ある程度のご都合主義が入りますがご了承ください。
「……」
施術室で気を失う兵士の少年……タツミが居た。
レオーネとの戦闘で剣を握る利き腕である右腕を失ったタツミ。
利き腕を失うというのはタツミほどの剣士にとっては文字通り相当痛い。
本来ならこの負傷によってタツミの将軍になるという野望は途絶えるはずだった。
タツミの手術を施行するのは、エスデス将軍とドクタースタイリッシュ。
「アラマ、いい男じゃない。隊長が目を掛ける理由も分かるわ」
「私の恋の相手だ、慎重に扱えよ?」
本来良識派に属するタツミがオネスト腹心のエスデスの部下……スタイリッシュの治療を受ける手筈ではなかった。
斡旋した自分にも責任があるとエスデスがブドーを説得した、それだけだった。
ブドーは訝しみながらも監視によってタツミがこの国を憂う重要な人材なのは理解しつつあった。
止めはエスデスの、将軍になったタツミと殺し合いたいという滑稽無糖な発言だったことは明記しておく。
「アタシのスタイリッシュなパーフェクターなら、右腕の義肢を武器にすることができるわよ」
「いらんな。タツミにとって最も重要なのは義手が元の腕と同レベルに動くことだ」
タツミは手数の重要性を覚えたが、基本的には剣士であることは間違いない。
下手に重火器等を仕込んだところで、タツミ本人の機動力が低下しては大幅な戦力ダウンだ。
エスデスの注文に若干物足りなさそうなスタイリッシュに対して、エスデスが微笑を浮かべる。
「剣客が満足する出来の世界一本物に近い義手……私はこれのほうが兵器を仕込むよりも余程難しいと思うのだがな」
「アラ、相変わらず隊長ドS!とてもスタイリッシュじゃない!」
こんな注文ができるのはスタイリッシュぐらいだと励ますエスデスに対し、スタイリッシュが熱を上げる。
エスデスはそっと気絶しているタツミの頬に触れ、撫でる。エスデスはタツミを見下ろしながら不思議なものだな、と思う。
いずれ敵味方に分かれる運命だとしても、エスデスはタツミへの恋心が途絶えてはいない。
寧ろ頑固なタツミの意思を目の当たりにして、惚れ直したぐらいだ。
「私はお前を諦めていないぞ……タツミ。互いに殺しあって生きていれば、それはもう運命だ」
エスデスは、タツミが将軍になるという夢を笑わなかったしタツミならば実現させると信じていた。
エスデス自身がタツミと同じく辺境出身であることもある。
何より自身が恋する相手ならばそれぐらいはできるという根拠のない確信があった。
帝具同士が殺し合いをすれば必ずどちらかが死ぬ、等エスデスにとってはどうでも良い話だ。
寧ろその運命ごと蹂躙するのがエスデスという存在。もし手加減できず殺してしまっても、それはタツミがそれだけ成長しているということ。
どちらにせよエスデスにとっては美味しい話であることに変わりなかった。
「お前がライオネルを手に入れたことで、宮殿では今面白いことが起きている。目が覚めれば驚くだろうなタツミ」
そう、宮殿内は今波乱が巻き起こっていた。闘争を望むエスデスが、思わず舌なめずりをする程に……
「ああ、ストレスで益々太ってしまいます!」
オネスト大臣は巨大なハムを頬張りながら、宮中を闊歩する。
タツミがナイトレイドの一人を倒して帝具を回収した。それだけならオネストにとっても喜ばしいことだ。
しかしオネスト大臣は、自身のストレスを募らせていた。その理由は明白だ。
皇帝を守る事だけを考え宮殿に篭っていたブドー大将軍が動き出したからである。
適応する帝具が居ないライオネルは、ブドー直属の兵士が回収したにも関わらずオネストの手回しで回収される筈だった。
「それをあの将軍が……!」
それに待ったをかけ、ライオネルを回収したのは帝国でも数少ない良識派の将軍であるロクゴウ将軍だった。
彼はライオネルを目にした途端ピンと来るものを感じ、帝具を着用、見事適応するまでに至った。
そしてこれを好機と捉えたロクゴウは、何と将軍の身でありながらブドー大将軍の傘下に加わることを公表したのだ。
本来将軍が誰かの下に付く等考えられない事態、しかしブドー大将軍は受け入れた。
それが目下、大臣が頭を悩ませる原因だった。統率能力と武力に長けたブドーの元に、内政能力、政略能力が高い良識派のロクゴウ将軍が加わる。
その流れでブドーの庇護下に加わるのを躊躇っていたセイギ内政官等も、続々とブドーの元に集まりだした。
「不味いですね……」
帝国も一枚岩ではない。ブドーが立ち上がれば今の帝国に不満を持つ、隠れた良識派の政管も敵に回るだろう。
唯でさえ帝国は四方を敵である異民族に囲まれ、疲弊した状態であるのだ。
革命軍を殲滅したところで、その隙に内側から飲み込まれてしまっては意味がない。
ブドー大将軍の派閥にある帝具はアドラメレク、ライオネル、ヘカトンケイル。
たかが帝具三つ、されど帝具三つ。エスデスと互角と目されるブドー、将軍の身でありながら帝具を持つに至ったロクゴウ、将来将軍になるとエスデスに確信されているタツミ。
オネスト大臣にとってはいずれも馬鹿にできるものではなかった。
タツミは今なら刺客を送り簡単に始末することができる、しかし下手に手出しすることもできない。何故ならタツミがエスデスの思い人であるからだ。この状況でエスデスを刺激するのは好ましくなかった。
「争いを求め続けるエスデス将軍とは、利害が一致すると思っていたのですがねぇ……彼女の考えが裏目に出ましたか」
エスデスは今の状況に歓喜していた。異民族や革命軍を殲滅した後の大きな楽しみが増えることは間違いない。
イェーガーズのランのような、国を憂う優れた帝具使いも意思は示さずともブドーの傘下に加わる準備はできており隠れて動き出している。
タツミが本当に出世して将軍になってしまえば、帝具を持った大将軍1人、将軍2人、そして付き従う帝具使いと戦わねばならない。
ブドーの近衛兵がエスデスの部隊と同格な以上、激突しても無事で済む保証はない。オネストの政力が弱まり、保身のみを考える政管、下手すれば将軍がブドーについても不思議ではない。
宮中が大きく2つに割れようとしている現状に歯を食いしばるオネスト大臣。
万全と思われたオネスト大臣の天下には僅かながら罅が入り始めていた。
本作ではクロメの骸人形であるロクゴウ将軍が生存しています。
あまりオリジナルの人物を出したくなかったのでこういう流れになりました。
ナジェンダの同僚ということで、内政能力と政略、戦略に長けている設定の将軍です。