ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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力を斬る

 帝都の路地裏で犯人の女と相対したタツミは、相手の隙のない構えから錬度の高さを感じ取っていた。

互いに睨み合いながら、タツミの頬をつう、と一筋の汗が流れる。

 

―――そこらへんのチンピラとはレベルが違ぇ!

 

 タツミは強敵を目の前にして、剣を構えたまま動くことが出来ない。

迂闊に動けば一瞬で叩きのめされるという確信がある。

そして僅かだが、鞘を付けているとはいえ無手の女相手に剣を向ける事への躊躇いもあった。

そのタツミの心境を見透かしたように、女は硬い表情を崩してにかっ、と俺に白い歯を見せた。

 

 「やっぱり甘いな。お姉さんはそういうの、嫌じゃないけど」

 

 その表情に一瞬気が緩んだタツミの隙をつき女は上半身を大きく倒し、地を這う様に駆けてくる。

正確に丹田へ繰り出される正拳突きを、剣を盾にして何とか防ぐ。

タツミはその一撃だけで、剣を握った右手がビリビリと痺れるのを感じた。

 

 「なんつう腕力だ……!」

 

 鉄の塊に拳を打ち付けたにも関わらず、女は痛がる様子はなく拳の殴打は止まらない。

反撃も侭ならず、タツミは剣での防御を続けながらたまらず後退する。

重心が移動したその脚を絡めとろうと女が足払いをしてくるが、軽く跳躍してかわし、タツミは剣を振り下ろす。

女は振り下ろされた刃を、何と両手で掴んで止めた。

絶句するタツミの脇腹に、女の蹴りが突き刺さりタツミは吹き飛ばされる。

 

 空中で血反吐を吐いたタツミは何とか体勢を建て直し、靴底で地面を引き摺って着地した。

 

 「こちとら、力には自信があるんだよね」

 

 剣を支えにして何とか立ち上がったタツミに対してぐるんぐるん、と女は右腕を回した。

 

 「あんまり少年のことは嫌いじゃないんだ。逃げても追わないよ」

「逃げることはできねえな。俺はあの地方の人のために、お前から金を取り返すと誓ったんだ」

「……もっと邪悪な連中が、沢山帝都に蔓延っているのに?」

 

 すっと、僅かに目を細めた女の言葉に対して、タツミはいつの間にか吼えていた。

 

「俺は将軍になるんだ!困っている人一人救えなくて、国を変えるなんてできるかよ!」

 

 タツミは女に対して駆けた。一気に踏み込み剣を横凪に振るう。その勢いで、剣は鞘から抜けてしまっていた。

肉を切り裂いた感覚にしまった、と思ったタツミは、カウンターで放たれた女の貫手をモロに食らい壁に叩き付けられる。後頭部を強く強打し、タツミの意識が遠のいていく。

タツミが最後に浮かんだ感情は、地方の男との約束を守れなかったという悔しさだった。

 

 

 

 

「帝具を見られていない……運がいいな少年」

 

 レオーネは、気を失ったタツミを見下ろして呟く。彼女の頭には、獣耳が生えていた。

深く切り裂かれた脇腹が、百獣王化ライオネルの治癒能力で再生していく。

 

 最後のタツミの疾さは、一瞬だけだがアカメの其れを思い出すものだった。

帝具がなければ死にはしないものの、重症を負う所だっただろう。

最悪回復するとは思っていたが、本業の殺し屋にこれほどの手傷を負わせることができる存在はそう多くない。

 

「ただの新兵が将軍になって国を変える、か―――なら少年は、今から私たちの敵だな」

 

 今後間違いなく立ち塞がってくるであろう脅威を葬らない、それは暗殺者にとっては論外かもしれない。

少なくとも他のナイトレイドのメンバーなら、タツミに止めをさしていただろう。

しかしレオーネは、あえてタツミを見逃すことを選択した。

それは傲岸不遜とも言える少年の言葉や、腐敗した国を変えたいと思った信念に共感を覚えたからか。

あるいは、単なる気まぐれだったかもしれない。

 

 「少年のこれからに、お姉さんは期待しているぞ」

 

 レオーネは気絶している、名前も知らない相手にウインクしてそう言い残すと、路地裏の闇に姿を消した。

 

 

 

 

 目を覚ましたタツミは、自身の身が無事だったことを安堵する間もなく立ち上がる。

似顔絵は破り捨てられており、犯人の女は既に消えていた。

 

 「ちきしょう!」

 

 タツミは拳を地面に振り下ろす。帝都を変えると宣言した所で実力が伴わなければ意味がない。

こんな所で苦戦しているようなら、噂のナイトレイドを捕らえるなんて夢のまた夢だろう。

 

 「……強くならなくっちゃな」

 

 何故かは分からないが、女に身包みを剥がされなかったことは幸運だった。

まずは俺を頼ってくれた男に謝らなければならない。

そして帰ったら、また鍛錬を積み重ねよう。強くなって、いつか将軍になるために。

 

 薄暗い路地裏から光照らす街通りに歩みを進めつつ、タツミはそう誓ったのだった。

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