!?」

 

「そうお前。個人的に聞きたいことがある、荷物を置いたら俺のところに来い。それじゃブリュンヒルデ、後は頼んだぞ」

 

「はっ!!」

 

 ブリュンヒルデが跪いたのを見て王城の方へと戻っていくアダムとヴィクトリア。王城の中に入った途端、アダムは「はぁぁ……!」と大きく息を吐きながらよろよろと柱に寄りかかる。

 

「御主人様!?」

 

「つ、疲れた……ギルド長のやつこれを平気な顔してやってたのか……? ヴィクトリア、どうだった? 俺ちゃんとできてたよな?」

 

「はい……御主人様の御勇姿は立派に輝いておりました! ……も、申し訳ありません、感動のあまり……涙が……」

 

「……うん、そっか、ちゃんとできてたか。良かった良かった」

 

 そこまで泣くか? と感動の涙を必死にこらえようとしているヴィクトリアを見て軽く引き、そのままグレゴリーにメッセージを繋ぐ。

 

「……グレゴリー、お前のおかげで上手くいった、礼を言う。……謙遜はいい、お前に助けられたのは事実だからな。それはそうと、俺が指名した槍を持った奴を俺の家に後で連れてきてくれ。ようやく、この世界について知るチャンスがやってきた」

 

 

 

 

 

「どうぞ。粗茶でございますが」

 

「ど……どうもありがとうございます…………」

 

 場所は変わりアダムの邸宅。そこの来客用応接室にアダムとグレゴリーにヴィクトリア、そして槍使いの青年がいた。見たこともない豪華な家に案内されたと思えば、目の前にこの街の最高責任者が座っている。いきなりの展開に青年の思考はついていけず、差し出されや茶を飲む気も起きなかった。

 

「さて……それでは話をしたいんだが、まずは君の名前を教えてくれ」

 

「ベルクス! ベルクス・トートンです!」

 

「ベルクス、だな。そんなに緊張しなくていい、ただ俺たちは質問をしたいだけなんだ。……先ず、ユグドラシル、ヴァナヘイム……この二つの単語に聞き覚えは?」

 

「……その、ありません……」

 

「なら……トリニティ、アインズ・ウール・ゴウン、英雄血盟団、この三つのギルドの名前は?」

 

「そ、それも聞いたことは……」

 

「……マジかー…………なら少し質問を変えよう。今、この街はどこにあるのか。大雑把でいいから教えてくれないか?」

 

「え? ここは竜王国の都市じゃないんですか?」

 

「竜王国? すまん、聞いたことない国名なんだが……その竜王国? について教えてくれないか?」

 

 そこからアダムとベルクスが会話し、それをグレゴリーが一字一句漏らさず紙に書き留める。結果として知れたのは「この世界はやはりユグドラシルではない、異世界である」、「この街は竜王国と呼ばれている国家の領土に転移した」、という二つの情報だけだが、その二つだけでも十分な収穫だった。

 

 対話終了後、気を良くしたアダムがお礼ということでコレクションルームのPVPのドロップ品である伝説級(レジェンド)の槍をベルクスにプレゼントした。このプレゼントを鑑定してその性能と効果を知り驚愕し、神から初めて武器を与えられた者として有名になるのは後の話である。

 

 

 

 

 

「なんとか上手くやってるみたいだな」

 

「はい。この世界の通貨とユグドラシル金貨の問題もある程度は解決しました」

 

 難民が来てから二日後の夜。城壁の上でアダムは護衛のブリュンヒルデと喋っていた。この世界に転移してから、夜空を眺めることがアダムの日課となった。だが難民が来てからは、ある程度活気の戻った街を眺めるのもちょっとした楽しみになっている。

 

 ギルド長の座を引き継いだ時にはすでに過疎が始まっており、活気すらなかった。そのためにほんの少しの活気でもアダムは嬉しく感じていた。

 

「そういえば最近はビーストマンの侵攻が止まってるらしいな」

 

「はい。姉妹達の偵察ではほとんどの地域で動きを見られないとのことです」

 

「……でも、どう転ぶかはまだ分からないか」

 

「先にこちらに手を出したのはビーストマン。アダム様の御命令ならばビーストマンへの報復攻撃をすぐにでも行いますが、如何しますか?」

 

「それはまだだ。あの時のは小さな小競り合いだった、報復攻撃はビーストマンと全面戦争になった時でいい」

 

 目下の課題はビーストマン。あの戦い以来、報復にでも来るかとアダム達は身構えていたがその気配は一向になく、それどころかビーストマンの侵攻そのものもストップしている。一方のアダム達も不確定要素の多さから、報復など大胆に動こうにも動けずにいた。

 

(まあ……少しつまらなくても平和の方が良いか?)

 

 ぼんやり、街を見下ろして物思いに耽っている。すると「アダム様!!」とブリュンヒルデが強くアダムのことを呼んだため、何事かと振り向けばブリュンヒルデは焦ったような表情をしている。

 

「ヴァルトラウテからの報告でこの街に急速接近してくる物体を確認! 数は一体のみ! 姉妹達に集結命令を出しましたが間に合うかどうか……!」

 

「おいおい、真夜中に来る必要はないだろ! ……武器と防具は大丈夫だな、よし」

 

 報告を受けた方向を向いて警戒するアダムとブリュンヒルデ。そして「それ」の気配に二人同時に気づいた。二人が見上げる先に、月明かりを反射して輝く白銀色の鎧がゆっくりとこちらに向けて降りてくる。

 

 刀、大剣、ハンマー、薙刀の四つの武器を背後に浮かべた、頭部と両肩にドラゴンのデザインが施されている白金色の全身鎧。明らかに、この世界に来てから遭遇した者達とは異色の存在。それは警戒する二人の前に降りてきて、城壁の上に降り立ち二人の方を向いた。

 

 二人は警戒するも手を出すことはせず、同様に白銀鎧も手を出してこない。三人の間に広がる静寂。そしてその静寂を打ち破ったのは、白銀鎧の方だった。

 

「はじめまして。綺麗な星空だね」

 

 挨拶。何の変哲もない挨拶。しかし攻撃やそれ以外の言葉を予想していた二人には、その挨拶は逆に警戒心を高めることになってしまう。だがアダムはここで返さないと話が進まない気がした。

 

「……ああ。良い星空だ」

 

「お、返してくれた。良かった良かった。ああ、警戒しなくても良いよ、戦う気はないからさ」

 

 白銀鎧の鎧はそう言うも、アダムはともかくブリュンヒルデは警戒を解かなかった。もし白銀鎧の言葉が虚言だった場合、いざと言う時はアダムの盾として命を散らす覚悟を彼女はしている。

 

「友人からよく言われたんだよ、初めて会うなら挨拶は必ずしろってね。僕のことはツアー、と呼んでくれ」

 

「そりゃ礼儀正しくどうも……じゃあ俺のことはアダムって呼んでくれ。それで挨拶に来ただけか?」

 

「いや、そう言うわけではないよ。僕は君に用があるんだ。……誤魔化すのは悪いから率直に質問するよ。君はユグドラシルから来たプレイヤー、なのかい?」

 

 ユグドラシル、そしてプレイヤー。その言葉を聞いた時アダムはすぐに理解した。こいつは何か情報を持っていると。

 

「何か知っているのか!? いや、もしかしてあんたもユグドラシルプレイヤーなのか!? 教えてくれ! この世界は一体なんなんだ!」

 

「あー、その、落ち着きたまえ。残念だけど僕は色々知っているだけでユグドラシルのプレイヤーではないんだ。少々長生きしているこの世界の住人なんだよ僕は」

 

「そ……そうなのか……すまない、ちょっと慌てちまった」

 

「……と言っても、今日はそんなに話し合うつもりはないよ。ただ君に聞きたいことがあるんだ。君は見た感じかなり強大な力を持っている。だからこそ聞きたい、君はこの世界で何をするつもりだい? 今僕が聞きたいのはそれだけだよ」

 

「何を……するか……?」

 

 漠然とした質問を投げかけられて、アダムは考え込む。だが考え込んでから10分、ようやく結論がアダムの口から出てきた。

 

「……分からん!!」

 

「………………え?」

 

 ツアーがこんな反応をするのも無理は無い。10分と短く無い時間を律儀に待ってから、アダムから出てきた結論が「分からん」の四文字。「え? こいつ本当に言ってるの?」とツアーは声に出さずに思ってしまう。

 

 だがアダムの答えにはまだ続きがあった。

 

「俺はこの世界に来てから1週間しか経ってない。まだ俺はこの世界について知らないことだらけだ。だからこの世界で何をするかについて、答えを出すのはもっと後だ!」

 

「……なるほど。悪かったね、確かにこの質問をするには時期が早かったかな」

 

「ああ。だからもうちょい待ってから来てくれ。もしかしたらその時には答えを出せるかもしれないからな」

 

「なら今日はこれでお別れだ。次に会うときはこの世界のことをもっと知っていることを僕も望むよ。それじゃ……えっと、おやすみなさい」

 

 そう言いツアーは浮かび上がり、アダムとブリュンヒルデ、いつの間にか集まりツアーを囲んでいた姉妹達を尻目に夜空の向こうへと飛んで行った。

 

「……なんだか、長い付き合いになりそうだなあいつとは……」

 

 身の無事を確認しようとブリュンヒルデたちが駆け寄ってくる中、アダムは一人呟いたのだった。




感想と評価、よろしくお願いします。皆様のお褒めの言葉で自分は生きていきます。
またいろんな1話から3話までいろんな所を手直ししたので、良かったらそちらも見ていってください。

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