ドラゴンに敗れ、心臓を抉り取られたパチは、走馬燈と言うべき夢を見ていた。
それは、自分が最強になった一撃必殺の力をくれた男と出会った頃の話だ。この時期はまだ一撃必殺の最強の力を手に入れる前で、頭には髪が生えていた頃だ。
その時のパチは独学と己の力で最強になろうと、三年も無茶な修行を続けていた。
「よぅ、若いの。そいつぁ無理があり過ぎるんじゃねぇか? そんなんじゃ、早く死にしちまうぞ」
そんな無茶な修行をするパチに対し、何所からともなくやって来た屈強な戦士が注意する。
「誰だよ、おっさん? 俺は忙しいんだ」
「おっさんじゃない。それに名乗るほど有名な戦士じゃない、失敗しないように先輩の言う事を良く聞いておけ。そんなんじゃ遠からず死ぬって言ってんだ。そう焦るな、じっくりと心身ともに鍛えていけば、お前の理想な戦士になれる。とにかく、その無茶な修行は止めろ」
修行を中止させた戦士に対し、パチは不機嫌な表情を浮かべながら何者かを問う。
その問いに戦士は自分の名を答えず、無茶な修行は止めて時間を掛けて強くなれと説く。
この現れた謎の戦士の説教は、彼が過去に自分と同じように無茶な修行をして失敗した経験でもあるのか、パチの心に響いた。
そんなパチに戦士は押しの一手である薬を懐から出し、近くの岩場の上に置く。
「焦る気持ちは分かるぜ。俺だって、今のお前さんのように早く強くなろうと無茶したもんだ。幾度か失敗して死に掛けたが、今はこうしてじっくりと鍛え上げることによって運良く生きてる。そんで、そのコツコツと積み上げて行くのを崩すような話だが、二年ほど修行すれば、確実に強くなれる薬があるが、どうだ、欲しいか?」
何十年の修行からたった二年の修行で強くなる薬がある。
そう持ち掛けられたパチは、戦士の近くの岩場に置かれた薬瓶に視線を集中させた。
あれが喉から出るほど欲しい…!
初めてパチは、その感情を覚えた。
だが、これ程までに自分に取って都合の良い話があるわけが無い。直ぐに戦士はそれに伴う副作用の事を語り始める。
「ほぅ、今にも手に取って中身を飲み尽くしちまうほどの形相だな。だが、そんな都合の良い話には、何か裏があるもんだ。こいつを飲めば、二年くらいで最強になれるのは確実だが、それに伴ってお前はある物を失うことになる。強いて言えば、身体の一部だ。お前の股にぶら下がってるもんが、無くなっちまうかもしれねぇ。それが嫌なら、こいつを飲まずに己の力で最強になるこったよ」
「クッ…!」
この薬の副作用に、パチは少し戸惑いを覚えたが、修行を初めて三年余り、大した力を手に入れていない。
速く強くなりたいと焦る気持ちのパチは、息を呑んで目前の岩の上に置かれた薬を手に取った。
「おっ、焦っているのか? やめておけ、焦って取り返しのつかないことになったことは幾つかあるだろう。そんな気持ちで飲めば、必ず後悔することになる。良く考えてから何かを犠牲にする気持ちで飲め」
焦る気持ちで薬瓶を手に取ったパチであったが、彼の心情をじっくりと観察して分かった戦士は直ぐに飲むことを止め、良く考えて覚悟が出来てからの目と説いた。
この戦士の言葉に、パチは深呼吸をして息を整え、右手に握られた薬瓶を見ながら飲むかどうかを考える。
そのパチの行動を戦士は賛美し、飲む条件を告げる。
「良いぞ、それでこそ最強の戦士への一歩だ。最強の戦士は、良く状況を見てからの判断で行動する物だ。それで飲む件についてだが、俺の目の前で飲んでくれ。自分だけの力で強くなりたいなら、その薬を俺に返せ。なに、お前のような奴に出会わなければ、地面にでも叩きつけて割ってやるさ」
「勿体ねぇ奴だな…まぁ、どうせ戦ってるうちに目の一つに腕の一本や足の一本は無くなりそうだしな…思い切って飲むか!」
「ほぅ、良い心掛けだ。俺は五体満足だが、身体は傷だらけだ。でも、男の傷は勲章だ。さぁ、一気に飲み干しな!」
冗談を交えながら条件を語る戦士に対し、パチは最強への戦いの中で五体満足の者は居ないと思い、それらを失う覚悟を抱いた。
その心がけを気に入った戦士に進められる形で、パチは薬を一気に飲み干した。
薬を一気飲みして何か起こるかと思ったが、特に体には異変は無かった。
「何も起きないが…?」
「まぁ、そんなもんだ。徐々に何かが消えれば、お前が強くなってるって証拠だ。それじゃあ、また何処かで会おう!」
何も起きないと薬を渡した戦士に問えば、修行していく内に何かが徐々に消えつつあれば強くなっている証拠だと答え、何処かへと去って行った。
去って行った戦士にパチは、空になった薬瓶を懐に仕舞い、修行を再開した。
それから二年余り。あの屈強な戦士の言う通り、パチはいかなる敵を一振りの拳で倒せるようになっていた。これでもう敵無しで最強だ。
最強となった後は力の調節を行い、周囲に被害が及ばないようにするだけだが、ここで薬の副作用が起こった。
強くなるたびに自分の何かが消える。
そうと聞いて毎日、鏡の代わりとなる川の水で自分の身体の何所か消えていないか確認した。
この時に頭の髪の毛が徐々に消えて行くのが目に入ったが、特に気にすることなく修行に没頭していた。
それがパチに取って羞恥心的に命取りとなった。
「か、髪が…ねぇ…! まっ、良いか」
川の水に映る自分の頭を見て、パチは驚愕した。
パチは明日か一週間後くらいには生えて来るだろうと思い、それに自分は何も失わなかった幸運に恵まれたかと思って気にはしなかったが、明ける日も、明ける月日も頭から一本も髪が生えて来ることは無かった。
こうして、パチは頭の髪が二度と生えなくなる代わりに、あらゆる敵をパンチかキックの一発で粉砕できる最強の戦士となった。
巨大な青いドラゴンに敗れるまでは。
王都を襲撃して来た青いドラゴンに敗れたパチは、心臓を抉り取られて骸同然となっていた。
「おい、このハゲ心臓を抉り出されるぞ」
「まさか無敵最強の狩人であるパチも、あの青いドラゴン相手じゃこの様か…よし、財布だけ抜き取って死体置き場に捨てて行くぞ」
動かないパチの骸を見付けた兵士たちは、財布を抜き取ってから彼の骸を他の骸を大量に積んでいる荷馬車に荒っぽく載せ、死体置き場へと向かった。
死体置き場はドラゴンが降り立った広場よりも広い居住区の広場を使っており、襲撃して来たドラゴンに殺された大勢の人々の骸で溢れかえっていた。
そのどれもが惨たらしい遺体であり、大半は瓦礫の下敷きとなった者の遺体ばかりであった。
身内と思われる人々が、無残な遺体となった顔見知りを見て泣きじゃくっている。
「よし、せーの!」
そんな死体置き場に運ばれたパチの骸は、死体を焼くために掘られた大きな穴の中へと乱雑に放り込まれた。
大量の死体で溢れる穴へと落下していくパチの骸は偶然にもあった隙間へと入り込み、他の死体をクッション代わりに落ちた。
「よし、次の死体を!」
もう彼は死んでいるだろうと思っていた兵士たちであるが、落ちた衝撃でパチは目を覚ました。
『う、うわぁぁぁ!! な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!?』
「なんだ!?」
突如、死体の山から発生した絶叫に、死体の片づけを行っていた兵士たちは一斉にそちらの方向へ振り向いた。
目覚めて早々に無数の遺体に取り囲まれていたパチは驚きの余り、死体に向けて手加減無用の強力な一撃を放ってしまった。
その威力はドラゴンに放った会心の一撃と同じ物であり、無数の肉片に内臓に体の一部が飛び散って雨のように降り注いだ。
「肉片が降って来た!?」
「屍食らいが出て来たぞ! みんな武器を持て! 女子供は避難させろ!!」
突然の出来事に、死体置き場として使われている居住区の広場は混乱に包まれた。
一方でパチは、自分が生きていることに混乱している彼は周囲を見渡し、ここが現世であることにさらに驚いて混乱する。
「ど、どういうことだ!? なんで俺は生きてんだ!? 心臓を抉り取られたはずだが!?」
そう思って抉り取られた胸の辺りに手を触れてみれば、傷口は塞がって跡だけが残って居た。
「嘘だろ!? 跡は残ってるが塞がってる! 全く意味が分からねぇぞ!」
心臓が無いのにまだ生きていて、それに元気に動き回れることで更に混乱するパチであったが、そんな彼の元へ、魔物となった死体、アンデッドと勘違いした兵士たちが槍などを持って殺しに来る。
「居たぞ! アンデッドだ! 殺せ!!」
「うぉっ!? やべぇ!!」
全力で殺しに掛かる兵士たちから逃れるため、血塗れの破れた衣服で街の中を全力疾走る。
「っ!? 財布がねぇ! 盗まれた!!」
この時に彼はズボンのポケットの中に入っていた財布が無い事に気付き、盗まれたと思い、全力で方向転換した。
おそらく持ち物不明な落とし物を保管する場所にあると判断して、その方向へと走る。
パチを追跡する兵士たちは弓やボウガンを用いて、周囲に行き交う人々に警告して射線上から退かせた後、直ぐに矢を凄まじい勢いで走る禿げ頭の青年に向けて放った。
屋根の上にあがった弓兵等も矢をパチに向けて放つが、心臓をドラゴンに取られた所為か、彼には全く通じなかった。身体に変化があったようで、肌が鋼鉄のように固くなっているのだ。
ただし、衣服はそのままの素材であったらしく、降り注ぐ無数の矢で千切れてパチは露わな姿になってしまう。
財布の事が気になっているパチは、自分が素っ裸になっていることには気付かず、全力で落とし物を保管してある倉庫まで走る。
「俺の財布無い!?」
凄まじい勢いで倉庫まで辿り着いたパチは、保管係に自分の財布が無いかどうかを問うた。
突然に全裸の男が自分の財布が無いかどうかを問うてきたので、係の男は震えながら無言で身元不明の死体が持っていた財布を保管してある場所を指差した。
「ありがとう!」
場所を教えてくれた係の男に礼を言いつつ、パチはそこへ向かい、自分の財布の場所を一発で当てて直ぐに中身を確認した。
「あぁ、良かった。中身取られてない…」
重みがってちゃんと銅貨に銀貨や金貨が詰まっていたので、安心して全裸のまま倉庫を出た。
探している間に包囲されてしまったらしく、無数の槍の矛先と矢が向けられていた。
「…あっ、なんで向けられてんの?」
この状況を理解できてないパチは、何が起こっているのか理解できなかった。
だが、ここで捕まる彼では無い。
「すまねぇな、おっさん。ちょっと揺れるぞ」
ここから逃亡する為、パチは地面に向けて強力な一撃を打ち込む。
その瞬間に地面は揺れ、兵士たち全員が倒れる中、パチは地面を全力で蹴って王都の正門まで飛んだ。
「親方! 空から全裸の男が!!」
「なにぃ!?」
正門前の民家で補修工事をしていた大工たちの前で着地したパチは、そのまま目の前にそびえ立つ正門を飛び越えて王都を脱出しようと試みたが、近くの謎の岩が光り、話しかけて来る。
『お待ちください、‟覚者(かくしゃ)‟殿』
「覚者? 俺はパチだ。覚者じゃねぇ。それに俺は急いでんだ、話しかけるなら後にしてくれ」
『分かりました。なら手助けしましょう。ここより東にあるバドランド平原まで向かってください。そこまで行けば、追手は来ないでしょう。貴方の足ならほんのわずかな時間で行けるはずです』
今は王都より脱出するのが最優先なので、無視しようかと思ったが、助言を受けたので、直ぐにパチはその言葉に従い、正門を飛び越えて西の方へと馬を使わずに全力疾走した。
普段の全力疾走で二日は掛かる程の距離だが、心臓を取られたパチは以前よりも遥かに格段に早くなっており、走っている内に西にあるバドランド平原の行く先を示す看板が見えた。
それから更に走れば、西方より迫るオークに対しての防衛線である砦まで辿り着いた。
『ここまで速いとは、驚きです。今までの覚者様には出来ない芸当です』
「でっ、何者だ?」
砦まで辿り着き、青く光る岩の近くまで来たパチは、そこから喋り掛けて来る人物に何者かを問う。
『私はポーンギルドのマスター、バーナビーです。そして私の声を中継しているのはリム・ストーンと呼ばれる特殊な石です。早速ですが、貴方が覚者たる器であるかどうかを問わせて頂きます』
リム・ストーンと呼ばれる特殊な石を中継して自分に話しかけて来るバーナビーなる人物に対し、パチは不信感を抱いた。
そんな彼は、パチの心情を気にせずに覚者であるかどうかを試す為に試験を課す。
しかし、今のパチは全裸だ。全裸で王都から更に遠い西方にあるこの砦まで来た。そんなパチに対し、バーナビーは全裸である事が分かっているのか、服を調達するように指示を出す。
『ですがその格好では、試験と言っていられませんね。何処かで服を調達して休息を取りましょう』
「それもそうだな。んじゃ、近くの盗賊から剥いで来るわ」
バーナビーの指示に従い、パチは付近に出没する盗賊から衣服や装備を剥ぎ取り、準備を済ませてから砦の近くある町の宿屋で一夜を過ごした。
「でっ、俺はどうなってんだ? 確か、ドラゴンに心臓を抉り取られたはずだが? 後、選ばれたってなんだ? 訳が分かんねぇぞ」
夜が明けて朝が着た頃、どうして自分は生きているのか、それに選ばれたのはどういう意味なのかを特殊な意思を中継して話しかけて来るバーナビーに問うた。
この問いに対し、バーナビーはドラゴンに選ばれた理由は心臓を奪ったドラゴンしか知らないと答え、そのドラゴンに選ばれたパチは、倒さねばならない運命であるとも答えた。
答えを聞いて少し納得はいかなかったが、あのドラゴンを倒せると分かって意欲を増させた。
それに彼は、自分と同等の強さを持つ相手と戦えることに一種の喜びを感じていた。
「最初から決められた運命って訳か…まぁ、良いや。負けるなんて久々だしな。これで勝てなかったあの青トカゲにも勝てるってことだろ? 久々に会えた強敵だ。俺はやるぜ、例え運命で無くてもな」
『そうですか。変わった御方ですね、普段なら理由を問うためにドラゴンに近付こうとする物ですが、貴方は勝つためにドラゴンと戦おうとしてらっしゃる。不思議な覚者様だ』
「まぁ、それもあるが。心臓を取り戻す為でもあるな」
青く光る石と会話をするパチは、さぞ色眼鏡か不気味な目で見られている物だが、彼は気にせずに会話を弾ませている。
そんな時に、オークの大攻勢が始まったことを知らせる鐘が鳴り響いた。
この鐘を聞いた兵士たちや傭兵らは、一斉に最前線へと走り出す。
『オークの大攻勢だ! 騎兵にコロッサスやベヘモットの大群も見えるぞ!!』
「これが試練か? バーナビー」
『はい、これが試練です。貴方なら出来るでしょう』
「全く、鬼畜な試練でこって」
両手にグローブを身に着けたパチは、このオークの大攻勢が試練だと分かり、少し文句を言いながらも前線へと向かった。
一方で最前線、オークの大軍勢が大量のコロッサスやキメラなどを率いて砦に大攻勢を仕掛けていた。他に多数の攻城塔や破城槌などが見られる。
守備兵は砦内に籠っていて誰一人出ていないが、外へ出れば八つ裂きにされること間違いなしだ。
城壁より、この砦の防衛を任されたエルフやドワーフ、傭兵、魔導士らが無数の矢やバリスタ、カタパルト、魔法の類などで迎撃を試みるが、勢いは止まらず、攻撃は増すばかりだ。
「畜生! これじゃあもう持たないぜ!」
「今度こそわしらはお終いじゃ~!」
「クソッ、どうする、逃げるか!?」
「オークが押し寄せてるんだぞ!? 直ぐに追い付かれて殺されりまう!!」
幾ら殺しても無限に押し寄せて来るオークに対し、砦を守る者達は戦意を損失し始める。
「行けぃ! 今度こそ人間共を蹂躙し、ここに我らが帝国を築き上げるのだ!!」
オークの中でも一際巨大な大将が本陣から大声で指示を出せば、無数のオークは砦へと大挙して押し寄せる。
もはやこの大群勢を前にして、砦は持たないだろう。
誰もがそう思った。だが、とある選ばれた男の参戦により、この戦況は引っ繰り返される。
それは物の数秒後に訪れた。砦に一番近いオークと大型魔物の集団が吹き飛んだのだ。
「報告します! 先発隊が吹き飛びました!」
「な、なにぃ!? 連中は大魔導士でも呼んだのか!?」
「あ、あそこ!」
伝令からの報告に大将は驚きの声を上げ、部下に言われるがまま前線を見た。
そこには、自らが率いる軍勢が、たった一人の男に次々と吹き飛ばされている物であった。
時間はオークの圧倒的な大軍勢に押し込まれている最中の数分前に遡る。
この時にパチは城壁へ上がり、それを飛び越えて最前線へとたった一人で出た。
直ぐにそのパチの行動は、砦を守る守備兵達の注目の的となる。
「あ、あいつ! この馬鹿でかい壁を飛び越えて外に出たぞ!」
「飛び越える事態、おかしい事だが、あれじゃあオークに殺されるのも確実だぜ…!」
ただ一人、頑丈な城壁の外へ出て、数えるのも馬鹿らしい数のオークが蠢く場所へ出たパチを、直ぐに死ぬだろうと守備兵たちは思っていたが、何度も言うようだが、その常識は一瞬で崩される。
パチは覚者になる前からもそうだが、あの薬を飲んで髪が二度と生えなくなったことで、常識を幾度も壊して来たのだ。故にパチは一時期、化け物扱いされて賞金首になったことがある。
オーク軍に対して挨拶代わりに、壁を粉砕しようと体当たりを掛けようとするベヘモットを右拳のパンチで吹き飛ばす。
一撃必殺のパンチを受けてベヘモットは、周囲のオークを巻き込みながら遥か彼方へと吹き飛ぶ。
これが、オークの大将が目にした恐ろしい光景だ。
青いドラゴンには及ばないが、大きなベヘモットをたったの
「ひ、怯むな! 奴は一人だぁ! 討ち取れぃ!!」
一瞬だけ固まっていたオークたちであったが、隊長らの指示で直ぐに戦意を取り戻し、ただ一人でこの大軍勢に立ち向かったパチに襲い掛かる。
「これが試練か? 厳し過ぎだろ!」
四方八方がオークまみれな戦場が試練と知りながらも、パチは軽口を叩きながら迫って来るオークたちを次から次へと殴るか蹴り倒していく。
その一つの殴りと蹴りは、どれもが一撃で敵を倒す物であり、如何なる重装な防具を身に着けたオークを強風で舞い散る木の葉のように吹き飛ばす。
覚者になった所為か、威力が凄過ぎて骨だけを置き去りにして死ぬオークが幾つか見られた。
これは現実か。
恐ろしい数のオークの大軍勢をたった一人で圧倒するパチに対し、砦の守備兵たちは動揺を覚える。
「あ、あいつ…人間か…? オークを石ころ見てぇに吹き飛ばしちまうなんて…」
「あれは、もしかすれば神の使いかもしれんの…毎日の御祈りを欠かせずにいたから来てくれたのじゃ」
「何を言うかドワーフの老人、あれは我らエルフの願いに応じて降臨した救世主なのだ!」
「なんだって良い! 俺たちを助けてくれるなら!!」
口々にパチが神の使いや救世主などと言う中、当の本人は複数の重装備のサイクロップスやオークを倒しながらオーク軍の本陣へと向かう。
途中でキメラやグリムワーグなどの四足歩行の魔物たちが大群となってパチに襲い掛かるが、一撃で敵を倒す彼には全くの無意味であり、繰り出される無数の拳で飛び掛かった全てが遥か彼方まで吹き飛ばされるか、肉塊となった。
そんなパチを倒せるとすれば、魔法以外ないと思ってか、地面を揺らして岩石を降らせるロックビート、竜巻を発生させるヴォルテクスレイジ、落雷魔法であるサンダーレインなどの強力な魔法攻撃を浴びせるが、既に経験済みなのか、彼には効かない。
「その手の強魔法は、経験済みだ!」
凄まじい魔法攻撃を受けても、防具にだけダメージが入っているパチは、術者らに向けてそこらに落ちていたオークの武器を投げ付けて排除した。
魔法すら攻略したパチは、本陣まで立ち塞がる巨大な猪に跨るオーク騎兵やコロッサスなどの敵を倒しながら進む。
最後の手段なのか、生物を含める様々な物を石化させる唾液を吐く鶏のような外見を持つコカトリスを差し向け、パチを石化させて倒そうしたが、自分の収入源である魔物狩りで幾度もコカトリスと戦った経験があるのか、勢い良く口から吐き出される石化の唾液を避け、彼は地面を蹴って高く飛び上がる。
「お前も、経験済みだ!」
コカトリスの頭の高さまで飛び上がれば、拳を頭に打ち込んで地面に叩き付ける。
当然ならコカトリスの細い首は圧し折れ、まるで首を圧し折られた鶏のように屍となって横たわる。
「おのれ、おのれぇ! 我らオークに劣る人間風情が何故これほどの力を!!」
本陣に迫るパチに対し、遂に覚悟を決めたのか、オークの大将が直々に彼に立ち向かって来た。
数十年も掛けて作り上げた軍隊が、たかが禿げ頭の男一人に壊滅させられることに屈辱を覚えたのだろう。大将は真っ直ぐにパチへと突進する。
大将は他のオークよりも大柄であり、両手には無数の血を浴びて来た屈強な男ほどの棍棒が握られている。
この棍棒を叩き込まれれば、どんな大男でも頭を割られてしまうだろうが、パチは振るわれたその棍棒を片手で受け止めた。
「分かるぜ、その気持ち。うん十年もかけて作った軍隊が、俺見てぇな奴に一瞬にして潰される気持ちは…!」
「ば、馬鹿な!? 我の一撃を片手で!? 何者だ!?」
一人の男に十数年以上の月日を掛けて作り上げた軍隊が潰されるオークの大将の気持ちを、それを行った男であるパチは分かっていたのか、それを大将に向けて口にしたが、目前のオークの将には聞こえておらず、自分の攻撃を防いだパチに対し、驚きながら何者かを問うてくる。
「聞いてねぇのかよ。そうだな、俺は、ドラゴンに選ばれた者だ…! そんでもって、詫びとして俺の全力をお前に打ち込む!」
相手の気持ちを察したパチであるが、当の本人は無視して何者かを問うてくるので、彼はドラゴンに選ばれた者と答え、相手に敬意を込めて自分の最大火力を大きな腹に打ち込んだ。
「ぬわぁぁぁ!! なんだこの力ァァァ!?」
パチの全力の一撃は、覚者となったことで青いドラゴンに打ち込んだあのパンチよりも想像を絶するほどの威力であり、オークの大将は痛みでは無く、自分の肉体を消し去るほどの攻撃があることに驚きながら跡形もなく消えた。
「すげぇ…でっかいオークをワンパンだけで消しちまった…これが覚者の力か…!」
当のオークの大将を全力のパンチで跡形もなく消し去った本人も、消えた敵の大将に驚き、これが覚者の力なのかと思った。
「た、大将がやられた! 撤退だ! この人間には適わない!!」
大将がやられたことで、オーク軍は敗走した。
砦の者達も、自分等の窮地を一人で救ったパチに恐怖を覚える他ない。
こうして、パチは最初の覚者の試練であるオーク軍の粉砕を終えた。
オーク軍を撃ち破った後、パチはリム・ストーンの前で、バーナビーに試練の報酬は何かを問うた。
「でっ、これで試練終わり? 報酬は?」
『報酬ですか? 報酬ではありませんが、
「俺だけの従者、ポーンか。そんでもってお前もポーンなのか」
その報酬とは、自分だけの従者である
それを説明したバーナビーもポーンであると明かせば、パチは疑問を抱き始める。
生み出す、つまりパチは赤ん坊からポーンと言う生命体を育てなければならないと思ってしまった。
「生み出す…つっても、赤ん坊から育てなきゃならねぇじゃねぇか」
『その点についてはご安心を。ポーンは貴方が想像した通りの外見でこの地に召還されます。数多の覚者たちが自分の創造上の人物を召喚しました。貴方もそれに倣ってはどうですか?』
その疑問をぶつけてみたが、バーナビーは自分が想像した通りの人物として召喚されると返した。
「創造上の人物…俺の好みの女とか、俺が理想する最強戦士とかできるのか…」
バーナビーの答えを聞き、パチは様々な自分の好みの女性や理想的な最強の自分を思い浮かべた。
そんなパチに、バーナビーは創造上の人物を召喚するように告げる。
『さぁ、貴方の創造上の人物を思い浮かべてください。さすれば、その姿として貴方のポーン、メインポーンはこの世界へ召喚されるでしょう』
「創造上の人物…」
リム・ストーンを中継して話しかけて来るバーナビーに言われるがまま、パチは創造上の人物を思い浮かべた。
それから約数分、自分の創造上の人物が思い浮かんだのか、自分のメインポーンとなるその人物を、リム・ストーンを介してこの世界に召喚した。
青く光る石の上から謎の空間が現れ、そこから全身が光で包まれた大柄の男が召喚される。
『これが、貴方のメインポーンですか?』
「あぁ、これが俺のメインポーンだ。俺の理想通りだぜ」
バーナビーに問われたパチは、召喚された自分のポーンが、メインポーンであると答えた。
パチのポーンの外見は、彼が理想とする最強の戦士となった自分の姿であった。
身長が220㎝もあり、丸太のように太い手足、全身が筋肉とも言うべく屈強な肉体、黒い長髪に威厳がありそうな顔を覆うような黒い髭、その目付きは鋭く、睨み殺しそうなものだ。
「これだよ、俺がなりたかった最強の戦士は!」
まさに自分のメインポーンが、パチが理想とする最強の自分であった。
そのメインポーンの
初期段階であるのか、パチのポーンの装備は安物の片手剣と丸い盾、そして安い皮の鎧だ。
これは幾度か買っておく必要があるだろう。
『これで貴方は覚者となりました。ここに集まったポーンたちを見てください』
「よろしくお願いします、マスター」
リム・ストーンを介して話しかけて来るバーナビーが、パチの目前に次々と集まり、片膝を付いて服従の意思を示していることを知らせれば、この世に生まれたばかりのポーンであるメインポーンが第一声を放つ。その声は、低くてとても男らしい声であった。
パチのポーンが前に移動して同じく片膝を付いて姿勢を低くすれば、全身に鎧を身に着けた髭面の男が代表して覚者に対しての従属を誓うと宣言する。
「契約はなりました。これより我らポーンの民すべてが貴方に付き従いましょう」
かくして、自分のポーン、バルバロッサを手に入れた覚者パチによる竜征伐の旅が始まった。
最後の宣誓のポーンは、魔界村の主人公、アーサーであります。