ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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甘さを斬る

 崖の上に立っているラバックとマインに相対しているのは帝国最強エスデス。

 

 ラバックとマインを仲間から分断し、孤立させたエスデスが2人に向け歩みを進める。

絶対零度の鋭い眼光を目の当たりにしても、ラバックはもう怯まず睨み返すことができていた。

何しろ敬愛している主であるナジェンダの右目と右腕を奪ったのは、今眼前に居るエスデスだ。

革命軍にとっては勿論そうだが、私怨もありラバックにとっても一番の標的であることは間違いない。

自身が放つ殺気に負けないような、ラバックとマインから放たれる心地良い殺気にエスデスは喜色満面の笑みを浮かべる。

 

「本気で私を倒すつもりか、面白い。開戦の号令を揚げるとしよう!」

 

 パチンと、エスデスが指を鳴らすと共に彼女の頭上に球体の巨大な氷の塊が生成されていく。

生成された氷の塊は直径数百メートルもあり、人を二人葬るには明らかに過剰なもの。

巨大な危険種でさえ一瞬で下敷きにして葬るそれが、ラバックとマインに向けられ発射される。

迫りくる氷の塊、直撃したら即死であるはずであろうそれに対してラバックとマインは動じることがなかった。

 

「完全に味方と分断されて、相手は帝国最強。アタシ達が倒されたらボスが危ない……つまりこれは、大ピンチ!」

 

 ハーゲルシュプルングというエスデスの必殺技の一つであるそれに向けて、マインがパンプキンを構えて発射。

巨大な光線が一瞬で氷の球体を貫通し砕く。パンプキンがこれほどの威力を発揮しているのは自分達がピンチという理由だけではない。

パンプキンは精神エネルギーで撃っている。ナジェンダに告白を決意したラバックに対する感情の昂ぶりがマインを強くしていた。

 

(やっとヘタレのラバが告白を決意したんだから、絶対に一緒に帰ってみせる。エスデス相手だろうと知ったことじゃないわ!)

 

 ラバックのことを恋愛対象として見ているか、と仲間に問われたらマインは違うと答える。

しかしラバックのことが大好きか、と問われたら今のマインは照れることもなく胸を張って首を縦に振るだろう。

数々の任務をこなし、日常では二人だけでデート紛いのことも多くした。マインはラバックをずっと近くで見てきた。

そして今は助平な所、ナジェンダに恋している所も含めてマインはラバックを肯定しており大好きだった。

一緒に居るとなぜか安心する、だから甘えていたい。マインのラバックへの思い、その精神エネルギーが何よりもパンプキンを強化する。

 

「面白いな、これでどうだ!」

 

 先端が尖った氷の塊を数百個同時に生成し、マインに向けて発射するエスデス。

マインは空中から迫り来る複数の氷の塊に対して、パンプキンを薙ぎ払い全てを溶かし切る。

そのパンプキンの光線に紛れてラバックはナイフを2つ、エスデスに投擲していた。

エスデスはレイピアを振るい、ナイフを叩き落す。

 

「遠距離の攻撃の打ち合いでは決着がつかんようだな。しかしお前の弾道は見切った」

 

 エスデスは早くもマインのパンプキンの威力を見極めつつあった。エスデスが最も武器とするものの一つがこの敵の攻撃を見極める戦術眼。

直接レイピアでマインを葬ろうと突進するエスデス、マインを守ろうと立ち塞がるのはラバック。

 

「邪魔だ!」

「マインちゃんは殺らせねえよ!」

 

 ラバックの左手が糸を操りエスデスの首を絡め取ろうとする。

しかしエスデスが振るうレイピアがラバックの放つ細い、肉眼で視認するのが困難な糸を切り裂き障害にすらなっていない。

ラバックに到達したエスデスは、ラバックの丹田をレイピアで突き刺そうとする。

あっさりとラバックの命を奪うはずであったその攻撃。

 

ラバックはエスデスの刺突を、右手が束ねた糸で作り出した槍の腹で受け止めた。

 

「……何!?」

 

 エスデスのレイピアがぶれるように高速で動き、喉元、胸部、腹部と続け様に刺突を放つ。

普通の達人でさえ瞬殺する攻撃、しかしラバックが糸の槍を振るい、急所を貫こうとするレイピアの連撃を弾く。武器同士がぶつかり合い、火花が散る中でエスデスは驚く。

エスデスから見てラバックは、とても近接戦闘ができる人間、強者には見えなかったからだ。

少なくとも自分と武器を交わらせ生きていられる人間はナイトレイドではブラートとアカメだけ、それがエスデスの見立てだった。

しかしラバックはエスデスの攻撃を裁いており、倒れずに立ち塞がっている。

 

「向いてない、とは俺自身思っているんだよね」

 

 武器を手にしたラバックはらしくない、と自嘲するがブラートと鍛錬で鍛え続け、只管防御を続けた努力は裏切らない。

槍で自分の身を守りながら、ラバックの左手が高速で動き糸が地面を這うように進みエスデスの脚を絡めとろうとする。

エスデスが軽く跳躍し、ラバックに僅かに隙ができた所をレイピアをラバックの腹に突き出す。

レイピアは、腹に糸を巻きつけ防具と化しているラバックの腹部を貫通することができなかった。

 

「私の武器に長時間触れていいのか?」

 

 防御されたにも関わらずにやりと笑みを見せるエスデス。レイピアから冷気が吹き荒れ、防御したラバックの腹を氷で覆おうとする。

ラバックの左手が動くと共に叩き落されていた2本のナイフが音も無くエスデスの背後の左右から迫る。

ラバックは投擲したナイフに糸を括り付け、糸を巻き戻せばいつでも戻せるようにしていた。

エスデスは培われた危機回避力のみであっさりそれを察知し、レイピアをラバックの腹部から離してレイピアでナイフを再び叩き落す。

その隙にラバックの右手に握った槍が振るわれエスデスは後退、僅かに距離が離れたエスデスをラバックから右後方に移動したマインが銃撃する。

ピンチが落ちた分、パンプキンの銃撃は弱まっており、軽く跳躍して回避された。

 

「対した器用さと連携力だ、面白い!」

 

 汗一つ掻かずにラバック達を賞賛するエスデスの賛辞だが、ラバックとマインの息は荒い。

エスデスは恐らくまだまだ本気を出していない。一見戦いは互角なように見えるが、ラバックは猛烈な勢いでクローステールの糸を消費している。

マインにも常にパンプキンのオーバーヒートの恐怖が付きまとう以上、このまま拮抗を保ち続けることはできない。

しかしラバックの方にも勝機が無いわけではない。布石は既に打ってある。

再びラバックに襲い掛かろうとしたエスデスに、空中から斬りかかった何者かの刀の攻撃をエスデスはレイピアで受け止めた。

ラバックは頼もしい仲間に声を掛ける。

 

「待ってたよ、アカメちゃん」

 

 

 ラバックとエスデスの戦いの火蓋が切られようとする中、残りのナイトレイドのメンバーとイェーガーズも戦闘を行っていた。

真っ先に動いたのはナジェンダだった。今のラバックとマインならエスデス相手に時間を稼ぐことはできる。

下手に自分がラバック達の援護に向かっても狙われて死亡するだけだ。ならば自分がやることは、決まっている。

 

「スサノオ、奥の手の使用を許可する。この状況を覆せ!」

 

 ナジェンダの許可により、スサノオの奥の手である禍魂顕現が発動。

使用者からの生命エネルギーを吸い、上半身を露出させたスサノオの身体能力が飛躍的に向上する。

三度しか使用できない変わりにその威力は絶大。

 

「あれ、なんか不味い!?」

 

 ボルスがスサノオの変化に戸惑うもののスサノオに向けてルビカンテの炎を噴出させる。

広範囲に迫り来る炎に対してスサノオは手を掲げた。

 

「八咫鏡!」

 

 貼られた飛び道具を反射する鏡がルビカンテの炎を完全反射し、炎を出したボルス自身に跳ね返す。

迫り来る自らの炎に息を呑むボルスを抱えて跳躍したのはアカメと相対していたトビーであった。

アカメに背を向けて斬られたとしても、全身が機械でできているトビーなら斬られても問題ない。

今のスサノオ相手に戦うには殲滅戦に特化しているボルス一人では厳しいという判断、そのトビーの判断が戦況を揺るがした。

 

(今が好機!)

 

 自由になったアカメは、拳を振るうカクサンの殴打をエクスタスで防御しているシェ―レの元に駆け寄る。

 

「オラオラ、どうしたよ!」

 

 シェ―レはカクサンの猛攻をエクスタスで受けながらも、反撃の機会を冷静に伺っていた。

カクサンが防御一辺倒なシェーレの様子を見て調子に乗り、次第に拳が大振りになる。

 

「葬る」

 

 一瞬。ほんの一瞬でカクサンの隙を見抜いたアカメが村雨を抜刀しカクサンの首を刎ねた。

カクサンの首と鮮血が宙に舞い、スタイリッシュの歩兵が驚きアカメを注視する。

全員の視線がアカメとシェーレに集まる、というこの状況はナイトレイドにとって大きなチャンスであった。

 

「なんだ!?」

 

 歩兵がいきなり現れた眩い光に顔を背ける。光輝いているのはシェーレが所持しているエクスタス。

その奥の手は金属の発光による目晦まし。シンプルな能力故に、威力は強力だった。

アカメが周辺を取り囲む歩兵達を突破し、駆け出すのはラバックとマインの方角。

ラバックとマインがエスデスに突破されれば司令塔であるナジェンダが危険に陥る。

アカメがラバックの援護に向かうには十分すぎる理由だった。

慌ててルビカンテの奥の手、岩漿錬成を発動し球状になった炎の塊をアカメに飛ばすのはトビーに守られたボルス。

 

「アカメ!」

 

 鋭いシェーレの声に反応したアカメは、軽く跳躍して空中で糸を踏み、再度跳躍し岩漿錬成を回避。別の糸を踏みしめ一直線に崖の上のラバック達に突き進む。

最初にエスデスとマインが撃ち合っている中、こっそりラバックは仲間が援護にいつでも来られるよう空中に糸の足場を作っていた。

ラバックと組んで戦うことが多かったアカメは糸を見逃さない。エスデスと相対しながらもラバックは冷静であり、百戦錬磨のアカメもそうであった。

 

「……こいつはヤベえな」

 

 ブラートと相対し、拳の攻撃が槍で受け流され技量の差で差で押し込まれていくウェイブは徐々にナイトレイドの脅威を肌で痛感しつつあった。

ナイトレイドにはクロメ、スタイリッシュのような戦略級の帝具を持つ帝具使いやエスデスのような絶対的な力を持った帝具使いは居ない筈なのに、それでも自分達が押されている。

ナイトレイドの最大の武器、それは類稀なる連携力。他の部隊から寄せ集められて作られたばかりのイェーガーズは持ち合わせていない武器。

 

(本当にこれが殺し屋風情の動きなのか!?)

 

 冷や汗を流すウェイブの息は荒い。帝具使いの数の利を最大限に生かし、連携で確実に仕留めに掛かってくる。

ナイトレイドのメンバーは殺し屋としては甘すぎる、と言われることがある。確かに紛れもない1つの事実。

しかしそれは裏を返せば互いの能力を十全に発揮できるぐらいに信頼しているということでもある。

トビーとスサノオが渡り合い、ボルスとシェーレの戦いも拮抗している。明確にブラート相手にウェイブが不利なこの状況では勝利は難しい。

 

「実験体にできないのは残念だけど、どうやら撤退が賢いわね」

 

 クロメとランが居ないこの状況ではエスデスがアカメ、ラバック、マインを倒し終わる前に自分達が死ぬ方が早い。

そう判断したスタイリッシュは頭上に拳銃を構えて閃光弾を頭上に打ち出す。

歩兵を引き連れ撤退を開始するエスデス以外のイェーガーズ。ナイトレイドのメンバーもナジェンダの生存の方が重要なため追うことはない。

スタイリッシュは逃走しながらも不気味な笑みを浮かべていた。撤退しても『鼻』はナイトレイドの匂いを覚えている。それに加えてスタイリッシュの笑みにはもう一つ理由があった。

 

 

「撤退、か。もう少し戦いを続けたかったのだがな」

 

 アカメと切り結びながら、打ち上げられた閃光弾を横目に見て不満気なのはエスデス。

堪え性のない部下には後で仕置きが必要だなと感じるものの、ナイトレイドの戦力が想定より遥かに高かった以上仕方がない。

ここで自分一人だけ撤退せずに8人と戦っても良いのだが、流石に苦戦は免れない。

それだけなら戦闘狂であるエスデスは戦闘を続行しただろう。

しかし別方向で戦っているクロメとラン、タツミが気に掛かったエスデスも不本意ながら撤退を決心した。

エスデスが撤退する間際に語りかけたのはナジェンダでもアカメでもなく、ラバックだった。

 

「お前の動きは私でも最後まで見切れなかった。次の戦いを愉しみにしているぞ」

「……どうも」

 

 糸が尽きかかっていたラバックは、息も絶え絶えに返事を返す。

クローステールの攻撃は動きが予測できず、ラバック本人もエスデスに強さを悟らせることがない。

得体が知れない、正に千変万化。それがラバックに対するエスデスの評価だ。

まさか2対1で自分が最後まで突破できないとは思ってもいなかった。

底知れない何かを秘めている、そう思えたのはタツミ以来の感覚である。

 

(愉しみは次回に取っておくとするか)

 

 興が削がれたもののナイトレイドという極上の獲物の予想以上の強さを発見できたエスデスが崖から飛び降り、機嫌良く撤退を開始する。

パンプキンがオーバーヒートしていたマイン、糸が尽きかけていたラバックはエスデスを追撃することはなかった。

アカメもこの状況下ではナジェンダの命が最優先であり、エスデスを追うことはない。

 

「良くやったな」

 

 ナジェンダがエスデスを足止めしたラバック達3人と駆け寄ってくるブラート達3人に声を掛ける。

標的であるボルスとスタイリッシュを仕留めることはできなかったが今回は痛み分けというべきだろう。

そう思い安心したナジェンダは、しかし次の瞬間はっとする。

補充したばかりのメンバーが、一人足りていないことに気付いたからであった。

 

 

「ありゃ、今回は私は出番がないみたいだね」

 

 森の茂みから戦場の様子を伺うのはチェルシー。

チェルシーは遊撃が担当されたものの、今回のように互いが本格的に戦闘を行っている状況で介入するのは難しい。

誰かに化けて変装して出た所で、瞬殺されるのが精々だろうからだ。

 

「何とか援護したいけど、この状況じゃ無理するべきじゃない」

 

 幸いにも押しているのはナイトレイド側だ。戦局を見極めたチェルシーは冷静であった。

他のナイトレイドのメンバーのような甘さは、一切この時のチェルシーは持ち合わせていなかった。

 

―――それが、チェルシーの命取りだった。

 

 チェルシーの頭を、後ろから短剣が貫く。

彼女を背後から貫いたのは革の帽子を被り花の飾りをつけた短髪の男。スタイリッシュの兵士、トローマだった。

 

「え……!?」

 

 チェルシーには、何の落ち度もなかった。しかしスタイリッシュの兵士である『鼻』は僅かな人の匂いを捕らえていた。

スタイリッシュは桂馬の役割を持つトローマに、暗殺を決行させていた。

 

「どう、して」

 

 チェルシーの意識が薄れていく。彼女には油断はなかった、甘さもなかった。暗殺の経験も豊富であった。

しかしだからといって、他のナイトレイドのメンバーと比較して特別チェルシーが優れているという意味では決してない。

戦場では油断しようが油断しまいがそんなことは関係なく人は死ぬ。ただそれだけのことであった。

 

「スタイリッシュ様、女を暗殺し帝具一つの回収に成功しました」

 

 事切れたチェルシーを見て、トローマがスタイリッシュに報告する。

暗殺に特化したチェルシーは同じく暗殺に特化したトローマの暗殺により、他の全員が戦っている中、誰の味方にも知られることもなく静かに命を落とした。

 

 ナイトレイドとイェーガーズの初戦は、こうして数が劣るイェーガーズの勝利という形で幕を下ろす。

 

 

―――ナイトレイド、残り7人。

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