鋼の鬼   作:rotton_hat

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慟哭

「――っ」

 

 胸に走る真一文字の刀傷を忌々し気に睨んでから、シャルティアは詠唱を始める。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)力場爆裂(フォース・エクスプロージョン)〉!」

「ぐうっ!」

 

 シャルティアを中心にして周囲に衝撃波が荒れ狂い、彼女の胸を傷つけた戦士、クロエルが吹き飛ばされていく。最大威力で解き放たれた衝撃波の嵐は地面に巨大なクレーターを穿ち、大量の砂煙を巻き上げた。

 互いの距離が開いたのを見逃さずシャルティアは〈時間逆行〉で胸の傷と()()()を修復。次いで自分の体力を徐々に回復させる〈生命力持続回復(リジェネート)〉という魔法を唱えてから、砂煙を切り裂き飛来する〈飛翔閃〉を察知、スポイトランスを横に払って打ち落とし、続いて飛び出してきたクロエルの斬撃もまたスポイトランスで受けて鍔迫り合いの状態になった。

 

 迂闊だった、とシャルティアは先程の展開を思い出して歯噛みする。

 至高の御方の御名を晒すという失態に焦り、勢いのまま飛び出したのがまずかった。すぐに我に返るも軌道に乗った飛行を急停止するのは難しく、ならばと〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉を唱えてクロエルの背後に転移した。

 正面からぶつかるのは不味いと咄嗟に背後からの奇襲を思いついてのことだったが、〈立禅〉による反応結界に覆われていたクロエルにそれは悪手だった。転移してきたところで胸を真一文字に斬り裂かれて今の状態まで持っていかれてしまっている。

 近接戦闘は相手の方が一枚上手だというのに痛恨のミスだった。

 

(迂闊だった…それもあるけど…ああ!)

 

 何なのだ、この女は。

 肌を一切見せない全身鎧の鋼の姿。正体なんて分からない。

 だというのに、鍔迫り合いの最中、間近に至って、さらに強く、より強く――

 

 ――何故、こうも刺激的で、蠱惑的で、官能的だと感じてしまうのか。

 

 アンデッドの動かぬ心臓が早鐘を打つが如く、心の焦燥に戸惑いを隠せない。

 血を浴びていないにも関わらず「血の狂乱」が暴れ出して、今にも理性のタガが外れてしまいそうだ。

 

「ふんっ!」

(押し込まれる?!)

 

 クロエルが腰を沈めて刀身に力と体重を込める。

 傍からは長身のクロエルが小柄なシャルティアに覆いかぶさろうとしているように見えたかもしれない。シャルティアは全身を反らせながら両腕を開いて掴んだスポイトランスを掲げ、上から自分を押し潰そうとする圧に懸命に耐える――

 ――と、そこで上からシャルティアを覗き見るような位置にあるクロエルの頭が激しく振られた。何を、とシャルティアは怪訝な表情を浮かべるも、次の瞬間には相手の思惑を理解する。(かぶり)を振るクロエルの兜の隙間から、赤い飛沫が飛ぶのを見えたからだ。

 縦横無尽に飛んでいく血の飛沫の一滴が、シャルティアの右頬に落ちた。

 

「…イ゛イ゛ッ!!」

 

 声にならない悲鳴がシャルティアの噛み締められた口端から漏れる。

 同時に〈不浄衝撃盾〉による赤黒い衝撃波を放たれるも、そう何度も吹き飛ばされてたまるかとクロエルも〈玉鋼〉を発動。しかし瞬発的に効果の終わる攻撃ではなかったために、初動の一瞬こそ防いだものの、続けざまに吹き荒れる衝撃波の暴風に飲まれて結局は少なくないダメージと共に吹き飛ばされてしまう。

 地面との距離がさほど開いていなかったこともあり、今度は綺麗に着地すること叶わずクロエルは地面に激突。何メートルも転げ回ってからようやく停止し、痛みに堪えながら上半身を起こした。

 

「…ゲホッ。ほんと、厄介な、スキルっすね」

 

 身体の具合を確かめながらクロエルはシャルティアの方へと視線をやる。

 予想はしていたが追撃は来なかった。シャルティアは先程の場所から一歩も動いておらず、己の肩を掻き抱いて何かに耐えるように震えている。

 

「ううううう…」

(頑張って抑えてるっすねぇ…ゲームと違って精神の抑制にも意識を割かなきゃいけないとか弱体化もいいところなんじゃ?)

 

 「血の狂乱」の厄介さにクロエルは多少の憐憫をシャルティアに向けるも、他人事ではないなと自分の「魔女の祝福」を思い浮かべる。昔はHPに気を配っていればよかったが、今では戦闘中に貧血や出血死も有りうるのではなかろうか。

 

(…あれ、もしかしなくても自分、長期戦に不向きな身体になってるっすか?)

 

 不吉な可能性に気付いてクロエルは思わず天を仰ぐ。

 どうやら、早々に決着を付ける必要がありそうだ。シャルティアが悶えているうちに、さっさと距離を詰めて戦闘を再開することにする。

 シャルティアが「血の狂乱」を抑えながら気もそぞろに戦うもよし、逆に「血の狂乱」を発動させて冷静な判断の付かない怪物として戦うもよし、まだ切り札を隠しているかもしれないが、流れはこちらにあるとクロエルは分析していた。

 

 そして再び刀を構えて走り出したクロエルは、間もなくシャルティアが予想以上に追い詰められていたことを思い知ることになる。

 

 

 * * * *

 

 

 頬に付いた血を舐めとりたい。その欲求を強靭な意志力をもって押さえつけたシャルティアは、震える手を慎重に動かしその血を拭う。

 少し痺れるような快楽が頬を伝って、シャルティアは下唇を軽く噛んだ。どう考えても、これは「血の狂乱」だけの作用ではない。

 

 「血の狂乱」は端的に言えば己の精神を極限まで躁状態にするだけのペナルティだ。

 現に盗賊たちを虐殺した時も気分が高揚し殺戮衝動が高まりはしたが、それ以外で身体に異常をきたすことなど無かった。

 しかし、クロエルの血の一滴(ひとしずく)がシャルティアの頬を濡らした時、そこに感じたのは爪先から頭頂までを無数の黒い蛇が這いあがるような背徳感と、全身を貫くような快楽だった。

 

(あの女に惹かれる理由がようやく分かった…血だ。あの女の血は特別なんだ…)

 

 あれは、宵月に照らされ妖しく吸血鬼を(いざな)う鮮血の海原だ。この身を沈めて、全てを委ねてしまいたくなる。しかし委ねたが最後、逃れることは叶わず溺死するに違いない。

 

 「血の狂乱」とクロエルという存在の波状攻撃に精神が揺さぶられ続ける中、シャルティアは己の創造主であるペロロンチーノの言葉を思い出していた。それは、かつてペロロンチーノが恐れた「エヌ・ティー・アール」という呪いの話だった。

 

(ペロロンチーノ様が昔アインズ様に仰っていた…確か短編の「えろまんが」なる物なら楽しめるけど「ちょうへんあにめ」や「えろげ」で推している娘がエヌ・ティー・アールされるとトラウマになる…と。その呪いを受けた娘は、愛する者を裏切り敵の与える快楽に溺れると…!)

 

 シャルティアは戦慄した。

 自分は恐らく、エヌ・ティー・アールという呪いを受けている。もしこの呪いに屈するようなことがあれば、自分は至高なる御方を裏切ってクロエルの性奴隷になってしまう可能性があるのだ。

 その恐ろしい結末を想像し、シャルティアは初めてクロエルという存在を恐怖した。

 エヌ・ティー・アールを操るカースドナイト――ナザリックの――いや、全世界の乙女の敵と自分は相対していたのだ。

 

「い、嫌でありんす…ッ」

 

 シャルティアはクロエルを拒絶するように一歩下がる。しかしそれを嘲笑うかのようにクロエルが刀を構え、走り出すのが見えた。

 

「来ないでえぇええええ!!」

 

 明確な拒絶の言葉と共にシャルティアの切り札というべきスキル〈エインヘリヤル〉が発動した。

 

 

 * * * *

 

 

(シャーちゃんが…増えた?!)

 

 それはクロエルが走り出してすぐのことだった。シャルティアが突然絶叫したと思えば、その前方に白き光が立ちはだかるようにして集約し、人の形を象り始めたのだ。

 白い光が象るは使役者(シャルティア)の姿。塗装前の等身大マネキンを思わせるそれは、クロエルを捉えると槍を構えて瞬時に突撃を開始する。

 

 クロエルの対応も早い。垂直に構えた刀の峰に片手を添えて、迫る槍の側面に剣の腹を押し付けることで軌道を横に逸らすと攻撃を回避、そのまま踏み込むことで白いシャルティア――エインヘリヤルの懐深くに入り込むと、垂直に立てていた刀を軽く持ち上げ柄頭を眉間に、膝蹴りを脇腹へとそれぞれ叩き込む。

 エインヘリヤルはその衝撃に二歩、三歩と後退するが、特に痛がる様子も見せず、再度槍を構えると連続して突きの攻撃を繰り出してきた。

 

(表情に変化なし…無生物…推定…ゴーレムってとこっすか?)

 

 目の前の敵を分析しながらクロエルは槍の攻撃を捌く、捌く、捌く。三合ほど打ち合い一度距離を取ると新たに得た情報を整理し始める。

 

(身体能力…シャーちゃんと同程度。攻撃…近接戦闘のみ。スキル…なし。パターン…単純。結論…肉壁(タンク)

 

 ――と、そこへ強い衝撃を受けてクロエルの身体が横に弾けるようにして吹き飛んだ。

 

「ぎゃああ!」

 

 右の脇腹に激痛を感じながらクロエルが地面を転がる。それに追いすがるようにしてエインヘリヤルが接近、槍を突き出してくるが、クロエルはその穂先を倒れた状態から蹴り上げることで辛うじて回避する。

 立ち上がってクロエルが見たものは、エインヘリヤルの後方で新たに〈清浄投擲槍〉の準備をするシャルティアの姿だ。

 

「……そう、っすね、それが肉壁の正しい運用法っす!」

 

 クロエルの脇腹を貫いたのはシャルティアの放った〈清浄投擲槍〉だった。

 どうやら前衛をエインヘリヤルが、後衛をシャルティアがそれぞれ行う戦術に切り替えたらしい。あまり勝負に時間をかけたくないクロエルにとって厄介な戦術である。安全圏にいるシャルティアの心に余裕が生まれれば精神が安定する可能性もある。

 

(なら、動揺を誘うためにもちょっと実験してみるっすか…成功すりゃいいんすけど)

 

 シャルティアを視界の端に捉えながらクロエルはエインヘリヤルとの戦闘を再開する。

 刀を正眼に構えたクロエルは、エインヘリヤルが連続して繰り出してくる突きに対し、穂先を刀で打ち据えることで捌き、摺足による移動でシャルティアとエインヘリヤルの姿がギリギリ重ならない立ち位置を維持しながら〈清浄投擲槍〉を待つ。

 

「死――ねぇ!」

 

 シャルティアの叫びと共に〈清浄投擲槍〉が放たれた。

 即座に反応したクロエルの選んだ行動は〈玉鋼〉による防御ではない。取り出した針型手裏剣をエインヘリヤルの足元に投擲し、〈影縫い〉によってその行動を縛ると自身の立ち位置を半歩横にずらす。

 必中効果を持った〈清浄投擲槍〉がクロエルを追尾するようにその軌道を修正するが、その射線上にはエインヘリヤルの姿。

 

「しまった!」

 

 直撃した〈清浄投擲槍〉にエインヘリヤルが吹き飛ばされるのを見てシャルティアは臍を噛む思いだ。

 クロエルが試みた実験とは、ゲーム時代には存在しなかったフレンドリーファイアの有無の確認だった。ナザリックでは既に検証された事柄であったにも関わらず、精神の動揺治まらぬシャルティアは同士討ちする危険にまで気が回っていなかった。

 そして、射線上に立っていたことでエインヘリヤルが吹き飛ばされた先には刀を上段に構えて待ち構えるクロエルの姿。

 

「チェリオオ!」

 

 開幕、シャルティアの頭を縦に割った脅威のスキル〈ジゲン一刀・星兜〉が振り下ろされ、〈清浄投擲槍〉の衝撃により碌に体制も立て直せなかったエインヘリヤルの頭部が粉々に砕け散る。

 同時にエインヘリヤルを貫通して尚も迫った〈清浄投擲槍〉がクロエルの胸を貫き苦悶の声を上げさせる。

 

(ぐうぅ…フレンドリーファイア…確認。肉壁越しの威力低下…確認)

 

 ゲームと異世界の差異を確認しながら、痛む身体を引きずりクロエルはまた駆けだす。

 視線の先には悲鳴に近い声を上げながら、〈清浄投擲槍〉を構えるシャルティアの姿。

 

(実験その二!)

 

 〈清浄投擲槍〉が放たれると同時にクロエルは無限の背負い袋からある物を取り出す。

 取り出されたのはクロエルの身体をすっぽりと覆い隠せそうな長方形の板状の物体。「重っ?!」という言葉と共に前方に突き立てられたそれにクロエルが身を隠した瞬間、〈清浄投擲槍〉が直撃する。

 しかしその長方形の物体は清浄なる魔力の塊を一身に受けて尚、煙を上げながらも依然として聳え立っていた。

 

大盾(タワーシールド)?!」

 

 シャルティアが驚きの声を上げ前方の物体を睨む。それはクロエルが異世界で初めて殺したプレイヤー、龍♂狩りの使っていた大盾だった。

 PvPに盾一枚で挑み続けた廃人プレイヤーの所有物、当然神器級(ゴッズ)の大盾でありその防御力たるや堅牢の一言に尽きる。職業(クラス)の異なるクロエルでは装備することはできなかったが、単純に地面に突き立てて使えば壁として利用できるのではという閃きが今回のクロエルの実験につながった。

 

(壁利用…成功! 神器級だけあって大したダメージカット率っす。龍♂狩り、感謝するっすよ!)

 

 ガランと音を立てて龍♂狩りの大盾が地面に倒れ、その脇をクロエルが疾走する。回収している暇はない、今は一刻も早く距離を縮めるべきだとクロエルの経験則が叫んでいる。

 

(あああ、どうしようどうしよう止まらない止められない。ペロロンチーノ様ぁ!)

(…やっば、クラクラしてきたっす。何でユグドラシルには増血ポーションとかないんすか!)

 

 双方が双方、追い詰められていた。シャルティアはクロエルが近づくほどに誘惑や恐怖に精神が掻き乱れ、クロエルは呪いによる出血ダメージで軽い貧血を発症している。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)〉!」

「くぅぅうう!」

 

 シャルティアの放った紅蓮の炎が噴きあがり、クロエルが身を守るように両手を交差しながらも尚走る。一拍、クロエルが刀を持たぬ腕を素早く振り、カランと何かが地面を転がっていく。

 

「このダメージならぁああああ!」

 

 クロエルが叫ぶとともに突如、彼女の走る速度が上昇する。

 クロエルが地面に(ほう)ったのは鞘。それによりスキル〈捨て鞘〉が発動しダメージ量に比例してステータス上昇のバフがクロエルにかかっていた。

 

「ふぉ、〈力の聖域(フォース・サンクチュアリ)〉!」

 

 狼狽えながらも眼前に迫ろうとしている悪夢を拒絶するかの如く、シャルティアは純粋な魔力による障壁を自分の周囲に張り巡らすが――

 

「武士道は死狂ひなり。一人の殺害を数十人して仕かぬるもの」

 

 ――クロエルの口から葉隠れの一節が詠まれ、彼女の存在感が重く膨れ上がる。

 職業に「侍」を持つ者が詠めば、一時的に強力なステータス上昇を約束するスキル〈侍の聖句〉。〈捨て鞘〉に加えた更なる強化によって放たれたクロエルの一刀は、シャルティアの障壁を無慈悲にも粉砕する。

 

 そしてその瞬間、クロエルは確かに見た。

 戦意が萎み、敵意のまるでないただの怯えた子供の顔を。

 

 クロエル自身は気付いてなかったが、戦闘によって強まった彼女の血の匂いが眼前に迫ったことで、シャルティアの戦意を著しく挫いていた。

 特別な血の誘惑と恐怖、そして餌を目前に「待て」を命令された犬のように、欲望をチラつかせながらも不気味に鳴りを潜めてしまった「血の狂乱」。そうあれと創造されたはずの内面で起きた様々な未知の要素にシャルティアは戸惑い、足が竦み、とてもじゃないが戦闘どころではなくなっていた。

 

 そんな強大な吸血鬼であるはずのシャルティアの、どこか途方に暮れたような、迷子であることに気が付き絶望する幼い子供のような様子を見てクロエルは――

 

 ――物凄く、嗜虐心をくすぐられた。

 

「さぁ、(とら)まえた」

「…あっ」

 

 クロエルが芝居掛かった口調で碌に抵抗もしないシャルティアを押し倒し馬乗りになる。

 シャルティアの胸に腰を下ろした状態で、スポイトランスを握る腕は片手で抑え、もう一方の腕には膝を乗せて体重をかける。

 仰向けで大の字に寝転がるシャルティアは、ただただ怯えた瞳でクロエルの顔を見つめていた。

 

「…可愛いっすね」

 

 空いた片手でクロエルが自分の兜のバイザーを持ち上げる。初めて晒された素顔にシャルティアが息を呑むのが聴こえた。そこには美しくも痛々しい、生新しい裂傷が幾つも刻まれた顔が妖しく微笑んでいる。

 

「デザートをあげるっす」

「…やっ」

 

 力なく振られたシャルティアの顔にパタパタと、頬面付き兜(クローズド・ヘルム)の内側に溜まっていた生暖かい血液が何度も落ちる。

 シャルティアの白い(かんばせ)に幾つもの赤い斑点が描かれ、何滴かの()()は口へと落ちて、小さな舌を伝っていく。

 その味に、ビクリとシャルティアが身を震わせた。

 

 

 ――入ってくる。

 

 わたしのなかに入ってくる。

 怖いものが入ってくる。

 

 それを知ったら、戻れなくなりそうで。

 

 だから、知るのが恐ろしくて。

 だから、知りたいと思う気持ちを止められなくて。

 

 ああ、でも、やっぱりこれは知るべきじゃなかった。

 だって、これは、この味は。

 

 なんて、なんて、なんて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 ゲーム、ユグドラシルのプログラム内部には「blood_bless」と呼ばれる連想配列というものが存在した。

 公式ランキングに使用される様々な集計データを格納する箱の一つであるこの「blood_bless」は、プレイヤーの総出血ダメージ数と、戦闘で浴びた返り血の総数をデータとして格納する役割を持っていた。

 

 しかし、反映させる必要のない集計データだとして公式ランキングのプログラムから除外されたこの「blood_bless」は、消されることこそなかったが存在を忘れられ、何の役割も持たず、誰にも見られることもなくプログラム内部でただ無意味なデータの集積を続けていた。

 

 もしユグドラシルの開発チームの誰かが気紛れに、この連想配列内の集計データを覗いていたら、一人群を抜き異常な数値を叩き出しているプレイヤーを見つけて驚いていたかもしれない。

 

 ユグドラシルでは何の影響も及ぼすこともなく、しかし内部では確かに動き続けていた「blood_bless」。

 この機能が異世界で吸血鬼に影響を及ぼすとは、開発チームは考えもしなかっただろう。

 




クロエル「胸を斬ったときの感触が予想よりも浅かったっすが、あれは…?」
シャルティア「知りんせん!」

プログラマー1「変数名なににしようかな~。blood_count…blood_point…いや、ここはblood_blessこそが相応しい…」
プログラマー2(先輩…また中二病にかかって…)


シャルティアは実力と言うより相性が悪すぎました。
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