インフィニット・エグソス   作:キヅナ

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青い鳥は幸運を運ぶとは限らない

 

 -とある無人島-

 

 「準備は良い?」

 暗いカタパルトデッキに立つ一人の青年に通信で声をかける篠ノ之束。

 「いつでも行ける」

 それに短く応える青年、森岡竣。

 その後竣は、一瞬淡い青色の光る粒子に包まれる。少しして光る粒子が消えると、全身が青い空と暗い宇宙の境界線のような色のフルスキンのパワードスーツを纏っていた。踵、腰、前腕、肩にある特殊遠隔兵装ユニット『オービット』と、背中には独立して浮遊する巨大な四つの支援ウィングユニット『ミルヒシュトラーゼ』が特徴的だ。

 システムを起動させ装甲にある幾何学模様にライトシアン色の光が走り、ツインアイに強い光が灯る。ミルヒシュトラーゼを四方に展開し、体を浮かせる。特別な推進剤に火が点るが、それでも尚爆音が轟かず清音のみがカタパルトデッキに響く。

 発進シークエンスに入り様々な色が灯る。これから世界をかき回すために。

 束は、峻が傷つくことは絶対にあり得ないと思い信じていても、心配になってしまう彼女の心は止められない。それを直接言葉では表わさず、ただ「いってらっしゃい」と短く、そして矛盾だらけでも峻への想いを籠めてその一言に注いだ。

 「...行ってくる」

 峻もまた短く、そしてその一言にすべてを籠めたかのように返答し、飛び立った。

 

 

 

 

 -ハワイ島近海-

 

 アメリカが開発した第三世代の新型ISを世界に知らしめるために試験も兼ねデモンストレーションを取り行うため、このハワイ近海で世界的に有名な企業や各国家機関の重要人物を招いている。

 第三世代新型IS「ナイトホーク」。名前の通り夜戦に特化し強力なステルス性能を有している。そのため本機のカラーもほぼ黒一色だ。特殊遠隔補助ユニット「ホークアイ」も有する。ホークアイはナイトホークの索敵距離、サイト距離を延長する補助ユニットだ。そして本機とナイトホークには簡易的なジャミング機能があり相手のハイパーセンサーに耐性を持つ。

 航空母艦ジェラルドの甲板にテストパイロット、アンナ・ミュラーがナイトホークを纏い現れた。

 艦長のコリンズがナイトホークにインカム越しに指示を出す。

 「わかっていると思うが、今回は我々軍の指揮下でテストを行う。こちらの指示には従うように」

 「ホント...わかってる事を口にしないでくれるかしら」

 「...貴様、上官に向かって...」

 「別に私はあなたの部下でもなんでもないの。ただ今回たまたまあなたの管轄する部隊にお邪魔してテストするだけ。わかったらただの男がわたしに気安く指図しないでくれるかしら」

 コリンズは堪忍袋の緒が切れかかるが、このブリッジにはギャラリーがいるため寸でのところで押しとどまる。様子が変わったコリンズを見てゲスト達は怪訝な顔でコリンズを見るが、誤魔化すためにわざとらしく咳払いを大きく一回する。

 アンナは通信を一方的に切った後、本機の稼働域や火器管制などの点検を開始する。今回はナイトホークのスポンサーであるアシッドドミニカは遠く離れたところで傍観をするのみで、テストの進行は全て軍に任せているという異例なことだ。

 すべての点検が完了し、ブリッジからの指示を待つアンナ。

 「システムオールグリーン。発信準備完了。艦長いつでも行けます」

 オペレーターから準備完了の合図があり、コリンズは後ろにいるゲストに相槌をうちオペレーターに命令する。

 「始めろ」

 「了解。ナイトホーク、発進どうぞ」

 カタパルトが動き出し、ナイトホークは大空へと羽ばたく。

 「よし、フェイズ1を開始しろ」

 「フェイズ1開始します」

 フェイズ1は機動力のテストだ。あらかじめ障害物の設置は完了しており、そこをいかに早く無傷で通り抜けることができるかをテストする。

 従来の第三世代ISよりかは最大速度は劣るナイトホークだが戦闘機並みの速度で飛翔する。

 バイタルに異常はなく、障害物をなんなく避けながら最大速度を極力保ちフェイズ1を終了する。

 フェイズ2に移行する。次は火器管制のテストだ。

 ジェラルドから信管を抜いたミサイルが発射される。一定の高度に達したミサイルを撃ち落とすのが今回の目標だ。

 ナイトホークはバススロットからレーザースナイパーライフルを出しスコープを覗き目標を捉える。呼吸を整え目標高度に到達したその瞬間にトリガーを引く。ライフルの銃口からレーザーが勢いよく飛び出す。そのままレーザーは一直線に目標目掛けミサイルを貫いた。 

 次は先程と同じ高度に達するまでに十発の目標を撃ち貫くテストだ。

 ミサイルが同時にジェラルドから発射され、ナイトホークは続けて目標を撃ちにいく。目標を外すことも掠りもさせず全て目標高度に到達する前にど真ん中を撃ち貫き無事にフェイズ2を終了する。

 ブリッジにいるゲストはおぉ!と声を小さく上げ拍手をする。コリンズはそれを見て気に入らないかのように鼻で笑う。現役軍人であり今まで国のために尽くしてきた彼はISという突然湧いて出たような兵器が気に入らなかった。何よりISのお陰で社会は女尊男卑と成り果て、ISしか動かすことのできない女がでしゃばるようになってからはとくに嫌悪の対象となった。

 「フェイズ3へ移行しろ!」

 大人げないとわかっていてもつい部下であるオペレーターに少し怒鳴るような八つ当たりをしてしまう。オペレーターの男性もコリンズの気持ちもわからなくもないが、怒気を放つコリンズの言葉にオドオドしながらもナイトホークに指示を出す。

 アンナはめんどうとか早く終わらないかななどと思いながらフェイズ3へ移行した。

 彼女は華々しい目的も栄光ある国のためになどと言うような目的でIS操縦者になったわけではない。ただ目立ちたい、有名になりたいなどISをブランド品のように思っているだけ。

 だからこそコリンズは初めての彼女を見たときから嫌悪していた。そもそも軍人とスポーツマンとでは考え方が違うのは当然だが、戦艦に小洒落たドレスを身に纏って来るのは異常だ。遊びに来てる訳じゃないんだぞ!と怒鳴るとアンナはISを右手に部分展開してコリンズを脅した。

 「力もない男が上から目線ですか?この艦の艦長だからって調子に乗らないことね。さもないと...女の子にしちゃいますよ?おじさん」

 アンナはドスの効いた声でコリンズの股間に向け握りこぶしを力強く作った。ISを解除し控え室へと歩いて向かった。

 コリンズは自分の中から恐怖心が湧いてくる感情を否定したかったが、今の社会では銃よりも遥かに恐ろしい絶対兵器を目の前にしたため無理だった。数人いた部下の前で情けなく体を震わせてしまった自分が恥ずかしい。数人の部下も同じような体験をすればコリンズ以上に恐怖心を抱くかもしれないと思った。恐怖で体を震わせる程度で終わったコリンズを部下は改めて尊敬した。

 フェイズ3は三次元戦闘を想定したもので周囲にある目標を素早く射ぬくタイムアタック制のものだ。

 ナイトホークの全方位に目標を出現させる。ライフルを一度バススロットに戻す。

 「始めてください」 

 オペレーターから始まりの合図が出たと同時にバススロットからライフルを再出現させ、現れた目標のど真ん中を射ぬく。後ろ、右、左、上。様々な所から目標を出現させるが、全て出現させてから数秒も経たず射ぬいていく。

 余裕があるのかアクロバティックな演出もみせて撃ち抜く。一定数を射ぬくと次は距離があるところにも目標が出現してきた。が、それもなんなく撃ち抜いた。

 ブリッジでは歓声が湧いていた。

 つまらない目的しか持たないのにも関わらずこの好成績をたたき出すアンナに対しコリンズは余計に苛立たしさをおぼえた。

 また一定数を射ぬくと次は味方がいることを想定したものに変わり、撃ってはいけない目標が出現してきた。撃墜スピードは弱冠下がったものの、これもまた呆気なくど真ん中を撃ち抜いていく。

 規定数の目標を撃墜したところでフェイズ3の終了が告げられた。

 「素晴らしい!機動性も申し分ないが、あのスナイパーライフルは特に良い!従来のスナイパーライフルでは出来なかった連射が可能になり、取り回しが利きやすく最小限の大きさに仕上がっている!」

 有名企業の一人がナイトホークを褒め称えると、連鎖して次々と賛否両論がコリンズの後ろで飛び交う。

 聞くに耐えなくなったコリンズはわざとらしく大きく咳払いをし、ゲストにそれとなく注意する。

 コリンズはようやっと最終フェイズに移行できることに胸を撫で下ろす気分だった。ようやっとこの馬鹿げた試験も終わると。

 「ではこれより最終フェイズへ...」

 「っ!?待ってください!」

 突然見張り役の船員が声を上げた。

 「どうした?」

 「何かがこちらに近づいてきます。」

 「何?!レーダー!!」

 「...こちらには反応はありません」

 「ECMかっ!?映像はだせるか?」

 「了解!...映像きます!」

 モニターに写し出された映像に誰もが注目した。

 

 

 

 

 -とある海域-

 

 「もう一度確認するよ」

 束が通信でもう一度今回の目標を提示する。

 「今回はアメリカが開発した新型ISの撃墜、そしてこれにより世界に私達の存在をアピールし牽制することが今回の目的だよ」

 ISの撃墜なのでパイロットとコアには一切傷を着けないことが条件になっている。

 本来ISは宇宙空間の活動を想定したマルチフォーム・スーツであるが、その性能ゆえに宇宙開発に使われることなく開発者篠ノ之束の意図しない方向で事が進み、兵器へと転用した。が、想像以上に驚異的な性能だったがために兵器としての運用を禁止し、アラスカ条約が締結された。今ではただのスポーツとして落ち着いてしまっている。

 世界へコアを譲渡する際、大気圏内での活動しかしないとのことで悪用防止のため467機全てのコアに束しか解除出来ないリミッターが掛けられている。

 そんなISにも大きな欠点がある。それは女性にしか動かせないことだ。これは束でさえもわからないことであり、ISコアは完全なるブラックボックスになっている。

 束は彼女が意図しない使用になってしまったISをこれ以上作ることを拒絶している。そのためもっとISが欲しい世界は血眼になりながらも彼女を探している。

 だが彼女にも欠点がある。それは、特定の人物以外の他人に興味が全くないことだ。その為、たとえ世界の誰かが束を見つけてもIS開発の協力は100%見込めない。

 「撃墜したあとコアの回収は?」

 「お願い...でもやむを得ない場合は完全に破壊して、跡形も無いように」

 「わかった...」

 「それと少し離れた艦からいくつかアンノウンが確認できたからこれも可能なら残骸を回収して」

 「あぁ」

 束が機体に最新データを転送し峻はそれを確認する。

 「...気をつけて」

 「了解した。もうすぐ作戦領域だ。作戦通りに進めるぞ」

 「うん...復讐を始めよう。そして、夢を叶えよう、峻君」

 「あぁ。アルファ、ボイスチェンジャーオン」

 内部に搭載している二機のAIの内戦闘システムを管理しているアルファに指示を出す。ISは本来女性にしか扱えないにも関わらず、峻は男性でありながら使えていることに人々は驚くだろう。そして良からぬことを企むだろうと懸念している結果、外見ではフルスキンなので誤魔化せるが、さすがに声までは騙せないのでボイスチェンジャーで声を誤魔化す。

 

 

 

 

 -試験領域-

 

 モニターに映し出されたのは淡い青色のISだった。

 コリンズは世界に登録されているISは全てではないが大体を把握している。が、モニターに映し出されている青いISは見たこともない。そして何よりこのISは従来のISと違いフォルムが機械らしくなく、より人間に近づいたように美しく、まさに青い天使だと錯覚してしまうかのようなISだった。

 「こちらに攻撃する意思はない、そちらに接近させていただきますが攻撃しないようお願いします」 

 警戒を厳にし、不審な動きを見せたらすぐに攻撃出来るようにナイトホークに指示を出す。その返答は当然返ってこなかった。

 青い天使はナイトホークとジェラルドの間に静かに停止する。そう、まさに静かだった。まるで天使が自身の翼で空中に浮遊するかのように。その翼から出ている青色の粒子も相まって美しさが際立って見える。

 コリンズはその美しさについ見とれてしまっていた。が、すぐに正気に戻りオープンチャネルで謎のISに呼び掛ける。

 「正体不明機に告ぐ、この空域は現在新型ISの試験テストのため侵入は厳禁としている。このまま離れれば注意喚起のみに...」

 「それよりも、先にこちらをご覧ください」

 突然正体不明機の女性からモニターで返答があり、また映像が切り替わる。

 「ハロ~、こんにちは凡人ども~。わたしは世界で有名な天才にして天災科学者の篠ノ之束だよ~。ブイブイ!!」

 そこにはふざけているかのような口調でアリス服を身に纏い、そして一番目立つ機械仕掛けのウサミミを頭に装着している束が映し出されていた。

 この場にいる全ての人間が驚いている。これまで世界が血眼に捜しても見つからなかった人物が今目の前にいるのだから。

 「ちなみにこれは録画なので当然逆探知も返答もできないよ~。それといたるところにハッキングして世界に強制的に放送しちゃってるんでよろしく~」

 すでに逆探知の作業に入っていたクルーが諦め、手を止めている。

 「まずは、頑張って私を捜しているみなさんにお疲れ様と言わせてもらいます。お疲れ様でした~、残念でした~」

 いちいち癇に障る言い方をする束に当事者達は歯をかみしめる。

 「今回は何故このような行動に出たのか。それは、相も変わらず人類の進化を試みない凡人どもに嫌気がさしたからです。私が折角丹精込めて作ったISを兵器に転用するとか、たかだかスポーツの一つとして組み込んでくれちゃってさ。もう我慢できないよ。なので今回私たちは私が蒔いてしまった種を選別することにしました。」

 選別という言葉に皆が疑問を抱いた。

 「選別というのは簡単。本来の使用はもちろんのこと、人類のためになる使用用途、もしくはおまけとしてスポーツにのみ使われているIS以外を排除するということです」

 映像の中の束はこれまでの人を小馬鹿にしているような表情を変え、真剣な表情になる。  

 「この映像を観ているであろう悪人に告げます。私は...私たちは非人道的な行為を断じて許しません!今の時点ですでにいくつかの施設や機関、企業に見当は絞れています。それでもまだ続けるようなら私の新機体、ISを遥かに超えた力、IE...インフィニット・エグソスが鉄槌を下します!!」

 この場にいる者は目の前にいるIEに目を向ける。篠ノ之博士が作ったISを超えた存在、IEに興味を向ける。だが下手に手を出せば容赦のない攻撃が来ることは明白だった。

 「そして私たちは同時に宇宙を目指します。」

 その言葉に全世界が驚愕した。宇宙への進出はまだ先になる予定であるのに対し、篠ノ之博士は単独で宇宙を目指すというのだ。本来なら人類が総動員しても宇宙への進出は数十年以上かかることは必須。なので普通なら無理だと公言するが、稀代の天才ならやりかねない。それも十年もかからずに。

 「これを邪魔する者は等しく排除対象となります。」

 

 

 

 録画の終了時間が迫っている。

 映像の中の束はまた笑顔に戻り言葉を続ける。

 「それじゃぁなにも邪魔が入らないことを祈ってるよ~。さよなら~」

 映像が終わり再びIEの映像に戻る。

 「では改めて、私がIEことインフィニット・エグソス。個体名『アズール』。以後お見知りおきを」

 空中で慣れないご令嬢の挨拶を演出する峻。本人には多少気恥ずかしさが残る。が、この場の人間はアズールの美麗な造形に未だに心を奪われているのでぎこちない動作に見向きもしない。

 それでも疑問に残っていることがあるコリンズは恐る恐るアズールに問いかける。

 「話はわかった。が、では何故貴女はこの場に現れた?我々の情報ではこの場にいる者は貴女達が提示した内容に引っかかる人物はいないはずだ。」

 言い終えた後、もう一度周囲を見渡すかのように全員に目配せををする。当然全員首を横に振る。

 すると突然ナイトホークのバイタルが大きく変動する。

 峻は少し距離のあるところにいるナイトホークに顔を向ける。

 「どうしました?薬が切れたように痙攣し始めましたけど?」

 峻は意地悪な笑みを浮かべる。その表情は当然他人には認識できないが声音がその様子をなんなく思い浮かばせる。

 「ナイトホーク...貴様、まさか!?」

 コリンズ自身もおかしいとは思っていた。アシッドドミニカなどという企業スポンサーは聞いたこともない上にテスト指揮は全て軍が執り行うことに。だが正規の手続きで軍に申請しない限りこのようなテストはできないので、コリンズは疑問を払拭してしまった。

 「そのまさかよ。束が調べた限りだとアシッドドミニカという企業は存在しないただのフェイク。本当はどこのどなたなのかしら?あの束でも全てを調べ上げられなかった組織...気になるわね」

 「だが何のメリットがあってこのようなことを?」

 「さぁね?おそらくは内戦を誘発させることが目的なのかもね。同じ国籍であるISを保有する架空の企業とISのないアメリカ軍。女尊男卑の社会に浮かれた女どもの過激な粛清。とかね」

 アラスカ条約を完全に無視したテロ行為にコリンズの全身から嫌な汗が流れ絶句する。

 

 

 

 コリンズからの通信を無視し映像を観ながらアンナは篠ノ之束が現れた瞬間から嫌な予感はしていた。だが何かは定かになっていないのでなんとか冷静を装う。

 少し離れた艦、アンナの所属する艦から女性の声で通信が入る。 

 「アンナ、聞こえる?」

 「えぇ...」

 「今はまだ様子を観なさい。予想外な展開だけど、作戦は予定通り軍艦を沈めること。あの正体不明機は相手にしなくてもいいわ。邪魔ならついでに潰せば心配ないのだし...とにかく今は様子を見なさい」

 「わかったわ...」

 いざとなったらこちらにも戦力があるんだからと言って一度通信を切る。

 この世界に男なんて要らない。この場にいる架空企業アシッドドミニカは男性優位社会を訴える集団だ。束が開発したISを利用し世界に武力をもって抗議することを目的に今回の作戦を敢行した。

 映像の中の束が自分たちの目的を公言した時、アンナ達は図星を突かれ動揺する。

 「私達の正体に気づいているのか!?」

 「さすがは篠ノ之束というところね...どうする?」

 「...こうなったら強行手段よ」

 通信越しの声は震えていた。それは恐怖か怒りか...。

 アンナはその言葉を聞き糸が切れた人形のようにうなだれ体を震わせた。ISを使い軍を壊滅させ女が上に立つ社会を作るための第一歩がこんな簡単に崩れてしまう。でもここでこいつらを殺せば問題なく、ただ少しのイレギュラーがあっただけで計画が進められる。そう考えていたがアンナは目の前にいるアズールに勝てる気がしなかった。

 ISを遥かに越えた力IE...その篠ノ之束の言葉もあるが何より、アズールから伝わる圧倒的な強者の気迫が伝わってくる。勝てない...だが。

 「まさかあの天災がこんな風に現れるとは思わなかったわ」

 低く震えた声が響き渡る。

 「まぁ...どうせいつかは潰す人間なんだし、早いか遅いかの問題でしょ?」

 アンナがライフルを構えなおす。

 「死んじゃいなよ...」

 

 

 

 

 冷たい殺気を放ちながらナイトホークは出力を最大にしたライフルのトリガーを引いた。レーザーは迷いなく一直線にアズールに向かう...だが。

 「アトモスフィア展開」

 短く峻は音声入力でアルファに指示を出す。するとアズールの周囲に薄い膜が生まれた。レーザーはその膜にぶつかるとはじけ飛んだ。

 「何!?」

 アトモスフィアは地球の大気圏の原理を参考に束が考案したもので、高圧縮したエネルギー膜を何層にも重ねて周囲を覆う防御兵装だ。ISのシールドや絶対防御のように常時展開型ではないがその効果は絶大だ。

 「原理は教えれないよ?私も束の考えることはわからないからね」

 「ふざけるなぁーーーー!!」

 最大威力のライフルが通じなかったことにアンナは錯乱しレーザーを乱射する。当然その行為は全て無意味に終わる。

 「あんた達さえ来なければ!こんなーーー!!」

 「私も早く帰りたいからさっさと終わらせるわよ」

 拡張領域から両手に銃を兼ね備えたビームトンファーガン「シュテルン」を装備し銃口をナイトホークに向ける。

 「そんなもの当たるかっ!」

 だがそれはアンナが想像していた貧弱なものではなかった。シュテルンから放たれたのはビームだ。だがただのビームではなく荷電粒子を収束し圧縮したものを一気に解放した強力なビーム砲だった。

 驚愕したアンナはそれになんなく当たりシールドなど紙のようにたやすく貫いた。あまりの衝撃にアンナは気を失い落下していく。気絶する直前に悔しさとともにアズールを罵倒する。

 離れていた艦からミサイルが撃ちだされ、同時にアンノウンが出現した。アンノウンは怪物の姿で翼を生やしたまさに魔物と呼ぶにふさわしい姿をしていた。

 「なんだあれ?」

 さすがの峻でも驚きが隠せない。束に詳細を要求する。

 「ISと似た反応があるから、おそらくISの無人化を独自に研究して、失敗したなれの果てだと思う」

 まっあれが凡人の限界ってところかな♪とさりげなく嘲笑い破壊しても大丈夫だと告げる。

 束が短い間に取得したアンノウンのデータにシールドのような類いはないことを知り、アズールは背中にあるニ対の小さな翼とミルヒシュトラーゼを広げ、光の翼を展開しシュテルンからビームブレードを起動し束になったアンノウンを一体ずつ切り抜けていく。

 この光景を見ていたコリンズ達はあっけにとられていた。

 「我々は聖戦でも見ているのか?」

 まさに青い天使が異形の悪魔を屠っているかのような絵画を見ているようだった。

 アズールは美しく鮮烈に舞い、一切無駄のない動きでミサイルと悪魔を撃墜していった。篠ノ之博士の技術力もさることながらアズールの操縦者も化けものだった。もしかするとアズールの操縦者はブリュンヒルデ織斑千冬なのかと思ったコリンズだが、今はまだ分からない。噂では彼女は日本のIS学園で教鞭を振るっていると聞いているが、まだ憶測でしかないため今はこの光景を見ることしかできない。

 その間にも束は相手の情報を探っているが情報操作が巧妙で天災の彼女でも足取りがつかめない。そんな状況に苛立つが探りの手を止めない...止められない...峻のためにも。

 アズールはあらかた片付いた敵から一度離れオービットとミルヒシュトラーゼを展開する。

 「終わりだ!」

 オービットとミルヒシュトラーゼ、シュテルンからビームが一斉に放たれた。ニ対の翼は姿勢制御のために光の翼を大きく展開し、オービットは目標の周囲を、ミルヒシュトラーゼは翼部を展開し偏光射撃を用いて、シュテルンは収束ビーム砲で全てをアンノウンと艦に命中させ撃墜した。

 本来ならあり得ない神業といえることをなんなくやってのけた。

 特殊兵装の稼働制御とBT偏光射撃を同時にしかも正確に行うのは並大抵の集中力じゃ叶わない業だ。

 その光景を見ていたコリンズ達は美しいと思うのと同時に恐ろしさを感じた。

 峻は海に落ちたアンノウンの残骸の一部とホークアイのコアを回収し、束にパイロットの身柄をどうするかの指示を仰ぐ。束は少し考えた。拷問でもなんでもして口を割らせればいいが、そんなことをすれば奴らと同じになってしまう。なので今回は身柄を軍に譲ることに決断した。それにもし預かって有益な情報が手に入ったとしても、自分たちの拠点を知られるのはまずい。そのことを峻に伝え、彼は即座に行動にうつした。

 気絶したアンナと敵艦にいた数名のクルーをジェラルドの甲板に放り投げ、他に用はないので即座に踵を返す。が、アズールは振り返り通信でジェラルドにこう告げた。「勘違いしないでほしいのだけど、私たちは正義の味方でも慈善事業をしているのでもないわ。ただ私たちは自分たちの犯した過ちを自分たちで払拭しているにすぎないの。だから貴方達が彼女たちと同じようなことをするのなら殲滅するのみよ。...覚えておいて」と...。

 そのままアズールは垂直に急上昇し、天高く飛び立った。

 そして、この事件を記録した映像は全世界に流れることになり、後に人々はこの出来事を『青の天罰』と呼ぶようになり世界を震撼させた。

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