「ん」
「・・・・・・これは?」
凰さんが取り出されたチケットをしげしげと眺めながら、私は警戒心を露わに距離をとります。
「・・・なんであたしから離れようとしてんのよ、アンタ」
「貴女が転校されてきた初日に問答無用の砲撃で病院送りにされたからですが何か?」
「うぐ」
苦虫を噛み潰したような表情で一瞬だけ黙り込まれた後、凰さんはいつも通りに勢いで誤魔化し通す手法で行くことに決したようでした。
「と、とにかく! これよこれ! 今月できたばっかのウォーターワールドの前売り券! 当日券だって会場二時間前に並ばないと買えなかった超S級レア品なんだから!
だから、もっと驚きなさいよね! これを手に入れるのにあたしがどれだけ苦労したと思ってんのよ!?」
「そうですか。それは大変でしたね。お疲れさまでした」
私は淡々と彼女の労を労う言葉を告げてから。
「・・・で? その苦労した末に手に入れられた、開園から一月も経たぬうちにIS学園所属の専用機持ちによって半壊させられた室内プールの入園チケットが今更なんだと言われるのですか? あそこって確か、まだ営業再開されてないはずなんですけども?」
「・・・・・・(サッ!)」
盛大に顔を背けられましたね。猛スピードで汗みずくになりながら。
しばらくの間ジーッと彼女の顔を眺め続けてみたところ、
「し、しょうがないでしょっ!? あれは事故だったんだから!」
「事故?」
「そう! 事故よ! 誤解が誤解が招いてしまって起きた、悲しい事故なのよ!
ーーあれは、そう。クソ暑いったらありゃしない日本の八月、夏の出来事だったわ・・・」
なんか、語り始めやがりましたよこのお人は。
・・・まぁ、いいや。暇なんで聞いてあげましょう。
「あたしは一夏を誘うために・・・じゃなかった、偶然にも廊下であのバカとすれ違ってて、たまたま手に入れてた翌日しか使用できない友達から引き取ったキャンセル品のチケットを、他にいくらでも買い手はいるから一夏じゃなくても良かったのにも関わらず、友達のよしみで二千円で一枚だけ売ってあげたの。
ほら、アイツって友達少なそうじゃない? だから夏休みとか暇してそうでかわいそうだなーっとか・・・」
「前半だけで矛盾しか存在しない、穴がボコボコの理論なんですけども・・・」
「う、うるさいわね! こ、これはその・・・・・・事故だったのよ! あの会話も含めて事故!」
「はぁ。――てゆーか、後半の部分『友達が少なくてかわいそう』って、まんま凰さんにも当てはまるのでは?」
「どういう意味よ!? あたしが自己中すぎてて、皆がなかなか付いて来づらいとでも言いたいわけ!?」
「ええ、まぁ。その通りですが、それが何か?」
「え、あ、いや、あの・・・・・・そ、そうですか・・・・・・」
押しは強いのに、押し切れなかった場合には途端に弱くなる凰さん。下位互換ビッテンフェルト提督タイプなんでしょうかね? あちらの戦術を凰さんの性格に置き換えればの話ですけれど。
「と、とにかくね! 私は一夏を誘って二人でプールに行ったのよ! そうして、いざプール内に入ってあたしは自慢の水着姿をアイツの前で披露したわけ!
そしたらアイツ、なんて言ったと思う!?」
「・・・言っても宜しいのですか? よければ言います。『お前、胸が小さいnーー』」
「ストーーーップ! それ以上は言わないで! フラッシュバックで再起不能になりそうだから言わないで!
今度こそ立ち直れなくなると困るから、お願いホント言わないでください! ーーって、なんでアンタそのこと知ってんのよ!? あの時あたしとアイツしかプールにはIS学園生がいないことは確認してたはずなのに!」
「いやまぁ・・・・・・何となく?」
ラブコメ主人公って、なぜだか同じセリフを共有してたりしますよね。たとえ、別作者の書かれた別シリーズであろうとも。
集合的無意識でも介在してるんでしょうかね? もしくはアラヤとかが。
「そ、それでなんだけどね!? 激怒したあたしは甲龍を展開して撃ちまくったわ! 衝撃砲を!」
IS学園の教科書、一年生用から一部抜粋。
“ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられる”
・・・・・・国家的エリートに対する法の有名無実化~・・・。
「真っ正面から撃ってやったにも関わらず、アイツは避けたわ! 衝撃砲を! 腕を組みながら上半身だけ傾けて、「ふっ、その程度の攻撃で俺を倒すことなどできない」って言いながら笑顔を向けてね!」
・・・・・・非公式織斑さん?
「あんなことされたらムカつくじゃないの!? なにが何でも当ててやらなきゃ気が済まなくなるじゃない! 何度だって繰り返し繰り返し終わらない攻撃を撃ち続けたくなるのが普通でしょ!?」
まるで、ダ・カーポのように?
「だからこそ、あたしは撃ったわ! アイツに当てるために! 一夏に当てるために! 全力で!手加減もなにもすることなく!たとえアイツの死体が原型をとどめていないペプシコーラのようにしてしまったとしても構わないくらいの覚悟でもって全力で!」
「・・・ご自分で指定した場所にやってきた相手を死体も残さず消し去ろうとするなんて、モリアーティ教授も真っ青な完全犯罪計画ですね凰さん」
「誰が犯罪界のナポレオンかっ!? 事故だって言ってんでしょうがさっきから!」
「相手に当てるつもりで撃った弾は『流れ弾という名の事故』じゃありません。単なる殺意をこめて放たれた一弾です」
「あ、う、え、えっと・・・。と、とととにかく! あたしは撃って撃って撃ちまくってアイツに当てようとしたけど当たらなかったの! 外れ続けたの! 避けられ続けたの! 「当たらない、当たらないなぁ鈴!」とか笑いまくりながら避け続けられる悔しさがアンタにはわからないとでも言うつもりなの!?」
「はい、わかりません。私、殺人狂じゃありませんので殺人願望ないんです」
「あ、う・・・しょ、しょうでしゅか・・・・・・」
しゅーん、となって小さくなっていく凰さん。いい加減かわいそうになって来ましたね。そろそろ本題に入っていただくことで切り抜けさせるとしましょーか。
「それで? 結局そのお話のドコがどう繋がって最初に出してたチケットに行き着くことになるのですかね?」
私が言ってあげると目の前の彼女の顔がパァーっと明るく輝き出しました。現金な人です。あとチョロい人でもあります。チョロ鈴。
「そうなのよ! 私は撃って撃って撃ちまくって避けられまくった結果としてプールは半壊、ウォーターワールドは修復終えるまで営業停止に追い込まれちゃった訳なんだけれども・・・」
「はぁ・・・なるほどー」
適当に首肯しながらも、私は内心首をひねります。だから何だというのだろうかと。
確かに一般社会だと大惨事になりかねなかった大事件ですし、実銃の扱い方を実地で教えていますので通常の教育機関よりかは遙かに強固な外壁を誇るIS学園であろうとも日常茶飯事になってしまったのは最近になってからのことではあるのです。
壊された教室の窓すべてを防弾仕様にし、非常シャッターは一般的なものの強化版から対爆シャターに変更されたりしたのも今年度からと聞かされております。
まぁ、ホグワーツ魔法魔術学園じゃないんでね。毎年毎年凶悪事件が起こっているような場所が入学志願の倍率一万倍越え続けていた場合には、世界そのものが病んでいますよ確実に。あらゆる事件を殺人事件に関連づけたがる刑事さんたちが警視庁に勤務している、サスペンスドラマと同じキチガイワールドです。
・・・本当に、殺人病でも流行ってるんでしょうかね、あれらの世界には・・・不思議です。
・・・おっと、話がズレ過ぎましたね。要するに、私が言いたかったのは『今さら凰さんが気にしても遅すぎるでしょう?』と言う意味でして。
今現在の時点で残留している織斑さんハーレム(と、呼ばれているんでしょうねぇ原作読者の間では)のメンバーは、凰さんと篠ノ之さんのお二方のみ。
・・・もうこれ、ハーレムでも何でもありませんね。ただの三角関係です。新しい呼び方でも考えときましょう。
篠ノ之さんは日常的に、よく通る綺麗に澄んだ声で雄叫びをあげながら真っ赤な顔して純白の下着が見えそうになりながらも学園内の備品を切り刻みまくっている姿が遠巻きに眺めている人たちに「真面目に生きていくことの難しさ」を教えてくれている危険人物な物切りさんですが、所詮は人です、人間です。被害の規模もIS専用機もってないぶんだけマシな方だと思います。
対する凰さんは、中国の最新鋭第三世代機に乗ってる分だけ被害額の桁がひとつふたつ繰り上がること多しです。毎度のように億円規模の被害総額を出し続けている彼女に限って、たかだか民間プール施設の半壊如きでうろたえ様など見せるはずがありません。
だからこそ不思議なんですよ。プールをIS使って壊したぐらいで何なのかって。いつもいつもやってきた事じゃないですかって。
だからーー
「今回の被害を返済してもらおうと本国に見積書送ったんだけど・・・・・・突き返されちゃって。『たかが候補生如きのためにこれ以上の無駄金は払えん。生活費とISに必要な分は経費で落とすが、自分で壊した分は自分で精算しろ。でなけりゃとっとと代表選手に昇格するんだな』ーーって・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「と言うわけでセレニア、お金貸してくれない? ほら、あたしってこのチケット買うのに無駄金使っちゃったから今月ピンチで・・・・・・お願いしますセレニアさん!
もう使い道のないゴミチケットを半額でもいいんで買い取ってください!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三分の一でも良いのであれば」
ーー良いのだそうです。
本当に大丈夫なんでしょうかね、この世界のIS操縦者たちって・・・・・・。
つづく