ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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じっくりと進めます。


船旅を斬る

 灼熱の日が照りつける中、馬に乗りブドーの近衛兵を率いてロクゴウとタツミは進軍していた。

帝国領土の各地の内乱は、ブドー派閥に対する失望によってあちこちで起こっていた。希望が大きかった分、それを失った時の怒りも深まる。

ブドー派閥がそれだけ民からの期待を背負っていたということだろう。

兵を率いながら、ついに将軍位まであと一歩、大佐クラスの権限を持つに至ったタツミがロクゴウ将軍に問いかける。

 

「残してきた僅かな良識派の内政官が心配ですね」

「あそこに居ても状況が好転する訳でもねえからしょうがねえ。俺達に対する人質みたいなもんだな」

 

 心配そうなタツミに、頭をガリガリと掻くロクゴウが苦々しげに変事を返す。

利き腕である右腕をクロメによって斬りおとされていたロクゴウだったが、ライオネルの治癒能力と帝国の医療技術により右腕はくっ付き完全に治癒することに成功していた。

 

「幸いにも各地の内乱は小規模のものだし、ブドー大将軍の近衛兵を指揮する機会ができたと考えろ。将軍になるタツミにとっては大きな経験になる筈だ」

「……はい」

 

 それでも真面目故にどこか意気消沈としているタツミに、ロクゴウが自身の後頭部を軽く叩いてどうしたもんかね、と考えを深める。

 

「ブドー大将軍は恐らくどこかで生きている。革命軍についたなんて嘘に騙されるのは大臣に洗脳されてる皇帝くらいのもんだ。大臣の性格なら死んでりゃ生首でも晒す筈だからな」

「俺もあのブドー大将軍が簡単に死亡したとは考えづらいと思っていました」

 

 革命軍と通じていた明確な証拠があった以上、死んでいるなら首を晒させる筈だ。

それを態々周りくどい方法を取っているということは、ブドーがどこかで生存しているということ。

 

「どんな手品かは知らんがブドー大将軍が宮殿内に居なかった以上、何らかの方法で隔離されてると見ていい。今はブドーが戻ってくるまで耐えるしかねえ」

「今は我慢の時間、ということですね」

 

(良識派がどんどん殺されていくのに、このまま耐えるしかねえのか……)

 

 タツミは現状を嘆く。内部から帝国を変えることが困難となった今、革命軍寄りの方法になるが近衛兵を直接率いて宮殿に攻め入るというのも一つの選択肢に入ってくる。

しかしブドーによって鍛え上げられた近衛兵は、ブドーが帰って来ない限りはそんなロクゴウの指示に従わないだろう。

従ったとしても全力が出せず、エスデスの軍隊に食い破られる未来しか見えない。

もし革命軍との戦闘中にブドーが戻ってこなければ、圧倒的に不利な状況で戦うことになってしまう。

暗い顔で頷いたタツミに、ロクゴウは穏やかな微笑を見せる。

 

「なあに、エスデス軍が西の異民族との戦いで疲弊していれば勝機はある。それに一つ朗報がある。ナジェ達が何を考えてるかはしらんが恐らく―――」

 

ロクゴウは、この状況で分かりきった事実を述べる。

 

「―――この状況では革命軍の勝機は薄い」

 

 ある意味で国を変えるための手段の一つがほぼ断たれているというという、客観的に見た現実をロクゴウは告げた。

 

 

 午後2時頃、穏やかな日差しが眠気を誘う心地良い気温の中、ナジェンダとスサノオを除いたナイトレイドの面々は日向ぼっこをしながら同じ室内でのんびりと過ごしていた。

 

「できた」

 

 アカメが完成させ持ち上げて見せたのは、紙で作られた船の模型。昔の仲間から作り方を教わったそれを、アカメは自慢げに両手に持ち皆に掲げて見せる。

 

「おお、迫力があるな!」

「凄いです!私は作れる気がしません」

 

 真っ先に身を乗り出して食いついたのはブラートだ。彼の男心を擽ったのだろう。

一方天然のシェ―レは不器用であるため、自分では製作は無理だと諦める。

 

「私も仲間から教わっただけだ、シェーレもいずれ作れるようになる」

「……そうですね。アカメ、ありがとうございます」

 

 アカメは真っ直ぐにシェ―レを見据えた。天然で不器用というだけで自らの可能性を狭めてしまうのは勿体無い。

シェーレもアカメの気持ちを汲み取って、礼を言い頭を下げてお辞儀をした。

 

「なあ皆、革命が終わったら、全員でこんな船に乗って未知の世界に船旅に出かけないか?きっと楽しい旅になるだろう」

「大航海!荒れ狂う波に立ち向かうのか!アカメも漢心を分かってるじゃねえか!」

「確かに楽しそうですね!」

 

 アカメの提案に拳を握り締め顔付近まで振り上げたブラートはキラリとした歯を見せる。

シェーレもはしゃぎ手を合わせて賛同した。そんな三人に、ラバックがソファで寛ぎながら別意見の声をかける。

 

「その前に、俺は国の外を見てみたいかな。国交が開けばその機会もあると思うし」

「そうね、アタシもそっちの意見だわ。国外を見終わったら、皆で船旅するのも悪くないと思うけどね」

 

 異民族のハーフであるマインにとっては、国外まで平和を見てから船旅をしたいという考えは当然である。

息ピッタリなラバックとマインの二人。もしこの場にレオーネが生きていれば、二人の相性をからかうだろうか。

チェルシーが生きていたら、今からそんなことを考えるなんてやっぱり皆甘いと呆れただろうか。

 

「俺はすぐに荒波に繰り出したいけどな!ラバックなら、俺の気持ち……分かるだろ?」

「分かりたくないですハイ」

 

 何故か頬を染めてラバックににじり寄るブラート、早口で否定しながらも後ずさるラバック。

 

「……お二人は何をしているのでしょう?」

「シェーレは永遠に知らなくていいことだと思うわ」

 

 マイペースに首を傾げるシェ―レと、呆れているマイン。そんな4人の楽し気な遣り取りを見て、アカメはクスり、と笑みを溢す。

 

「国外にも、航海にも行こう。革命が成功すればナイトレイドは不要になる。ボスとスーさんも入れて必ず皆で、約束だ」

 

「うん」

 

 その場に居る4人は、笑顔でアカメに向かって強く頷き肯定した。

皆革命によって齎される、天下泰平の時代をそれぞれ願っていた。

 

 

ナジェンダが険しい表情で、メンバーを集めて案件を話す。

 

「今回の標的は、大臣の息子シュラが設立した新しい組織。秘密警察ワイルドハントだ。

ブドーが行方不明になったことにより、内紛を起こした帝都の民を必要以上に殺戮し、その家族、それだけではなく知人にまで理由を付け犯すという悪逆非道の限りを尽くしている」

「正に下種。アタシ達が手心を加える必要はないみたいね」

「相手は殆ど帝具使いとの情報が入ってきている。しかし帝都の中に入り、強引にでも仕留めろとの通達だ」

 

 ブドーが行方不明になったことにより各地で内紛が発生。それに乗じて革命軍と同盟関係であった西の異民族が、帝国と戦争を始めた。

内紛はあちこちで起こっているものの安寧道の武装蜂起程は大きくない。やはり宗教の力は大きい。

ブドー派閥の存在により危機感を感じたオネスト大臣に先手を打たれた状況が、革命軍にとってはかなり痛手だった。

ブドー派閥と和平を取り決めようとした矢先のブドーの行方不明であり、革命軍の内部も混乱している。

迅速に無血開城もできない状態であり、残念だがこのままでは革命が成功する公算はかなり低い。

帝国を守る要であるシスイカンを革命軍が突破する前に、エスデス軍が西の異民族との戦いを治めればアウトだ。

 

「私が帝都に入る訳にはいかないため全力を出せないスサノオも必然的に連れて行けない、ラバック達5人で任務を遂行してくれ。

危険だが重要な任務だ、ここで大臣の力を確実に削がなければ革命は間違いなく失敗する。確実にワイルドハント全員を仕留めろ!」

 

 今一番有利なのは革命軍ではない。ワイルドハント、イェーガーズ、羅刹四鬼等を有する大臣である。

ナイトレイドは残り7人、数の上では一番有利といってもここから先の戦いは途轍もなく厳しく困難だ。

それでも、強攻策だとしても任務を遂行するしかない。ラバック、マイン、アカメ、ブラート、シェーレの5名がアジトから駆け出し帝都に向かう。

 

 ラバック達ナイトレイドはナジェンダの指示によりワイルドハントを殲滅する為に動き出した。

 

ナイトレイドとワイルドハントの全面戦争。大規模な帝具戦がここに幕を開ける。

 

果たして死ぬのは誰か、生き残るのは誰か――?

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