鋼の鬼   作:rotton_hat

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エ・ランテル二大イベント後の関係者たちのお話集。
時系列は気にせずお読みください。


偶像は人の間を移ろう

 城塞都市エ・ランテル。

 秘密結社ズーラーノーンの企てによるによる市街地でのアンデッド発生、そして近郊の大森林に突如現れたという吸血鬼王候(ヴァンパイアロード)の影と激闘の痕跡。

 まさしく騒乱の一夜を乗り越え、それでも人々は逞しく日常へと帰結してゆく。

 

 英雄の誕生という熱感を残しながら。

 

 

 * * * * *

 

 

「いつまで突っ伏してるつもりだブリタ、辛気臭ぇ。客が逃げるだろうが」

「……元々客なんていないようなもんじゃん」

「こいつ……ったく、減らず口叩く元気があるなら何か頼みやがれってんだ」

「あいよ……あんがとね、おやっさん」

 

 騒乱から一夜が明けたエ・ランテル。安宿に設けられた酒場の一角で、机に突っ伏すブリタと宿の主人の二人の姿があった。

 決して広くはない酒場に客の姿は片手で数えられるほど。閑古鳥の鳴く店内は窓から射す昼間の陽光以外に明かりもなく、薄暗く何とも侘しい静かな空間を演出していた。

 アンデッドの侵入を許し、復興のために外から聴こえてくる喧騒は常よりも姦しく、まるでこの酒場だけが世界から取り残されたようだ。

 

「ほれ、昼間っから酒とはいいご身分だ。外の連中に申し訳ないと思わねぇか」

「勘弁してよ、私だって命からがら逃げてきた足でそのまま朝まで聴取に付き合わされたんだよ? 頭痛いし足は棒だしもう十分働いたって」

「……吸血鬼王候(ヴァンパイアロード)か。よく生きてたもんだ」

 

 差し出したエールのジョッキを受け取って、ちびちびと飲みだしたブリタを眺めながら酒場の主人がそう呟く。彼女の特徴的な赤毛の下には、額を覆うように包帯が幾重にも巻かれており、血が滲んでいた。傷は残る、そう言われたそうだ。

 

 ブリタはあの絶望の夜を生き残った。

 被害は強行偵察チームから死者が二人と()()()()が一人。(アイアン)級冒険者が吸血鬼王候とそのシモベである吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)からこれほど軽度の被害で逃げおおせたというのは奇跡と言っていいだろう。

 吸血鬼の花嫁と交戦した彼女は森の中で気絶していた筈だが、どういう訳か森の外で倒れているところを撤退中の仲間である後衛チームに拾われエ・ランテルまで戻ることができたという。

 聴取の結果、的確かつ迅速な撤退行動と吸血鬼の花嫁討伐の功績が認められ、情報の裏付けが取れ次第ブリタは鉄級冒険者から(シルバー)級冒険者に昇格する旨を冒険者ギルドから伝えられていた。

 その時のことを思い返して、ブリタは傷とは別の理由で頭痛がする思いである。

 

(倒したのは……私じゃない。いったい誰が? エルスなの?)

 

 赤いポーションが吸血鬼の花嫁に致命傷を負わせたという意見で冒険者ギルドは一致していた。しかし当時者たるブリタはそれで納得はしていない。森の外で倒れていたことといい、あの場で第三の勢力の介入があったことは間違いないはずなのだ。

 しかし審議は行われず昇格も決定済み。裏があるような気がしてならないが一介の冒険者たるブリタには如何ともし難かった。

 …実際に裏で漆黒聖典が絡んでいたということもあって、そのことを蒸し返さない方がいいという冒険者ギルド側の親心があったわけだが、多分ブリタは一生気付かないことだろう。

 

「吸血鬼王候に、アンデッド事件……そして新たに生まれた“漆黒の英雄”か。ここでチンピラを往なしてた(カッパー)が出世したもんだ。あいつらが一泊したって喧伝したらうちの宿も箔がつくかね」

 

 宿の主人の話題にブリタが思考の海から意識を浮上させる。

 漆黒の英雄、かつてブリタに赤いポーションを渡し、エ・ランテルで起きたアンデッド騒動では森の賢王に騎乗して戦闘の最前線で活躍。民を守り、冒険者たちを導き、遂には首謀者たるズーラーノーン一派を打ち破ったという。

 多くのものがその活躍を目にし、羨望と憧憬を込めて彼の者――漆黒の戦士モモンを英雄と呼んだ。

 

「そういやぁブリタ、お前さんあの男と面識あるじゃねえか。今からでも仲良くしておいたほうがいいんじゃないか? 唾つけるのは……あの連れの嬢ちゃんがいるから無理か。ま、英雄の知り合いなんて中々なれるもんじゃないぜ?」

 

 茶化すように宿の主人は言い、ブリタはただ黙ってジョッキに注がれたエールを呷る。

 興味がない。そう言外に言い放つような態度を取ってから、ブリタは小さく声を零した。

 

「……私の英雄は一人だけよ」

「あん?」

 

 眉を上げた宿の主人の反応を無視してブリタは再び机に突っ伏した。

 

 そして思い出されるのはある女の背中。

 吸血鬼王候と対峙し、揺るぎなき背中を見せた、行方知れずの英雄の姿。

 

(……エルス)

 

 友達になりたい。そう願った英雄の無事を、ブリタは静かに祈り続ける。

 

 

 * * * * *

 

 

(今日ぐらいはのんびりさせてほしいな)

 

 そう、言葉には出さず腕を上げて大きく伸びをする青年が一人。

 それは神官長会議での役目を終え、会議室を出た解放感からくるものだったのか……スレイン法国特務部隊・漆黒聖典の厳格な隊長には珍しい、年相応の人間染みた所作だった。

 

 あの忘れ得ぬ出会いから何日経っただろうか。

 エルスという女戦士との出会い、占星千里の活躍……そして法国の至宝、傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)の損失。

 破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の探索を中止し法国へと急遽とんぼ返りする羽目となり、帰れば休む暇もなくこの日の会議のために分厚い報告書を何枚も纏めてと実に多忙な日々だったと彼は過去を顧みる。

 故に会議後の解放感もひとしおであったのだが、廊下の先から聴こえてくるかちゃかちゃといった音を拾うにあたり、今しばらく辛抱の時間かと気を引き締めなおすのだった。

 

「一面なら簡単なんだけど、二面をそろえるのって難しいよね」

 

 音の発信源、青年の歩く先で壁にもたれかかるように立っていた少女が、法国でルビクキューと呼ばれる玩具を弄びながらそう呟く。

 白銀と漆黒で左右に色が分かれた長い髪と瞳、それを基調とするかのように白と黒のツートーンカラーで構成された服装は、シンプルでありながら少女の個性をより一層に際立たせている。

 見た目は十代前半に見えるほどに幼く一見儚げな印象も抱かせるも、その実年齢や本質はそこから遠くかけ離れていることを彼は嫌というほど知っており、それを肯定するかのように彼女の脇には禍々しい戦鎌(ウォーサイズ)が立て掛けられていた。

 

 漆黒聖典最強“絶死絶命”。

 少女こそがスレイン法国が崇める五柱の神の装備が眠る聖域を守護する、漆黒聖典隊長である彼を超える力を持った神人だった。

 

 彼女がわざわざ待っていたということは会議の内容を聞きに来たのだな、と彼は直感する。

 ことある毎に報告書は提出しているのだが、書類というものを憎んでいるのか、はたまた聖域の守護者という役職上人があまり来ず会話に飢えているのか、とにかく少女は報告書を読まない。

 聞いてみたところ案の定今回も読んでいなかったので遠回しにそのことを注意してから口頭で報告を始めるが暖簾に腕押し、全く反省する様子は見られなかった。

 しかし彼もまたそんな少女に対して気分を害した様子はない……というよりも未読申告、注意、仕方なく口頭報告という一連の流れが彼らの中でお決まりの挨拶の様なものなのだ。意外と仲はいいのかもしれない。

 

「ふーん。それで煙幕を使われてまんまと至宝を奪われたわけね。まぁ、()()()()を残していったっていうなら確かに悪神ではなさそうだけど」

「セドランが喜んでましたよ。タンコブ付けた甲斐があったって……恐らくそちらで管理することになると思いますが」

 

 置き土産。それはエルスと名乗った戦士が姿を晦ました後、周辺を調べていて見つかった大盾(タワーシールド)のことだった。

 その正体はかつて龍♂狩りが愛用していた神器級(ゴッズ)アイテムであり、クロエルの手に渡った後シャルティアとの闘いの中で攻撃を防ぐ壁として利用し放置され、そのまま忘れられていった代物である。

 

 占星千里が可能性(みらい)に見た鬼神の如き戦闘力に加え、その大盾が鑑定によって神の武具だと認定されたことが決定打となり神官長たちは会議の中で「エルスと名乗る戦士は神である」との結論に至っていた。

 また、神をも堕とす至宝傾城傾国を人の身で纏っていたことが神の怒りに触れて没収される事となってしまったが、神は慈悲をもって代わりこの大盾を与えたもう、との見解も示している。

 大盾が選ばれたのは負傷した大盾持ち、セドランへの詫びの意味もあったのではないかとのことだ。酷い勘違いもあったものである、カイレもしっかり殴られていたのに。

 

「それで? 今後はどう動くつもり?」

「支配を望めなくなった破滅の竜王の探索は打ち切りですね。代わりに降臨された神の探索に移ると思いますが……難航するでしょう」

「どうして? 占星千里が使えるでしょ?」

「彼女は……もう使えません。漆黒聖典は席次を一つ失うことになるでしょう」

 

 あの夜の試練を乗り越えてから占星千里は変わってしまった。

 始めこそ何も変わらなかった。しかし日を追うごとに段々と塞ぎ込むようになり、遂には部屋に閉じこもって中から一歩も出てこなくなってしまったのだ。

 一夜のうちに幾度となく精神に刻み込まれた自分の死の記憶に、彼女は耐えることができなかった。あの夜、仲間を救うべく神に挑んだ勇気は、彼女の最後の精神の輝きだったのかもしれない。

 

「そっか。前任と同じ道を歩んだわけね、彼女。なら最期も師匠と同じ自さ――」

「なりませんよ。そんなことはさせませんし、何より彼女には後継を育ててもらわなければ困りますからね」

「ふーん。ま、どうでもいいわ」

 

 本当にどうでもいいのだろう、少女に仲間の不幸に対する感情の色は一切見受けられず、彼はそんな彼女の不遜な態度を“彼女らしい”という感想で片付ける。

 この少女にとって大切なことはいつでも一つ――

 

「そんなことよりもさ、私とそのエルスって戦士、どっちの方が強そう?」

 

 ――強者であるか、それに尽きる。

 

 

 * * * * *

 

 

 ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」が拠点、ナザリック地下大墳墓・第五階層。

「氷河」の名を冠する氷雪荒れ狂う極寒の大地に設けられた二階建ての洋館の内部、

 青白い氷に覆われた牢獄の中に一人の女が囚われていた。

 女は壁を背にして両膝を抱く体育座りの姿勢を取っており、顔は両膝に埋めてしまっているため表情を窺い知ることができない。

 

 その女、名をクレマンティーヌといい「氷結牢獄」と呼ばれるこの牢獄に囚われてから三日目の朝を迎えようとしていた。

 氷結の看板に偽りなく、牢獄内は外よりもなお凍てつく冷気に覆われているのだが、不思議と彼女の身体に震えはない。彼女の纏う装備群が、彼女を過酷なこの環境から守護しているようだった。

 

 月桂冠を思わせる精巧な装飾の入る細いサークレット、光沢のある艶やかな黒い毛皮の外套、赤味の強い茶褐色の革鎧と小手、十の指に煌めく色とりどりの指輪、羽の技巧をあしらった具足……。

 かつての彼女が身に着けていた装備は一切なく、その全てはユグドラシルで作られた「最上級」アイテムで統一されていた。

 「最上級」と言えば響きはいいがユグドラシルの九段階ある等級に当てはめてみれば五番目に位置する品々だ。ユグドラシルの上級プレイヤーからしてみれば価値はなく、しかし異世界の基準に当てはめるのであればまさしく最上級の品々。

 クレマンティーヌ専用にあつらえられたその完全装備は、各種能力の底上げとともにこの劣悪な環境を凌ぐための一助となっていた。

 しかしそんな高級な品々を与えられてクレマンティーヌの心に歓喜の色はない。嬉しいはずがなかった。

 

 思い出されるのは彼女が囚われたその日の夜のこと。

 同じ階層にある「真実の部屋」と呼ばれる部屋の中で、裸に剥かれ壁に固定され、語るのも悍ましきニューロニストなる怪物と対峙した夜のことだ。

 怒気を孕んだアインズが扉を破壊するかの勢いで部屋に乱入してきたかと思えば、困惑するニューロニストを押しのけクレマンティーヌの頭を乱暴に鷲掴み、第十位階魔法〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉を使い彼女の記憶を閲覧し始めた。

 目的の記憶を覗くことができたのかすぐに手を離したアインズだったか、如何な理由かアンデッドの精神抑制を以てしても冷めやらぬ怒りの矛先を求めるかのようにそのまま部屋の中をせわしなく歩き回り、やがてある一角に目を止める。

 

 そこには机が置いてあり、クレマンティーヌが着用、携帯していた装備一式がきれいに整頓されて並んでいた。アインズはその中からローブと指輪の二つの品を取り上げると苛立たし気に鼻を一つ鳴らす。

 

「あの女がよこしたアイテムか……〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉」

 

 かつてクレマンティーヌがアベリオン丘陵を超えるときにクロエルから譲り受けた二つのアイテムが、魔法の光に当てられ一瞬だけ輝く。薄暗い部屋の中にあってその光は暖かく映るが、彼女の目には不吉な予兆のようにしか感じられなかった。

 

「……ゴミだな。〈上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)〉」

 

 そして予兆は現実に至る。

 クレマンティーヌが声を上げることはなかった。目の前の怒れる怪物がただ只管に恐ろしく、できることと言えば二つのアイテムが光の粒子となって消える光景をただ黙って見つめることだけ。

 絶望的な状況にあって、彼女を救える可能性のある人物はクロエルだけだった。そんな彼女とのか細い繋がりを感じさせてくれたアイテムが砕かれた時、クレマンティーヌが感じたのは途方もない孤独だ。

 

「ニューロニスト、仕事を奪ってしまってすまなかったな。だが欲しい情報は全て覗いたので拷問はせずにおけ。その女にはまだ使い道がある」

「しゃ、謝罪など恐れ多いですわん、アインズ様。全ては御身の御心のままに……それではこの女はそのまま氷結牢獄へ輸送しておきますわねん」

「頼んだぞ。後でその女用に装備一式も送る、無理矢理にでも着させておけ」

 

 そしてその夜から三日目の朝を迎え、クレマンティーヌは現在の状況に至る。

 送られた装備は緩やかな処刑の始まりの証。

 彼女はこれから第六階層にある円形闘技場(コロッセウム)で、多くの異形の者たちの見世物となりながら終わりなき格上モンスターとの闘いに身を投じることとなる。

 ナザリック強化のため、アインズが感じた脅威をシモベ達に啓蒙するため、技術と経験の差がレベル差をも覆すということを何度でも証明させるために。

 研究材料として、娯楽として、戦いに敗れるか彼らに飽きられ処分されるその日まで、彼女の戦いは終わりを向かえることはないだろう。

 

「エルちゃん……」

 

 クレマンティーヌは思う、死にたくないと。

 一度は戦い抜いたはずの化け物(アインズ)の怒りに恐怖を覚え、屈服し、クロエルとの繋がりを砕かれ孤独に喘ぎ、今は死にたくない一心で敵の施しである装備を甘んじて受け入れている。

 

 惨めだった、どうしようもなく。

 だが、それでも彼女は思う、死にたくないと。

 

「……エルちゃん、助けて」

 

 震える呟きは思い人には届かない。

 両膝に埋められた彼女の表情は、最後まで窺い知ることはできなかった。

 

 

 * * * * *

 

 

「……ホニョペニョ……?」

 

 屈強な身体を木椅子に預け、冒険者組合長プルトン・アインザックが小首を傾げた。

 

「ホニョペニョコだ」

 

 それに頷き、力強く答えたのは机を挟み向かいの席に座る漆黒の英雄モモン。

 

 エ・ランテルの騒乱から三日、冒険者組合にある部屋に7人の男たちが集まっていた。

 二人は先に言葉を交わしたプルトンとモモン。魔術師組合からローブを着た神経質そうな男、組合長のテオ・ラシケル。仕立てのいい服を着たでっぷりと肥えた男、エ・ランテル都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア。そしてミスリル級冒険者チームから三名。『クラルグラ』代表イグヴァルジ。『天狼』代表ベロテ。『虹』代表モクナック。

 

 都市の復興や後処理などで慌ただしく働いていた都市の代表たちが時間を作り、冒険者たちを招いて開催されたこの集会の目的は二つ。数々の功績を成したモモンの飛び級でのミスリル昇級、近隣の森に出現したという吸血鬼王候(ヴァンパイアロード)の対処についてだった。

 モモンの昇級が気に食わないのか、何かと突っかかるイグヴァルジに話の腰を折られる場面が何度かあったが、やがて吸血鬼王候の話題に移ってからモモンが深く考えるようなしぐさを取り始め積極的に質問を開始。

 事件の詳細から参加していた冒険者の情報、特に行方不明になったという新人の冒険者について何度も質問を重ねた後、まさかな、とたっぷり含みを持たせた呟きと共に滔々と語り出した。

 

 それはモモンの()()であり、故郷を吸血鬼王候に滅ぼされた女戦士の復讐譚だった。

 

「なんと……それでは現在行方不明の冒険者、エルスはホニョ…吸血鬼王候を追っていると」

「だろうな、話を聞いてまさかとは思ったが偶然にしては特徴が一致しすぎている」

 

 残念だ、入れ違いで会えないとは……と締めくくり押し黙ったモモンを見ながらプルトンは唸る。

 森から逃げ帰ってきた冒険者たちの報告を聞いてその精度を疑っていた彼であったが、思わぬところから情報の裏付けを取ることができてしまった。

 報告書の中に新人の冒険者が潜んでいた吸血鬼の花嫁を一瞬で斬り倒し、仲間を逃がすために吸血鬼王候に一人で立ち向かったとの記載を見つけた時は眉を顰めたものだが、モモンの知己であるというなら話は別だった。

 

 モモンの手腕は今回の騒乱でプルトン含め、多くの冒険者や市民が実際に目にしている。そのモモンをして実力は同格と言わしめる新人冒険者、エルスの功績は認めなければならないだろう。

 モモンとの関係、背景なども聞いておきたかったが、義理があると詳しい話をすることを彼が頑なに拒んだためにプルトンは追究を断念。しかしその様子からも二人の信頼関係を窺い知ることができた。

 

(エルスか……モモン君に並ぶ実力を持つ者がこの街にもう一人いたとは……行方を晦ましたのは吸血鬼を追ってか行ってしまったからか? 何にせよ出てってしまったのは惜しい)

 

 エ・ランテルの冒険者組合から二人目の英雄が輩出されていたかもしれない未来を思い、プルトンはしばし瞑目する。

 そのあとも話し合いは続き、結果として吸血鬼王候が現れたという現場への調査にモモンの冒険者チームが向かうこととなり、同行者としてイグヴァルジが率いる『クラルグラ』が選ばれた。

 恐らく吸血鬼王候と、それを追ったと思われる冒険者エルスを見つけることは叶わないだろうが、その調査任務の完了と共にモモンはオリハルコン級に昇級することとなるだろう。交渉の結果階級が一つ上に上がっているがプルトンに不満はない。イグヴァルジは大いに不満そうであったが。

 

「ああ、それから冒険者組合長。エルスと行動を共にしたという鉄級冒険者たちを紹介してもらいたいのですが……できれば、直接関わった彼らの口から彼女の話を聞いておきたい」

「うん? それは、そうだな。分かった手配しよう」

「感謝します」

 

 話が終わり、ミスリル級冒険者たちが退出する中、最後まで残っていたモモンの頼みを聞いてプルトンを含めた都市の代表者たちの顔がほころぶ。

 案じているのだろう、吸血鬼王候を追って姿を消したエルスのことを。道が分かれ、再び二人は同じ都市に行き着いたというのに他の依頼を受けていたことで入れ違いとなり会えずに終わるとは何という運命の悪戯か。

 

 男と女、プルトンは一瞬関係を邪推しそうになるがそれを気取られ気を悪くされても困るので必死に頭の中の妄想を振り払う。

 そして頼みごとを済ませ退出しようとしていたモモンに、最後に声をかけるのだった。

 

「会えるといいなエルス君と。できればここに戻ってきて、君と一緒に冒険者として活躍してくれることを願うよ」

 

 願望も含んだプルトンの言にモモンは振り向かず、しかし足を止めると首だけを巡らせ言葉を返す。

 

「……彼女は戻ってくることはないでしょう。恐らく、もう()()()

 




ブリタ「英雄!」
神官長's「神ィ!」
クレマンティーヌ「…ノーコメント」
プルトン「英雄の友達!」

クロエル「なんすかこの評価」


・おまけ 龍♂狩りの大盾

龍♂狩り→クロエル→漆黒聖典new!

大盾「こんなんめっちゃ冒険やん…」
番外席次「さあ、神の装備はしまっちゃおうねー」

ざんねん‼ たわーしーるどの ぼうけんは これで おわってしまった‼

セドラン「っつーか、俺が使っていいんじゃないのか…」

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