奴隷蛮行――そのメイド、特殊につき。   作:紙谷米英

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奴隷蛮行【7-3】

【8】

 

 身を刺すような雨の降りしきる集合住宅街の一角に、屍肉を喰らうウジのように蠢く人影があった。その中年男は、暴風で枝葉がもぎ取られつつある街路樹の根元にへたり込み、呆然と澱んだ灰色の雨空を見上げていた。男の名はアンブローズ・バグウェル、地元警察の窓際巡査部長である。

 いったい、どうなってるんだ?

 バグウェルが濡れた路面から身を起こそうとすると、衰えた腰を鮮烈な痛みが駆け抜けた。情けない悲鳴を上げて重い尻で地面を叩き、水浸しの道路に飛沫が散った。

「困るんだよ、バグウェルさん。あんたと違って、こちとら忙しいんだ。余計なカロリーを消費させないでくれ」

 水揚げされた魚のように悶える中年警官を、同じ年頃の男が冷ややかに見下ろしていた。ダッフルコートから延びる左手に、日常生活では見慣れない機械が握られている。バグウェルは声の主の姿に目眩を覚えると同時に、ここに至る数秒前の記憶を取り戻した。

 

 ダッフルコートの男――クラプトンと名乗った陸軍少佐は、バグウェルの頭から制帽をひょいとかすめ取り、自分の頭に乗せた。

「どうです、似合いませんか? 何なら、明日からあんたと交代しても面白そう」

 言いながら軽薄な笑みを浮かべると、SASのくたびれたベレー帽がバグウェルへ差し向けられる。「まあ、務まるはずもないでしょうがね」

 安っぽい挑発に、バグウェルはまんまと乗せられた。右手を腰のホルスターへ伸ばし、伸縮警棒を引き抜いた。アルミ合金製の鈍器が、パチンと無機質な音を立てて伸張する。最後に近接格闘訓練を受けたのはいつか思い出せなくとも、相手は自分と同じくらい腹の出た中年で、恐らくは実戦経験もない、キャリア組のぼんぼんであろうと確信していた。対する自分は? つい三ヶ月前も酒場の喧嘩に駆けつけ、顎にパンチを一発もらうだけで、酔っ払いふたりを沈めた現役のブルーカラーであると、密かに自信をみなぎらせた。

 三メートルと離れていない暴力を目の前に、クラプトンはおどけて両手を上げた。「何もそこまでしなくたって――」

 バグウェルが警棒を振りかぶって前に一歩踏み込むと、クラプトンの目が丸くなった。敵の虚をついたと確信し、勝ち誇った笑みがバグウェルに浮かぶ。狙うは妨害電波の発信源である、左手のジャマー。妨害電波の支援を失ったクラプトンの反応を想像すると、思わず胸が小躍りした。ジャマーが何を動力にしていて、具体的にどうやって妨害電波を停止するかといった疑問など頭の片隅にもなかった。クラプトンの左肩目掛けて、バグウェルは警棒を振り下ろした。

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