フェアリー(のように穏やかな)ライフ(を送りたかった) 作:水生蟲
そして新たな環境(先行二ターンキル可能)、いらっしゃい。まだ見ぬ未来に帰って(遠い目)
駒王学園、その旧校舎にあるオカルト研究部で一つの声が上がった。時は夕暮れ、窓から差し込む夕日は眩く、茜色の空はその身をゆったりと夜に委ねるように闇に溶け始めていた。
「
疑問の声を上げたのは、兵藤一誠と呼ばれる青年だった。先日、その身に宿す能力故に堕天使に殺された所をリアス・グレモリーに悪魔として拾われた経緯を持つ。悪魔としては超が付くほどの新人で、なおかつ裏の事情に明るくない彼に対して答えるのはこの駒王学園の二大お姉様の一人であり、オカルト部部長であり、この町の領主であるリアス・グレモリーその人だった。
彼女はソファーに腰を下ろし、自慢の紅い髪とその豊満な胸を揺らしつつ同じく二大お姉様の一人である姫島朱乃が入れた紅茶を嗜んでいた。
「えぇ、そうよイッセー。そのクリーチャーで合っているわ」
「え……けど、それって伝説の怪物達の事ですよね?ホントにそんなのっているんですか?」
半信半疑といった様子の一誠だったが、リアスの後ろに控えていた朱乃が今度はそれに対して答えた。
「あらあらイッセー君、それを言ったら私達悪魔だって空想上の生き物ですわ?」
そう言ってリアスにお代わりの紅茶を注ぎながら、イッセーに微笑む。その綺麗な横顔に鼻の下を伸ばして見蕩れるイッセーだったが、慌てて首を振って話を元に戻す。
「確かにそうですけど!なんか、まだそういうのに実感湧かないって言うか……」
「ふふっ、それもそうね……朱乃、
その言葉に、向かいのソファーに座ってお菓子を食べていたオカルト部きってのマスコットキャラである塔城小猫と学園のイケメン王子と名高い木場祐斗は顔を強ばらせた。子猫に至っては食べかけのケーキを口から落としてしまっている。何も知らないイッセーは、そんな二人の様子にも気づかず、部長のその柔らかな肢体に目を奪われたままだった。
「あれを…ですか。宜しいのですか?あれは私達にとって負の象徴、そんな簡単に見せるものでは……」
躊躇う様子を見せる朱乃に、リアスが言う。
「構わないわ、いずれ知ることになるのなら早い方がいいでしょう。ねぇ、イッセー?」
脚を組み換えながらイッセーへと問うリアスだったが、当のイッセー本人は悪魔になって上がった視力を駆使し、その御御足が組み換えられる時に奥に一瞬だけ見えそうな乙女の秘密を視線で暴こうとしていた。
「はい!是非とももっと知りたいです!」
「……厭らしい顔」
それを見た子猫が、硬直から解放されてイッセーを批難する。だが、その顔色は先ほどより悪くなっておりケーキも途中で食べるのを辞めてしまっている。まるで何かに恐怖しているかのようだった。
そこでようやくイッセーは、僅かな危機感を覚えた。もしかしてこれ、相当ヤバいんじゃぁ……と思ったのも束の間、イッセーが朱乃を止める暇もなく事は始まった。
「分かりましたわ、それでは……」
そう言って、朱乃は遠見の魔術を発動する。机の上の空中に現れたその球体には、どこまでも荒れ果てた荒野が広がる映像が見えた。地面には草一本生えず、生き物一匹見当たらず、大きな陥没や黒く焦げたような跡ばかりがありとてもではないがこの世の物とは思えなかった。一部の大地は焼跡とは違う、血が固まって出来た様な色をした黒い部分があった。余りの壮絶さに吐き気を催すイッセー。子猫と祐斗も、これには顔を顰めて嫌悪感を顕にしていた。
「おぉえっ…うっ………なん……だよ、これっ………部長!こ、これは何なんですか!どうしてこんなことがッ!」
「落ち着いて、イッセー。いきなりこんな光景を見せたのは謝るわ。けれど、知っておいて欲しかったの。その昔────悪魔、天使、堕天使、そして
「黒神龍、九極神、邪眼王、暴走龍……」
「あら、知っているのね」
「えぇまぁ…有名っちゃ、有名ですからね。ゲームとかでもよく見ますよ、その名前は」
そう、彼らクリーチャーにより苦渋を飲まされた三大勢力は少しでもその脅威を、恐怖を、後世に伝える為にクリーチャーの蹂躙劇の一部を神話や御伽草子として遺していた。
「でもね、これだけじゃないのよ。私達が受けた傷は……朱乃」
「はい部長」
朱乃が返事をすると、今まで地面ばかりを映していた映像がノイズと共に切り替わっていく。そして段々とそれは全体像を現していった。天から地へと突き刺さるようにしてそびえる灰色の巨石、表面は岩で出来ているのかでこぼこしていた。
「なんだこれ……デッカイ岩?」
しかし全貌を見たその瞬間、イッセーは背筋を何かが這いずり回るような恐怖でもなければ、かつて感じた命を脅かす焦燥、そのどれとも違う感覚を感じた。ただ一つ分かったのはとてつもなくヤバい、弱い自分にもそれだけは理解出来てしまった。冷や汗が止まらず、呼吸も荒くなってきてその物体から目を離すことが出来ない。
「誰が付けたか、通称【天使と悪魔の墳墓】──
クリーチャーにとっての戦勝記念碑であり、私達にとっては悪夢の慰霊碑」
リアスは手を組んで目を伏せ、嘆くように言った。イッセーは見た物の衝撃が強過ぎたのか言葉が上手く出てこなかった。
「こんなものがあるなんて……」
「む……部長、上の方に誰かいませんか?」
すると、それまで静寂を保っていた祐斗がおもむろに口を開いた。その眼はいつも女子生徒に向けるような優しい雰囲気ではなく、鋭く細められていた。余談だが、後にイッセーが木場の評判を貶めるべくアイツもあんな顔するんだぜと女子に言いふらしたところ、むしろその目で見られて強く罵倒されたいとの声が続出したという。
「何を言ってるの祐斗、此処は立ち入り禁止区域よ?そうでなくても、こんな荒れ果てた土地に人なんかいる訳ないわ」
「あ……今、何か動きました」
「子猫まで?もう、一体何がいるって言うのよ。仕方ないわね、もっと上に近づけてみて頂戴」
その言葉に朱乃がダイジェスト映像のように墳墓の上の方を映していくとその一つに、壁の出っ張り部分に人が腰掛けているのが見えた。
『ストップ!!』
その瞬間、一斉に叫ぶリアス達。
「あらぁ……これは、誰でしょうか?」
手を頬に当てながら微笑む朱乃だったが、内心興味がある事を隠しきれていない。それもそうだろう、彼女含めてこの場にはタブーや見てはいけない物を見たがり嬉嬉として近寄る種族である悪魔しか居ないのだから。
「人……よね」
「人ですね」
声を揃えてリアスと子猫が呟く。その人物の見た目は高校生くらいの大きさだった。まだ少し距離があるからか表情は詳細には分からないがとても整った顔立ちをしている。そして、とにかく全身真っ白な姿が印象的だった。
「髪の毛とか服とか色々白いけどどう見ても人間でしょコイツ!なんでこんなとこ居るんだ!?」
「朱乃、もう少し近くに寄って。気づかれないようにね」
「はい」
いつにない真剣な表情で、映像に映る青年を見つめるリアス。そして、徐々に画面はその人物へと近づいていく。しかし、あと数メートルという所でガバッ、と突然こちらの方へと顔を向けてきた。
「うわぁっ!!コイツ、こっちに気づいてますよ部長!?」
「そんな、ちゃんと隠蔽魔術を施しましたのに……」
遠見の魔術は、此方から彼処が見えるように、あっちからこっちも見えるのだ。その為朱乃は、隠蔽の魔術を使い、マジックミラーのように此方側からしか見れない状態にした、筈だった。
『…ャ…ス・……ン』
「あ、今なんかコイツ喋りましたよ!!」
僅かにしか声が聞き取れず、なんと言ったのかは不明だったが、それにより起きた事にオカルト部員の面子は驚きを隠せなかった。
「嘘、姿が消えた……?」
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気が付けばもう夜になっており、リアス達悪魔の活動時間となっていた。
「それじゃあねイッセー、今日こそ契約を取れるよう頑張って頂戴ね。勿論、子猫もよ?」
「うっす!頑張ります!うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「……それでは、私も行ってきます」
そう言って笑顔で手を振り、イッセー達を送り出したリアス。けれど二人の姿が見えなくなると、途端に険しい表情になる。今この場に残っているのはリアスと、朱乃の二人だけだ。祐斗は調べたい事があると言って先に帰ってしまった。
「墳墓の上に居たあの白い人間……?本当に人間でいいのかしら、何はともあれこれは私達だけの問題ではないわね……」
リアスは、いやリアスでなくても少しでも裏に通じているなら家族に幼い頃から聞かされる話だ。あの場に立ち入る者、あの場を穢す者は何人たりとも許されないと。リアスは子供心故にどうしてか理由を聞いても教えてくれなかったが、後でこっそり物陰で聞いた話によるとクリーチャー絡みの事らしいことだけは分かった。リアスは初めてこの時、伝説のクリーチャー達が実際に居ることを知ったのだった。
「お兄様に連絡を取りますか?」
「……この際仕方ない、か。繋いで頂戴」
♢
「取らんのか、悪魔よ」
暗闇の中、響く声に一人の悪魔が片膝をつきながら恭しく応える。もしもこの場に他に悪魔がいればたいそう驚くことだろう、その人物が誰かに跪くことなど有り得ないと思っているからだ。現四大魔王の一角、リアス・グレモリーの兄であるサーゼクス・ルシファーがまるで従僕のように伏す様はそれ程までに衝撃的な事だった。
「ハッ、申し訳ございません。どうかお気になさらずにどうぞ」
「構わん、取れ」
闇からの声の主はサーゼクスに促すと、彼はその場から立ち上がった。
「…ありがとうございます、失礼します」
そして、少し離れた所で連絡をとり始めた。それを確認したこの部屋の主は、低い声をさらに低くしてこの部屋へと潜り込んだ者へ問いただした。
「して、何用だ……余の時間を割いた以上、それなりの物があるのであろうな」
「…………はい、勿論。それが………」
もう一つの声が、この世の終わりともとれるような声色で申しあげしようとした時だった。
「【天使と悪魔の墳墓】がある土地に不法侵入者だと!?一体誰がそんな…………全身真っ白な人間?此方に気付かれた瞬間に何か言葉を唱えて姿を消した……?どうして彼処に人間が────」
ズドンッ!!!!!!!!!!
サーゼクスが大声を上げたその瞬間、凄まじい音と共に部屋が揺れた。
地震では無い。紫光が部屋の内部を明るくし、その原因を照らし出す。ドクドクと、流れる血が紫の皮膚を這いずり、肩から伸びる二本の触手はその者の内心を表すかのように猛り狂っていた。その巨腕には一体のクリーチャーが握られており、今の轟音と揺れはそれが壁に叩きつけられたようだった。
「……どういう事だ」
「お゛、お許しをブラックモナーク様ぁぁぁああ!わ、我らが王にして最高の主!
『エル様』がッ!! 居なぐなられだなど!!ッ!?ゴホッゴホッ────」
そこでブラックモナークと呼ばれた異形は、喉を掴み壁に叩きつけたクリーチャーを今度は床に乱暴に放り投げる。
「最早之はただ事ではない……必ずや捜し出してこの場にお連れしろ!あの御方が居なければ余達がこの世に存在する意味など、ゼロだ!!」
ブラックモナークが怒鳴り声をあげると、息も絶え絶えの様子のもう一体のクリーチャーは返事をすることなくすぐさま影に溶け、部屋から姿を消した。
「……あぁ、大丈夫。こっちの都合さ、すまない。また後で連絡を掛けよう」
サーゼクスは今の音に心配してくれる愛しい妹との連絡を心惜しくも、切った。
「悪魔よ、無礼をしたな。許せ」
「まさか、とんでもない。ところでエル様、とは一体誰の──」
「貴様ら外界生物がその名を口にする事は許さんッ!!」
怒号再び、覇王と呼ばれる程のクリーチャーが浮かべる心底怒り心頭と言った様子にサーゼクスはすぐさま謝罪をした。頭を深く垂れ、心の底からの謝罪を。
「────申し訳、ございません」
「二度目は無い」
「ハッ!」
「だが都合がいい、貴様ら悪魔共にも手伝わせよう。悪魔よ、頼めるか?」
「……何なりと」
仮にも四大魔王を他の下級悪魔と何の差もなく扱うそのスタンスに、サーゼクスは内心思う事が無い訳では無いが、自分に、いや悪魔に、拒否権なぞある訳が無いのだ。嘗ての大戦、敗者は勝者に従う。クリーチャーに裏で支配されるよりも前から、それが古来よりの決まりだ。
最後ブラックモナークに掴まれていたクリーチャー……一体何ハギ・ジャケットなんだ……
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~カード紹介~
【天使と悪魔の墳墓】
出されたら時と場合によってはダイレクトアタック(物理)不可避と言われたカード(※個人の感想です)
効果は至って単純にして、最凶。各プレイヤーの場、マナを見てそれぞれ同名のカードがあれば問答無用で墓地置きというクリーチャーを並べるプレイをする人間にとっては鬼門とも言える。多くはハンデスと共に併用されており、妨害行為をするにはもってこい。そして、当然の如くシールドトリガー付き。
【覇王 ブラックモナーク】
恐らく長くやっているデュエマプレイヤーであるならば一度は耳にした事があるであろうカード名。もっとも、それは能力や強さによるものでは無いが……作者的にはこの子出して凄いワクワクしてます。
文明は闇、コストは10の進化クリーチャー。攻撃時に墓地から闇の非進化クリーチャーを出し、その後『闇のクリーチャー』を出す能力をもつ。上手くやれば、ループが可能なのでループが好きな人は是非とも一度見てほしい。