ワンパン覚者の竜征伐   作:ダス・ライヒ

6 / 6
ドラゴンを斃して終わり…では無く続きます。

ゲーム未プレイの方、ネタバレ注意です。


神たる器

 王都へドラゴン討伐の完了の報告を兼ね、この世に未練を残さぬほど遊ぶために戻ったパチとそのメインポーンであるバルバロッサであったが、未練を残さず遊ぶ前に、運悪くドラゴンの言っていた答えが直ぐに来てしまった。

 

「貴様だな? この世に破滅をもたらしたのは」

 

 王都の正門に着くなり突如となく、王国軍の無数の兵士、それもエルフやドワーフを含める傭兵らがパチとバルバロッサを見るなり攻撃態勢を取っていた。

 どうやらドラゴンを倒した直後、世界に別の混乱がもたらされたようだ。

 空は依然に禍々しく、ハーピィーとは違う別の飛行する魔物や、邪悪な魔物が闊歩する破滅の世に近いらしい。

 それを人々は、ドラゴンを倒した覚者パチの仕業だと思い込み、こうして国際指名手配犯レベルにし、ドラゴンに次ぐ厄災と判断して討伐に乗り出したようだ。

 突然、厄災扱いされたパチは、何が何だかわからず、討伐部隊の指揮官に問う。

 

「あの、俺、ドラゴンを倒して心臓取り戻したんですけど。なんすかこれ?」

 

「討ち取れぇい!!」

 

 しかし、パチの問いに答えることなく指揮官は攻撃命令を出し、一斉に武器を持って襲い掛かった。

 これにパチとバルバロッサは身を守るために反撃したが、余りの数の多さに逃げる他なく、全力疾走で何所か逃げられそうな場所へと逃走した。

 パチは徒歩で、バルバロッサは大きな黒馬で厄災認定して殺しに来る討伐部隊から全力で逃げ続けた。

 他にも名のある傭兵団や暗殺団、魔術師、その他諸々に狙われたが、その全てをワンパンや圧倒的な力で粉砕して来た。

 だが、それは長くは続かず、突如として広大な大地に空いた大穴まで追い込まれる。

 

「追い詰めたぞ! 厄災パチ!!」

 

「これで貴様も年貢の納め時だ!!」

 

「ここで、尽き果てるのもなんかドラマチックで良いな」

 

 もはや、二人に打開策は無い。唯一あるとすれば、この背後にある大地に空いた大穴に飛び込むことである。

 ここで大軍勢とやり合い、派手に散るのも悪くないと思ったパチであるが、いざ挑む前に大穴より自分を誘う声が直接、頭の中に聞こえて来た。

 

『覚者よ、否、選ばれし者よ。我が元へ来るのだ』

 

「えっ、聞こえて来るからして、この穴に飛び込めって事!?」

 

『そうだ。お前なら、無事であろう。さぁ、大穴に身を投げよ』

 

「なら、イチかバチかだ!!」

 

 パチは頭の中に聞こえて来る何者かは知らぬ声に従い、バルバロッサと共に大穴に飛び込んだ。

 討伐部隊の指揮官たちは追い詰められておかしくなったと思い、大笑いして自滅したと声を上げる。

 地上に居る者達は、パチが追い詰められて自殺したのだろうかと思っているようだが、彼に取って大穴に落ちた先が新たな冒険であった。

 

「ぐわぁぁぁ!! とっ!」

 

 偶然にも一番低い場所の角へ掴まることに成功したパチは、そこをよじ登って辺りを見渡す。

 穴は円形でその円形に沿って階段や足場が設けられているが、何らかの影響で辺りが破壊され、自由に行き来が出来なくなっている。

 人は居ないかと思いきや、異界渡りの民であるポーンたちが幾人か見える。青い少年やクリスといったこの世界には似つかわしくない武器や衣装を纏ったポーンも見えた。

 どうやらここは、ポーンが行き来する次元と同等の空間のようだ。覚者であるがためか、この地に来てから妙な感覚を覚える。

 試しに、近くに居た大きな背嚢を背負ったポーンに話し掛ける。

 

「ここは何所だ?」

 

「ここへ辿り着いた覚者様ですね。私は自信のマスターに言われ、この地にて貴方のようにここを訪れた物を手助けするように言われたポーンでありまする。失礼ながら、返答が遅れてしまいましたが、ここはエヴァーフォールと呼ばれる異質の空間でございます」

 

「エヴァーフォールか…」

 

 話し掛けたポーンは、ここがエヴァーフォールと呼ばれる異質の空間であると答え、自身の主の指示でそこに辿り着いた覚者のサポートをするために残った者と名乗った。

 エヴァーフォールと口にした後、パチはそのポーンよりある程度の物を貰った後、ここの探索を始めた。

 流石に地上に居る魔物たちとは違い、やや手強かったが、歴戦練磨のパチにはどうと言うことは無く、難なく倒すことが出来た。その際、竜の心臓の欠片らしき物が幾つか手に入った。

 それを取り敢えず集めて別の区画へと移動していると、褐色の女ポーンに話し掛けられる。

 

「その破片は、竜の心臓の破片ですね」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「失礼しました。私はキュリュスと申す者。私のマスターもここへ辿り着いた覚者でしたが、この地のさらに下層に居るとされる者の元へ辿り着けず、力尽きました。それを三つに合わせれば竜の心臓となり、更に七つ揃えれば彼の者がいる地へと行けるはずです」

 

「ほぅ、ありがとな」

 

 何らかの心臓の破片を、竜の心臓の破片であると知らせた女性ポーンは、三つ合わせれば心臓となり、更にそれを七つ揃えれば、パチをここへ招いた者が居る元へ行けるとも言った。

 そうと聞いたパチは、彼女のマスターが中半道中で力尽きたことを気にせず、心臓集めに奔走した。

 最初に集めた破片は丁度三つあったので、それを合わせて一つの心臓にした。これで後六つくらいだ。ここらの区画を移動していれば、その内集まる数である。

 直ぐにパチらは他の区画へ行き、そこに居る地上では見ない魔物を倒しつつ、心臓を集める。

 

「おっ、こいつはハイドラじゃねぇか。ここにも居たのか」

 

 次の区画で、パチはハイドラと呼ばれる数本の首を持つ蛇の魔物に遭遇した。

 ハイドラの生えている首の全ては毒蛇の種であり、人間や鉄を溶かす程の毒と胃酸を持っている。それに首は数分程でトカゲの尻尾のように生えて来る。倒した者が殆ど居ない強敵だ。

 以前にもパチは交戦した経験があり、戦い方を熟知していた。

 

「こいつは首を斬りおとすのが有効だ。バルバロッサ、頼むぜ!」

 

「応よ!」

 

 首を斬りおとすには斬撃が有効なので、大剣を持つバルバロッサに首切りを任せた。

 二人の圧倒的な強さにより、ハイドラの首は次々と刎ねられて行き、やがて一本になる。

 生えて来るので、直ぐにパチは残った一本の首に一撃を見舞い、ハイドラの全て首を斬りおとして倒した。

 

「こいつの首は、すんげぇ高いんだよな。あぁ、残念」

 

 心臓の破片を一つほど作れるくらいに入手したパチだが、ハイドラは中々倒せないのでその首はかなりの値段だ。

 今の状況で首を地上へ持っていけないことが空しいパチは、斬りおとされた首を眺めながら嘆く。

 これで心臓はあと五つほど。

 

 して、エヴァーフォールは次の区画へ自由に行き来できない程に崩れ去っており、たやすく移動できるわけが無いが、パチらがどうやって行き来しているのは、超人的な跳躍をしているからだ。

 パチは心臓を取り戻して‟人‟に戻った筈だが、まだ覚者の力が残っているようで、こうして魔物を一発の拳で倒せ、人間離れした跳躍を行えるのだ。

 

 三番目の区画へと入ったパチらは、遭遇する魔物らを排除しつつ、最深部へと難なく辿り着いた。

 そこで待ち受けていた番人は、戦士の甲冑を身に着けて死しても敵を求めてこの世を彷徨い続ける死人、その名もスカルロードだ。

 顔が見えない程の兜を被り、全身黒尽くめの甲冑を纏った動く骸骨に、パチは思わず心の中を呟いてしまう。

 

「か、かっけ…!」

 

 その甲冑が気に入ったパチは、中の骸骨だけを器用に倒すとんでもない技を使い、自分の拳で粉砕してしまいそうな甲冑だけを避け、甲冑を纏う骸骨だけを破壊した。

 

「これで俺も古の戦士だぜ。剣も盾も無いがな」

 

「似合ってますぜ、マスター」

 

「これで様に見えます」

 

「たくましく見えます」

 

 戦利品として、スカルロードの甲冑を手に入れたパチは、早速それを身に纏ってバルバロッサと道中で雇い入れたドイツの銃器会社であるH&K社のG36突撃銃を持つ現代歩兵のようなポーンや、魔導弓を持つエルフの女性ポーンに見せびらかし、お褒めの言葉を頂いた。

 無論、竜の心臓の破片は忘れずに回収しておく。これで後四つ。

 

 それからゴーレム、ゴアキメラ、ギガン・マキナ、フロスト・マキナ、囚人ゴアサイクロップスと名立たる狂的な魔物たちを戦って来たパチであるが、その全てを持ち前のパワーとポーンたちの連携で打ち倒し、心臓を集めて来た。

 そして最後の区画、今度は戦ったことも無いイービルアイと呼ばれる目玉の化け物と戦う。

 

「気持ち悪ぃな、こいつ」

 

 イービルアイの見た目に吐き気を覚えたパチは、魔法や触手などの攻撃を仕掛けてくる前に、本気のパンチで一気に勝負を付けた。

 この目玉の化け物の弱点は、硬い甲羅の隙間から現れる巨大な目玉である。

 硬い甲羅はいかなる攻撃も防ぐほど硬い筈なのだが、パチの本気の拳に耐えられなかったらしく、甲羅が砕けて一気に目玉は潰れ、イービルアイは無残な屍に変わり果てた。

 

「うわっ、体液ついちゃったよ…」

 

 右手に着いたイービルアイの体液や血を振り払って羽織っているマントで拭いつつ、パチは最後の竜の心臓を回収し、自分を呼び出した張本人の元へ行ける装置の所まで戻る。

 

「全ての心臓、それも七つ以上を揃えたようですね。では、周囲にある七つの台座に心臓を置いてください」

 

「へぁっ!?」

 

 ついて早々に見せてもいないのに、女性ポーンは全ての心臓を持っていると分かっており、驚くパチを他所に台座に置くように指示を出す。

 だが、自分が覚者になる前に最強になってからと言う物、驚くべきことばかりなので、特に驚くことなく指示通りに手に入れた七つの竜の心臓を台座に置き、中央に立って装置を起動させた。

 すると、大穴の底にある白い空間が光り出した。どうやら彼の者がいる空間へと通じる扉が開いたようだ。早速、パチは穴に飛び込むため、穴の底を覗いた。

 高所恐怖症の者が見れば、間違いなく卒倒するほど底が見えず、落ちれば永遠に落ち続ける事だろう。

 しかし、ここで臆していては彼の者、自分をこのエヴァーフォールへ呼び出した者の元へは行けない。

 その穴に飛び込むため、自分にこれを教えてくれた女性ポーンに感謝の言葉と、そのマスターの無念を晴らすことを誓い、勇気を振り絞って穴へ飛び込む。

 

「あの穴の先に、あいつが居るのか…よし、ありがとな。ついでにお前の主の無念、晴らしてくんぜ!」

 

 そう言ってパチは、大穴へと飛び込んでいった。

 

 

 

「とっ、ここは何所だ…?」

 

 大穴へと飛び込んだパチは謎の空間へと転移し、何も無い筈の足場に着地した。

 周囲を見渡せば、ほぼ何も見えない上、共に落ちたはずのバルバロッサの姿も見えない。

 仕方なしに北と思われる方向へ進んでいくと、何か神々しい玉座に座る光り輝く白装束の人物と遭遇する。

 そんな怪しげな男か女か分からぬ人物と遭遇したパチは、ここに住まう者と思って声を掛ける。

 

「おい、あんた。ここが何所だか知らねぇか?」

 

 問い掛けたパチであるが、その人物は玉座から立ち上がり、何も答えずに近付いていきなり話し掛けて来る。

 目前の白装束の人物より発せられる声色は、男と女が同時に喋っており、性別の判断が不可能であった。

 

「良く来た覚者よ、さっさとケリを付けよう。私を斃し、この世界の王となれ」

 

 件の人物は問いに答えることなく、彼の目前の前で、パチが先程まで居た世界の様子を見せる。

 

「これは…!?」

 

「そこに見える空間は、それが世界、お前が今まで旅してきた場所だ。その全てが、いずれお前の物となろう物だ」

 

 パチに見せた物だけは答え、いずれ自分を斃せば手に入る物であると告げる。

 

「難しい話では無い。これまでの通りだよ、覚者よ…」

 

 これまで通り、敵を斃せば目的は達せられると告げた後、人が暮らす世界の様子を映す空間を消し、手を翳してパチを吹き飛ばした。

 

「必要なのは、意志! 生を選び取る力だ…!」

 

 目的を達するのに、必要な物は意志だと答え、白装束の人物はパチに光魔法かよく分からない物で攻撃を始めた。

 

「さぁ、覚者よ。闘え! これまでの道のりで、そうしてきたように!」

 

「なんだか分からねぇが、お前が俺を呼んだのは確かだな! やってやるぜ!!」

 

 攻撃して来る白装束の人物に対し、パチも応戦の構えを見せ、一撃で敵を葬れる拳を打ち込んだ。

 だが、一撃目を打ち込もうとした瞬間に標的の者は何処かへ消え、気付かぬうちに背後に現れる。

 

「なにっ!?」

 

「そして問おう、お前を戦わせているのは、何だ?」

 

 攻撃を避けながら問うてくる白装束の人物に再び拳を打ち込むパチであるが、当たる直前に煙のように消えるので、拳が当たらない。

 そんな白装束の人物は、パチの拳を避けながら尚も語り掛けながら攻撃して来る。

 

「そう、それが意志だ。覚者よ」

 

「うっ!? この野郎!」

 

 攻撃が当たらない敵に対し、闇雲にパチは拳を振るう。

そんなパチに尚も白装束の人物は語り掛けて来る。

 

「意志が、ただ意志がお前をここへ連れて来たのだ…!」

 

 最後に語りが終われば、パチが振るった拳が白装束の人物に命中した。

 

「消えた…? 苛ついて加減をミスったか?」

 

 消えたのでさじ加減を忘れたと思うパチであるが、その人物は何所からともなく目の前に右手の掌に謎の黒い物体を浮かばせながら現れる。

 

「これが世界、そして…」

 

 突如となく現れた白装束の人物は、黒い物体を下に落とした。

 

「お前がポーンを作り出したように、私はあらゆる生命を生み出せる力を有している」

 

 パチがポーンを作り出したように、自分は生命を作り出すことができると言って下に落とした黒い物体から人間を作り出す。

 その作り出された人間はパチと瓜二つであり、それを見た本人は驚愕し、自分が戦っている相手が神であると気付き、やや戦意が薄れる。

 

「神の業、どうとも言うな。だが、真実というものは遥かに無慈悲な物だ。これはルール、何人たりとも抗えぬ、世界の仕組みそのものなのだ」

 

 パチに自分が神であると言う証拠を見せてから、神である人物は自らが生み出した人間を風圧で吹き飛ばした。

 突然に何をするのだと思って倒れたままずっと起き上がらない自分の分身をパチが見る中、暫しの沈黙の後で、神は口を開いてパチの分身を焼き殺し始める。

 

「生命は、そして世界は単に器なのだ。そう、ポーンと何も変わりはしない」

 

 パチの分身を焼き殺した後で語り始める。

 この様子を、パチはただ黙って見ているだけだ。

 

「生きようと言う意志は、生を闘い取って来た。その選択の上に、精錬される」

 

 そうパチに語る神は彼の背後へ瞬間移動し、警戒する彼に意志の重要さを語り続ける。

 

「意志とは即ち練られた生…戦う事で、定められるもの…ポーンが覚者の導きを請うように、世界もまた、生きる意志を求めるもの」

 

 意志こそ、意思こそが全てだと言う神は、再びパチに対して攻撃を始める。

 

「意志、意志って、うるせぇぞ!」

 

 そんな攻撃して来る神に対し、パチは波動拳を打ち込むが、神は瞬間移動してその攻撃を避け、語り掛けながら攻撃して来る。

 

「さぁ、続けようか、覚者よ。お前がただ動くだけの虚ろな器でないことを示して見せよ」

 

 遠慮なしに攻撃して来る神に対し、パチは飛んでくる光の波動を回避しつつ、冷静になって動きを読み、瞬間移動する前を見計らってそこへ拳を打ち込む。

 純粋に拳を振るい、自分を斃そうとするパチに向け、神はなおも語り続ける。

 

「お前がポーンよりもっと大きなものを従わせる魂を持つことを、示して見せよ。お前が、この歪んだ円環を繋ぎ留めるに足る意志を示せ」

 

「ポーンの事は分かるが、歪んだ円環は分からねぇな!!」

 

 戦いながら語り続ける神に向けて拳を打ち込むパチであるが、それを回避してまたも背後に回り込んで攻撃して来る。その口は、なおも動き続ける模様だ。

 

「生を求め足掻いて見せよ。生に足掻くだけの価値があると示して見せよ」

 

「ごちゃごちゃと、うるせぇ!!」

 

 それで最後だったのか、神は何も語らずにただ攻撃してくるだけだった。

 妙に自分には分からないことばかりを喋る神に苛立ったのか、神に対する恐怖心は無くなり、瞬間移動する神をその拳に捉える事が出来た。

 拳は見事に神に打ち込まれ、それを受けた神は吹き飛び、動かなくなる。

 

「やったか…?」

 

 倒したと思い、パチは倒れた神に近付き、顔を見ようと触れてみると、その顔は自分と瓜二つであった。

 驚いたパチは自分と瓜二つであった神から数歩ほど離れたが、背後から落雷の音が聞こえ、振り返ってみれば、そこだけ円になる様に激しい嵐が起こる空間が生まれており、その中央にはあの神が立っていた。

 動揺するパチに対し、神は彼に二択の選択を強いる。

 

「選択だ、覚者よ。苛烈な先の生を掴むか…安寧の内に生に蓋をするのか…そう、前に踏み出せ。何があろうとも。それが、生だ」

 

 その選択肢を出した後、パチの背後より安寧の選択肢、即ち後戻りで平穏な敗北が現れた。

 

「後戻りすれば、平穏な敗北を与えよう」

 

 背後からは元の穏やかな自分の家が見える。

 つまり神が居る方向は、前に進むと言う事だ。

 

「選択だ、覚者よ。お前が選ぶのだ」

 

 どちらかの選択肢を求む神に対し、パチはどうするか迷った。

 第一、神に敵うのか? 

 幾ら自分が最強たる力を得たとしても、神には適わなかった。ここで神との戦いに挑んだとしても、勝てる保証があるだろうか?

 退けば、穏やかな生活に戻れるだろうが、自分のプライドが許さない。

 何よりここまで来て、後戻りなどできるものか。

 そう思ったパチは、前へと一歩進んだ。

 

「ほぅ、そう来るのか…!」

 

「愚問だぜ。俺はあんたを斃すためにここへ来た。俺はあんたを斃し、真の最強たる戦士になる。それが、俺の道だ!!」

 

 神と戦うことを決意したパチの選択に神は期待通りなのか、喜んでいるように見えた。

 この時、パチに向けて様々な誘惑があったが、彼はその全てを振り払って神の元まで走り抜ける。

 物の数秒ほどで神の元へ来れば、足を止め、目前の白装束の人物が構えるのを待つ。

 

「色々と後悔があるが、俺はやっぱりあんたと戦って勝ちたい。そうしにゃきゃ、絶対後悔すると思う」

 

「ふむ、良い意志だ。やはり我が、いや、俺が見込んだ通りの男だ!」

 

「っ!? まさか…!」

 

 パチの強い意志に感動した神は、身に纏っていた白装束を取り払い、彼の前に正体を現した。

 その正体はパチが驚愕する人物であり、二度と会う事が無いであろう人物であった。

 

「久しぶりだな。なるほど、副作用は、頭の髪が全部抜けてピカピカ頭になったか。運の良い奴よのぅ、お前さんは」

 

「あんた、まさかあんたが俺を…!?」

 

 神の正体は、パチに副作用付きで最強になれる薬を渡したあの屈強な戦士だ。

 己が求める最強の戦士となろうと必死に努力するパチを自分の後継者と認め、力に溺れないかどうか試す為、ほぼ全ての敵を一撃で葬る薬を授けた。

 その力を手にしてから力に溺れず、自分に一撃で倒される敵に慈悲たる心を持ったことから改めて後継者と認め、覚者にしたのだ。

 そんな自分の姿を見て驚愕する後継者であるパチに向け、自己紹介を始める。

 

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はゴードン。かつてはお前のようにこの世界の神こと界王が送り出した竜に覚者とされ、そして後継者に選ばれた覚者だ。俺も最初は驚いたが、見事に界王を倒してこの世界の支配者の座を勝ち取ったわけよ」

 

 ゴードンと名乗った神は、パチと同じ覚者であり、竜を斃した後にエヴァーフォールへと舞い降り、竜の心臓を集め、世界の王である神、その名も界王を斃して界王の座を引き継いだことを明かした。

 そうなると、次の界王はパチと言うことになる。どうやらゴードンはパチが後継者に相応しいと見込んだわけだ。

 だが、戦わずにパチに界王の座を譲ってしまえば良い話であるが、そう易々と座を渡しては甘いと判断してか、前任と同じく彼に最後の試練を課す。

 即ち、自分を斃して界王の座を勝ち取れと。

 実際そうなのかと、パチはゴードンに問う。

 

「で、あんたに勝ったら俺は神、世界の支配者である界王に…?」

 

「あたぼうよ。そんでもってお前はここに来てから限りなく俺に近付いて来てる。俺も覚者だった時を思い出し、その力を使ってお前とやり合う。お互いのポーンも使ってな」

 

 問われたゴードンは考えている通りであると答え、これより最後の試練、神の座を掛けた戦いを始めると宣言し、自分のポーンと、パチのポーンであるバルバロッサをこの空間に召喚する。

 

「さぁ、最後の試練だ! 後腐れ無く存分に満足するまで戦おうぜ! パチ!!」

 

「まさか、あんたと戦うことになっちまうとは…! だが、ここまで来て退けねぇ! 俺はあんたを斃し、界王になる!!」

 

 互いのポーンを召喚した後、パチとゴードンは神の座、界王の座を掛けた最後の戦いを始めた。

 ゴードンのジョブは、ハイセプターと呼ばれる魔法と剣を扱うバランスの良い物だ。物理と魔法を両方扱えるが、その分火力に劣る。

 だが、ゴードンは熟練で界王の座に上り詰めた戦士。圧倒してくるに違いない。

 彼のポーンのジョブは、スピリットランサーと呼ばれるランサーの上位種。回復の魔法を使うために火力は微妙だが、あのゴードンのポーンだ。油断は出来ない。

 対するこちらは一撃必殺の力と、ウォリアーであるバルバロッサだ。

 果たして勝つことが出来るだろうか?

 否、ここは神とその従者に挑むのみ。パチは全てをこの戦いに賭け、ゴードンとそのポーンに挑んだ。

 バルバロッサと界王のポーンが光線を始める中、パチは地面を蹴って弾丸の速さでゴードンに迫り、一撃で敵を倒せる拳を打ち込もうとする。

 

「ほぅ、猪みたいに突っ込んで来るか。なら!」

 

 凄まじい速さで迫るパチの一撃目を回避し、ゴードンは手にしている片刃の剣を振り下ろした。

 だが、敵が回避した時にしたのか、パチは蹴りを入れ込むも、自分の前方にだけ張れるバリアで防がれる。

 

「おっと、お前の蹴りも十分に破壊力があるからな。このジョブはお前向きのジョブって訳よ」

 

「なんともせこいジョブだぜ」

 

 やはりここから今までの戦闘を見て研究しており、前方のみで暫しの間だけだが、バリアを張れるハイセプターこそがパチに対する有効打であると見抜かれたようだ。

 完全に自分対策のジョブで待ち構えていたゴードンに対し、パチはなんともせこいジョブを選んだと皮肉り、バリアが切れるまで恐ろしい拳を連続で打ち込んだ。

 流石に何千回もの攻撃に耐えられないのか、ゴードンはワープ回避で距離を取り、パチに向けて魔法剣を魔法の力で飛ばした。

 現実の世界で言えば、徹甲弾並の威力だ。それを受ければ、パチとでも無事では済まないと、本能で悟ったのか、寸での所で回避し、お返しとして波動拳を撃ち込む。

 

「そう言えば、何処かの訳の分からんポーンに技を伝授してもらったな。だが、そいつも研究済みだ!!」

 

 波動拳を見たゴードンはそれも対策済みだったのか、波動拳を撃ち込ませまいと、今度は無数の刃を飛ばしてくる。

 この無数の刃に、パチは避けきれないと判断して防御の態勢を取ってその全てを受け止めた。

 

「ほぅ、全部防いだか。なら、こいつはどうだ!!」

 

 あの刃を全て受け止めたパチに対し、ゴードンは次なる攻撃、光の魔力の渦を撃ち込む。

 次なる攻撃が来たことを物の数秒で分かったパチはそれを紙一重で躱し、直ぐに反撃に転じる。

 予想だにしない反撃に、ゴードンはワープによる回避が遅れたが、咄嗟の判断でパチの一撃必殺の力を剣で防御した。

 

「やれやれ、俺が丹精込めて作った得物が。これで、お前のワンパンチで界王である俺を斃せるって分かっただろ?」

 

 破壊された剣を捨て、ゴードンはパチの力で斃せると証明した。

 これをハッタリだと思うパチであるが、ゴードンは新しい剣を作り出して容赦なく攻撃して来る。

 

「ほら、どうした! その拳で俺をぶん殴るだけで斃せるんだ! さっさっと打ち込んでこんかい!!」

 

「その隙がねぇだろうが!」

 

 自分を攻撃して来いと言いつつ、物凄い速さで斬撃を放つゴードンに対し、パチは好きが無い事にツッコミながらそれらを全て回避する。

 これ以上は膠着状態に陥ると判断してか、パチは思い切って剣を恐ろしい速さで振るって来るゴードンに向けて拳を打ち込んだ。

 

「ぐっ!? 肉を切らせて骨を断つか…!」

 

 右腕に切り傷を負った挙句、その気合いの拳は届かなかったが、風圧でゴードンは吹き飛び、吐血してパチの思い切りの良い行動を褒めた。

 数秒も持たないうちに、二人は戦闘を再開した。

 その戦闘は凄まじく、パチの一撃必殺の力は強力過ぎ、界王の間の空間を傷付けるほどであった。

 だが、二人は戦闘を止めない。どちらかが倒れるまで…!

 

 それから数時間、いや、数日…。パチとゴードンの界王の座を掛けた戦いは続いた。

 神すらも斃せる力を持つパチと、世界の支配者であり王であるゴードンとの戦いの影響で、界王の間と呼ばれる空間は耐え切れず、あちらこちらでガラスのようなひび割れが起きていた。

 二人のポーンはお互いに力尽きており、死んではいない物の身動きが取れないくらいに疲弊している。

 これ以上続ければ、この空間は破壊されることだろう。そう判断した常に攻撃側だったゴードンは、剣を振るうのを止め、この一撃で全てを終わらせることにした。

 攻撃を続けていれば、いずれは勝てるのに、それを止めて全てを終わらせる一撃に賭けたゴードンに対し、どうしてそのような行動に出たのかを問う。

 

「どうした? あんたが攻撃を続けてれば、俺を斃せるぞ」

 

「フン、これ以上に泥仕合をするのは飽きたのよ。そして俺は肝が据わっていた頃の性を思い出し、この一撃でお前を葬る。さぁ、お前も仕掛けてこい! この空間を吹き飛ばしちまうくらいのな!!」

 

「言ってくれるじゃねぇか…! 俄然、やりたくなってきたぜ!!」

 

 膠着状態に飽き、尚且つ肝が据わる一撃がしたくなったと答えたゴードンに対し、パチは感動、否、戦士としての喜びを感じ、全身血だらけの身体を起こし、血塗れで真赤になった右拳に自分の全ての力を溜め込こんだ。

 パチが全力での一撃を放つのを見たゴードンは、それに応える形で先に攻撃を始めた。

 

「さぁ、行くぞ!!」

 

「来いッ!!」

 

 一撃で自分を葬る為に凄まじい速さで迫るゴードンに対し、パチは地面を蹴って敢えて突っ込む。

 剣と拳、どちらかが勝つかは子供でも分かること。

 だが、パチは常識を崩す男。ここに至るまで、パチは数々の常識を崩して来た。

 最強になる前に一度だけ、奇跡的に難敵に勝ったこともある。

 その奇跡とも言える彼の勝利を、数日間にわたる戦いで忘れていたゴードンは、パチに向けて放った剣先が放たれた拳で砕け散って行く様子を見て敗北を認めた。

 

「おめでとう、これでお前は界王だ…!」

 

 自分を斃したパチに対し、ゴードンは彼の勝利を称えつつ、敢えてその一撃必殺の拳を身体で受けた。

 

 

 

 勝敗は決した。

 世界の支配者であり管理者である界王の座を勝ち取ったのは、前界王が後継者として神すらも倒す最強の薬を与え、その力を得ても力に溺れず、最強の戦士と成長した覚者パチだ。

 前界王であるゴードンは神であるために死ぬことは許されず、パチの一撃必殺の拳を受けても死なずにその場に残って居たが、自らの敗北を認めて卑劣な行動には出ず、起き上がって勝利者で界王の座を得た彼に近付き、あることを語り始める。

 

「パチ、許せ。全てはお前の意志を試す為だ。ここに至るは覚者のさだめ。流れの中に俺たちは居て、その理に従い、動いている」

 

 俺たちは理の流れの中に居る。

 そう語るゴードンはパチの目の前まで近付いてきた後、足を止めて続ける。

 

「みんなはそこを巡り、練り上げ続ける。永遠の環の中で、世界と共にな…」

 

「てっ、ことは…俺は環の中に入っちまったってことになるのか」

 

「そうなるな」

 

 ゴードンが明かした世界の理に対し、パチは自分がその理に組みこまれたのかと問えば、彼は肯定であると答える。

 数歩ほど進んだ後、ゴードンは片肘を地面に付き、良き後継者となる様に告げる。

 

「いずれか精錬された魂を持つ奴が現れることだろう。そう、お前のようにな。それまでは、良い世界の支配者になるんだぞ、パチ」

 

 そうパチに告げた後、自分の身体より奇妙な剣を出し、それを彼に差し出ながら、その剣が何なのかを説明する。

 

「これは神裁きの剣、リディル。お前の拳と似たような物だが、世界を統べる神である俺は滅ぼせないだろう。だが、この剣なら俺を滅ぼすことが出来る」

 

 神裁きの剣、リディル。

 自分の前に差し出された剣を、パチは少し迷いながら取った。

 その剣を取ったことを確認したゴードンは、それで自分を刺すように告げる。

 

「さぁ、その神剣で俺を刺すと良い。いや、刺してくれ。新しい世界の主よ。この旧きに解放を…!」

 

 このリディルを出し、それで自分を刺せと訴えている辺り、ゴードンはこの永遠の苦しみから解放されたいようだ。

 それに応え、パチはその剣でゴードンを楽にしようと思ったが、なぜ自分が選ばれたのか、どうして自分を後継者として選んだのかを問うため、リディルの剣先を地面に突き刺してから剣を付き刺すのを待っているゴードンに問う。

 

「どうした? 早く刺してくれ…」」

 

「その前に聞きたいことがある。なんで俺なんだ?」

 

「戦う前にも言っただろ。お前は界王たる精錬された魂の持ち主で、俺が与えた絶対的な力に溺れず、自分にやられていく連中に対する慈悲の心がある」

 

 聞きたいのはそれじゃない。

 ゴードンから返って来た答えに、パチは自分じゃなくても良かったのではと問い詰める。

 

「俺以外の奴じゃなくても良かったんじゃねぇのか?」

 

「お前以外とな。いや、お前じゃないと駄目だった。他の奴でも試したが、力に溺れて世界を破壊しようとしたので、俺が直々に始末した。だから、試したのさ」

 

 問い詰めれば、パチ以外にもあの薬を与えたことが分かった。

 その誰もが力に溺れ、世界を破壊し始めたので、自らが始末したとゴードンは語る。

 それが分かれば、パチはもう少し待っていた方が良かったのではと問う。

 

「待っていれば、俺のような奴が来るんじゃ?」

 

「おいおい、永遠と言う苦しみから早く解放されたい奴に酷よのぅ。お前のような強くて慈悲深い奴が出て来るのに一体、何百年掛かると思ってんだ。だから、お前が適任だったのさ」

 

「あぁ、確かに…」

 

 その問いに早く延々の苦しみから解放されたい、そしてパチのような界王の撃つ渡る魂の持ち主が現れることは、この数百年、下手をすれば千年以上は会う事が出来ないと答えれば、パチは納得した。

 

「そう言う事だ。さっ、次は何の問いだ?」

 

「あぁ、そうだな。取り敢えず、界王が何するか教えてくれ」

 

「よかろう。お前に刺される前に、界王が何たるかを教えてやろう」

 

 次に何の問いをするのかと問うたゴードンに対し、パチは界王が何をするのかと問う。

 この問いにゴードンは忘れていたのか、界王のイロハをパチに叩き込んだ。

 

「そう言う事だ。では、お前のように優秀な後継者が速く出て来ることを祈ってる。さぁ、刺してくれ」

 

「あぁ、ありがとよ。俺、立派な神様になるから!」

 

 界王のイロハを数時間かけて教わったパチは、そのお礼にゴードンを永遠たる苦しみから解放するべく、リディルを突き刺した。

 

「あぁ…これでようやく解放される…」

 

 リディルを胸に突き刺されたゴードンは、永遠たる苦しみより解放され、解放してくれたパチに感謝しつつ安らかに滅び去った。

 ゴードンが滅び去った界王の間には、生き返ったバルバロッサと、その主で現界王となったパチだけだ。

 

「さて、第二の人生、神様生活の始まりだ」

 

 バルバロッサの視線を感じつつ、パチは界王の玉座に座り、手に入れた界王の力で自分の頭皮に髪を生やし、絶世の美女を数人創り出して自分の近くに寄り添わせ、自分の足元に人間界を映す空間を召喚して自分の支配下となった世界を覗いた。




これで最終回です。

この後に後書きでも書こうかな…と、思っていますが、覚者になったルリと界王であるパチが戦うことを検討しております。

まぁ、戦うことになると、戦闘がデビルメイクライみたいになりますが。

書くのは気分次第なので、期待しないで下さいませ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。