ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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信念を斬る

 午前11時頃、帝国内宮殿のエスデスが拷問用として栽培している花が咲いた花壇。

そこに温和な顔立ちをしている美形の金髪の男の姿があった。

特殊警察に所属しているイェーガーズのランである。ランは何をすることもなく、花壇の前で立ち尽くしていた。

 

「ラン?」

 

 ぼんやりとしているランに後ろから近づき声を駆けるのは同じ部隊に所属しているクロメ。

クロメは最近ランの様子が何となくおかしいのではないか、と心配していた。

薬の副作用や任務によって、仲間がすぐに死亡する暗殺部隊に所属していたクロメだからこその洞察力。

どことなく今のランは、無理をしているようにクロメの瞳には映っていた。

 

「どうしました、クロメさん?」

 

 ランはクロメに振り返って、穏やかな笑顔を浮かべる。

その仕草と彼らしい柔和な表情だけを見ると、いつものランと変わらないようにクロメからは見える。

しかしやはり何となく、クロメはランが気になった。根拠があるという訳ではないのだが……。

 

「別に用って訳でもないけど……帝都周辺の賊も、私達の活躍でだいぶ減ってきたよね」

「そうですね、そろそろ足取りを掴ませていないナイトレイドの捜索を開始することになるでしょう」

「そっか」

 

 ポリポリとお菓子を食べながら、花壇を眺めるランの横に並ぶクロメ。

お姉ちゃん、アカメと会う日もそう遠くないかもしれない。そう感じたクロメは口角をあげた。

八房の人形にするのが楽しみだなあ、と脇道に思考を寄せながらも、クロメはランを見上げる。

不思議そうに見返してくるランに親しみを覚えつつもクロメは会話を続ける。

 

「エスデス隊長、花なんて好きなんだ」

「傷口に塗りこむと拷問に使えるから、らしいですね。クロメさんは花はお好きなのですか?」

「私は花より団子かな!」

 

そうですか、と頬を引き攣らせるランに対して可愛らしく頬を膨らませるクロメ。

 

「女子ぽくないって思った?これでも元いた仲間にはお姫様みたいって言われてたのになあ……」

「いいえ。クロメさんのことは、一緒に居て素敵な女性だと私は感じています」

「……なんかラン、女の子みんなにそう言ってそうだね」

 

 ジト目のクロメ。とんでもないと慌てるランに対してクロメが悪戯っ子のような笑みを見せる。

 

「やっと素の表情を見せてくれたね」

「クロメさん……これは一杯食わされましたね」

 

 苦笑いするランに対してクロメがランに近づく。隣り合って一緒に花を見る互いの肩がほんの少し触れた。

驚き自分を見るランに対してクロメは花を見下ろしつつ、慈しむ様に呟きランに言葉を紡ぐ。

 

「悩みがあるなら相談してね。私達は仲間なんだから」

「クロメさん……はい、分かりました」

 

 ランは自身に悩みがある、ということをクロメに隠さなかった。

クロメに対してランは意を決して悩みを打ち明けようかと思い口を開いた、そんな時だった。

エスデス隊長がクロメに向かって駆けてくる。そのエスデスの表情はどこか険しい。

 

「クロメ、お前が所属していた闇の部隊より召集が掛かった。拒否することができなかった、今すぐ向かってくれ」

 

 隊長の言葉に了解です、とクロメが敬礼する。

エスデスはランやクロメから見て、部下に優しい普段の表情と違ってとても苛立っているように感じた。

クロメはランに向かって残念そうな顔をした。

 

「残念だけど話の続きは帰ってきたらだね。バイバイラン」

「クロメさん……」

 

 エスデスと共に闇の部隊に向かうクロメの姿に、ランは思わず手を伸ばしていた。

この時ランは、心の中で葛藤していた。良識派のブドーが立ち上がり、国を内側から変えようとしている。

故郷のジョヨウの教え子達の惨殺事件を、帝国は闇に葬った。だからこそランは、帝国を許すことができない。

こんな腐った国は変えなければならない、ランはいまでもそう感じている。

最早自身が出世するよりもブドーにつく意思を明確にしたほうがいい、こんなチャンスは二度とないだろう。

しかしブドーの傘下に入ったら、クロメ達が所属するイェーガーズと敵対することになるかもしれない。

 

「私はどうすれば……」

 

 悩んでいるランに手を振りながら慌てて駆け寄ってくるのはウェイブだった。

ウェイブは興奮しておりランの前で荒い呼吸を隠さない。

ウェイブもクロメのことが心配なのだ、そう思ったランは益々葛藤を増していく。

 

「ラン、クロメが闇の部隊に戻るんだって!?」

「恐らく一時的に、というだけです。任務が済んだら戻ってくるかと」

 

 そうか、と息をついて安心するウェイブに対してランが詰め寄る。

普段部下に優しいエスデス将軍がとても苛立っていたということ、そして拒否できなかったという言い方をしたこと。

杞憂ならばいい、しかしランは自身の嫌な予感を振り払うことができないでいた。

 

「クロメさんとここで話をしていました。……ウェイブの軍に入った理由は立派ですよね」

 

 ランにとってウェイブの真っ直ぐな性根はとても心地良いものだった。

恩師の上官のために軍に報わなければならないという考えはシンプルで分かりやすい。

だからこそ今のランにとって、ウェイブの姿は眩しかった。

急に何言い出すんだ?と怪訝そうなウェイブは、しかし自慢気にランに語りかける。

 

「そうだな……自分で言うのも何だけど、信念ってやつかもしれねえな」

「信念……」

 

 ランは葛藤していた。自分の信念を取るのか、イェーガーズの仲間を取るのか。

どちらかを今ここで選択しなければならない。ランの予想が当たっていれば考える時間は恐らく無い。

今ここで、自分がどんな選択をするのかはっきりさせる必要がある。

 

「ランにもあるんだろ、信念。出世したいって前にも言ってたじゃねえか。俺はそれも立派な信念だと思うぜ」

 

 ニカッと竹を割ったような笑顔をランに見せるウェイブ。

俗物染みた考えと笑わず、ウェイブはランのその出世欲を立派だと受け入れた。

目の前の仲間が、離反を考えているとも知らず。

俯いていたランは、顔を上げてウェイブに笑いかけた。ランは力強くウェイブに答える。

 

「そうですね。私にも軍に入った目的、信念はあります。ウェイブさん、有難うございます」

 

 その後の惨劇を知っていれば、ウェイブはランにこのような言葉をかけることはなかっただろう。

ウェイブは後に、自分自身のこの発言を強く後悔することになる。

ランはウェイブが無意識に背を押したことによって信念を貫き通す覚悟を決めた。決めてしまった。

ウェイブにお辞儀し礼を言い駆け出すラン。

 

「どうしたんだあいつ?」

 

ウェイブは疑問を浮かべたままランを見送った。

 

 

「久しぶりみんな!」

 

 暗殺部隊に戻ってきたクロメは、仲間達に笑みを零す。

全員が帝国によって薬物投与された、みんな同じ釜の飯を食い続けてきた同士だ。

クロメにとってのもう一つの場所、それがこの暗殺部隊。

 

「クロメっち、久しぶり!」

 

 クロメを出迎えるのは暗殺部隊のリーダー、カイリ。

薬の副作用によってカイリの顔は老人のようにあちこちに皺がより、染みが出来ている。

 

「今回の任務……強引だね」

「でも任務は任務。帝国を揺るがす存在は、必要ないってことだ」

 

 何しろ今回は暗殺部隊を作り上げたサイキュウ直々の任務……それはロクゴウ将軍と付き従うタツミの暗殺。

国を揺るがす反乱分子の種、ブドー一派を狩る、それが今回の任務内容。

エスデスは当然止めたものの、これ以上民衆の支持を集めてしまっては危険とオネストの派閥が危惧したのだろう。

強引にロクゴウとタツミを始末することにした。それが今回の経緯である。

良識派の政管はまだまだ少なく、実権を握っているのはオネストであることは間違いない。

ロクゴウとタツミを始末すればブドーの力は大幅に削がれて後の憂いは消える。

カイリが仲間達に向けて声を張り上げる。

 

「いいか、今回の難度はSクラス!帝具使い2名との戦いだ!調子付いてるアイツラに、一泡吹かせてやろうぜ!」

「おおおおおおお!!!!」

 

 拳を突き上げる暗殺部隊の面々。ロクゴウとタツミは帝都近辺で軍事演習の最中である。

強引に兵士を突破し、標的2人を仕留めるためにクロメ達暗殺部隊は駆け出す。

 

 同時に別方向でナイトレイド……ナジェンダとアカメが発見され、2手に分かれたイェーガーズが動き出す。

ナイトレイドの偵察部隊は、イェーガーズの人数に驚く。

イェーガーズは6人ではなく、4人しかいなかったからだ。

 

 あくまでも革命を目指すナイトレイド、国を必死で守ろうとするイェーガーズ。

国を内側から変えようとするブドー達、子供の頃に誘拐され洗脳と薬物投与によって離反を許されていない暗殺部隊。

誰もが己の内に信念を抱えている。誰もが自分自身が正しいと信じている。

しかし帝具使い同士が殺意を持ちぶつかり合うと、犠牲は避けられない。

 

 だからきっと、これからの戦いに明確な正義は存在しない。

あるのはお互いの帝具と、お互いの信念の衝突だけである。

 

帝具使いたちは己の信念を貫き通すため、決戦に挑む!

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