泣いたうさぎさん。   作:高任斎
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さて、ゆるやかにまいります。
おじーちゃん、少し口調が砕けてきました。(笑)


6:うさぎさん、子猫を拾う。

 研究と開発には、資金と資材が必須だ。

 

「さあ、ふーちゃん。悪者を懲らしめに行くよ!」

 

 そのついでに、資金と資材を回収ですか。

 

「だってあいつら、ほうっておくと悪いことしかしないし、最後は自爆するんだよ?ちゃんと有効活用しなきゃもったいないよね……と、ほら、証拠の資料」

 

 束さんが、無造作に資料を示す。

 

 殺人。

 脅迫。

 非人道的研究に……うわあ。

 権力ともつるんでて……。

 

 う、うーん……いいのか?

 

「そもそも、束さん悪いことしてないのに、国際指名手配されちゃったからね!そりゃあ、束さんは自分のことを真っ白なんて言うつもりはないけど、本当に悪いやつらが大手を振って歩いてるのはムカつくよね!」

 

 まあ、綺麗事だけじゃ生きていけないし、社会も回らないけど……。

 

 どう言い繕っても、山賊というか、海賊というか……。

 

 

 

 

 

 

 

 などと悩んでいた時期もあったなあ……。

 思えば、遠くに来たなあと感じる。

 

 前世もそこそこ社会の闇には触れたつもりだったけど、この世界の闇は深い。

 クローンに、人体実験に、素体破棄に……人身売買まで。

 

 難しい問題ではあるんだが……どの時代、どの世界でも、親が子どもを捨てることは非難される行為だろうと思う。

 方法を問わず、生み出した生命に対し、生み出した側は、最後まで……少なくとも、独り立ちできるまでは責任を取るべきだ……とは思う。

 

 放置された、素体。

 素体という名の、生命。

 生命、だったもの。

 

 

 前世において、息子が2人、娘が2人……4人がそれぞれ結婚し、孫が生まれた。

 私は、幸運で、幸福だったのだろう。

 失われた命は、1人の孫だけだった。

 

 もし生きていれば、その人生でどれだけの人と出会えただろう。

 好きな相手と出会えただろうか?

 結婚は出来たか。

 子供は出来たか。

 私がそうだったように、ひとりの人間は、無限の未来へとつながる可能性を持っている。

 

 その可能性を踏みにじった光景が……目の前にある。

 

 私は決して聖人ではなく、俗人だ。

 殴られたら、倍にして殴り返したくなるぐらいに野蛮人だ。(ただし、妻と娘と孫は除く)

 

 自分が正義だなどと主張するつもりはないが、今、私が感じている怒りを、誰にも否定させたくはない。

 

 

 私は、彼らに、念仏を唱えた。

 彼らは、それを不本意と思うだろうか。

 それとも、不本意と思える程の生も与えられなかっただろうか。

 

 傲慢にも、私は生まれ変わって生きている。

 自分のことを第一に考えるエゴイスト。

 その私ですら、彼らの次の生を願う。

 

 死は、いつだって理不尽だが……理不尽にも限度があるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーちゃん、この子拾ったんだけど、飼ってもいーい?」

 

 ……束さん、猫の子じゃないんですから。

 というか、むしろ私が居候なんですけど。

 

「というか、この子、ほっとくと死んじゃうから、ナノマシン飲料、まとめてどばー!」

 

 

 あの束さんをして、ナノマシン大量投与の力押しで生命維持に努めるしかなかったのだから、仮に発見したのが私なら、間に合わずに死んでいただろう。

 

 

 

 

「あの時は……溺れ死ぬかと思いました」

「ごめんね、くーちゃん。この天才束さんをもってしても、くーちゃんを健康体にできなくて……」

 

 ショボンとする束さんに、クロエさんが首を振って否定した。

 

「束様にできないのであれば、世界の誰にも不可能かと思います」

 

 クロエさんは、遺伝子強化兵だか、クローン体だかの失敗作、らしい。

 束さんの手によって色々と処置がなされたが、味覚をはじめとした、一部の機能に障害を抱えた状態だ。

 それゆえに、彼女には束さんからISが渡され、生命維持の役割を担わせている。

 

 こうして、一度関わってしまったからには何とかしてやりたいと思うのが人情ではあるが、ある程度万能な束さんと違って、私は、医療・生体学の方は専門外だ。

 もちろん、空を目指すといっても、それだけでは困る事があるから……ある程度、広く浅く、学んではいる。

 

 学んではいるんだが。

 

「お父様、紅茶をどうぞ」

 

 なぜかクロエさんが、私を『お父様』と呼ぶ。

 

 一言二言会話を交わし。

 気が付いたらそう呼ばれていた。

 

 

『おお、ふーちゃんがお父様ってことは、束さんはお母様かな?なんか照れちゃうね!でも、いいよ、くーちゃん!バッチこいさぁ!ほら、束お母さんだよぉ!』

 

『……束様、と呼ばせていただきます』

 

『あるぇぇぇ!?』

 

 

 というやりとりが、クロエさんと束さんの間であったが、謎だ。

 中身はともかく、外見上は間違いなく束さんの方が年上で、クロエさんと私なら……まあ、同年代みたいなものだろう。

 年齢は、体格で決定されるものではない。

 それに、歳を取ると、子供は子供だというカテゴリーで考えてしまいがちになる。

 

 正直、末の孫娘よりも幼く見える(外見)彼女に、そう呼ばれるのは、少しこそばゆい。

 

 ふと、思う。

 前世においてあと半年、長生きすればひ孫が抱けたんだったな、と。

 

 それらを全て投げ捨てて、ただ空を願いながら死んだ。

 

 それなのにこうして、孫を慈しむように彼女たちを見ている自分がいる。

 われながら、業が深い生き物だ。

 

 

 

 

 本来なら、私が中学校に入学する年。

 束さんと私の生活に、クロエさんが加わって、3人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、ふーちゃん」

 

 どうしました?

 

「あらためて聞くけど、ふーちゃんは、ISをどう思う?」

 

 ふうむ。

 高性能。

 汎用性。

 そして、世界の現状。

 

 高性能のパソコンですかね。

 

「……その心は?」

 

 世界は、高性能のパソコンで、ゲームソフトだけを遊んでます。

 

「ぶはっ!」

 

 束さんが吹いた。

 かなりツボにはまったようだ。

 

 ISそのものについてならほかにいくらでも言いようがあるのだけれど。

 ISが、世界でどのように扱われているかを思うと……私としては、この表現が一番しっくりくる。

 

 宇宙を目指して……といいつつ、ISはいわゆる船外活動のためのユニットだ。

 宇宙での活動を安全に行うための、防御に重点をおいたパワードスーツ。

 シールドエネルギーに絶対防御。

 あれは、人の命を守るためのものだ。

 

 地球なら、災害救助もできる。

 緊急輸送。

 要人警護。

 

 例を挙げればキリがない。

 

 

 白騎士事件。

 あれが、ISを武器と認識させた。

 そして、世界は……認識しすぎた。

 

 コアの数を制限して、緊張状態の平和……停戦状態を生み出す。

 

 つきあいが長くなるにつれて、それが束さんの本来の狙いだったかどうかについては疑問を感じるようになってきた。

 あの時、彼女が言ったように……いろいろ考えてはいたのだろう。

 

 私がそうと思ったのは、副産物に過ぎなかったのかもしれない。

 

 

 

 束さんの目指す宇宙(そら)は……。

 

 

 ……束さん。

 

「なーに?」

 

 宇宙、行ってみませんか?

 

 束さんは、何も言わず……私を見ていた。

 

 IS単独での宇宙活動はさすがに厳しい。

 やはり、宇宙における拠点が必要となる。

 

 ああ、そうか……束さんひとりでは、意味がないのか。

 

 私は、大きく息を吐いた。

 

「……ふーちゃん」

 

 はい。

 

「ありがとねー……というか!ふーちゃんはどうなの?空バカふーちゃんの進捗は?」

 

 頭をかく。

 出力の問題と、安全対策に難が……。

 

 あと、センサー類ですね。

 これは、ISを参考にして、なんとか目処が立ちそうですが。

 

「いやあ、ふーちゃんから、コンセプトを聞いたときは、馬鹿なのかなって思ったけど。束さんを『逸脱する』という点ではすごいよね」

 

 鳥の視点と、蟻の視点ですよ。

 束さんの言う、『凡人』も捨てたもんじゃないんです。

 

 ひとりひとりが、それぞれ違う。

 価値観が違う。

 生き方が違う。

 強みと弱み。

 目の付け所が違う。

 努力の仕方が違う。

 

 1000人の『凡人』から、1000人の意見が出てくる。

 

『天才』が気に止めない部分を、カバーするのは、『凡人』だと私は思っています。

 

 

 

 私の言葉を、彼女は黙って聞いていた。

 

 やがて、口を開く。

 

「ふーちゃん、それってさ、何を作ってるの?なんか、空には関係なさそうだけど」

 

 ああ、気分転換というか、なんというか。

 

 前世の孫のことを思い出して、とは言わない。

 

 いわゆるローラースケートに、モーターをつけて。

 左右の同調をどうするかが重要。

 

 たしか、ロー〇ーヒーロー……だったか?

 

「……あのさ、束さんが思うに、それ、タ〇コプターと同じぐらい危険だと思うんだ」

 

 ああ、あれは……首が折れますよね、反動で。

 補助ローターをつければ……うーん。

 

 

 

 さて、出力を抑え気味に……稼働テストを。

 

「いや、ふーちゃん。本気でそれ、危ないよ?ダッシュしたその場で、ダイナミック大車輪で後頭部を痛打する未来しか見えないから」

 

 ははは、そこは緩やかにトルクを高めていく方式で……あ、これ、モーターだった。

 手元で出力調整が必要……最高速度15キロぐらいに抑えるか。

 

 

 

 

 ガー。

 ジョギング程度の速度。

 出発時と止まるときにバランスを取る必要があるが、うん、まあ、なんというか。

 ちょっと早い、動く通路って感じ。

 

 あと、膝から下が疲れる。

 

「ふーちゃん。それ、楽しい?」

 

 あんまり。

 

「お父様、束様。ISの装備として考えたらどうでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キュイーン!

 

 甲高い音を置き去りにして、クロエさんが滑るように地面をカッ飛んでいく。

 わりと楽しそう。

 

 そして、束さんがゲラゲラ笑っていた。

 

「空中機動が売りのISで、地面を滑走って!バカだ!バカだけど、面白いよ、ふーちゃん!」

 

 こ、これが天才にはない、『凡人』の視点だから。(震え声)

 

「いやあ、束さんにはできない発想だよ。楽しいねえ!」

 

 はて……どうも、本気で楽しんでるようだが。

 

 良くも悪くも、束さんの思考は、効率重視というか、無駄なものは必要ないって切り捨てるところがある。

 だから、こういうのはかえって新鮮なんだろうか。

 

 

 そして、クロエさんが……最高速の状態で、何かに躓きでもしたのか、いきなり宙に舞った。

 

「く、くーちゃーんっ!」

 

 束さんが叫ぶ。

 

 心から、クロエさんを心配している、声。

 悪くない。

 

 ……別にクロエさんを心配していないわけではない。

 彼女はISを展開している。

 それが答えだ。

 

 

「……失敗してしまいました」

 

 そう言いつつ、クロエさんは笑っていた。

 うん、遊びというのはそういうものだろう。

 

「くーちゃん、怪我はない?平気?大丈夫?」

「……束様のISが守ってくれましたから」

 

 クロエさん、何か障害物でもあったかな?

 

「いえ、お父様……滑走中に左右のローラを逆回転させたら、超スピンへと移行できると思ったのですが、慣性を忘れてました」

 

 クロエさんも、わりとお茶目だ。

 

 失敗作と、どこか自分を卑下していた彼女が……少し明るくなったように思う。

 私は、それを見守っていこうと思っている。

 

 

 

 

 束さんとクロエさん、そして私の3人の生活。

 平和に、時は流れていく。

 

「ああもうっ!あいつら、しつこいんだから!ふーちゃん、くーちゃん、あいつらを追っ払ってから、お引越しするよ!」

「自衛権の行使、ですね」

 

 

 平和に、時は流れている。(強弁)

 

 

 私の空は、まだ遠い。

 

  




あんまり細かく設定詰めてなかったけど。
おじーちゃん:(1918~2000)享年82歳ってかんじで。(ガバガバです)
例の、国産旅客機が空を飛ぶのを見ずにお亡くなりになりました。

あと、ナノマシン飲料どばーは、ご都合主義という優しい世界。(懇願)







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