シスターは嗤う   作:猫毛布

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原罪

それは個性という超常能力が発現し始めて少し後、誰にでも能力が備わる少し前の……個性が未だにありふれた物じゃなく日常に溶け込む前の話。

 

 

個性というブラックボックスを紐解こうとした研究者が居た。

秘匿され、いつの間にか人類へと反映されてしまった個性に脅威を抱いた。だからこそ研究者はその実態を知りたかった。

始まりはそんな知的好奇心と探究心、僅かばかりの人への貢献。

 

1人であった研究者は異端と言っても差し支えなかった。1つの異端は世界にとって何ら意味もない一つでしかない。

人が出来る範囲であったならば、単なる異端でしかない。

 

けれど、その異端者は増えてしまった。増えるのはある種の必然でもあった。

人間の抱く果てなき恐怖心。自身の知る日常からの逸脱。そして不可思議に挑む探究心。

 

その研究が表向きは国に認められる事になる。

病気では無かろうか? そういった不安を取り除く。他人に対する貢献などこの程度でよかった。

本題は別にある。

超常現象の解明。優れた知能を有した異端者達にとって大切な事はそれだけであった。

現実に起こりうる現象を紐解き、原因を解明した。

けれど、それは超常現象が起きる過程と結果にしか過ぎない。

 

異端者達の求めた結果ではない。

必要な物が足りなかった。研究サンプルが圧倒的に足りなかった。理論をいくら予測計算しても足りない。

狂おしいほどに求める答えなどではない。それら以外など必要ではない。

求める為の知能だけで充分であった。

法的拘束も、個人の倫理観も、必要ではない。

 

 

 

異教徒達の前には沢山の子供が居た。

怯えて泣く子供が居た。

震えて辺りを見回す子供がいた。

何が起こったか解らず呆然とする子供がいた。

 

それは子供などではない。

それはサンプルでしかない。

 

研究はサンプルのお陰で波に乗った。

順風満帆とは言わずとも、着実に一歩一歩を踏みしめ始めた。

研究過程で幾つかのサンプルを失う事もあったけれど、改めて補充の出来るサンプルを失った所で研究の足は止まらない。

狂気の渦が止まることなどありはしない。

 

 

それが現れるまでは。

 

 

 

異教徒達にとって研究所はまさに城であった。

侵入者を許さず、侵入しても排除し、近頃台頭してきたヒーローという存在にも対応できる強固な城であった。

 

けれどそれはあっさりと異教徒達の前に現れた。

漆黒を纏い、土煙と火薬臭さを漂わせた、異端者達にとっての悪魔。

 

「よォ、クソ野郎共。盛大に歓迎のクラッカーありがとよ。俺の誕生日ほど豪華じゃねぇがな」

 

研究者立ちとは真逆の存在。引き締まった肉体をした破壊者。

 

「ま、待て!私たちは人類の為に――」

「おぉおぉ、テメェらの御高説はどうでもいい。俺にはそんな事知ったこっちゃねぇ」

 

鼻で笑い飛ばす男の後にはサンプル……子供たちがいる。怯えた瞳で研究者達を見つめ、男の衣服を握ってる。

 

「そいつらが……個性が野放しになればッガ」

「どうでもいいっつってんだろ」

 

男に弾き飛ばされた硬貨が喋っていた研究者に命中し、音を立てて床に落ちた。

怒りの形相を研究者達に向けながら、後ろにいる子供たちには悟られない淡々とした声が響く。

 

「ガキが助けてって言ってんだ。そんだけで他の理由なんざ知ったこっちゃねぇ。大層な理由で助けられねぇならクソみてぇな理由なんざ俺が踏み砕いてやる」

「なんだ……なんだお前は……」

「見て分かるだろ? 俺はこいつらの救世主でテメェらの敵だ」

 

牙を剥き、獰猛な嗤いを浮かべて拳を握る。

この悪魔のような男によって、自分たちの研究は終わってしまう。それだけは理解した。

 

「わかった……投降、と言っても君が止まらないことも理解した……が一つだけ聞いてもいいだろうか?」

「あん?」

 

どうしても理解できない事があった。

追い求めてきた答えよりも、ただ純粋な疑問が研究者達の脳を支配した。

1人の研究者は男の足下から頭頂までに視線を上下させ、意を決して口を開く。

 

「……なぜ修道女の格好を?」

「こいつらを助ける理由と一緒だ。

 

 

俺が好きなんだよ」

 

修道女の格好をした筋骨隆々の男は口を歪ませて笑った。

 

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