ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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胃痛を斬る

 暗殺部隊とタツミ達の死闘、その夜中の宮殿内。

タツミとロクゴウ将軍が、演習中に何者かに襲撃され隊を壊滅させ、2人とも負傷し息も絶え絶えに帰ってきた。

そう聞かされたブドー大将軍の怒りがとうとう爆発した。

2人の報告から首謀者がイェーガーズのクロメまで出撃させたこと。

暗殺部隊設立者のサイキュウの指令、もしくはオネスト大臣の命令で部隊が動いたことは分かっている。

エスデスがまだ帰還していない今、憤懣やるかたない表情で帝具アドラメレクを持ち大臣に迫るのはブドー。

 

「貴様、よくも私の部下に手を出してくれたな。確りとした証拠がある今、貴様をここで処刑して帝国の歪みの原因を元から断つべきと見た」

 

 ブドーの殺気を受け、相対するオネスト大臣が震え上がる。オネスト大臣にとっても暗殺部隊が失敗するのは誤算だった。

 

「……ブドー大将軍は殿下がいる宮殿を血で染めるべきではないとか言っていた気がするんですけどねぇ?」

「そう思っていた時期もあったが私も将軍であることには変わりない。庇護している部下の兵士が直接葬られて黙ってはいられん」

 

オネストはブドーの決心を目の当たりにして、本格的に焦り始める。

 

(こんな時にエスデス将軍は何をしているのですかねぇ!)

 

 エスデスはナイトレイドを狩りにロマニー街道で戦っている。間が明らかに悪い。

護衛の羅刹四鬼を呼び出しても瞬殺されるだけである。戦闘が始まってしまえば自らの死亡は確定する。

 

「私が死ねば、皇帝の身にも危険が及ぶようになっていますよ!?」

 

 オネストは一歩後退するも、合わせてブドーが一歩間を詰める。

自身を威圧するブドーの眼光を受け、どうすればこの場を切り抜けられるか考えるオネスト。

 

「代々皇帝を守護するという家訓を守ってきた私だが、今は多くの部下の命を背負っている。状況は変化しているのだ!」

 

 良識派の政管がブドーの元に集まっている以上、ブドーにも内側から国を変える責任がある。

軍法会議を経ず直接オネストを葬ろうとするブドーの考えは、直接的すぎるもののだからこそ謀略で影から国を操るオネスト相手には有効だった。

 

(この脳筋めが……!)

 

オネストは切り札を切る覚悟を決心した。

 

「その部下である、タツミとロクゴウ将軍は満身創痍で今治療を受けています。とっても無防備に、そうですよねぇ?」

「貴様、まさか」

「私が勢力を増していく大将軍相手に、スパイを送り込んでいないとでも思いましたか?」

「どこまでも卑劣な!」

 

 ブドーが歯をギリリと噛み締める。タツミとロクゴウという部下の命を盾に取られては、ブドーも強攻策を取ることはできない。

どうにか命の危機を乗り越え安心したオネストは、しかしこれではまだ足りないと感じる。

この事件で怒りに燃え上がるのはロクゴウによって煽動された民衆も同じこと。この問題を放置してしまえば各地から暴徒と化した民衆と革命軍に飲み込まれてしまう。

ブドーの機嫌をとり、同時に革命軍を牽制する一手をオネストは打った。

 

「そもそも今回の騒動は、サイキュウが勝手に行ったことでありイェーガーズのクロメに関しても所属していた暗殺部隊としてのもの。

私は関与していません。帝具マスティマと八房は差し上げますし、サイキュウは今回の件で処刑します」

 

 骨を断たせる代わりに肉を切るような行動は不本意だが、革命軍に標的として知られているサイキュウの犠牲は必要だ。

ここまでしないと民衆の怒りは収まらないだろうとオネストは判断した。

帝具ロンゴロンゴを使える人間は限られているが、苦肉の判断だ。

どう出ますかねえ、とブドーの出方を伺うオネスト大臣は、ブドーが殺気と帝具を収めるのを見てほっとする。

 

「いいだろう、今回はそれで手打ちとしよう。サイキュウは貴様の右腕の一人と聞いた」

 

 ここでオネストを殺すつもりは、実はブドーにもなかった。

全面戦争を起こすのは簡単だが、タツミ達が負傷し八房とマスティマの所有者が見つかっていない今、エスデスの兵と事を構えるべきではない。

責任者を引きずり出し、オネスト大臣の勢力を更に削ぐ。これがロクゴウと話し合って決めた落とし所。

 

「しかし決して忘れるな、戦場で戦わん貴様には理解できんかもしれんが、兵士の命は一つだけだということを!」

 

 オネストを一喝するブドーは、身を翻してオネストから姿を消した。

後に残されたのは、巨大なハムを頬張りながらも自分の足元が徐々に崩れていくのを感じるオネスト。

 

「強引な手に出たのがまずかったですかねぇ……」

 

 サイキュウを差し出さなければ、民の怒りが内側から帝国を飲み込み革命軍が勝利する。

サイキュウを差し出せば、下手なことをするとオネスト大臣に切り捨てられると感じた臣下達が裏切る可能性が増す。

革命軍とブドー派閥、どちらかだけなら対処が楽だがこうなってしまっては厳しい。最強のエスデスが味方に居るのが唯一の救いであるだろうか。

真綿で徐々に自らの首が締め付けられるような感覚をオネストは味わっていた。

 

 

 翌日オネスト大臣の下に、ナイトレイドの一人を討ち取ったエスデスが帰還する。

事の顛末を知ったエスデスもまた、怒りを募らせていた。

それはランの造反を読み取れなかった自分への怒りであり、暗殺を強要したオネスト大臣への怒り。

結果的に帝具を2つ奪われ、部下達が殺し合う羽目になってしまった。

 

「オネスト、私がお前の味方をしているのは飽く迄も利害が一致しているからだ。それをお前は理解しているのか?」

 

 部下には優しいエスデスだからこそ、今回の一件に関しては憤怒とやるせなさを隠し切れない。

密かに恋愛感情を寄せていたクロメの死亡、そしてランが裏切りクロメと殺しあった事実を知ったエスデスの部下のウェイブは強いショックを受けていた。

ウェイブの言動が切欠でランが裏切ったことは状況から見てほぼ間違いない。

それに加えて良識派のタツミ達を殺そうとした暗殺部隊、ひいては帝国に対する疑問が浮かぶ。

今のウェイブには、帝国に関する軽い不信感が生まれつつあった。

部下のその感情を察知したエスデスは頭を悩ませていた。革命軍に加わることはないだろうし、クロメを殺したタツミの味方にはなるとも考えづらいが良くない傾向であることは間違いない。

 

「……分かっています、これからも働いて貰いますよ」

「それなら良い。これ以上私を失望させてくれるな」

 

 鋭くオネストを睨み、殺気を振り撒き立ち去ったエスデス。オネストは胃をキリキリと痛めていた。

 

(そもそも貴方がタツミに恋など抱いて右腕の治療をしなければこうなっていませんでしたのにねえ!)

 

 エスデスとの関係も危うくなってきた、この状況なら羅刹四鬼を常に身辺につけておくべきだろう。

幸いにも早めに手を打った大臣の手先であるボリックによって安寧道の教主は既に殺害しており、武装蜂起を未然に防ぐことはできている。

後は各地の内紛を押さえ込めば帝国が割れている今、革命軍もうかつに手出しできない筈だ。

 

「それでも最後に笑うのは、私です」

 

 皇帝を幼い頃からの洗脳によって傀儡と化すことができている現状、シコウテイザーはほぼ自らのものと同じであることは間違いない。

至高の帝具の存在が、大臣の精神を保たせていた。

腐敗した貴族の大半は私腹を肥やすオネストの味方である。

一方間接的にサイキュウを葬ったブドー派閥は益々民衆の支持を集めている。

革命軍もこの状況で慎重であり、内部の混乱を統一させつつ機会を伺っている。

 

どの勢力が最終的に勝利するのか。それはまだ分からない。

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