ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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決意を斬る

 日が落ち、夜となった帝都内で睨み合う三つの陣営。丁度正三角形の形である。完全なる三つ巴であり、お互いが誰に対しても油断することなく明確な隙を見せず迂闊に動けない。

その中で一人だけ、明らかな闘志を剥き出しにしている男が居た。イェーガーズのウェイブだ。

ウェイブはルビカンテを噴出するボルスを徹底的に護衛することに専念し、周囲に殊更に気を配っていた。

 

「ナイトレイド、ワイルドハント、かかってこいよ。俺のせいでクロメとランは死んだ。これ以上俺の失敗で仲間を失う訳にはいかねえ!」

 

 凄まじい気迫をビリビリと感じ取る面々。隙のないウェイブの立ち振る舞いに、一瞬でシェ―レを倒された理由をラバックは理解しつつあった。

今のラバックはエスデスと近接戦闘で時間を稼げる程に強くなっている。だからこそウェイブの実力を肌で感じとることができた。

メンタルに難があるウェイブの精神は安定し、ブラートが負傷している今現在止める者はおらず絶好調な状態である。

 

(甘く見ていたつもりはないんだけどな……)

 

 ラバックは歯噛みする。この状況で一番厄介なのは間違いなくウェイブとボルスのコンビだ。

ボルスもナイトレイドの標的だが、今回のナイトレイドの任務はワイルドハントの殲滅。

無理をしてまでイェーガーズを倒すより、先にワイルドハントを確実に始末することが懸命だとナイトレイドの全員は判断した。

 

「ここは一旦引くぜ、すぐに戻ってくる!」

 

 チャンプの爆の球によって負傷したブラートが、気絶したシェ―レを抱えたまま素早く離脱しようとする。

牽制のためラバックはボルスに向けてクローステールの糸を伸ばし、マインはチャンプに向けてパンプキンを構え、エネルギーを発射した。

 

「仲間が一人一瞬でやられ、もう一人は庇って自由に動けない……これはピンチ!」

 

 パンプキンの能力、ピンチであるほど威力が増すという力の定義はかなり曖昧だ。

適合者の解釈の違いによって精神エネルギーを元とし、銃口から発射されるという扱いずらさ。

ある意味ではネガティブにならなければ使いこなせないその武器を、マインは完全に使いこなしていた。

ボルスを絡めとろうとする糸はルビカンテであっさり焼き払われるが、一方チャンプに向けて放たれたエネルギーは威力が高かった。

 

「おっとっと、危ねえな」

 

 太った体形だが、意外にも機敏な動きのチャンプはステップでエネルギーを回避し、シェーレを抱え跳躍してその場を去ろうとするブラートの背中に向けて腐の球を投げた。

命中するとそこを腐らせる腐の球を投げたチャンプの判断は正しい。生物の鎧を纏っているインクルシオが腐らされれば大打撃だ。

ブラートは背中に迫ってくる球に反応し、ノインテーターの槍で球を弾くがその代償は大きかった。副武装が腐り、使用不可能になってしまう。

ブラートは武器を犠牲にして、その場から逃亡することに成功した。

 

 舌打ちをしたチャンプは、残りのナイトレイドとイェーガーズに意識を戻す。

マインの銃弾は尚もチャンプに襲い掛かり、チャンプは機敏に動きながらダイリーガーを振りかぶる。

三つ巴であり、斜めからのマインの銃撃を避けて迎撃しようとしているこの状況で、背後に気を配る余裕はチャンプにはなかった。

 

「葬る」

 

 振りかぶったチャンプに、後ろから気配を最大限に殺したアカメが襲い掛かり村雨を振るう。

標的を始末することにのみ集中したアカメの不意打ちを回避することができる人間は限られている。

直前で気付いてその場から離れたチャンプだったが、刃がダイリーガーを投擲しようとする右腕を掠め僅かに皮膚を切った。

 

「ハア、ハア。残念だったな……何だよこれは!?」

 

 別の国から来たばかりのチャンプは、一斬必殺である村雨の能力を知らない。

呪毒の模様が体内を巡ることでやっと異変に気付けたが遅く、呪いが心臓に達して倒れ命を失った。

これで、今ここに居るワイルドハントの残りはウェイブの蹴りで負傷したシュラのみ。三対二対一の状況でシュラはじりじりと追い詰められる。

ワイルドハントが標的のナイトレイドは勿論のこと、ボルスの奥さんを害すると明言したシュラにイェーガーズが容赦することは在り得ない。

この状況でナイトレイドとイェーガーズが真っ先にシュラを倒そうとするのは当然であった。

 

「チッ……覚えてろお前ら、親父に働きかけてイェーガーズを解散させてやる!」

 

 シュラは血走った目で唾を吐き捨てるとシャンバラを地面に叩き付け、宮殿に転移し逃亡した。

残念ながら使うなと言い含められているシャンバラを使用し、帝具を2つも失い無様な戦果のシュラの望みは叶えられることはない。

しかしそれを知らないウェイブとボルスは、消えたシュラを一瞥しナイトレイドの三人に神経を注いだ。

 

 ナイトレイドは決断を迫られることになった。ここに帝具が二つある以上、回収する陣営がどこになるかによって大きくこの後の戦局が変化する。

ウェイブの気迫は相変わらず凄まじいものであり、迂闊に手を出すのはリスクが高い、しかし今の革命軍に余裕がない以上帝具は喉から手が出るほど欲しい。

ラバックとウェイブの視線が交錯する。ラバックが下した結論は戦闘の続行だった。

互いの信念が衝突する。

 

「二対三であろうと、俺達はお前を倒す!」

「悪いけど、引けないのは俺たちも同じなんだよね」

 

 アカメがウェイブに斬りかかる。斬撃が命中するものの、しかし村雨はグランシャリオの鎧を突破することはできない。

ラバックの糸がウェイブを絡め取り拘束しようとするものの、ウェイブが下半身に力を入れ踏ん張るだけで糸が引き千切られ突破されてしまう。

ウェイブの攻撃はアカメに当たらないものの、アカメも決め手がない。深追いするとボルスの炎の餌食となる。

この状況でウェイブは、マインとボルスの帝具の打ち合いに気を配る余裕すらあった。

 

(ボルスといい、コイツといいクローステールと相性が悪すぎる……!)

 

 ラバックは戦況の悪さを感じつつあった。例え糸を束ねて武器にして近接戦闘を挑んでも、糸の武器がグランシャリオを突破することができない以上決め手がない。

斧に変化させれば砕くことができるかもしれないが、慣れない武器で挑んで勝てるような甘い相手ではない。ボルスの存在もまた、ナイトレイドに大きなプレッシャーを与えていた。

相手の連携は見事なものだ。村雨と同じく掠るだけで致命傷のボルスの炎はラバックを常に牽制し、マインのエネルギーと相殺し合っている。

イェーガーズはやはりかなりの強敵だ。完全に戦いは拮抗しておりもたついていると帝都警備隊も集まってくる可能性がある。

 

「深追いは危険、ここは撤退だ」

 

 真っ先に決断したのは標的抹殺が優先のアカメだった。ウェイブと隣接している状態からウェイブの拳を村雨で受け流し、その勢いのまま後退する。

 

「逃がすかよ!」

 

 なおもアカメに襲い掛かろうとするウェイブを、ラバックのクローステールの糸が阻む。マインもボルスの足元を銃撃し、牽制する。

ラバックの糸は引き千切られ続けるが、ウェイブの足止めをすることはできた。

右手で操る糸でウェイブを足止めしながら、左手の糸で空中に足場を作ったラバックの糸を踏み、三人はイェーガーズに背を向ける。

 

「グランフォール!」

「界断糸!」

 

 飛び上がってアカメを追撃をするウェイブの必殺技の蹴りにあわせ咄嗟に決して切れない糸を張ったラバック。

ウェイブの蹴りは、界断糸に弾き飛ばされアカメに届くことはなかった。

ボルスのマグマドライブが発射されるものの、それも糸で盾をつくりラバックは防ぐ。

ナイトレイドの三人は、空中を駆け姿を消した。

 

「逃がしちまったか。でも帝具は無事に回収できたな」

「……イェーガーズ、本当に解散になったらどうしよう」

 

 警戒を解きため息をつくウェイブに、今後を心配するボルス。結局ワイルドハントを敵に回すことになってしまった。

しかしそんなボルスの心配を吹き飛ばすように、ウェイブは朗らかに笑った。

 

「さっきワイルドハントに啖呵を切ったボルスさん、カッコよかったです!隊長が作ったイェーガーズです、きっと何とかなりますよ!」

「ウェイブくん、私もこうなってしまったことに後悔はないよ」

 

 励ましあうウェイブとボルスは、共にワイルドハントを打倒することを誓ったのだった。

 

 

 一方気絶したシェーレを抱えたブラートは、爆の球で負傷した全身に鞭を打ちながら、走り念のため定めていた合流地点に向かっていた。

 

「あれ、私は確か……何をしてたんでしたっけ?」

「無事か、良かったぜ。でも任務中だ気合しっかり入れろよ?」

「すいませんブラート、大丈夫です一人で歩けます」

 

 抱えていたシェーレが、目を覚ます。ブラートは意識が戻ったばかりで相変わらず天然ボケしているシェーレに苦笑しつつ喝を入れた。

シェーレは謝る。気絶してはいたものの、負傷は特にない。

ブラートの全身の傷に、足を引っ張ってしまったことを察したシェーレは心配するブラートを制して腕の中から離れ、一人で立ち上がった。

そんな二人の前に、立ち塞がる存在があった。真っ先に気付いたブラートがシェーレを庇う様に前に出る。

 

「久しぶりですね、ナイトレイド。我が名はトビー、お相手して貰います!」

「名乗りを上げるとは熱いな!嫌いじゃないぜ!」

 

 二人の前に現れたのは、丸眼鏡をかけた小柄な男。スタイリッシュの兵士の一人トビーだった。

腕からギロチンの刃を生やしたトビーは跳躍し、右腕をブラートに縦に振るいブラートを真っ二つにしようとする。

拳で向かい撃とうとするブラートは、背筋に悪寒が走る。迎撃を中止し咄嗟に後方にステップして回避したブラートは、トビーの一撃で地面が大きく砕かれたのを見て瞠目する。

その衝撃だけでブラートは、大きく後退することとなった。回避しなければ間違いなくインクルシオごと叩き切られていた。

 

「お前、前戦った時より明らかに強いじゃねえか、どういう手品だ……?」

「その秘密をお教えしましょう。私の性能が単純に強化されたのですよ」

 

 冷や汗をかきながら、トビーに問いかけるブラートに対しトビーはにやりと笑い、額を隠す髪をかき上げた。そこには宝石のようなものが付着している。

ただの石ではない。トビーの額につけられているのは、錬金術師のドロテア秘蔵の賢者の石。

スタイリッシュの最高傑作の戦力であるトビーが、ドロテアの最高傑作の力を得てさらに強化されてしまった。

 

「成る程な」

 

 ブラートは、表面上は余裕そうに笑いながら現状の不利を悟る。今のブラートは負傷しており、ノインテーターも使えない。

二対一だが自分が万全でも五分かもしれない、シェーレがかなう相手でもなかった。

 

「種明かしをした所で、参ります!」

 

 トビーの一撃を回避しようとしたブラートは、足を襲う痛みに一瞬硬直し動きが鈍る。

やむなく両腕を胸の前に出して交差させ、防御したブラートにトビーの拳が突き刺さる。

 

「ガッ……!」

 

 防御の上から吹き飛ばされたブラートを追撃しようとするトビー、ブラートを守ろうとするシェーレ。

自分では敵わない敵を相手にシェーレはこの時点で、覚悟を決めた。勝利できるとしたら一瞬、僅かな隙をつくしかない。

 

「エクスタス!」

 

 エクスタスの光が発光し、トビーの目を眩ませる。以前目にしたことがある攻撃ではあるが、一瞬だけ隙ができた。

シェーレは万物両断の鋏を開き、トビーの胴体を両断しようとする。

エクスタスの奥の手、目くらましの効果は確かに強力だ。しかしシェーレは見落としていたことがあった。

いや、正確には分かっていた。タイミングが分かるとはいっても自分も閃光を食らうことには変わりないという事実。

 

 視界が明瞭でない中、トビーの口から銃口が出てくることにシェーレは直前まで気付かなかった。

しかし気付いたとしても鋏を開いている以上、どうしようもなかっただろう。

 

「すいません」

 

 銃弾が脳を襲おうとする中、シェーレはいつものように謝る。それは目の前で仲間の死を見せてしまうブラートへの謝罪。

そして国外を見る、船旅をするという約束が果たせなかったラバックやアカメに対する謝罪。

 

もし来世があるのなら、その時こそ、皆で一緒に――――。

 

 鋏が閉じられ、トビーを両断する。同時にトビーの口からはえた銃の銃弾が、シェーレの脳天を貫いた。

上半身と下半身を綺麗に両断されたトビーが崩れ落ち、脳が完全に破壊されたシェ―レは足の力が抜け、その場に崩れ落ちる。

 

「シェーレ」

 

 よろけながら立ち上がったブラートは、静かにシェーレの名前を呼び見下ろす。きっとシェーレは、自分が死ねばインクルシオの透明化でブラートが逃げられると思って死ぬつもりで立ち向かったのだろう。

自分のせいでブラートの足を引っ張ってしまった、だからこそシェ―レは決断した。

シェーレは息絶えつつも、なぜか口角を上げ、彼女らしい優しい笑みを浮かべていた。ナイトレイドの皆との船旅を想像したのだろうか?

ブラートを守れたという満足感だろうか?それももう、ブラートには分からなかった。しかしブラートは礼を言った。

 

「守ってくれてありがとうな、シェーレ」

 

 守られ無様に生きながらえたからこそ礼を言う。ブラートはそれを漢らしくない行為とは全く思わなかった。

ブラートは、誰もが報いを受ける覚悟はしていた。だから行動は迅速だった。冷徹にエクスタスを回収し、賢者の石をトビーの額から剥ぎ取り再び合流地点に向かう。

 

暫しの後に彼が立ち去った地面には、僅かに水滴の跡が残っていた。

 

 

――――ナイトレイド、残り6人。

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