ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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呪縛を斬る

 帝都から東のロマニー街道沿いでナイトレイドのマインとアカメが発見された。

その目撃情報を聞いたエスデス率いるイェーガーズ4人の動きはらしくもなく慎重で消極的だった。

何しろナイトレイドは回っている手配書と情報だけで6人、その中で判明している中だけでも帝具持ちがラバック、ブラート、マイン、アカメの4名。

更にレオーネという帝具使いが帝都に隠れていた以上、ナイトレイドがどれだけの帝具を所持しているか分かったものではない。

 

 晴れた日の早朝、馬を駆けさせ部下達と一緒にロマリー街道に到着したエスデスは、名物のタコスを口に頬張りながらこれからの作戦と、暗殺部隊に召集されたクロメについて話し合っていた。

 

「現在クロメ達、暗殺部隊がタツミの暗殺に向かっている。そしてランがクロメの援護に向かった以上、戦力差を考えて最早タツミとロクゴウ将軍の命は無いと思っていいだろうな」

 

 ウェイブ以外のイェーガーズの面々にもクロメが暗殺部隊に召集されたことは知らされている。ウェイブが恐る恐る表情を伺いながら、エスデスに問いかける。

 

「隊長はタツミについて、今はどう思っているんですか?」

「正直勿体無いとは感じているな。しかし私は部下の命も大切だ。タツミが死んだとしてもそれは民衆を煽りオネスト大臣に危機感を抱かせたタツミ達にも責任はあるだろう」

 

 まだ怒りは収まっていない、しかしクロメと恋する相手であるタツミが殺しあっているという状況の中でも、エスデスはそれを許容しつつあった。

それはエスデスのそもそもの価値観が弱肉強食であることにも起因している。タツミとクロメ、弱いほうが死ぬ。エスデスはある程度は割り切ることができていた。

己がタツミを殺したいという欲望も勿論あるものの、敵対すると分かっていて叩くと言う大臣の考えも将軍としては否定できない。

そもそも今までエスデス自身が敵対勢力であるタツミに甘すぎた。こうなってしまった原因はそれだろう。

 

「私自身、タツミに執着しすぎていた部分はある。こうなってしまってすまなかったなスタイリッシュ」

「アタシは恋に腑抜けた隊長なんて見たくなかったから安心したわ」

 

 タツミの義手の手術を行ったスタイリッシュに謝るエスデスに、スタイリッシュはウインクした。

エスデスはそれでも猶タツミの生存に期待してしまっており複雑な心境ではあるのだが、部下の3人にはそれを悟らせることはなかった。

 

(すげえな隊長は。俺は恋する相手を間接的に殺すなんて考えたくもねえ)

 

 恋する相手、と思って真っ先にウェイブの頭に思い浮かんだのは何故かお菓子をポリポリ齧るクロメの顔。

どうしてあいつの顔が思い浮かぶんだ、とぶんぶんと左右に頭を振って考えを追い払うウェイブ。

エスデスがこの話はここまでだ、と本題に移る。

 

「ナジェンダはここから安寧道のある東へ、アカメは反乱軍に組する都市がある南へ向かった所を目撃されている。妙だな」

「二手に分かれた所が都合よく見つかっているのが胡散臭い、ということですね」

 

ボルスの問いかけにエスデスは頷いた。

 

「ああ。私達を誘き出すためという線が濃厚だ。躯人形を操るクロメが居ない以上、ナイトレイドとこちらの戦力差を考えると本来隊を2つに分けるべきではない。

全員でナジェンダが目撃された方角に向かうというのが一番良いだろうが、恐らくそうなった場合は逃亡されて終わりだろうな」

 

 エスデスの作戦は、この状況では限られている。

 

「だからナイトレイドを釣り出す。私とボルスでナジェンダを追い東に向かう振りをする。ある程度進んだら私たちもロマニー街を通らず大回りしてアカメを追う訳だ。ウェイブとスタイリッシュは真っ直ぐ南に向かえ」

 

 今回、恐らく見ているであろうナイトレイドの密偵部隊の目を誤魔化す必要がある。

だからこその作戦、もし誤魔化し切れなかったとしても仕方ないとエスデスは考えていた。恐らく革命軍側も余裕はあるまい。自分達イェーガーズを仕留めたい筈だ。

帝都付近の残党を始末しきっていない、それに加えて人数が4人しかいない。状況がエスデスを冷静に行動させた。

ナジェンダを追わず、あえてアカメを始末することに集中したエスデス。この判断が今後の戦いの運命を大きく揺るがすこととなる。

 

「私達はイェーガーズ……狩人だ。餌に釣られた暗殺者達を全員で仕留めるぞ!」

「「「了解!」」」

 

部下を鼓舞するエスデスの指令に、部下達は敬礼をして駆け出した。

 

 

 

 昼頃左右を崖に挟まれたロマニー街道から南の地点、その崖の上で敵を待ち伏せているのはマインと護衛するラバック。

タツミとの戦いの後も数々の任務を切り抜けたこの二人の組み合わせは、最早お馴染みになっていた。

 

「ラバ、今日もしっかりと護衛頼むわよ」

「マインちゃん、任せときなって!」

「そこそこ頼りにしてるわ」

 

 パンプキンのスコープを覗くマインのラバックに対する態度は、あまり棘がない。

それだけタツミとセリューの2人との戦いで、マインはラバックを信頼するようになったということだろう。

実際ラバックがヘカトンケイルの奥の手に瞬時に対応しなければ、マインが死んでいたのは間違いない。

 

「今回は任務で人目につくのが目的だったけど、またナイトレイドの皆で川遊びしたいわね」

「おおっ、俺はまた女性陣の水着が見れるなら、大歓迎だね!」

「はあ……そっち目当てなのはラバらしいわね。しょうがないからこの戦いが終わったら提案してあげるわ」

 

 テンションを上げて鼻息が荒いラバックに、呆れながらも口元に手をやりクスクスと優しげに笑うマイン。

 

「ラバックとマイン、本当に仲がいいですね。けっこう二人だけで遊びに行っているようですし」

 

 そんな二人を崖の下から微笑ましげに見上げるのはシェ―レだ。マインと一緒にコンビを組んでいたにも関わらず、どこか嬉しそうなのは彼女が優しいからだろう。

一方ラバックと一緒に組んでいたアカメはシェーレとは違い、複雑だった。

 

(ボスがラバックとマインが付き合っているのではないかと勘違いしているのを、二人に言うべきなんだろうか)

 

 言うほうがいいのか、言わないほうがいいのか、それはラバックにとってもマインにとっても難しい。

ラバックはナジェンダ一筋のつもりだろうが、それにしては護衛とはいえマインとの距離が近い気がする。マインはラバックへの態度が、どんどん他の人間と比べて柔らかくなっていく。

単なる友情なのか、恋なのか。他のメンバーには傍から見て分からない。とりあえず見守るという無難なところで収まってしまう。

任務中にも関わらずナイトレイドの面々がこんな風に色ボケているのはラバックの糸に反応がないからである。

暫しの時間の後に、ラバックのクローステールの糸が揺れ始める。ラバックがナジェンダに報告した。

 

「恐らく敵です!二人は馬に乗ってます、こっちに40人程向かってくる!」

「規模からしてエスデスの兵ではない、スタイリッシュの小隊だろうな。ラバックとマイン、遊撃のチェルシー以外はスサノオの中に隠れろ!」

 

 ナジェンダの命令でスサノオの近くに駆けよるアカメ、ブラート、シェーレ。

ナジェンダも入れてスサノオが擬態した案山子の中に身を潜めた4人は、向かってくるスタイリッシュとウェイブを待ち伏せることにした。

 

「崖下から5人の話し声が聞こえます。敵が擬態して待ち伏せようとしているようです」

「崖の上に大きな銃を操る敵、糸を操る敵を二名確認しました」

「近くの森林の中にもう一人、人の匂いが僅かにします」

 

 一方イェーガーズ陣営。スタイリッシュに付き従うのは耳が肥大化した兵士、目が肥大化した兵士、鼻が肥大化した兵士。

その名はそのまま『耳』、『目』、『鼻』、がスタイリッシュに報告する。

 

「サイアクで帝具使いが8人ってことね、予想以上にキケンだわ。これは流石に押し切れないわね」

「想定された全員より多い……ナイトレイドがこれ程の戦力を隠し持っていたなんて思わなかったぜ」

 

 無理をするべきではないと判断したスタイリッシュとウェイブは、案山子から50メートル付近まで近づいたものの素直に兵隊を引き連れ撤退を開始する。

 

「気付いたみたいね。標的……スタイリッシュだけでも仕留める!」

 

 スタイリッシュの科学力は、革命軍にとって戦略的に危険だ。スタイリッシュが革命軍から標的として依頼されているのはその為である。

銃のスカウターを覗き込んだマインが、スタイリッシュの頭に標準を合わせて発射する。

 

「銃撃してきます!」

「危ねえ!」

 

 『目』の報告にスタイリッシュを庇ったのは、サーベルを抜いたウェイブ。パンプキンのエネルギーが、サーベルによって弾かれる。

完全な不意打ちに対応するのは無理だが、流石に撃ってくると分かればウェイブもスタイリッシュを守ることはできた。

 

「護衛はウェイブに任せるわ。一時撤退して、『歩』達は足止めお願い!」

 

 スタイリッシュは冷静に部下達に指示を出す。一度敵の匂いさえ『鼻』が覚えてしまえば離れていない限りナイトレイドを強襲できる。

 

「2人とも逃がすな、追って確実に始末しろ!」

 

 スサノオによる案山子の変身を解き、ナジェンダがナイトレイドの全員に指示を出した。

ラバックの張った頑丈な糸が、馬に乗るスタイリッシュとウェイブの行く手を阻む。

落馬する訳にはいかないと、やむなく馬から下りるスタイリッシュとウェイブ。

 

 敵に背中を向けて走っている2人を追いかけるのはスサノオ、アカメ、ブラート、シェーレ。

近接戦闘に長けた面々にスタイリッシュの歩兵が立ち塞がるが、乱雑に4人が武器を振るうだけで僅かな足止めしかできずに雑兵たちは葬られていく。

マインの銃は常に遠距離からスタイリッシュの頭を狙っており、ウェイブが近くで守らないと危険。

真っ先にスタイリッシュに到達したのは、インクルシオを纏ったブラートだった。この絶体絶命の状況下で、スタイリッシュは何と哂った。

 

「分断作戦、セイコウしちゃった」

 

 4人の周りを、残りの歩兵が囲みこみ逃げ場を封じる。副武装である槍、ノインテイターをスタイリッシュに振り下ろそうとするブラートの槍を、グランシャリオを纏ったウェイブの拳が弾いた。

アカメに立ちはだかるのは眼鏡を掛けた小柄な兵士トビー、シェーレの前には大柄な髪を角切りにした男、カクサンが拳を合わせて迫り来る。

スサノオをコアごと焼き尽くそうと炎が襲い掛かりスサノオは横っ飛びで回避する。いつの間にやらボルスが近くまで来ていた。

 

「なんだ急に!?」

 

 各々が立ち塞がる敵に構える中、真っ先に危機に気付いたのはナジェンダだった。イェーガーズの3人がここに居るのに、エスデスだけが存在しない、そんなことが在り得るだろうか?

いつの間にかラバックの報告も途絶えている。

 

「まさか……!?」

 

 ナジェンダはラバックとマインが居る崖の上を見上げた。果たして彼女の予想の通りの光景がそこにはあった。

崖の上のラバックとマインに向けてゆっくりと歩いてくるのは―――

 

――――帝国最強、エスデス。

 

「糸を避けながら進むのは中々楽しかったぞ。糸を張ったのはお前、確か手配書だとラバックと言ったか」

 

 自分に向けられた絶対零度を思わせる視線。ゴクリ、と喉に溜まった唾液をラバックは飲み込む。ラバック本人が武器と称する臆病さが今のラバックを縛っていた。相対するだけで凍りつきそうだと感じ、体の震えが止まらない。ラバックは恐怖で僅かに後退してしまい……

ラバックの硬直した体、その右手に触れる者がいた。視線を右に動かすと、マインの手がラバックの手を絡め取り、しっかり握り締めていた。

 

「ラバ、アタシのパートナーならビビってるんじゃないわよ!帝国最強相手なんて、大ピンチじゃない!」

 

 この状況でラバックの相方であるマインは、エスデスに対して一歩も引かず、不敵な笑顔さえ浮かべてみせた。

 

「いい表情だ。お前のような輩は屈服させたくてたまらん」

 

 マインの右手から、体温が伝わってくる。その暖かさはエスデスの殺気という氷のような呪縛からラバックを解き放った。

ラバックは手を離し、パンプキンを構えるマインに感謝してエスデスを睨み付ける。ラバックのエスデスに対する恐怖心と硬直、震えは完全に消え去っていた。

 

「エスデス―――ここでお前を倒して、俺はナジェンダさんに告白する!」

 

 帝国最強に指を突き付け大声で叫ぶラバックの言葉は、ナジェンダの耳にしっかりと届いていた。

この状況で何を言っているんだアイツはと手を額に一瞬だけ当てるナジェンダの顔には、僅かに確りとした笑顔が浮かんでいた。

 

「だが、ラバックらしいな」

 

 この状況で自由に動けるのは自分とチェルシーだけだ、ラバックとマインだけではエスデスには勝てないだろう。ナジェンダは全員で生還するための策を考え始める。

 

「死に際の憂いを断つためか。お前のような人間は、嫌いではない。その上司への思慕がいつまで持つのか、拷問するのが楽しみだ」

 

大胆に思いを叫んだラバックに、タツミに対する感情を思い出したエスデスは笑みを深めラバックとマインに向け静かに歩みを進める。

 

―――絶望が、ラバックに襲い掛かろうとしていた。




ラバックは恋か死か、担当ですね。
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