奴隷蛮行――そのメイド、特殊につき。   作:紙谷米英

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奴隷蛮行【4-3】

 バンは空港へは向かわず、南西へと進路を取り、やがてM6自動車道に乗った。性奴隷護送バンはさらに南進してバーミンガムへ入り、都市部から外れたほの暗い林道のつづら折りを進むと、警衛付きの巨大な門扉に行き当たった。バンのエンジンが切られ、男ふたりに荷台から降ろされたリタは、もう暴れなかった。彼女は九十分間のドライブ中ずっと頭をフル回転させ、自分がここに移送された理由を推し量っていた。合点のいく結論は得られなかったが、調教課程をほとんど修了していない身で売られるとは考えづらかった。警衛がグラタン皿ほどの錠を外して、重厚な鉄扉が押し開かれた。おどろおどろしい音を立てる門の奥に、リタが元いた施設と瓜二つの建造物がそびえていた。

 正面の建物から、警衛の連絡を受けた施設職員がやってきた。五十代半ばと見える職員は、配達人の男ふたりと二言三言交わすと、リタの顎を掴んで品定めの目を向けた。非人道的な扱いにリタは神経を逆撫でられたが、じっと辛抱した。そうして三十秒ほど検分すると、職員は不服そうに眉根を寄せた。「本当に使えるんだろうな?」

 訝しむ職員に、クルーカットの配達人が答えた。「使ってみりゃ分かる。それに、こいつはもうおたくの奴隷だ。調教も処分も、おたくで全部やるこった」

 処分という単語に、リタの動悸が速まった。スキンヘッドの手が、リタを施設職員へと押しやった。荷物の引き渡しを終えた配達人ふたりはバンのエンジンを再始動し、開いたままのゲートを抜けて施設を走り去った。職員は遠ざかるバンに舌打ちし、それからリタの猿ぐつわを引っぺがした。唾液でべとべとのボールギャグは、正門脇の植え込みへと捨てやられた。

 職員に肘を掴まれ、リタは新たな住居へと引っ張られた。その道すがらで職員に聞かされた用件が、自らの終着点が間近に迫っているというリタの懸念を振り払った。

 リタがマンチェスターから、ここバーミンガムの調教施設へ移送されたのには、企業幹部の一人に労災案件をもたらした以外の、別の理由があった。彼女の腕を引く水先案内人曰く、この施設は問題を抱えていた。それも急を要する案件で、処置を誤れば会社に甚大な不利益が生じるとのことであった。リタが、自分を束縛している奴隷企業のピンチを嘲笑う前に、案内人が言った。「そこで、お前が選ばれた」

 リタは、訳が分からないと空いている腕で肩をすくめた。地階へ下りるエレベーターの中で、リタが疑問を投げた。

「企業で片付けられないトラブルを、奴隷見習いがどうこうできるとは思えないのだけど」

 案内人の反応からリタは、計画の立案者が彼でないのだと察した。その中年の顔に、今のリタよりも深い困惑が浮かんでいた。あまりに不憫で、リタは思わず同情した。

 目的階への到着を報せる電子音が鳴り、ゴンドラのドアが開いた。その先に、場所は違えど、リタにとって馴染みの光景があった。真っ直ぐに続く、薄暗い廊下。左右に等間隔で配置されたドアの一枚ずつに、頑丈な外鍵が備わっている。一人と一体がエレベーターから出ると、廊下の様子を窺おうとする目が、あちこちのドアの覗き窓に現れた。余計な注目に不快を示しながら、案内人は廊下を進んだ。

「親切で教えてやるが、一〇一三号、お前は崖っぷちにいる」案内人は、野次馬に向けて鬱陶しそうに手を払った。

「リタよ。つまり、あたしはまだ処分されないのね」

「それは俺が決めることじゃない」

「じゃあ、誰が決めるの?」

 案内人はリタを苛立たしげに睨んだが、生意気な奴隷と会話を続ける余裕は残っていた。「ここにはいない、我々の上司様が決める。そのご意向は、今後のお前の働き次第で変わるかもしれないし、どうにもならなかったら、さっきの二人より物騒なやつらがやってきて、我々の知らない場所へ不良品を持っていく」

「それなら安心ね」

 奴隷の口元が、不穏な笑みに歪んだ。

「大した自信だな。まだ何をするかも知らないくせに」

「教えてくれないからじゃない。勿体ぶってるのはそっちよ」

 噂と違わぬ減らず口に、案内人は早くも心が折れかけた。

「……それで、あたしは何をすればいいの?」

 リタは一転して、真剣な面持ちに変じていた。廊下の突き当たりのドア前で、案内人が足を止めた。腰の多用途ベルトから鍵束を引き出しながら、案内人が告げた。

「こいつの護衛だよ。おはようからおねんねまで、四六時中ずうっとな」

 錆の浮いたドアの奥、せせこましい個室の隅に、『こいつ』――奴隷番号B-20は、膝を抱えてうずくまっていた。リタの胸が、ふつふつと沸いてきた期待に膨らんだ。それが顔をもたげた瞬間、リタは案内人の腕を払いのけ、個室へ飛び込んでいた。案内人が制止に口を開いた時には、リタは既に自分と似た容姿の少女を抱きすくめていた。詳細を聞く必要はなかった。――この子は助けを求めてる!

「あたし、リタ。今日からルームメイトになるから、よろしくね!」

 リタの力強いハグに、無意識ではあったが、可愛い妹分がそっと抱擁を返した。

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