ほんの少しのボタンの掛け違い   作:さよならフレンズ

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敵を斬る

 タツミがラバックに向かい振るうのは、上段からの唐竹割り。

獲物を豪快に振り下ろし脳天から真っ二つにしようとするタツミに対して、ラバックは冷静に後退し回避する。

タツミは剣を振り下ろした勢いのまま前進、ラバックに追撃、逆風の切り上げを見まう。

剣の重量を体重に乗せられない切り上げは本来剣術的には弱いとされている、しかしタツミの剣戟には十分な速度と威力があった。

 

 ラバックは再び後退しながらタツミの切り上げに対して右腕を突き出す。

腕に巻かれたクローステールの糸が、防具と同等の働きをしタツミの剣を防いだ。

硬い物同士が衝突し暗闇に鈍い音が響く。タツミは突き出された右腕を切り落とそうと力を篭めるが、ラバックの右腕は剣に接触したまま動かない。

 

「この糸……帝具か!」

 

 ラバックの腕と鍔迫り合いをしながら、タツミは早くもラバックの帝具の正体を糸だと看破する。

一方ラバックは、左手に握ったナイフをタツミの首筋に向かい突き出す。

頸動脈に向けて放たれる猛烈な勢いの刺突を、タツミは首を傾け何とか避けた。

これ以上の攻撃は危険と感じたタツミは、鍔迫り合いをやめて一旦後退する。

 

(ザンクを倒したのも納得だ。こりゃ、帝具持ちじゃなくても油断できねえな)

 

 再びタツミと睨み合いながらラバックは、顔には出さないものの内心タツミの斬撃の速さに驚愕していた。

まだまだ技量は荒削りなものがあるが、速度だけならインクルシオを纏わないブラートと同等かもしれない。

フェイクマウンテンでの鍛錬、何より帝具使い相手……格上、強敵との連戦によりタツミは急速に成長していた。

将軍級の器を持つタツミの才能は、早くも花開こうとしている。

 

タツミとラバックが近接戦闘を行う中、セリューとマインも動いていた。

 

「コロ!腕!」

 

 セリューの指示と共に体を肥大化させ筋骨隆々の腕を生やしたヘカトンケイル……コロが

タツミを擁護しラバックを粉砕しようと駆け出す。

そんなコロの足止めをするのはパンプキンを構えたマイン。

 

「ラバの邪魔はさせないわ!」

 

 三対二のピンチにより、平常時よりパンプキンの威力は上がっている。

パンプキンに篭められた精神エネルギーが圧縮し、収束。コロに向かい放出される。

コロは全身をパンプキンのエネルギーに包まれ、足を止めた。

舌打ちをしたセリュ―がマインにトンファガンの銃撃を見舞うが、射線を予測したマインはあっさり回避した。

 

「銃の打ち合いで、天才のアタシに勝てると思うんじゃないわよ!」

 

 セリューに向けて啖呵を切るマインは、直接セリュ―本体にパンプキンを向ける。

本体を倒してしまえば生物型の帝具は無力だ。銃撃を防ごうとコロがセリューの盾になり、主をパンプキンの光線から防ぐ。

 

 タツミと睨み合いながら、ラバックはコロのその隙を見逃さなかった。

ラバックの手元に糸が集まり、縮んで穂先の鋭い一本の槍となる。

再び斬りかかってくるタツミの斬撃を回避しながらラバックは、クローステールの槍をコロに向けて投擲した。

パンプキンからセリューを守るための盾になっているコロは、投擲された槍を回避することができない。

コロの体に、クローステールの槍が突き刺さった。刺さった糸が体内で解かれていく。

 

「刺さったな」

 

 呟くラバックの声色に対して、コロの背中を見ながらセリューは猛烈な悪寒がした。

フェイクマウンテンで培われた危機回避能力が警鐘を鳴らしている。

直感のままコロの影から飛び出し、パンプキンの銃撃を避けながらセリューはコロに命令する。

 

「コロ、縮小!」

 

 コロが肥大化した姿から、小さな子犬に戻る。

その勢いで、コロの体内を探り核を破壊しようとするクローステールの糸は弾かれた。

セリューの判断は正解だった。あと一歩遅ければ、コロのコアに

クローステールの糸が巻きつきコロは破壊されていただろう。

ラバックは自身の狙いを見切ったセリューの判断力に対して大きく舌打ちをした。

 

 タツミは至近距離にいるラバックに幾度も斬りかかりながらも、自分の手足や胴体に

糸を巻きつけ剣を防ぐラバックの反射神経を上回ることができず、仕留めることができない。

斬りかかりながらタツミはラバックについて考える。

 

 タツミにとってラバックは今まで戦ってきたレオーネや、ザンク程は強いという印象はない。

腕力に任せて豪快な攻撃をしてくる訳でもなく、未来を読んでくる訳でもない。

帝具も糸という一見地味なものだ。しかし自分の攻撃は完全に塞がれ、隙を見つけてマインの援護までされている。

しかも汎用性の高さから後いくつ手札を残しているのか分かったものではない。

 

―――単純に強いのではなく、巧い。

 

 それがラバックに対するタツミの評価だった。

ラバックは戦局を見極める能力が極めて高い。戦場では得てしてこういう相手が一番厄介だ。

タツミとセリューの連携は完璧だったが、しかしラバックとマインの連携も穴がなかった。

タツミ達は帝具が一つなのに対してラバック達は二つ。技量が拮抗している以上、其の差を覆すことは難しい。

ラバックに斬りかかるタツミと、マインの銃撃を避けるセリューが同時に思考する。

 

悔しいが、このままでは不利だ。

 

 セリューが帝都警備隊を呼ぶ笛を吹く。帝都の夜に甲高い音色が響き渡った。

間も無く帝都警備隊が駆けつけてくるだろう。

それが悪手だった。タツミの斬撃を交わし続けるラバックにも見た目ほど余裕がある訳ではない。

セリューとマインの実力は拮抗していた。つまりこのままでは勝負は分からなかったのだ。

その拮抗は、皮肉にもセリュ―自身の手により崩れ去る。

相方の帝具の性能をよく知っているラバックは頼んだぜ、とマインに心中で語りかけた。

 

「三対二……応援も呼ばれた。このピンチは逃さない!」

 

マインのパンプキンの威力が上昇する。

ピンチによりさらに火力が増し、圧縮されたエネルギーの光線がセリュ―に襲い掛かった。

コロが盾になるものの、そのコロの体すらも貫通しようとするエネルギーの波に対してたまらずセリュ―は切り札を切る。

 

「コロ―――奥の手!」

 

 狂化したコロの咆哮が、ラバックとマインの鼓膜を強く振動させる。

溜まらず耳を押さえてしゃがんだラバックとマイン。

セリューとタツミは耳栓をしており咆哮の効果はない。

 

タツミは無防備なラバックに斬りかかり、セリューはマインにトンファガンを向ける。

 

 セリューは貰った、と自分達の勝利を確信した。

鈍い音が響く。攻撃が命中した音だ。

 

 

 

 横っ飛びでタツミの斬撃を回避したラバックの投擲したクローステールで作られた槍が、セリューの胸に突き刺さった。

 

「え……!?」

 

 セリューがきょとん、とした声をあげる。奥の手が、利いていないことに対する疑問。

槍を投げたラバックの耳の穴は、クローステールの糸で覆われていた。

 

「セリュー!!!」

 

 自分の名前を叫び駆け寄ってくるタツミの声を、セリューはぼんやりと聞いていた。

タツミと一緒に悪のナイトレイドを倒そうと思った。

悪を倒す。そのために今まで生きてきた。

パパが死んだのも、オーガ隊長も殺したのも、賊……悪党だ。

 

「倒さなきゃ……悪を……ナイトレイドを倒さなきゃ……」

 

 力が入らない。セリューの口から出た言葉は、毀れた擦れ声だった。

クローステールの糸が体内を蝕み、セリューの心臓に向かっていく。

糸は情け容赦なく、セリューの心臓を締め付け砕いた。

セリューの体から急速に力が抜け、瞳から色が失われていく。

 

「タ……ツ……ミ……」

 

 悪を倒し、自身の正義を貫くことに生涯を捧げたセリュ―。

しかし彼女が最後に呟いたのは、悪ではなく愛する少年の名前だった。

 

「うあああああああ!!!」

 

 タツミの叫び声が響く。ヘカトンケイルが機能を停止し、犬に戻る。

この場の全員が、所有者……セリューが死んだことを確信した。

泣き叫ぶタツミに向けて、マインが静かに銃口を向ける。

 

 タツミは、自分の内からナイトレイドに対する憎しみが湧き出してくるのを感じた。

マグマのように熱く、蛇のようにうねり狂う感情の渦。

力が欲しかった。セリューが憎んだ賊を倒す力が。ナイトレイドを倒す力が。

 

―――悪を滅する力が!

 

 環境が変われば考え方は変化し、それに応じて適合する帝具も変わる。

ヘカトンケイルがセリューに適合したのは

実力と共にセリューが復讐を内包した歪んだ正義感を持ち合わせていたからだった。

今のタツミの心中はそれと酷似していた。タツミの歪んだ正義感に反応して、ヘカトンケイルが動き出す。

 

マインがタツミに向けて放ったエネルギーを、立ち上がったヘカトンケイルが防いだ。

 

「コロ……俺を守ってくれるのか……」

 

 タツミがナイトレイドへの殺意と共に幽鬼のようにふらふらと立ち上がった。

再び剣を構え、ラバックとマインに向ける。

 

「……まずいわね」

 

 警備隊が集まってくるのも時間の問題だ。

ナイトレイドの二人は帝具に適合したタツミを見て、撤退を決心した。

タツミに背を向けて走り出すラバックとマイン。

 

「おおおおおお!」

 

 無防備な二人の背中に向けて、ヘカトンケイルとタツミが駆ける。

ラバックによって張られた糸の網を、ヘカトンケイルの拳が突き破った。

逃がすものか、セリューの敵を討つと血走った目でヘカトンケイルを向かわせるタツミ。

しかしヘカトンケイルの進撃を阻んだのは、胴の高さに張られたたった一本の糸だった。

 

「―――界断糸。とっておきの一本だ」

 

 決して切れない糸を張ったラバックの無情な声が響き渡る。

ナイトレイドの二人は、糸の結界を突破できないタツミを置き去りにして暗闇の中に姿を消した。

暗殺者をみすみす見逃したタツミは、声にもならない悔しさで奥歯を強く嚙み締める。

強く噛んだ唇から血が流れてくるのを、タツミはそのままにした。

 

「セリュー……」

 

 タツミは、息絶えたセリューに駆け寄りその骸をそっと抱きしめる。

セリューと一緒に帝都を見回った日々、鍛錬した日々を思い出す。セリューは帝都警備隊の先輩だった。

 

大切な仲間だった。

 

「ちくしょう……!」

 

 タツミの嗚咽、慟哭が帝都に響き渡る。周囲が俄かに騒がしくなった。

セリューが呼んだ帝都警備隊が駆けつけてくる。

しかしタツミはそれを無視して、ずっと息絶えたセリューを抱きしめ続けていた。

 

 

 完全にタツミを撒いたと確信したナイトレイドの二人。

撤退しながら、ふとマインはラバックの横顔を見つめる。

ラバックは、悲痛な、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

しかし今のラバックに、涙を流す権利などない。ラバックはタツミを騙し、仲間を殺したのだ。

 

「いつか、咎を受ける日がくることは分かってるぜ」

 

 ラバックは重々しく呟く。タツミにとってラバックは友達だった。

そして演技ではありながら、ラバックにとってもタツミは友達だった。

タツミと共に馬鹿騒ぎした日々は、嘘偽りのものではなかった。

 

「それでも俺はナジェンダさんの下で、必ず革命を起こして国を変えるって決めたんだ」

 

ラバックが強く嚙み締めた唇からは、タツミと同じく血が流れ出ていた。

 

 タツミは内部から帝都を変えることを選択し、ラバックは革命を起こして帝都を変えることを選択した。

 

誰が悪いという訳でもなく、ただそれだけのことだった。

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