己のメインポーン、自分の理想である最強の戦士の外見を持つバルバロッサを仲間にしたパチは、覚者としてドラゴンに関する手掛かりを探すべく、母国である各地を回っていた。
ここに至るまで幾度かの
パチはなるべく両手と両足が自由な身軽な甲冑に身を包み、寝袋用や雨を凌ぐためのマント、禿げ頭が見えぬように、近世ヨーロッパ時代の歩兵が被るようなヘルメットを被っている。
そしてポーンであるバルバロッサは、パチの趣味がてんこ盛りの物だ。
騎士の御用達の鍛冶屋に頼んで作って貰った高級な甲冑に、威厳のある兜を被り、いわくつきのダンジョンに入って見付けた魔力がこもったハンマーを背負っている。
吟遊詩人や噂などでしか知らぬ者が見れば、間違いなくバルバロッサが伝説の覚者だと思われ、隣に居る主であるパチが従者だと勘違いされることだろう。
そんなことはいざ知らず、パチはバルバロッサの他にこの世界の者とは思えぬ異様な格好の二名のポーンを引きつれ、引き続きドラゴンと自分と同じかつての覚者の痕跡が残る遺跡の調査を行った。
「ふむふむ、あの青トカゲは伝説上のドラゴンか…通りで他のとは違うこったよ」
「マスター、その古代文字が読めるのですか?」
「読めないけど、なんとなく分かる」
「…」
パチは読めない古代文字を分かったつもりで言えば、バルバロッサに低い声で分かるのかと問われた。
無論、読めるわけが無いので、なんとなく分かると答えれば、バルバロッサは無言になった。
そんな無駄とも思える調査を行う中、パチの存在をよしとしない者の刺客たちが覚者一行を取り囲む。
最強になったどころか、覚者になってより一層に殺気を感じられるようになったパチは直ぐに刺客たちの接近に気付き、戦闘態勢を取る。
「貴様、覚者パチだな?」
「そう言うお前らこそ、何者だ? そんで誰の差し金だ? その武器、人間を殺す気満々じゃねぇか。魔物を殺す武器じゃねぇ」
「フフフ、これから殺す者に名乗るなど不要! 者ども、掛かれぃ!!」
手にしている武器で刺客であると分かれば、パチは誰の差し金なのかを問えば、刺客たちは答えることなく人を殺すのに適した武器を持って一斉に襲い掛かる。
向かって来る刺客たちに対し、バルバロッサは禍々しい怨念がこもる大剣を抜き、短剣を持つ刺客のはなった斬撃を軽々と防いだ。
「これがポーンと言う奴か!」
「武器らしきものは持っていないぞ! その二人から
刺客たちは武器らしき物を持っていない青尽くめの少年や、白い柔道着を身に着けて赤い竜手を手に巻き、頭に赤い鉢巻を巻いた屈強な柔道家を手ごろな殺し相手と判断し、襲い掛かる。
だが、刺客たちは二人の外見を見て見誤ってしまった。
何故なら、パチが連れているサポートポーンと呼ばれる最大二名まで雇用が可能なポーンは、二人とも雇用主と同様にこの世の物とは思えぬ力を持っているのだ。
「っ!? 餓鬼の左手が!」
突如、青尽くめの少年の左手が大砲のような形へと一瞬で変わった。
物の数秒後で砲口からエネルギー弾が発射され、それを受けた刺客は一発で気を失い、地面へと落下する。
「おっ、おぉぉ…!?」
これは現実か、いや、魔法か!?
ポーンである青尽くめの少年の突如となく変わった左手より発射されたエネルギー弾を見て、刺客たちは茫然としていた。
「ロックバスター!」
その隙に、ポーンの少年は左手のロックバスターと呼ばれるエネルギー弾で次々と刺客たちを撃ち倒していく。
「お、応戦だ! 応戦しろ!!」
慌てた刺客のリーダー格は、弓矢やボウガンを持つ者達に応戦するように命じるが、遥か彼方の未来の火器を持つ少年相手に無意味であった。
あっと言う間に矢類を持つ刺客たちは青尽くめの少年一人に全滅させられてしまった。
「覚者と同じ武器無しか! こいつは楽だぜ!」
一方で柔道家に襲い掛かった集団は、これから泣きを見る事となった。
「昇竜拳!」
「ごはっ!?」
「つ、突きを繰り出す前にアッパーカット膝蹴りだと!?」
鋭い槍の突きを打ち出す前に、柔道家はアッパーカットから膝蹴りを繰り出す技を刺客に放った。
この連続した打撃を受けた刺客は気を失い、地面に倒れ、他の刺客たちは動揺を覚える。
「ひ、怯むな! 集団で掛かるのだ!!」
それでもと刺客たちはリーダー格の指示に従い、エネルギー砲を持つ少年と同じ戦法で柔道家に襲い掛かるも、柔道家は両手を合わせ、そこからエネルギーを発生させて弓矢を持つ刺客に向けて放つ。
「波動拳!」
「っ!? 奴は魔法使いか!」
少年とエネルギー砲と同じ物とはいかなくとも、威力は折り紙付きであった。
柔道家が放った波動拳と呼ばれる技に対し、刺客たちは彼が魔法使いだと勘違いする。
「だ、駄目だ! あのバルバロッサと言う奴は覚者と同じく強敵だ!」
「我らの手には負えん! か、頭! この者達は我らでは不可能だ! 撤退の許可を!!」
して、パチとバルバロッサに襲い掛かった集団は、二人とこの世とは思えぬ圧倒的な強さで叶わぬと判断し、リーダー格に撤退の許可を求めた。
これ以上はこの暗殺一家の全滅は免れないと判断したリーダー格は、部下たちの要請に応じて撤退を始める。
「おのれ、一瞬の隙すら掴めぬこの強者たち…! 言う通りに我らでは敵わぬ! 皆の衆、撤退だ! 主に奴を殺すのは不可能であると報告する!!」
「あっ、待ってくれ! せめて誰の差し金か…! クソッ、一体誰だよ」
いつもの通り、一撃で刺客たちを倒していたパチは、素早く撤退した刺客たちに誰の差し金であるかどうかを問いたかったが、既に残って居る集団は居なかった。
「こうなりゃあ、手当たり次第に聴くか」
逃げた集団と伸びている集団に聞いても口は割らないだろうと判断し、パチは覚者である自分を気に食わない心当たりのある貴族連中を当たることにした。
何故、パチが貴族らの反感を買ったのかは、覚者である理由を含め、彼が己の信念に従って貴族らが権力でもみ消して来た犯罪を暴いて来たからだ。
それに表に出ればお家潰しは免れないことも、我武者羅に考えずに暴いてしまい、王家からも要らぬ反感や恨みを買ってしまって刺客が送られてくることはほぼ日常茶飯事であった。
時には魔法使いまで差し向けられたこともあったが、覚者となって更に強くなったパチに通じるはずもなく、メインポーンであるバルバロッサも魔法には強く、更に二人のサポートポーンの足元にも及ばなかった。
他にも国教を自称する宗教にまで手を出し、異教の者として追われたが、パチとバルバロッサの相手にすらならない。ドラゴン以外では無敵とも言える。
「まっ、今はこっちだな」
王都や領地、都市に居る貴族たちに拳で聞きに回る事は後にして、パチはここにあるドラゴンに関する痕跡を探すのを優先した。
「覚者よ、貴様に挽回の機会を与える」
それから一週間余り、パチとバルバロッサは王宮の玉座の間に呼び出され、国王より今までの反逆行為とも言えるべき行動に対する挽回の機会を与えられた。
今までの強者を挫く行動からして、国家反逆罪の罪で死刑や投獄は免れないはずだが、現在の国家の状況はパチら覚者一行に頼らざる負えない物であるため、こうして国家の窮地を救うために呼ばれたわけだ。
「挽回の機会とは、我が国境線のガルダー要塞にアイルケード王国の軍勢が攻撃している。竜王と名を馳せるダカール王自らの出陣で敵軍の士気は高い。現在は援軍を送って押し返そうとしているが、敵の士気の所為で膠着状態となっている状況だ。お前の強さを見込んで、この状況を打破して貰いたい。断れば、どうなるか分かっているな?」
この国王からの命令に拒否権など無かった。
パチとバルバロッサの周りには、複数の弓兵と魔導士らが包囲しており、いつでも攻撃が行えるように待機している。
拒否すれば、直ぐにでも魔法が飛んでくるだろうが、パチらに通じるはずも無い。
「分かりました、国王陛下。このパチめが状況を打破して見せます」
国王の命令に対し、パチはここで暴れる理由が無いので、承諾してガルダー要塞の救援へと向かった。
その道中、余分に受けたクエストの課題である魔物を狩り、小遣いを増やしていた。
「俺さ、国家とか戦争とか興味ないんだよね。事を荒立てたくないから、受けただけなんだよね」
「そうですか」
ガルダー要塞へと向かう中、パチはバルバロッサに自分の心中を語った。
パチは覚者となる前、最強となった後は面倒な人付き合いを止め、山にこもって適当に魔物を狩ってそれで生計を立てていた。
故にパチは、自分の国がどうなろうが知った事では無い。ただし、世界が終わる事は望まない。
このガルダー要塞への救援任務は、パチに取って不本意ながらも、世界を救う一環として嫌々ながらも受けたのだ。
「見えました! あれがガルダー要塞です! 後少しで陥落しそうですね」
「陥落すれば、俺たちはお尋ね者だ。急ぐぞ!」
「了解でさ」
途中で道草を食いつつ向かえば、ガルダー要塞が見えた。
要塞からがある煙を見れば、もう既に陥落が近い事が分かる。
バルバロッサの知らせでそれが分かれば、パチは陥落した責任として自分がお尋ね者となる可能性があることが分かっていたので、馬を走らせて要塞へと急いだ。
パチが向かっているガルダー要塞は、竜王ガルダーに率いられたアイルケード王国軍により、陥落寸前であった。
「サイクロップスにキメラなんぞを使役してる軍隊なんかに勝てるわけがねぇ! 俺は逃げるぞ!!」
「わ、わしらも死にたくない!」
アイルケード王国軍はサイクロップスやキメラ、マンティコアなどの大型の魔物に関わらず、オーガも使役しており、挙句の果てに、グリフィンやブラックグリフィンを馬のように自在に乗りこなす二人の騎士まで居る。
ガルダー要塞を守備する傭兵やドワーフ、王国切っての精鋭部隊であるバストーニュ騎士団らはそれらに圧倒され、敗走状態であった。
「ど、どうする!? アルケム殿は討ち死にし、傭兵やドワーフ共は混乱して敗走状態だ! 我が騎士団の兵等も同様を覚え、エルフたちはとっくに撤退している。誰が指揮を執るんだ!?」
「俺が知るか! もう撤退するしかあるまい、それに空からの攻撃もある! あの竜王ダカールに使役魔物の人海戦術だ! この要塞はお終いだ!」
要塞を守備する兵士たちの統制は既に崩壊したも同然だった。
地上は魔物の集団と国王自らが指揮する士気の高い軍団、空にはノーマルと黒のグリフィン、そしてダメ押しと言わんばかりのハーピィーの大群が埋め尽くしている。
大魔導士と称されるジョブであるソーサラーが居たところで、呪文を唱えている最中に殺されるのが関の山だ。
「報告いたします! 傭兵やドワーフは逃亡するか我が軍に投降! 守備兵も同様です! 残りはただの残党でありますが、時期に決着がつくそうです!!」
「ハハハ! 我がアイルケード王国に敵無し! お前の出番はないな! アリエス!!」
して、要塞内へと派手な馬具を身に着けた馬で入場した竜王ダカールは、伝令からの報告を聞いて高笑いし、愛人とも言えるソーサラーの妖艶な女魔導士を見て出番はないと告げた。
「あらら、私の大魔法をせっかく披露して、ダカール様に喜んで頂きたかったのに」
「安心しろ、アリエス。今回はベッドの上で余を喜ばせれば良いこと。お前は名器だからな! そしてここを拠点に、全土へ攻め入り、我が国の領土とするのだ!」
ダカールは占拠したガルダー要塞を侵略拠点として、パチの王国全土を自分の領土とするつもりらしい。
それを少々下品な会話をしてそれを明かした後、要塞の抵抗拠点が完全に無くなるのを待ったが、ここに来てある男がダカールの野望を打ち砕くために来た。
その序曲は、無数のハーピィーが機関銃のように空に投げられた石ころで撃ち落とされている所から始まる。
「あ、あれぇ!」
「なっ! ハーピィーどもがバタバタと死んでいく!? 魔法か!?」
「い、いえ! あんな魔法、私は知りません!! それに魔法なんて使ってません!!」
「な、なにぃ!?」
部下からの知らせで、ハーピィーが殺虫剤を浴びせられた蠅のように撃ち落とされていくのを見て驚愕したダカールは女魔導士に問うが、彼女は魔法では無いと答える。
「畜生、一体どんな魔法だ! カイル、奴をやるぞ!」
「応よ!」
空を飛んで残敵を探していたグリフィンに跨る騎士、名付けてグリフィンライダーたちは、無数の石が飛んでくる方へグリフィンを駆って向かった。
途中、この世界では雷の分類と言える銃声が鳴っているが、雷魔法の音と勘違いして排除に向かう。
「馬鹿め! 雷魔法を使うグリフィンに雷が効くもばっ!?」
「イワン!? うげっ!」
調子に乗っていたグリフィンライダーは、飛んできた巨大な岩石に乗っていたグリフィン諸とも押し潰された。
相棒がやられて混乱したブラックグリフィンのライダーは、放たれた銃弾を側頭部に受け、地面へと落下していく。自分に跨っていたブラックグリフィンは、解放されて自由になろうとしたが、弓矢で眼を射貫かれて即死する。
「ぐ、グリフィンライダー隊、全滅です!」
「な、なんと!? まさか、噂に聞く魔物を一殴りで殺す男なのでは!?」
「馬鹿な!? 奴は青いドラゴンによって死んだはず…! まさか奴は…!!」
部下からの知らせで、ダカールは青いドラゴンによって殺されたと思っていたパチが覚者になったと知り、酷く動揺を覚えた。
ちなみに、この世界に覚者は二人ほど居る。パチを含め、この竜王ダカールも覚者であり、青いドラゴンを何らの方法で退けたことから竜王と言う渾名で呼ばれているのだ。
「おのれ…! 覚者はこの世に二人も要らぬ! 覚者はこの竜王であるダカールのみよ!! 魔物どもを奴に差し向けぃ!!」
「はっ!」
初めて自分以外の覚者の存在を知ったダカールは、震える心身を自ら湧き出る殺意で抑え付け、自分に次ぐ覚者であるパチを抹殺すべく、使役している魔物に指示を出した。
「うーし、お空は全滅っと。上から襲われるのは面倒だしな」
「良い腕だった、覚者」
上空のハーピィーの大群とグリフィンライダーたちを全滅させたパチは、こちらに迫る無数の中型と大型魔物の集団に構える。
岩石の投擲でグリフィンを倒したパチに対し、この世界には不似合いなアメリカの突撃銃であるM4A1カービンを持つ特殊部隊の装備を身に着けたポーンはお褒めの言葉を贈る。
「そりゃどうも。ところで、お前は何所の世界のポーンだ?」
「教えている場合に見えるか? 目前からウジャウジャと魔物が迫って来るぞ」
「クリスと同意見だ。早く皆殺しにして竜王とやらを殺そう」
「OK! この奥州筆頭、伊達政宗、先陣を切るぜ!」
「俺の扱い酷くね?」
クリスと呼ばれるポーンに何所の世界から問うパチであるが、目前に迫る魔物の大群や無法者のような大群を指摘されて中断される。バルバロッサも青い六刀流な伊達政宗なポーンも同意見のようで、パチはこれに不本意ながらも、戦闘に集中した。
「レッツ、パーリィ!!」
先陣を切ったのは、何故かポーンな伊達政宗だ。
両手に三本ずつ握った三振りの刀で、無数のオーガを次々と斬り捨てて行く。
その動きは人間離れしており、六振りの刀の切れ味も鋭く、オーガの皮膚を容易く切り裂き、後からやって来たキメラやマンティコアも切り裂いた。
「グレネード!」
クリスと呼ばれるポーンも負けに劣らず、手りゅう弾を敵兵等が殺到する場所へと投げ込んで纏めて排除し、素早くカービン銃を構え、的確な射撃で次々と排除する。
時にはレスラー顔負けの格闘術で首の骨を折り、ホルスターからベレッタM93R自動拳銃を素早く抜き、一発の射撃で撃った分の人数を仕留める。
「ぬぁぁぁ!!」
二名のポーンが無数の敵を容易く片付けて行く中、バルバロッサも負けずに無数のオーガやキメラ、マンティコア、敵兵等を禍々しい大剣で倒し続けていた。
この大剣は並の人間では絶対に振り回せない程の重量であるが、巨人の分類に当たるバルバロッサの体格に合っており、次々と周りに群がる魔物や敵兵等を肉塊へと変えていく。
「だ、駄目だ! あいつ等に敵う訳がねぇ! 逃げろぉ!!」
もはや鬼神と言うべきで、敵兵等は戦意を損失して逃げ出し始める始末だ。
「これ、俺の出番あるかな?」
そんなポーンたちの活躍を見ていたパチは、自分の出番があるのかと嘆き始めたが、当の本人がこのパーティの中で一番強く、事実、向かって来る魔物を次々とワンパンチで倒している。本当にパチだけで竜王ダカールの軍勢を一掃できるだろう。
「オギャァァァ!!」
「うっし、これで終わりと」
向かって来た2m強の大男をダカールの方へ殴り飛ばした後、パチは本陣へと同じく魔物や敵歩兵部隊を全滅させたポーンたちと共に向かった。
凄い勢いで飛ばされた大男は、叫び声を上げながらダカールの方へと飛んで行ったが、脇に居る女魔導士の魔法で跡形も無く吹き飛ばされる。
その間にパチ達は本陣の方へ既についており、大柄な黒馬に乗るダカールを見上げる。
「お前が竜王ダカールか? すんげぇ兜だな、おい」
背後から向かって来た敵兵を手の甲で吹き飛ばした後、パチはダカールが被っている兜が竜王と名乗る通りの竜をあしらった派手な装飾であることに驚く。
排除すべきもう一人の覚者であるパチを見て、ダカールは少したじろぐが、相手が素手であると油断して意気揚々と名乗り上げる。
「如何にも! 余が竜王ダカール! 妻を十人以上持ち、側室は三十人以上! そこの女魔導士は余の妻の一人! その女魔導士以外は全て余の種々を孕んでおる!! そして余は竜を倒した男よ!!」
「竜って、ドレイクとかベヘモットとかそう言うのじゃないよね?」
堂々と名乗り上げたダカールに対し、パチはそこらに居る大きな青いドラゴン以外の竜を殺して得た称号ではないかと問い詰める。
少し図星であったのか、顔を顰めたダカールであったが、パチの言う青いドラゴンだと嘘をついて答える。
「貴様の言う厄災の竜も倒した! よって貴様は余の敵にあらず! この幾匹もの竜の鱗を裂き、血を吸って来た大斧を受けよっ!!」
何の構えもしないパチに対し、少し動揺しているダカールは背中の大斧を抜き、巨大な刃を振り下ろした。
そんなやや動揺しているダカールの気持ちが分からない女魔導士と部下たちは既に勝負は決したと思っているようだが、目前の覚者となった禿げ頭の青年は、常識を覆すことが出来る力を持つことは知らない。
振るわれた斧はパチの被っている兜に当たり、その兜を真二つに割った。
頭がカチ割れたとポーン以外は誰もが思っていたが、思った物とは大違いの結果となる。
「いってぇぇぇ! しかも兜割れたァァァ!?」
「な、なにぃ!?」
「兜だけが割れたぁ!?」
兜が割れた痛がるだけであり、ポーン以外は驚愕した。
これに恐ろしく動揺したダカールであったが、もう一振りを浴びせる。
「お、おのれ! 兜があるだっ」
そのとどめの一振りを浴びせようとした瞬間、ダカールはパチの放った光の速さの拳を受けて声を上げる間もなく吹き飛ばされた。
呆気なく伝説の戦士がこの禿げ頭の男のたった一発の拳で吹き飛んだことに、アイルケード王国軍の兵士たちは恐怖し、我先にと逃げ出し始めた。
「ダカール様が負けた…こんな禿げ頭の男の一発の拳だけで…」
妻の一人である女魔導士も、あっさりと一発の拳で負けたダカールに絶望する。
「あっ、ワンパンで終わった…」
「ダカール王がやられた!!」
「逃げろ! あいつは化け物だ!!」
竜王なので、自分の攻撃に耐えられるかと思っていたパチであるが、あの青いドラゴンと同レベルの竜を倒したのかと聞いた時、少し動揺した様子を見てやっぱり倒してないと落胆した。
だが、竜王ダカールはやたらと金を掛けた防具のおかげでまだ死んでいなかったようだ。
「ぶはっ! 貴様は一体何者だ!?」
「おっ、まだ生きてた! 本気でやろうぜ!」
近場の壁に打ち付けられてもまだ動いているダカールを見て、まだ戦えるかと思ったパチであるが、いざ向かおうとした時に上空よりあの青いドラゴンは何の突拍子も無く現れた。
「あ、あれは…!? 竜だ! 青い竜!!」
「青トカゲ!」
「おぉ…! 俺を助けに来たのか!?」
突如となく現れたパチの心臓を奪いし青いドラゴンの存在をバルバロッサが知らせれば、同じ心臓を青いドラゴンが奪っているのか、覚者であるダカールは自分を助けに来たと思う。
物の数秒後でドラゴンは旋回し、この陥落したガルダー要塞の地へと着陸態勢を取る。
自分を助けに来たと思っているダカールは、ドラゴンにパチを殺すように指示する。
「さぁ、契約通りに奴を殺せ! 俺はまだ軍事大国の…」
指示を出し終える前に、ダカールは降り立ったドラゴンに踏み潰された。
「ダカールを踏み潰した!?」
契約と言う言葉の後に、その真相を知るダカールをドラゴンが踏み潰したので、パチは混乱し始める。
周りの物を破壊しての着地であるためか、土煙が巻き上がり、周囲は見えなかったが、ドラゴンが強く動くことで凄まじい風圧が巻き起こって土煙が晴れ、青いドラゴンの顔が見えた。
それからドラゴンは、人の言葉を話し始める。
『この男が侵略や何をしまいが、我はこの地に破壊をもたらすだけだ』
「ますます意味が分からねぇぞ! 青トカゲ!! 契約とかそう言うのとかなんだ!?」
人の言葉を喋るドラゴンに対し、パチは自分の疑問に答えるように拳を向けながら問う。
この問いに対し、ドラゴンはまだ早いと答える。
『その問いは我の元へ来れば分かること。だが、今は答える時では無い』
「ふざけんじゃねぇ! 勝手に心臓を奪っておいて!!」
答えないドラゴンに対し、パチは怒りに任せて拳を打ち込もうとしたが、弾き飛ばされる。
『早まるな。その拳、我に振るう事をまだ許してはおらん。しかるべき時に振るうことを許そう。それまでにお前からの預かり物は無事だ。問いにも必ず答えてやる。心臓も我を斃せば返してやろう』
答えを知りたければ我の元へ来い。倒すことが出来れば心臓を返してやる。
ドラゴンはパチに告げた後、大きな翼を広げて飛び上がる。
『では、我の元へ来る時を待っているぞ』
かくしてドラゴンは去って行った。
まだその時ではないと告げられたパチは、答えを知るために敢えて手出しせず、ねぐらへと帰って行くドラゴンをただ見上げるだけであった。