前話の最後を一部だけ変更しました。
ナイトレイドとイェーガーズの戦闘から数日後の早朝の出来事。
仲間になったばかりのチェルシーが死亡し帝具であるガイアファンデーションまで奪われた。
標的3人の暗殺任務も分断策によって失敗してしまい、どこか意気消沈としているナイトレイドの面々を集めていつものように葉巻を銜えたナジェンダが密偵部隊から受け取った情報をメンバーに伝え始める。
「ニュースが2つある。革命軍が安寧道の武装蜂起に乗じて帝都に進軍し、革命を起こそうとしていたことは以前話したな?その安寧道の教主が、オネスト大臣の息が掛かった者の手で殺害された」
ブドー派閥の存在により民衆の帝国への希望と共に現状の不満は募っている。脅威を恐れたオネストが、早めに手を打ったということだろう。
革命軍ははっきり先手を取られたことになる。これは大きな痛手であることに他ならない。
「宗教の力は大きいね。善行の積み重ねが幸福になるというシンプルな教えに人は集まるし、帝国の現状を変える原動力にもなるってことか」
ナジェンダの副官だったラバックが補足するように話す。この武装蜂起の失敗によって革命を決行するタイミングは遅れる。
「しかし現状のままだと必ずどこかで民の怒りは爆発する……はずだったのだが、もう一つのニュースにより状況は変化しつつある」
どこか複雑そうな表情のナジェンダ。疑問を顔に浮かべたナイトレイドのメンバーに、ナジェンダが情報を伝える。
「帝国の暗殺部隊……ここに居るアカメが革命軍に来る前に所属していた部隊。
それが動き、設立者のサイキュウの指示により、演習中のブドー派閥のタツミとロクゴウ将軍を部隊ごと抹殺しようとした。丁度私達がイェーガーズを誘い出そうとした日だな」
暗殺部隊、因縁であるその名前を聞いて身を硬くするのはアカメ。それならクロメがイェーガーズに居なかった理由に説明がつく。
疑問が解かれて納得する他のメンバーを横目に、ナジェンダに恐る恐る問いかけるアカメ。
暗殺部隊が成功しても、失敗しても今の拮抗状況が大きく変化することは間違いない。
「……結果はどうなった?」
アカメがのめり込んでいるのは、やはり妹に関係する出来事だからだ。
ナジェンダの返答を聞こうとするアカメは、自分の声が震えている事実に気付かなかった。
ナジェンダは葉巻を口から離して結論を答える。何であれ事実は正確に伝える必要がある。
「イェーガーズのランが裏切り、ブドー派閥についた。その結果暗殺部隊は全滅しクロメとランは死亡。
ロクゴウ将軍の部隊も壊滅しロクゴウ将軍とタツミも重症を負い、暗殺部隊設立者のサイキュウは大臣の手により処刑された」
「……そう、か」
短く、飲み込むように呟くアカメ。クロメが、死んだ。
死と隣り合わせの部隊に所属していたのだから、いつかは起こり得ることとは覚悟していた。
しかも相手は帝具使い3名、こうなってしまうのは仕方がないことだろう。そう、仕方がない……。
顔を押さえて俯くアカメ。世界一可愛いと思っている妹の死を、そう簡単に割り切ることができる筈もなかった。
真っ青なアカメを目にしたナジェンダは、しかし淡々と事実を話す。
「サイキュウという大臣の右腕が死亡し、ブドー派閥が勢力を拡大している。
それにより民が武装蜂起しようとする動きは収まりつつある、現状はこうなっているな」
もしサイキュウが処刑されなければ革命軍が民の怒りを煽り、武装蜂起を起こさせる予定だった。
オネストが安寧道の教主を殺害し、サイキュウも処刑したことで革命軍の動きは封じられた。
国がオネスト派とブドー派に別れており革命軍も揺れているこの状況で、城主を納得させ迅速に無血開城して帝都に進軍することは最早不可能に近い。
「状況を言おう。イェーガーズ二名の死亡もあり革命軍内部は徐々にブドー派閥と和平交渉を望む声が増えてきている。
大臣の右腕であるサイキュウの死亡はそれだけ大きいということだ。
オネスト大臣派がブドーによって粛清される可能性が高いと元将軍達が見積もり始めた」
革命には多くの人の血が流れる。革命軍の元軍人達が革命よりもブドーに賭けるのも、この状況では無理もないことだった。
「オネスト大臣達が死亡し悪法が無くなれば、私達が革命を行う必要はなくなる。
複雑かもしれんが堪えてくれ、国が変わるまで後一歩だ」
ナイトレイドが何をせずとも、この状況なら国が変わる可能性は高い。
それでもレオーネがタツミに殺害されたこともあって納得できていないメンバー達に、ナジェンダが切り替えを促し話を終了した。
作戦会議が終了し、妹の死亡報告を聞いたアカメがフラフラと自室に戻ろうとする。
アカメを心配して駆け寄るラバックとナイトレイドのメンバー達に、アカメが手を前に出して静止させた。
「すまない、一人にさせてくれ」
アカメは一人で自室に姿を消した。彼女が立ち去った後には、くっきりと地面に涙の跡が残っていた。
ラバックは項垂れながらもマインに口を開く。仲間の涙を見ているのに何もできない気持ちの整理をする為でもあった。
「チェルシーちゃん、口は悪かったけど大切な仲間だったよな……それに加えてこれはアカメちゃんにとっては辛いだろうね」
「妹に関してはせめて自分の手で楽にしてあげようって思ってたみたいだし、無理もないわね」
アカメは、クロメを殺すなら自分だと思っていた節があった。
親友であるレオーネと妹のクロメを殺され、仇を取ることもできない。
アカメがこの状況で大きなショックを受けるのも無理もないことだった。
暫く悲しみを癒す時間が必要だが、ナイトレイドはもうお役御免になるかもしれない。
「国が内側からタツミ達の手によって変わる、か」
ラバックが天井を見上げて呟く。実感が沸かないが、サイキュウが死亡し、切り捨てられることを恐れた大臣派もブドーに鞍替えを始めている。
ブドー派閥が革命軍と講和を結べばこの状況では、オネスト大臣の詰みの筈だ。
不可能だと思われていた内側からの国の変革が実現されようとしている。
国が変わり天下泰平の時代の訪れをラバックは感じ取る。
「これで終わりなのか、本当に?」
その数ヵ月後、ブドーと革命軍のリーダーは文でのやり取りにより講和を結び、勢力を拡大したブドーは内部からオネスト大臣達を粛清。天下泰平の時代が訪れる―――
―――その筈だった。
オネスト大臣のこの危機に大臣の息子である帝具シャンバラを所持するシュラが、帝具使いの精鋭5人を引き連れ帝国に帰還する。
同時に最高の科学者であるスタイリッシュと錬金術師ドロテアが邂逅する。
ワイルドハントが結成され、4つ目の帝具使いたちのグループが現れるその意味を、まだ誰も理解していなかった。
オネスト大臣の反撃が、静かに始まろうとしていた。