ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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三獣士を斬る

 雪が吹きすさぶ中、小さな山村に備蓄米を届けている帝国では数少ない良識派の官僚。

米を運ぶ護衛の兵士に飢餓に苦しんでいた山村の住民は笑顔を浮かべる。

 

「ナイス良識派」

「これで民も元気が出るだろう」

 

 遠く離れた木の上から彼らを見守るのは、ラバックとアカメだ。

食糧難は人が生きる上での一番の問題、それを考え態々山村に出向くような官僚は今の帝国にはそう多くない。

帝国の政策そのものを改善することが困難な以上、焼け石に水だとしてもその行いは無駄ではない。

彼のような人間こそが新たな国には必要だ。気を引き締めて守り抜く必要があるな、とラバックとアカメが覚悟を決める。

 

「見ていたら私もお腹がすいてきた」

 

 アカメの腹からくう、と可愛らしい音が鳴る。

ラバックは周囲に張り巡らせてある糸の結界に注意を向けつつも、お腹がへった様子のアカメを見つめる。

アカメはラバックの視線に気付いて、首を傾げて疑問を投げかけた。

 

「ラバックもお腹がすいたのか?」

「肉食系女子のアカメちゃんじゃないんだから違ぇよ……」

 

 間違った使い方だが、ラバックにとってアカメは肉食系という言葉がぴったりに思えた。

なんせ村一つ滅ぼす獰猛な危険種を狩って丸焼きにして食べる野生児なのだ、それ以外の表現方法はないだろう。

ラバックがこほん、と咳払いをしてアカメを見つめていた理由を話す。

 

「いや、アカメちゃんとペア組んで任務するのは久しぶりだと思ってさ」

「ラバックは最近マインとばかり組んでいたからな」

 

 ラバックとマイン。一見後衛同士に見える組み合わせは、ラバックが近接戦闘を十分に行えるようになったからこそできる組み合わせだ。

それまではラバックはアカメと、マインはシェーレと組んで暗殺を行うことが多かった。

器用万能なラバックの存在が、僅かだがナイトレイドの人間関係を変化させていた。

 

「戦術の幅が広がった、とボスは喜んでいたな」

「ナジェンダさんが喜んでくれるなら、俺としては何より嬉しいぜ!」

 

 ナジェンダ一筋のラバックにとっては、確かにとても喜ばしいことだ。

自身の存在が組織の潤滑油として働いた、という事実に顔を綻ばせるラバック。

 

「マインと色々あったようだが、ラバックは相変わらず一途だな」

 

 アカメはそんなラバックを、優しく見つめる。

普段は女好きで、風呂を覗いたりセクハラしたりと軽い印象が目立つラバック。

しかし本命はあくまでもナジェンダ一筋だと、他のメンバーはよく分かっていた。

アカメの表情にポリポリと頬をかくラバック、優しくラバックを見つめ続けるアカメ。

穏やかな二人の時間は、クローステールの糸が反応したことによって崩れ去った。

 

「アカメちゃん、糸が反応してる!」

 

 すうっとラバックとアカメの顔付きが殺し屋としてのものに変化する。

この気持ちの切り替えは殺しのプロとして重要だ。

気を引き締めたアカメは、鋭くラバックに問いかけた。

 

「敵で間違いないか?」

「ああ、敵は三人。南から周囲を探りながら林を掻き分け村に近づいてる。間違いないぜ!」

 

 護衛任務は達成されなければならない。二人は静かに頷くと、同時に後方へ駆け出した。

ナイトレイドを騙る偽者、三獣士。彼らは竜船に乗り込まず、ラバックとアカメが護衛する官僚を殺害目標とした。

 

 先行し木陰に潜んで極限まで気配を殺したアカメ。

どこからともなく笛の音が聞こえてくる。その笛の音を聞いたアカメは、急速に自分の気力が抜け落ちていくのを感じた。

アカメは自身の左手にガブリと噛み付いた。歯が肉を抉り、強制的に意識を覚醒させる。

しかしアカメから僅かに殺気が漏れ出した、襲撃者にとってはそれで十分だった。

 

 アカメの元に飛来してくるのは斧の帝具、ベルヴァークの片割れ。

木陰に隠れていたアカメはその場から咄嗟に後方へ大きく跳躍すると、投擲された斧がアカメの隠れていた木を切り裂く。

轟音と共に木が倒れ、後に残ったのは綺麗な切り株。

もし一歩でも遅れていたら、アカメの身体は真っ二つになっていただろう。

斧は木を切り倒した勢いのまま後方に着地したアカメに向かって旋回し、再び向かってくる。

 

「追尾能力がある帝具か」

 

 アカメは腰を切り裂こうとするベルヴァークに対して、その場で大きく身を屈めて回避した。

斧の様子を冷静に観察する。木を切り裂いたことで、僅かながら斧は勢いを落としていた。

どうやら追尾能力はあっても、動力は投擲した本人に依存しているようで

無限に標的を追い続けることができる訳ではないらしい。

ならばとアカメは木々を巻き込むような形で斧から逃げる。木は切り倒されていくが、斧は着実に勢いを緩めていく。

やがてベルヴァークは木に突き刺さって運動を停止した。

 

 息を吐くアカメの耳に、再び笛の演奏が響き渡る。この笛の演奏に支援効果があるのは明らかだった。

自分達の存在は敵にばれている。しかしこのままでは消耗するだけだと感じたアカメは

後方に待機しているラバックを意識しつつジグザグに走りながら敵の方角に駆け出す。

果たしてアカメの目に見えてきたのは、三人の敵……リヴァ、ダイダラ、ニャウの三獣士だった。

 

 突き進んでくるアカメに対して、リヴァが水の球体を放つ。周囲は雪が降り積もっており、ブラックマリンを操る水分は十分にあった。

アカメは回避しながらも、ベルヴァークを構えるダイダラに向かって突き進む。笛を吹いて支援しているニャウは下がっており

永遠に追尾してくる斧の帝具がこの状況では一番厄介であると真っ先に判断したためであった。

それに対してダイダラはニヤリと笑う。これが三獣士の必勝形態であるためだ。

 

「アカメ……こいつは大物だ。経験値の塊だぜ!」

 

 ニャウの帝具、スクリームが二回目に吹いた音色は、本来の用途である士気高揚のもの。

味方の能力を大幅に上げるそれは、アカメを待ち受けるダイダラの能力を底上げしていた。

さらにベルヴァークの特性上、ダイダラは向かってくる敵を待ちうけ倒すことにかけては自信があった。

自分に向かって一直線に進んでくるアカメ、斧を構えるダイダラ。

この時、ダイダラは見誤っていた。一つは、アカメの思考。もう一つはラバックの存在。

必勝形態だと思う心の隙、相手を経験値としか見ていない慢心がダイダラの視野を狭める。

 

 アカメはその心の隙をつくのが誰よりも上手かった。

ダイダラに向かったアカメは地面に置いてあったラバックの糸を踏み、斧を振り下ろすダイダラの目前で垂直に飛び上がった。

本来人が跳躍するためには膝を僅かながら曲げる必要がある。

しかしラバックがアカメの踏んだ瞬間糸に力を篭めることによってアカメは膝を曲げるという

ワンアクションも起こさずにバネのように跳躍することに成功した。

ダイダラからはまるで目の前でアカメの姿が消えたかのように見え、必勝形態を破られたことで思考が一瞬固まる。

 

「葬る」

 

 おちてきたアカメが村雨を抜刀、エネルギーを利用し垂直に振り下ろした刀はダイダラの身体を真っ二つに両断した。

怯む事もなくリヴァが再び水の球体をアカメに向けて放つ。しかしアカメの動きは素早く当たらない。

リヴァはアカメの進行方向を予測しているにも関わらず、アカメは変幻自在な動きでそれを回避する。

ある時は木陰に隠れ、ある時は木の枝を足場にする。横だけではなく縦も織り交ぜた立体的な機動。

木々の中を水を得た魚のように立ち回るアカメに対してリヴァとニャウが焦りを深める。

実はスクリームによった強化されたリヴァは、アカメよりも素の身体能力は高い。

元将軍であり、戦場に身をおくリヴァはブラートと同等の強者であることは間違いない。

しかしリヴァの攻撃は、アカメを捕らえることができないでいた。

 

「くっ……」

 

 呻くリヴァ。三獣士にとって一番不運なことがあったとすれば、それは場所だった。

野山で暗殺者として育てられたアカメにとって森林は庭のようなもの。

それに加えて森林地帯はラバックにとっても得意なフィールドだ。

地の利はアカメ達にあり強化はされているものの水が限られており、ブラックマリンの大技を自由に使えないリヴァ。

リヴァは長期戦は不利だと判断した。水分を周囲から集め、大技を放つ。

 

「―――水竜天征!」

 

 四方八方から襲い掛かる水の竜。左右に動いて回避するも流石に逃げ道を防がれたアカメは跳躍せざるを得ない。

幾らアカメが素早く動き回ろうと、逃げ場のない攻撃をされては回避のしようがない。

空中で身動きができないアカメに向かって、水竜の群れが左右から襲い掛かる。

アカメはそれを、何もない空中に張ってあったラバックの糸を踏んでギリギリで避けた。

ラバックの糸は何もない空中にも張ることができる。

リヴァからしてもそれは十分に予測できた事態だ。

空中に張り巡らされた糸を踏み台にするアカメに動じず水竜を向かわせる。地上とは違い、動きが制限されることは間違いない。

今度こそ逃げ場を塞いだとリヴァが確信した、その一瞬隙ができた。

 

 リヴァに向かって木陰から放たれるのは、ラバックの放ったクローステールでできた槍。

大技を維持するのには精神力が必要であり、リヴァの反応は僅かながら鈍っていた。

隙を見逃すラバックではない。直撃は避けたものの、リヴァの腕にクローステールの槍が突き刺さった。

身体の一部分にさえ食い込めば、それで十分だった。リヴァの心臓へとクローステールの糸は向かっていき心臓を砕く。

 

「エスデス様……」

 

 一番厄介なのはアカメではなく、糸を操る存在のほうだったと後悔するが最早遅い。

リヴァは忠誠を誓った主の顔を思い浮かべながら息絶えた。

 

「うわあああ!」

 

 一人残ったニャウはリヴァが殺され奥の手である身体強化、鬼人招来を使うも

リヴァでさえ捕らえ切れなかったアカメの動きを見きれるはずもなかった。

ラバックの糸を足場にし、空中さえも変幻自在に動くアカメ。それに加えてラバックがいつ襲ってくるかも分からない。

 

「葬る!」

 

 あっさり隙を見せたニャウは、アカメの横凪の刃によって胴体を切り裂かれその命を終えた。

周囲に敵がもう存在しないことを確認したアカメとラバックは、顔を見合わせやったな、と拳をあわせる。

 

「ラバの糸は頼りになった」

「本来俺は後方支援担当。こっちの方が専門なんだよな」

 

帝具を回収し、リヴァの亡骸の前に立ったラバックは少しだけリヴァについて考える。

 

「エスデス様……か。この男もきっと主を、エスデスのことを愛していたんだな」

 

 死ぬ寸前まで主のことを深く愛したリヴァの献身に、ナジェンダを敬愛する自分と少しだけ照らし合わせるラバック。

明日は我が身かもしれない、そんな複雑そうな表情をしたラバックに、アカメがそっと手を差し伸べた。

 

「護衛続行だ、無事に帰ろう。一緒にな」

 

アカメのその振る舞いに言葉足らずながらも、自分に対する心配を感じたラバック。

 

「ああ」

 

ラバックはアカメの手をそっと握ったのだった。

 

 エスデスの右腕である三獣士の死亡、これによりエスデスの力は大きく削がれることとなる。

殺し屋ナイトレイド、結成されるイェーガーズ。そしてブドー大将軍とタツミ。

 

戦いはまだ、始まったばかりに過ぎない。




場所が悪かった、三獣士の一番の敗因はそれでした
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