帝都メインストリート。帝都の中でも人通りが最も多い場所での名店、甘えん坊にて
店先の椅子に座りアイスを舌先で舐める女性が居た。
女性は足まで伸ばした長い蒼い髪。十字の紋章をトレードマークとした軍服を着こなしている。
帝国最強と噂されるエスデスは単独で帝都の見回りに赴いていた。
アイスを味わいながら、屋根の上から自身を覗いているレオーネに対して殺気を剥き出し威圧するエスデス。
「……ん?」
周囲を見渡すエスデスが見付けたのは、可愛らしい犬のような生命体を連れた帝都警備隊の少年、タツミだった。
タツミは周囲を見渡しながらも表情はどこか虚ろであり、どことも知らない街中に強い殺気を撒き散らしている。
放って置いてもいいのだが、何となくタツミのことが気になったエスデスはタツミに声を掛けることにした。
「おいお前、そこの警備隊のお前だ、こっちに来い」
呼び止められたタツミはエスデスに振り返ると身を震わせ敬礼し、アイスを舐めるエスデスに近づいてきた。
座っているエスデスに少し距離を置き立つタツミの顔色は青く、顔中に汗をかいている。
屋根の上のレオーネは驚く。見たことがある少年だったからだ。
「小官に何かご用でしょうか」
エスデスに対して緊張し、喉をカラカラにした硬直気味なタツミに対してエスデスは表情を和らげる。
将軍相手にするなら正しい反応だろう。タツミの仕草はエスデスにとって初々しさを感じさせられるものだった。
「そう肩肘を張るな。その犬のような生き物は帝具だろう。もうすぐ私の部下になる存在を先に間近で見ておきたくてな」
エスデスは座りながら頭から足先まで無遠慮にタツミの全身を眺め観察する。
よく鍛えている。タツミが濃密な実戦を積み重ねているということがエスデスにはよく分かった。
帝具使いとしては悪くない腕前、しかしエスデスがタツミに対して気になったのはタツミの抑え切れていない殺気と濁った瞳だった。
「先に貴官の名前を教えてもらおうか」
「タツミ、と申します」
名前を問うエスデスに対して、タツミがエスデスに緊張したまま名を明かす。
屋根の上のレオーネは一度戦ったあの少年があのタツミか、と納得した。
帝具を持っているし間違いない。レオーネは二人の会話を見届けることにした。
「タツミ、か。良い名だ」
アイスを舌先で吟味し転がしながら、タツミという名前を頭の中でエスデスは反芻した。
肩肘を張るなと言われたのにも関わらず、敬礼したままのタツミに対してエスデスが本題を口にする。
「私の部下になるにも関わらず、直に死ぬことになりそうなのが残念なくらいにな」
愕然とした表情になるタツミに対して、エスデスは容赦なく言葉を続けていく。
エスデスは自分の部下には厳しいが、しかしその言葉は今のタツミの本質をついたものだった。
今のタツミが戦場に出れば、間違いなく遠くないうちに死ぬことはエスデスから見て明らかだった。
「私は今まで数々の兵士を見てきた。将軍だから当然だな」
喉に溜まった唾を、タツミはゴクリと飲み込む。タツミを見据えるエスデスの表情は、氷を思わせる冷たさだった。
「お前のように復讐に囚われた人間も、多く目にしてきたさ……それ自体は悪いことではない、自然な感情だ。
お前が今まで数々の修羅場を潜り抜けた強い帝具使いであることも分かる」
自分を賞賛するエスデスの言葉に対して、タツミは疑問を抱く。
強いと言われているにも関わらずどうして自分がすぐに死ぬと宣言されているのか、タツミには分からなかった。
エスデスがその疑問を顔に出したタツミに対して、答えを口にする。
「それでも自分のメンタルを、殺意をコントロールできていない人間は、帝具使い以前に兵士として失格だ」
兵士として失格。その言葉にショックを受けるタツミ。
しかしタツミはエスデスのその宣言にどこか納得していた。
そもそも殺気をコントロールできない人間が、本職の殺し屋相手に勝てる訳がない。
無言でエスデスに頷くタツミに対して、厳しい表情のエスデスも表情を緩める。
「見たところお前は兵隊になって日が浅いのだろうな。誰に恨みがあるのかは知らんが、その憎しみはいざ戦うときまで取っておけ」
「了解しました!」
エスデスに敬礼しながらも、タツミは自分の振る舞いを反省する。
ナイトレイドへの憎しみは今でも強い。しかしそれで冷静さを欠いては本末転倒。
勝てる戦いも勝てなくなる。熱いだけでは生き残れない……その事実をタツミはエスデスとの会話で学んだ。
(いくら憎んだところで、セリューが戻ってくる訳でもないからな)
エスデスの言葉を飲み込んだタツミに対して、エスデスはアイスを食べ終えて言った。
「過ちに気付いたようだな。タツミ、お前は弱者ではない。今のお前ならばすぐに死ぬことはないだろう」
「戒告有難うございます!」
エスデスに対して敬礼したタツミは、表情を綻ばせて久しぶりに心からの笑みを浮かべた。
別世界で散々女性を誑してきた年上を殺す、純粋無垢な笑顔。
ドキッ、という音がエスデスの心中に鳴り響く。恋におちる音だ。
恋愛相手を探していたエスデスにとって、そのタツミの笑顔はあまりにも強すぎた。
タツミが将軍級の器であることはエスデスから見て分かっている。条件は、整いすぎていた。
「ふむ、それはそうとタツミ……私のものになるつもりはないか?」
「はい?」
疑問符を浮かべるタツミの首に、かちゃりと音がする。
いつの間にかタツミの首にはエスデスが取り出した拘束具、首輪が嵌められていた。
エスデスの前に立つタツミと、エスデスを屋根の上から観察するレオーネの表情が固まる。
「ちょ、エスデス将軍、何を!」
「どうせ私の部下になるんだ、問題はなかろう。ゆっくり私の部屋で話すとしよう。二人きりでな」
店に御代を払い、タツミを引き摺って自分の部屋に連れて行くエスデス。
エスデスの暴挙に戸惑いながらも上官相手に拒否することができないタツミ。
「なんつー破天荒な女だ」
エスデスを尾行するレオーネは、屋根の上から呆然とその様子を見守るのだった。
再会はしましたので、セーフということに……