ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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反撃を斬る

「ブドーが順調に勢力を拡大していますねぇ」

 

 昼間の宮殿でオネスト大臣は、椅子に座り巨大なハムを頬張りながら他人事のように状況を整理する。

サイキュウが処刑されたことにより、オネストを見限った内政官や一部の将軍達が鞍替えを始めている。

タツミやブドーと戦いたいだけであるエスデス将軍も、オネストを粛清から守るとは考えづらい。

しかし宮中の立場が奪われ自らの身が危険となっているそんな状況にも関わらず、オネストは冷静だった。

 

「ずいぶんと余裕だな。親父でも、この状況はヤバイんじゃねーの?」

 

 机を挟んでオネストと会話をしているのは顔に大きな十字を斜めにしたような切り傷がある、引き締まった体格の青年。

大臣の息子である青年、シュラである。息子の素朴な問いかけに、オネストは大きなハムを一枚飲み込み返答する。

 

「いざとなれば掌を返し裏切るような輩など必要ありませんね。シュラ、私の指示は守っていますか?」

「何もできてねえからドロテア以外は全員ストレスが溜まってるぜ。死刑囚をいくら甚振った所で面白くもねえしな」

 

 シュラが帝具使いの集団ワイルドハントを結成したものの、ブドー派閥が睨みを利かしているこの状況では民衆を玩具にすることもできず普通の治安維持の秘密警察として動かざるを得ない。

錬金術師のドロテアはスタイリッシュと出会い意気投合、彼の実験室に篭り何やら怪しげな研究をしている。

しかしそれ以外のメンバーは好き勝手できない状況に満足できず、苛立ちを感じていた。

 

「我慢して下さい、革命軍の動きがここ最近不自然に落ち着いています。恐らくもう少しですね」

 

 ブドー派閥が誕生し、武装蜂起の芽も摘んだ。革命軍の動きを完全に封じている今だからこそ、革命軍の行動は読みやすい。

恐らくブドーと和平を結ぼうとしている。その動きは政治手腕に長けているオネストにとっては見えていた。

基本的にブドーは宮中を闊歩している。それはブドーが常に宮殿内に居ることにより良識派の内政官を守っているからであり口では状況が変化したと言いつつも皇帝を守護するという家訓を忘れていないためである。

しかし一番の理由は、やはりブドーに勝利できる人間がエスデスぐらいしか存在しないというただそれだけのことである。

 

「証拠を掴むまではもうすぐです、この状況でシュラの帰還を読みきった私の計画に狂いはありません。しっかり働いてもらいますよ」

「決行時に俺以外のワイルドハントのメンバーは宮殿の外に出しておくぜ」

 

 大臣の作戦は、極めて単純なものである。しかしこの状況であれば限りなく有効であった。

 

 数日後反乱軍とブドーとの密約の証拠を掴んだオネストは、シュラに作戦決行を伝えた。

シュラ以外のワイルドハントのメンバーが宮殿から離れ、ワイルドハントがリーダーのシュラ一人になる。

シュラは、物陰から堂々と一人で宮殿内を出歩いているブドーを見てほくそ笑む。ロクゴウとタツミの姿は近くになく、ワイルドハントが外出しており警戒は薄い。

恐らく護衛はいるだろうが、それも最低限のものだ。ブドーは大将軍であり、実際エスデスと近しい実力を有している。

シュラも一対一では当然倒すこと等できない。しかし今回、ブドーを倒す必要はない。

物陰に隠れているシュラの存在も、ブドーには当然気付かれているだろう。恐らくシュラに襲い掛かられるのを待っている。

この状況で大臣の息子であるシュラがブドーを襲撃すれば、オネストを粛清する口実にできるからだ。

 

「おらよ!」

「貴様、一対一で私に勝てるとでも思っているのか!?」

 

 ブドーに向けて物陰から躍り出て走り出すシュラ。一見自殺行為であるその行為、それを埋めるのが帝具の性能である。

アドラメレクを構えるブドーは、自身に襲い掛かってくるシュラに瞠目する。シュラは殺気を放っていない。

どういうことだと訝しむブドーは、帝具を地面に押し付けるシュラの行動を許してしまった。

 

「遠隔攻撃か!?」

 

 その場から離れようとするブドーだが遅かった。シャンバラの範囲は広い。白黒の図形が地面に広がっていく。

ブドーは帝具の中で5本の指に入ると言われる帝具、次元方陣シャンバラの性能を、知らなかった。

エスデスがオネスト大臣がシュラに指示として言いつけたこと。それは帝具シャンバラを一切使用しないことだった。

シャンバラの奥の手。それは相手をランダムで世界のどこかに飛ばす、というもの。

ブドーがどこに飛ぶかは分からないが死亡することは恐らくないだろう。しかし余程のことがない限りは宮殿から遠くに飛ばすことができるのは間違いない。

 

「ぐあああああ!!!」

 

 いくら屈指の実力者と言えども、全くの初見であれば対応できずシャンバラの性能には抗えない。

魔方陣に飲み込まれたブドーは、一瞬で宮殿内から姿を消した。

 

「大変だ!」

 

ブドーの護衛達が、ロクゴウに状況と危機を伝えようとする。

 

「俺は奥の手で疲れちまったから後は頼むわ」

 

 シュラが欠伸をかいて指示をする。彼らの息の根は、一瞬で止まることとなった。

顔に傷があり髪留めを鈴にしている女、羅刹四鬼の一人であるスズカが護衛達を壁に叩き付けて肉塊に変える。

 

「できれば反抗して痛めつけてほしかったけど、仕方ないわね」

 

 被虐願望があるスズカからしては物足りないが、大臣からの言いつけは守る必要がある。

 

「これ、親父を超えたと言っても間違いじゃねえんじゃねえの?」

 

 鼻歌を歌い、機嫌が良いシュラ。帝具の性能でゴリ押ししただけであるのだがそれでも齎した成果は大きい。

大金星を挙げオネストに報告したシュラは宮殿の外のワイルドハントの面々にもうすぐ自由にしていいぞ、と伝えに行った。

 

 

 ブドー大将軍が宮中から忽然と消失した、そう聞かされたブドー派閥の衝撃は凄まじかった。

同時に大臣は皇帝に、革命軍がブドーと繋がっていた証拠である文書を提出。単独で革命軍側についたのではないかと囁く。

ブドーに落胆した皇帝はオネストの話術に誑かされるままにセイギ内政官を始めとしたブドー派閥の良識派や裏切り者を連座制で処刑していった。

ロクゴウ将軍とタツミがブドー派閥を立て直そうとするも、革命軍と和平を結ぼうとしていたこと、つまり繋がりを持とうとしたことは紛れもない事実であり反論できない。

 

 帝国2強と言われるブドーの強さ、それに対する信頼はとてつもなく大きく、それ故にブドーが消失した影響は大きい。

ブドー派閥の最大の弱点、それは筆頭であるブドーに名声を依存しているということ。リーダーが行方不明になった今、彼らの力は脆かった。

特にブドーに期待している民の失望は大きく、帝都内でさえ暴動が起き火の手が上がる程だった。

 

「あーあ、怒り狂ってやがる。いい女もいねえしつまんねえの」

「江雪、馳走の時間だ」

「安らぎの歌を聞いて下さい!」

「天使がいねえ……ダリィな」

 

 ワイルドハントの面々は、鬱憤を晴らすかのように情け容赦なく暴動を起こす民衆を皆殺しにしていった。

逆らった男達の家族を特定し、女子供を犯して回る。曲がりなりにも治安を守っている以上、イェーガーズも表立って口出しすることはできない。

ブドー派閥による内側からの国の変革、その夢は今ここに消え去った。

 

「安心して下さい。エスデスがタツミ達を気に入っている以上、今は生かして差し上げますよ。

革命軍を潰してもらいます。ブドー大将軍が帰還したとしても、もう手遅れでしょうねえ」

 

 良識派の粗方を処刑し終わったオネストは、ハムを飲み込みながら権力を取り戻し、余裕を顕わに悪魔のようにケタケタと笑っていた。

 

 革命軍は和平を諦め、再び革命のために動き出す。そして帝都の民衆を過剰に虐殺しているワイルドハントを始末する案件をナイトレイドに依頼。

内部からの変革が不可能だと判断しタツミとロクゴウ将軍も、敵対するようなら殺害していい旨を伝えた。

革命軍と同盟を結んでいる西の異民族が帝国に押し寄せ、エスデスが嬉々として討伐に向かい帝都から離れる。

そして各地の武装蜂起を抑えるために、ブドーの近衛兵を代わりに引き連れたロクゴウとタツミも又帝都から一時的に居なくなる。

 

ナイトレイド、イェーガーズ、ブドー派閥、ワイルドハント。

 

 後一歩で天下泰平の世になる筈だった。しかしそれは夢幻に過ぎなかった。

ワイルドハントのシュラの暗躍により、勢力は完全に4つに分かれる。

それぞれ相容れない思想を持つ彼らは、お互いを敵と定め、殺し合いを開始する。

 

地獄の門は開かれた。血を血で洗う帝具戦が再び始まろうとしていた。




シャンバラの奥の手の詳細はコミック11巻の後書きにあります。
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