ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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鍛錬を斬る

 ナイトレイドの朝は早い。

 

 鍛錬所にて、木がぶつかり合う鈍い音が響く。

ブラートが繰り出す杖による刺突は、超一流の其れであり一撃一撃が必殺級だ。

ラバックは脇腹への攻撃を半身になって最小限の動きで避け、次の攻撃をこちらの杖で弾いて受け流す。

 

 「もうちっと手加減してくれてもいいんだぜ、ブラートの旦那!」

 

 振り下ろされた杖の動きに何とか対応して受けたラバックだったが

変幻自在の苛烈なブラートの攻めに対して、防御と回避しかできない。

攻撃に回れず、何とか受身をするだけで精一杯だった。

数秒の後に、ラバックの手から武器が弾き飛ばされ首筋に杖が突きつけられた。

 

「漢同士の戦いで、手を抜くつもりはないぜ」

「……そうだろうと思ったよ。もう一回いいか?」

「おう!」

 

 ラバックとブラートは、再び打ち合い始める。ここ最近、ラバックとブラートの朝の鍛錬は日課になっていた。

 

 「ラバ、今日もやってるねえ!」

 

 帝都から帰ってきたレオーネが、ラバックとブラートの戦いを座って見学し始める。

最初は数秒も持たなかったが、回数を重ねる度に段々鍛錬に慣れてきたラバックは

勝つことはできないものの、アカメと並んでナイトレイドトップクラスの実力を持つ

ブラート相手に粘る時間を十分に稼げるようになってきた。

 

 無言のまま数分打ち合う。

ラバックは虚をつくように繰り出されたブラートの攻撃を何とか受け止めたものの

受ける際に無理な体勢を強いられ後が続かず、杖を弾き飛ばされ再び武器を失った。

 

「あーあ勝てねえ!姐さんもきたし、今日はここまでにしとくか」

 

 地面に手をついて息も絶え絶えに座り込んだラバックと、余裕そうなブラートにレオーネが水の入った水筒を持ってきてくれる。

 

 「サンキュ姐さん」

 

 助かるねえ、とラバックはその水をゴクゴクと音を立て一気飲みする。

すると水分が喉を潤すこともなく、口の中が焼けそうになった。

顔色を変えたラバックはブー、っと口から吐き出す。水じゃなくて酒だ!

ブラートの方はどうなってるかと様子を見ると、そっちはしっかり水のようだった。

 

「おー、引っかかった♪」

「姐さん俺の扱い酷くない!?いやまてよ、俺だけ特別扱いだと!これはこれでアリなのでは!?」

「謝ろうかと思ったけど、ラバだしいいか」

 

 悪びれもなくうんうんと頷くレオーネ。これが男ならもう少し怒るかもしれないが

笑っている姐さんの笑顔を見ると許してしまうラバックがいた。

やっぱり美人はいいよなあ、目の保養になるしと心の底から思う。

 

「また明日もお願いしていいかい旦那?」

「勿論だ!明日もじっくり二人きりで鍛錬しようぜ!」

 

 なぜか親指を立てて頬を染めながら、ラバックに力強く答えるブラート。

ラバックは無性に尻の穴がムズムズし、ブラートから離れる。

 

(ブラートとの特訓、やっぱりやめたほうがいいんじゃねえか?)

 

「おいおいそんなに距離を取るなよラバック、傷ついちまうぜ?」

「俺も俺が傷つくのが怖くて距離を取っているんだよ!」

 

うがー、っとブラートに叫ぶラバックに対して二人がははは、と笑う。

 

ナイトレイドは今日も平和のようだった。

 

 

 

「ブラっち、ラバの調子はどうー?」

 

 ラバックが立ち去った後の鍛錬所で、レオーネがブラートに声をかける。

上半身を肌蹴たブラートは、背中にびっしりと汗をかいていた。

疲労をラバックに悟らせなかったのは、男としての意地に過ぎない。

 

「ああ……どんどん強くなってるぜあいつ。索敵と後方支援担当なのが勿体無いくらいだ」

「ラバってあんまりこっち方面鍛えてなさそうだから、それだけ伸び白があったってことか」

「ラバック本人に、何か心境の変化でもあったのかもしれねえな」

 

 本気のブラート相手に数分間打ち合える。それがどれだけの力量なのかは言うまでもないだろう。

しかもラバックは打ち合いながら決して攻撃を自分から行わず、隙を作らない。

しっかりと守りに専念している。それはラバックがクローステールでの搦め手が自身の本領であり

強敵相手には身を守り続ければその間に糸の帝具で葬ることができると割り切っているからだ。

 

「元々殺し屋としての考え方は十分ラバックには備わってるからな。

 ……これは内緒だが、帝具ありなら俺も10回戦ったら一回は勝てないかもしれねえ」

 

 元来暗殺者にとって、一番大事なのは『臆病』であること。

最悪を想定し、冒険はしない。しかし任務は完遂するという柔軟な思考。

そのラバックの考えは殺し屋として優秀だ。

ラバックは索敵担当という自身の領分を忘れないまま強くなっている。

だからこそ負ける気こそしないが勝てないかもしれない、とブラートは口にした。

 

「ナイトレイドは男が二人だけだ。俺もうかうかしてられねえな」

 

 天井を見上げて感慨深く呟いたブラートの高い評価と共に、間近で二人の鍛錬を見たレオーネはちょっぴりラバックを見直した。

 

しかしそれも自分の風呂に突撃してきたラバックに、制裁を加えるまでの話だったが。

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