泣いたうさぎさん。   作:高任斎

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まあ、息抜きのお話……というか、本当は必要ない回だけど、感想を読んで千冬さんの反応を書きたくなったの。

なので、物語としてはちょっと冗漫かもしれません。


幕間2:ドイツの空に笑う。

 束さんには、友達がいる。

 

 通称、ちーちゃん。

 その弟が、いっくん。

 

 クロエさんが、くーちゃんで、私がふーちゃん。

 ちなみに、箒は、箒ちゃん。

 たぶん、ほーきちゃんではないと思う。

 

 

 ……友達の数が増えると、呼び名に混乱しそうだ。

 

 私としては、もう少し交友関係が増えたらいいように思うが……彼女の立場を考えると、難しいところなのだろう。

 むしろ、ちゃんと友達がいることを、喜ぶべきか。

 

 

 孫娘が友達のことを楽しそうに話すのを聞くのは、祖父としての喜びだ。

 ただそれだけで、孫娘の未来が明るく開けているような気持ちになれる。

 

 

 そして私は、束さんの言う『ちーちゃん』の正体を知った。

 

 

 控え目に言って有名人。

 うん、有名人、有名人だから。

 

 束さんが、彼女のプライベート映像(音声付き)やら、写真やらを大量に取り出すのは、何の問題もない。

 だって、『ちーちゃん』は『織斑千冬』で、有名人なんだもの。

 問題は……ないはずだ。(震え声)

 

 

 束さん、ちょっとそこに座って、私の言うことに正直に答えてくれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 会話の流れで、箒のプライベートが、大量に提出された。

 

 ああ、そうか。

 箒ももう、中学生か。

 子供が大きくなるのは早いなあ。

 

 そうか、剣道部に入部したのか……この世界のレベルが、どのあたりにあるのか分からないが、彼女ならきっと良い成績を残せるだろう。

 いや、要人保護プログラムの存在があったか。

 偽名を用いて、全国の学校を転々とする立場を強いられているんだ、状況が許さない限り好成績を残すことはおろか、出場も認められない可能性がある。

 

 箒の映像を、写真を見て思う。

 

 色々と制限を受けて、窮屈な思いをしてないだろうか。

 転校の繰り返しにもめげず、周囲とコミュニケーションはとれているのか。

 あの時は、それを知らずに、無神経な発言をしてしまったなあ。

 

 子供が、周囲の大人の顔色をうかがうのは普通にある。

 良くも悪くも、『手のかからない子供であること』を心がけたのか。

 子供はわがままを言いながら成長していくものだ。

 わがままを言う相手がいないのは、不幸なことだろう。

 

 うん。

 うん。

 

 次から次へと、箒の映像を、映像、を……。

 

 慌てて目をそらした。 

 

 

 

 束さん……あ、姉としての愛が少し、行き過ぎてないだろうか?(震え声)

 

「そんなことないよ!束さんは、箒ちゃんが大好きだからね!そして束さんは、お姉さんだから!愛は与えるものであって、そこに制限をかけるなんておかしなことじゃないかなぁ?」

 

 ……一理ある。

 孫のためなら、世界だって敵に回すのが、祖父という生き物だ。

 

「それに、束さんがふーちゃんと出会えたのは、箒ちゃんへの愛のおかげだよ!やましいところなんてないし、むしろ誇らしいと言えるね、えへん!」

 

 そうだな。

 愛は与え、恋は乞うという。

 相手に要求するのではなく、自然に与え、そして与えられるものを受け取る。

 それは、家族の愛としては、ごく自然なものか。

 

「お父様、流されています。というか、話の論点がずれてます。問題は、千冬様のプライベートではなかったかと」

 

 クロエさんの囁きに、私は正気を取り戻す。

 うん。

 家族愛はいい。

 姉妹愛もいいだろう。

 

 しかし、この……『ちーちゃん』の隠し撮りは……隠し撮りで……その、本人には無許可だよね?

 

「当たり前だよ!許可を取ったら、ちーちゃんの素顔が拝めないもん。ちーちゃんが、ちーちゃんである瞬間、それこそが束さんの求める、ちーちゃんの……」

 

 

 あ、クロエさん。

 千冬さんに郵送する菓子折りの手配を。

 

「わかりました、お父様……挨拶状、ですか?文面はどうしましょうか?」

 

 そうだな、ごくさりげなく。

 

 いつもお世話になっていること。

 離れてはいても、いつも『ちーちゃん』のことを気にかけているとか、そんな感じで。

 

「……わかりました」

 

 小さく頷き、クロエさんはちらりと束さんに目をやった。

 

「そのようにしておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるぇぇぇ?なんで!?なんでぇ!?」

 

 どうしたの、束さん?

 

「ちーちゃんが!ちーちゃんが、ふーちゃんを!お礼って何さ!?」

 

 ……はて?

 

 首をかしげる私の前に、クロエさんが現れて言った。

 

「あ、ついうっかりして、千冬様への菓子折りを束様とお父様の連名にしてしまいました。ええ、つい、うっかり」

 

 てへぺろー、とクロエさん。

 無表情でそれはやめなさい。

 

「うわぁ!ちーちゃんには、ふーちゃんのこと内緒にしてたのに!」

「束様、『それ』が、親友の間でも隠しておきたいことがあるということでございます」

 

 ぐっと、言葉に詰まる束さん。

 そして、クロエさんが、私を見た。

 

「勝ちました、お父様」

 

 あ、はい。

 

 親はなくても子が育つことを実感した。

 しかも、わりとたくましく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第2回モンド・グロッソ。

 

 まあ、早い話がIS競技の世界大会……とはいえ、参加国は限られる。

 そもそも、ISコアの数が限られているから、それは仕方ない。

 

 ISを、国防のための軍事力として見ている国が……まあ、そこは言っても仕方のないことか。

 というか、国家代表選手の女性が、みんなそろって見目麗しいというあたり、本当の意味で実力勝負なのかどうか、私としては疑問が残る。

 おそらくは、『男性』に世界の現状を受け入れさせる政策の一つなのだろう。

 しかし、女尊男卑をうたいながら、『男性』を意識せざるを得ないのは、皮肉なことだとも言える。

 以前の社会と同じように、女性がコンパニオン役を強いられているのだから。

 

 

「まあ、ちーちゃんが勝つけどね」

 

 こともなげに束さん。

 

「そもそも、ISコアは、ちーちゃんに合わせて作ったものだから、適性がぶっちぎってるからね。そしてちーちゃんは、束さんが認める天才だし」

 

 ……もしかして、白騎士って、『ちーちゃん』が正体……?

 

「そうだよ」

 

 

 

 

 あれは、何年前の事件だったか……。

 そして、『ちーちゃん』は束さんの同級生で……。

 

 が、学生さんに、何をさせてるんですか……。(震え声)

 

「……いまさら、ふーちゃんがそれを言うかなあ」

 

 束さんが、クロエさんを見る。

 あ、確かに。

 

 既に私も、首までどっぷりだった。

 とはいえ、私はあまり荒事では役に立たないが。

 

 

 しかし、『ちーちゃん』が優勝候補なら、家族周辺の警護は大変だろうな。

 

 そうつぶやくと、束さんと、クロエさんが、私を見た。

 

 あれ?

 そんなおかしなことか?

 

 この大会、国の威信がかかった大会なんだ。

 

『ちーちゃん』に勝って優勝したい勢力。

『ちーちゃん』に連続優勝させたくない勢力。

『ちーちゃん』の所属する日本に勝たせたくない勢力。

 

 指を折りながら。

 次々に挙げていく。

 

 もちろん、国も一枚岩ではない。

 足の引っ張り合いもあるし、それは国に限った事でもない。

 これだけのイベントなら、企業間の争いも熾烈だろう。

 ISの登場で国際情勢並びに社会情勢が変化した以上、今はまだ変化が続いている時期で反動もある。

 

 スポンサー。

 IS企業。

 逆恨み。

 嫉妬。

 宗教。

 

 

 気づけば、束さんの顔が青くなっていた。

 

「まずい、いっくん、ドイツだ……『招待』されたから連れて行くって、ちーちゃんが言ってた……」

 

 日本はもちろん、スポンサーや、開催国のドイツも、馬鹿じゃないから『ちーちゃん』周辺は、全力護衛体制をしいてるだろう。

 経済戦争の利益やメンツは、国を超えるしね。

 

 前世のオリンピックや、スポーツの逸話を思い出しながら言う。

 

 自分の国の選手が負けそうになったから、会場の電源を飛ばしたなんてのもあったし、一晩中ずっといたずら電話で体調を崩すなんてのも常套手段。

 数ヶ月前から用意して、親戚に借金背負わせて脅迫とか、家族を人質に取って脅迫とか。

 選手とスタッフの食事は全部持ち込みで……そうそう、報道では『日本食が恋しいから』なんて理由をつけるけど、本当は何をされるかわからないからなのに。

 

 ……このあたりは基本、だよね?

 

「ドイツに行って、いっくんを守らなきゃ」

 

 あれ、クロエさんがいい例で、この世界の闇は深くて……。

 闇は深いのに、優しい世界なの?

 

「箒ちゃんのために、いっくんを守る!」

 

 詳しく。(迫真)

 

「いっくんはね、箒ちゃんの想い人なんだよ!」

 

 守らなきゃ。(ガタッ)

 

 (ほうき)の幸せを踏みにじろうとする奴は、許さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主に、束さんの暗躍と、クロエさんの活躍で、箒の幸せは守られた。

 私としては、満足する結果だ。

 

 複数の実行犯グループの中に、男性の復権を狙うテロリストがいた事に、かなり狡猾な計画の匂いを感じた。

 

 まあいい。

 終わったことだ。

 臭いものには蓋というわけではないが、すべてを明らかにするのは少々不穏すぎるのがわかってしまう。

 というか、明らかにすると、おそらくは黒幕が利益を得てしまう。

 それは避けたい。

 

 開催国のドイツの顔を潰すのもアレだ。

 日本としては、ドイツに恩を売っておくほうが利益になるだろう。

 

 1回大会に続いて2回大会も制覇した『ちーちゃん』は、現役を引退するらしい。

 残された唯一の家族である『いっくん』が標的にされたことと、関係者からの『壁が高すぎるので、後進に道を譲ってどうぞ(意訳)』という意向が働いたそうだ。

 

 というか。

 生身で、IS用の武器を振るって、ISに対抗できる時点で、人間をやめている気がしないでもない。

 

 ああ、束さんの知性は、あのレベルにあるのか、と。

 納得できる気がした。

 

 そのあと、吹っ飛ばされて、『空』を感じた。

 人は、翼ではなく、『打撃』でも空を飛ぶことができるのだ。

 

 生きているって素晴らしい。

 

 

 

「すまんっ、てっきり奴らの仲間かと……」

 

 顔を上げてください、お嬢さん。

 

 あの場面の、鬼気迫る様子とは違って、ことが終わったあとに目にした『ちーちゃん』は、可愛らしいお嬢さんだった。

 

 両親は既になく、弟と2人きりの家族。

 年長として、心休まることなどなかったろうに。

 若さゆえの気負いのようなものが抜ければ、また周囲の目も変わってくるだろう。

 

 頭を下げっぱなしの彼女に向かって、語りかけた。

 

 力というのは、それを振るうもの次第。

 不幸な事故があったからといって、恐れることも、忌避することも必要ありませんよ。

 お嬢さんはまだ若い。

 それを理解し、納得できるまで、多少の時間がかかるのは仕方のないことです。

 

 お嬢さんの弟の身代わりになることを選んだのは私自身です。

 それに伴う事象は、全て私自身の責任に負うものですよ。

 

 手を伸ばし、彼女に触れる。

 

 私は、あなたを、束さんの友達である『ちーちゃん』を怖いとは感じません。

 道を歩けばつまずくことも、転ぶこともあります。

 当然怪我をすることも。

 

 怪我をするのが嫌だと、道を歩かないわけにはいかないでしょう?

 同じことですよ。

 そんなことよりも、お会いしたら是非言いたいことがあったんです。

 

 どこか怪訝そうな表情で、お嬢さんが私を見た。

 

 束さんの友達でいてくれてありがとうございます。

 少し誤解されやすいところがありますが、お嬢さんは束さんの良いところを理解してくれたんですね。

 

 

「……束、どこからさらってきた?」

「さ、さらうなんて、人聞きの悪いこと言わないでよ、ちーちゃん!」

「まさか、洗脳か?」

「あ、そういうこと言っちゃう?そういうこと言っちゃうんだ、ちーちゃんは!」

 

 

 ……うん。

 

 束さんには、ああやって仲良く喧嘩できる相手がいた。

 束さんの才能は、彼女自身を孤立させる諸刃の剣であっただろうから。

 

 その幸運に感謝せざるを得ない。

 

 そして、おそらくは千冬さんも。

 

 束さんには千冬さんが、千冬さんには束さんが。

 箒といっくん……一夏くんもそうか。

 

 この世に神というものがいるのなら、その采配に深くうなずけるものがある。

 少しばかり、世界の闇が深いかもしれないが……それゆえに、眩しい光もまた存在するのだろう。

 

 

 

 

「お父様、ここは危険ですので……」

 

 クロエさんが、ISを展開して、私をベッドごと持ち上げる。

 仲良く喧嘩を続ける、ふたりの姿が遠ざかっていく。

 

 

 ちーちゃんこと、織斑千冬。 

 

 世界最強の称号とブリュンヒルデの名が、彼女の将来(けっこんあいて)に暗い影を落とさないことを、私は祈る。

 

 




ブリュンヒルデ:「情報を聞き出そうと手加減しててよかった……」

おじーちゃん、地道に死にかける。(汗)
なお、ちーちゃんの攻撃(手加減)に、微かながら反応は出来た模様。

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