ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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絆を斬る

 午後二時頃、帝都近辺の何もない平野。百名近くの兵隊を連れて進軍しているのは鞭を持ちライオネルを腰に巻きつけたロクゴウ将軍と、コロを持ち付き従うタツミ。

タツミの利き腕である右腕はコロに食べられ緑色の義手となっているが、軍服を上から着用できる程、普通の腕と変わりない厚みであった。

何と帝具の材料にもなっている、オリハルコンを使用しているといえばその希少性が分かるだろう。

軍略や政略を学びつつあるタツミの今の階級は、実際の軍隊で言う所の中佐と大佐の間程度と言った所。

ここから准将……将軍位になるまではまだ時間がかかる。しかし民衆の知名度だけなら既に将軍と大差無い。

士官学校がないこの世界での期待の将軍候補、それが今のタツミの立ち居地だった。兵隊に命令するロクゴウを真剣な表情で見据えるタツミの姿は徐々に様になりつつある。

ロクゴウ将軍は指揮を執りながら、タツミに話しかけた。

 

「どうだタツミ、兵の統率の取り方がだいぶ分かってきたんじゃないか?」

「はっ、ロクゴウ将軍の兵法を学ばせて頂きつつあります!」

 

 敬礼するタツミ。タツミは時にはロクゴウ将軍の変わりに自分で指揮を取り、失敗しながらも徐々に兵隊の動かし方を学びつつあった。

地位が上がれば視野も広くなり、考え方も変化する。タツミは将軍になれば国を救えると安直に考えていた自らの思考の甘さを痛感しつつあった。

腐っているのは国を支える元である大部分の大臣や内政官。賄賂等の汚職で塗れており本当に国を憂う人材の大部分はオネスト大臣によって殺されている。

 

(国を内側から変えることを諦めて離反、革命軍に入る人間が多かった理由も今なら分かるな)

 

 タツミのナイトレイドに対しての感情は最悪で、今でも許している訳ではない。セリューや知人を殺されたのも事実。

だがタツミは革命軍に組する元軍人の気持ちを、賛同こそできないが理解しつつあった。

大人になったというよりは、性根が真っ直ぐなタツミの革命軍に対する見方が変化したというのが正解だ。

 

(でも、だからこそ俺は今将軍を目指す必要がある!内側から国を変えるんだ!)

 

 ブドー大将軍が立ち上がり、良識派ロクゴウ将軍や自分が民の希望となっている今の状況で革命軍に入る選択肢はタツミにはない。

国を内側から変える、これがタツミが選んだ道であり信念。この志は決して間違っていない。

故郷の村の人間にも今の自分の立場は知られており、期待されている。タツミは自分にも他人にも胸を張って今の自分を誇ることができていた。

彼はこれから、帝国の闇、その最深部と向き合うこととなる。

 

「帝国方向に送った偵察兵が帰ってこないな」

 

 ロクゴウ将軍が蔽目する。ブドーの派閥はまだまだ勢力的には弱い。

だからこそ、ロクゴウ将軍は背中から刺されることに対して最も警戒していた。

ロクゴウ将軍は兵に鋭く激を飛ばし、警戒態勢に入る。

果たして数刻後、タツミ達の前に現れたのは顔をフェイスカバーで隠した黒衣を纏った集団……暗殺部隊だった。

ロクゴウ将軍が、率いている兵に対して声を張り上げる。

 

「オネスト大臣が放った手先だ!容赦することはない、迎え撃て!」

 

 ロクゴウ将軍とタツミは随分と強引な手に出てきたな、と歯噛みする。

しかしこの刺客を排除し、証拠を掴めばオネスト大臣を追い詰める材料になることは間違いない。

ブドー大将軍の近衛兵程ではないが、ロクゴウ将軍の指揮する兵隊の練度も高い。

しかし暗殺部隊の動きは素早かった。地を這うような極端な前傾姿勢で剣を構える兵士達をすり抜けタツミに迫る。

 

「国の安寧を揺るがすお前達は死ね!」

「くっ……!」

 

 首筋に迫る短剣を、首を傾け交わしたタツミは剣を袈裟懸けに斬り下ろし、暗殺部隊の血肉を引き裂き命を奪う。

義手でありながら、タツミの動きは腕を失う以前と大差ない。恐ろしいのはスタイリッシュの技術力か。

 

「捕食だコロ!」

 

 大きく跳躍してタツミに向けて鉄球を振り下ろそうとしてくる兵士の上半身を、コロが食い千切る。

一方ロクゴウ将軍は頭に獣耳を生やし、上半身を露出させた格好で鞭を暗殺部隊の頭に叩き付ける。

筋力が強化されたその一撃は頭蓋を破壊し、敵の脳漿を地面に撒き散らした。

暗殺部隊の面々も、全てがタツミやロクゴウに辿り着けた訳でもない。ロクゴウの兵士と交戦した結果殺害されるものも少なくなかった。

勿論ロクゴウ将軍の兵士もロクゴウとタツミを庇い死んでいく。血の紅い華が次々に咲いていく。

 

 暗殺部隊の兵士からしてみれば、タツミ達は国を揺るがす敵でしかない。国を憂う者同士が殺しあっている現状だが、タツミも死ぬ訳にはいかない。

タツミ一人の肩には数多くの良識派の命が背負われている。生きて国を内側から改革する責任がある。

どちらが正義という訳でもなく殺しあう。それが戦争というものだとタツミは痛感しつつあった。

 

「なんだ……!?」

 

 轟音と共に地面が揺れ始めたのは、タツミ達が交戦しているそんな時だった。

ゆっくりと、恐竜の骨格……大型の肉食獣がそのまま動き出したかのような怪獣が地表から現れる。

タツミは、見上げながら呆然とその危険種の名前を口に出すことしかできなかった。

 

「超級危険種、デスタグールかよ!?」

 

 超級危険種、それは危険種の中で最も強い区分。帝具の素材にもなったそれが目の前に居る。

しかもデスタグールは地面から沸くように現れた。こんなことができるのは帝具使いしかいない。

果たしてデスタグールの掌の上に乗っているのは、黒いセーラー服を着た少女、クロメだ。

 

「イェーガーズだと、どういうつもりだ!?」

 

鋭くロクゴウが問いかけるが、クロメは首を横に振って否定する。

 

「イェーガーズじゃないよ。今の私は暗殺部隊のクロメ」

「そんな詭弁が通じると思っているのか!」

「思ってないけどアナタ達二人が死ねば関係ない。多分そういうことじゃないかな」

 

 手段を選ばないオネスト大臣の所業に、ロクゴウとタツミが激憤の表情を露にする。

状況は最悪に近い。死者行軍・八房の帝具の性能はロクゴウもタツミも知っていた。

死者を8体まで操る、時間さえ掛ければ破格の性能を持つ帝具の一つ。

カイリを含む暗殺部隊の人間は、襲撃を中止し距離を取って様子を見る。ロクゴウの兵士は十分に削った。

デスタグールの光線を放つ邪魔になるだろうと考えたからであった。これからは帝具戦の時間だ。

 

 タツミとロクゴウは、どうしようもないとデスタグールを見上げる。この大型の危険種を倒すような対危険種用の性能は、タツミとロクゴウの帝具にはない。

それに加えて他のクロメの躯人形……銃使いのドーヤ、ガードマンのウォール、危険種のエイプマン、バン族のヘンターに囲まれる。

クロメの傍にはナタラという腕利きの暗殺部隊の躯人形がおり、本人を直接狙うこともできない。仮にクロメを倒しても、満身創痍の所をカイリ達によって殺される。

タツミ、ロクゴウ、兵士達、誰もが絶望したその時のことであった。

 

 空を猛烈な勢いで飛んでくる存在があった。人影はデスタグールの近くで止まる。

クロメは見覚えがある金髪の青年に対して嬉しそうに声を掛け、タツミとロクゴウはさらに絶望の表情を色濃くさせる。

 

「ラン、きちゃったんだ」

「はい、クロメさん。助けにきました」

 

 どこか呆れたように、でも嬉しそうにランの名前を呼ぶクロメとクロメに対してにこやかな笑顔を見せるラン。

帝具使いの数でも並ばれてしまい、最早戦力的にどうしようもない戦いだ。しかしブドーと、ロクゴウと一緒に国を変えるまで、タツミは死ぬ訳にはいかない。

 

「ランが来たし、もう終わりだよ。死んじゃえ」

 

 クロメの指示でデスタグールが口の付近にエネルギーを溜め始める。タツミとロクゴウは最後まで諦めずデスタグールに対して構えを取った。

この時デスタグールの手の上に乗ったクロメは軽く油断していた。この戦力差では負けようがない。そのクロメの判断はある意味では正しい。

誤算だったのは、その戦力差のバランスがランが来た今崩れ去ったということだった。

デスタグールがエネルギーを貯め終わった、その瞬間ランはデスタグールの口元に動いていた。

 

「マスティマ奥の手――――神の羽根」

 

 飛行帝具であるマスティマの奥の手、それは飛び道具の完全反射。

飛び道具を反射する帝具には、他にナイトレイドのスサノオの八咫の鏡というものがある。

ランの奥の手は、完全に飛び道具反射に特化している分八咫の鏡より強力だった。

デスタグールが破壊光線を発射し自らのエネルギーで、全身を溶かされていく。

至近距離であった故に、それは致命傷であり、デスタグールが光の中に消え去った。

デスタグールの掌の上にのっていたクロメは、ナタラに抱えられて跳躍しすんでの所で回避する。

空中では逃げ場が無く、ナタラの全身にはランが発射した羽が突き刺さった。

 

着地したクロメは呆然としていたが、消滅したデスタグールと全身を針鼠のようにして動かなくなったナタラの姿に状況を把握した。

 

「裏切ったんだラン……お姉ちゃんと同じだ、私を裏切ったんだ!」

 

 悩みがあるなら相談して、とランを心配した自分が馬鹿みたいだとクロメは自嘲する。

国を守るため戦っている自分に与せず帝国を揺るがしかねないブドー一派につく。

それはクロメにとっては明確な裏切りであった。

 

「ああ、そっか。裏切るか迷ってたんだねラン。そりゃ私には相談できないよね!」

 

 憎悪を込めてランを睨み付けるクロメ。ほんの少し前まで、ランとクロメは和やかに話していた。

手を取り合う未来もあったかもしれない、しかしその可能性は今ここに消え去った。

 

「……そうですね。私はクロメさんを裏切るか迷っていました」

 

 ランはクロメの言葉を否定しなかった。クロメと敵対する覚悟を持って戦場に降り立ったのは間違いない。

クロメも帝国に操られた子供であり、被害者である。何より今のランの行動は心配してくれた仲間に対して恩を仇で返す行為に他ならない。

しかし国を内側から変える決意をしたランはタツミとロクゴウを殺させる訳にはいかない。

今の彼には己のうちに確りとした信念があった。

 

「大人しくタツミさんとロクゴウ将軍から撤退してくれませんか、クロメさん」

 

 覚悟を内に秘め、静かに見据えながらクロメに問いかけるラン。クロメの返事は決まっていた。

姉からの誘いにも乗らなかったクロメには、今更暗殺部隊を裏切る選択肢は存在しない。

クロメとラン、両者の絆は砕かれた。

 

「裏切り者め……躯人形にしてあげない、死んじゃえラン!」

 

 ドーヤがランに向けて銃撃し、一連の遣り取りを見たタツミとロクゴウ将軍もクロメの躯人形に向き合う。

ロクゴウ将軍の兵士達も士気を上げて暗殺部隊のカイリ達に突撃していく。

クロメの大きな戦力が2つランの不意打ちによって削れ、戦闘は混迷を極める。

クロメ本人も優秀な暗殺者である以上、互いの戦力差は微々たる物に過ぎない。

タツミ達とクロメ達、どちらの勢力が生き残るのか。勝敗の行方は未だに分からない。

 

―――イェーガーズ、残り5人。

 

―――ブドー派閥、残り4人。

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