殺し屋、ナイトレイド達はレオーネを失った悲しみを各々に背負いながらも三獣士の帝具を本部に届け終わりチェルシーとスサノオを加えたナジェンダの命令で集まっていた。
時間は経ったものの仲間を失った悲しみもあってかメンバーの表情は暗い。しかし悩んでいる暇は無い。
帝国内部の情勢に大きな変化があったからだ。全員が集まりナジェンダが重々しい口を開く。
「改めて今の状況を整理しよう。ロクゴウ将軍がブドー大将軍の下に下ったのは知っているな?」
「確かブドーって、皇帝を守ることだけ考えてる政治に口を出さない頑固ジジイって話を聞いたんだけど?」
疑問に思いナジェンダに問いかけるのはマインだ。ナジェンダは静かに頷く。
つまりはブドーの考えを改めさせるほどの何かがあった、と考えるべきだろう。
恐らくブドーの考えはタツミの存在、そしてロクゴウ将軍の存在によって変化した。
「ブドーは良識派筆頭のように言われてはいるが、保守的で政治には口を出さなかった。
恐らくロクゴウ将軍が説得したと考えるべきだろうな」
ロクゴウ将軍はナジェンダの同僚で、良識派の将軍の一人。オネスト大臣に従うふりをしつつも国を変える機会を見計らっていた。
タツミという国を思い憚る帝具使いが現れ、ブドーの将兵となる。そして自身が帝具と適合したことで好機と見たのだろう。ブドーに進言し、その傘下に入ることに成功した。
だから皇帝を守ることのみ考えていたはずのブドー大将軍の下に、現在は良識派の政管が集っている。
事のからくりはこうだった。無茶苦茶な話だが、将軍であってもブドーの庇護下に入ってしまえばコウケイ武官によって無実の罪を着せられることはない。
ロクゴウ将軍の英断は正に今の帝国にとって会心の一手だった。
「よく分かりませんけど、これによって革命がしやすくなったんじゃないですか?」
問いかけるシェーレ。しかしナジェンダはそう簡単な話でもないと首を横に振る。
良識派がブドーの元に集まり出し、帝国内部が大きく2つに割れようとしている、一見それだけ見れば革命軍にとっては好機。
しかし揺れているのは帝国内部だけではなく、革命軍側もそうだった。革命軍は様々な方法で国を変えようと集まった同士。
一枚岩ではないどころか様々な人物が集まってできた集団だ。勿論元帝国の軍人も多い。
「少し先の話にはなるが、私達は安寧道の反乱や西の異民族との戦争に乗じて無血開城を繰り返し、帝国に攻め入る予定だった。だがそれがこの騒動によって難しくなった」
城の太守に内応を取り付けている最中に、この政治抗争が起きた。そのため太守達や革命軍の一部が希望を持ってしまった。
帝国を革命させずとも、ブドー大将軍とその一派が国の改革に成功するかもしれないという淡い希望、しかし無視できない意見。
帝都に進軍する際は、迅速に足並みを揃える必要がある。革命軍内で意見が分裂している今はその作戦を使うことは難しい。
「恐らく宮殿からブドーは出てこない。皇帝を守ることが奴の第一目標なのは変化していないだろう。戦場に出てくるとしたらロクゴウ将軍とタツミだ」
革命軍内ではロクゴウやタツミを殺すことに躊躇いを覚える者も多く、講和を結ぶべきと考える人物も居る。この2人を殺害するかどうかの意見は真っ二つとなっていた。
腐った国を憂う民衆の支持も得て、タツミは軍略や政略を学びながら猛烈な勢いで地位を上げている。最早彼が将軍になるという夢を鼻で笑う者はいない。
ブドーの元に良識派が集っている現状、下手にロクゴウやタツミといったブドー一派を殺すとどうなるか分かったものではない。革命に成功したところで国を憂う人材達が死亡しては何の意味もない。
天下泰平の時代をつくる、それがナイトレイドと革命軍の大望だ。
「レオーネの仇を討ちたい皆の気持ちは分かる。しかしタツミやロクゴウ将軍は、今死亡するべきではない……恐らくそれが上の考えとなるだろうな」
最終局面で帝都内に革命軍が攻め入った瞬間となるだろう。それまでタツミやロクゴウは標的となることはない。
ナジェンダの言葉に僅かに歯を食いしばったのは、レオーネの一番の親友であるアカメ。
しかしタツミもロクゴウも、今の帝国に珍しい善良な人物であることは間違いないのだ。
「辛いかもしれないが、可能ならば殺害は控えてくれ。むこうから襲ってきた場合のみ交戦することを許可する」
無言で頷く面々。戦争で、しかも帝具戦闘である以上、戦闘を行えばどちらかが死亡することは確実。
帝具使いが貴重である以上、無抵抗で殺されろとは流石に革命軍側も言わなかった。
暗い表情を浮かべるナイトレイドのメンバーを見て、ナジェンダは気持ちを切り替えるために手を叩いて切り替えを促す。
「さて。今回の私達の任務は、イェーガーズの殺害……最優先の標的はボルス、クロメ、スタイリッシュだ」
イェーガーズはエスデスが結成した秘密警察だがオネストの私兵であることには変わりない。
これからはお互い帝具戦……血を血で洗う抗争が始まる。
今現在イェーガーズは治安を守るために帝都付近の賊を狩っている。
「正面からエスデスを含む奴らとぶつかるのは得策ではない。だから分断する策を用意しておいた。私とアカメを別地点で発見させる」
「エスデスが居ない方を叩くって訳ね」
そうだ、とナジェンダは頷く。エスデスの性格上ナジェンダが目撃された方角に向かってくるだろう。
だからナイトレイド全員でアカメが目撃された方角に待ち伏せする。そうして分断したメンバーを叩く手筈だ。
強攻策に近いがそれだけ今の革命軍は不安定で、確かな戦果を求めていた。
「国や革命軍が不安定な今だからこそ、この8人でエスデスの戦力を削ぎ革命軍に勢いを与えなければならない!
私達の目標はあくまでも革命を成功させ確実にオネスト大臣の派閥を粛清すること、それを忘れるな!」
確かにブドー将軍によって改革に成功する可能性はある、しかしそれは確実な手段ではない。
宮殿に攻め入り汚職に塗れた政管、コウケイやサイキュウ等を確実に始末すること、それもナイトレイドの目的。
各々は静かにナジェンダの言葉に頷いた。ナジェンダはほんの少しだけ表情を緩めてメンバーに口にする。
「先ほどはああ言ったが、ロクゴウ将軍とタツミが襲ってきた場合は躊躇う必要は無い。最悪私が責任を取る」
レオーネを失ったのはタツミと戦闘を行っていると警告したレオーネに対して監視任務を続行させたナジェンダの責任でもある。
これ以上自分の判断ミスで部下を失うわけにはいかない。ナジェンダの言葉にはそんな信念があった。
ナイトレイドは仲間に甘い。それは美点でもあり欠点でもある。
「その時は俺も一緒にいきますよ、ナジェンダさん」
ナジェンダのことを一番に思いやるラバックは、気づいたらそう口に出していた。
最初は一目惚れだったが、ラバックはこのナジェンダの高潔さに惹かれたのだ。
惚れた女一人に責任を押し付ける訳にはいかなかった。
「俺もだ。俺は主の帝具だからな」
張り合うスサノオに、やっぱり一番のライバルだなスーさんは、と敵対視するラバック。
そんな二人を見て、顔を綻ばせるナジェンダやマイン、他のナイトレイドのメンバー。
僅かに漂う和やかな雰囲気に、厳しく言い放つ存在があった。
「やっぱり皆甘いんだから。悪いけど、私は革命軍の指示が無い限りタツミとロクゴウ将軍からは逃げる」
チェルシーが冷や水をかける。今まで数々の任務をこなしたチェルシーからしてみれば、任務遂行こそが再優先。
周囲の空気が凍りながらもチェルシーは冷酷だった。
「仲間の仇を取りたいのは分かるけど、そんなんじゃ命がいくつあってもたりないんじゃない?」
「だからって、レオーネが命を取られたことには変わりないわ!」
実はとても仲間思いであるマインが食ってかかるも、チェルシーは冷ややかだった。
冷静に状況を判断し、行動する。その考えはアカメとベクトルは違うものの一流の殺し屋としてのもの。
チェルシーは戦闘力は無いものの殺し屋としての腕前はアカメと同レベルであり、今のチェルシーには甘さはない。伊達に昔から生き残っていないのだ。
「それでも今タツミ達を殺すのは危険じゃない?最悪革命軍に私たち全員始末されて帝具没収されるよ」
帝国に絶望した民にとっての希望、それがブドー、ロクゴウ、タツミ。
だからこそ革命軍も真っ二つに割れている、その危険性をチェルシーは指摘した。
帝具同士の戦いになればどちらかの死亡は避けられない。だからこそチェルシーが指摘したのは逃走という手段だった。
「……そうだな。すまなかった。現時点ではタツミ達と出会ったら逃走を最優先に考えてくれ」
再び重々しい雰囲気がナイトレイド全員に漂う。ナジェンダは俯きながらもロクゴウの手腕に流石元同僚だな、と賞賛する。
オネスト大臣に叛意を翻し、ブドーの傘下に入りながらも民衆を煽り革命軍の動きに釘を刺す。
そしてナイトレイドの行動を間接的に制限する。ナイトレイド……ナジェンダが革命軍と繋がっていることを知った上での行動。
帝国内も革命軍も、新たに出現した第三勢力に踊らされていた。そしてお互い疲弊したところを狙うのだろうと分かっていつつも迂闊に手出しできない。
歯軋りしながらブドー一派の警戒レベルを最大限に引き上げ、ナジェンダは改めて指示を出す。
「任務開始だ、行くぞ!」
ナイトレイドとイェーガーズ、両者の激突は早期に訪れようとしていた。
オリジナルキャラが活躍しているみたいであんまり好きではないですが
ブドー一派はまだまだ勢力的には弱いので難しいですね。