活動報告入れたその日に投稿する物書きの鑑みたいなことは出来たぜ。
それでは最終話『人龍問答』、どうぞ
「……久しいな」
白銀の鎧を包む古ぼけた茶色い外套を風になびかせながら、彼の碧眼は飛空船の甲板より古塔を睨んでいた。
ここは雲よりも高い高度に滞空し続ける調査飛空船。古龍観測隊員が用いるそれにジオルドは、今回は特例としてメゼポルタからフォンロンへの調査に出た飛空船に乗せてもらい、彼の地を目指していた。
「……そういえば、四ヶ月前にもこんな事を言ったな」
四ヶ月前──新大陸からギルドに戻る船での己と今の自分を重ね合わせ、時の流れを彼は感じていた。
既にジオルドがシュレイド城を発ってから三ヶ月が経過している。あれから彼は、飛空船を出すメゼポルタを目指す道すがらに、様々な遺跡や資料を探し、そして己の目で確かめて歩き続けていた。そして──新たな答えが出た。故に彼は確固たる意志を持ってフォンロンの古塔へと足を運んでいる。全ては──四ヶ月前からの問答のため。
「ジオルド、もうすぐ着く」
「分かった。ありがとう」
彼にとって見慣れた観測隊員が、ジオルドを呼びに来ていた。ジオルドと彼はかれこれドンドルマを経った時からずっと──つまり既に三ヶ月の付き合いとなってたりする。なので砕けた話し方になるきっかけがあっても、何も不思議はないのである。
「……そうだ、ジオルド。アンタが何を求めてこの地に一人で行こうとしたのかは探らない。だから言いたいことは一つだ。アンタならどんな運命だって越えられると信じているぞ、英雄」
「ふっ……ありがとう。では、しっかり準備してこよう」
彼だけでない、多くの者からの信頼を受けている事を改めて知ったジオルドは微笑みながら、しかし待ち受ける運命の壮大さに心の奥で気を少し張り詰めて、奥の船室へと向かっていった。
△▼△
船より降りた彼は、ギルドが設けたキャンプから長い石畳の坂道を経て、塔の入り口近くまでたどり着いていた。かつてはガブラスがいたが、今はいない。
「……ここは、
フォンロン。彼の故郷ある大陸から海を挟んだ僻地。そしてその地には古代の文明の証とされる巨大な塔と周辺の巨大な建造物が、多く形を残して今も鎮座している。しかしその巨大さ故か、あるいは『ナニカ』あるのか、希少なモンスターや古龍の出現が度々確認されるている。既に何度も古龍観測所やギルドが調査隊を派遣しているが、原因の究明には至ってないという。しかしここまで竜大戦と古龍を知った彼は、ある程度その『ナニカ』を察していた。
「頂上、か。確か、炎妃龍の時も登ったっけ……今の歳で登り切れるかな……」
しかし大きな思考が出来ても彼は人間。やれる事には限界があった。そんな彼に呆れるように、入り口間際に雷光が落ちた。
「キリンか!?」
彼の予想通り、雷光の落ちた場所には蒼き一角を冠する白き幻獣が、シュレイド城の時と同様に堂々と佇んでいた。
──キュウウルルル……
「っ……」
「……何か用ですか」
──ブルル…………
人語を解す可能性と気を荒立てぬことを考慮し、敬語を用いて問いかける。しかし問を解してか否か、キリンはジオルドに向かって歩き始めた。行動を起こして何が起こるか想定できないジオルドは、ひとまず刺激を避けるために静かに待つことを選んだ。
そうして待ち続けていると、キリンは既に目と鼻の先まで近付いてきていた。しかしジオルド本人には目もくれず、彼のアイテムポーチに注視し始めた。
「……なるほど」
幻獣の意図を理解したジオルドは、アイテムポーチから例の髪の毛を取り出した。片や地脈の収束地より、もう片方はシュレイド城にて手に入れた物だ。それを確認したキリンは彼に背を向け──そのまま膝を折ってその場に座り込んだ。そして顎で己の背を指し示すように首を振った。その仕草はジオルドに人間くさいものを感じさせるには十分すぎた。
「乗れ、と?」
──キュルル……
「あ、ちょっ!?」
戸惑うジオルドに痺れを切らしたのか、キリンは彼の掌──にある髪の毛を口で奪い取り、そのまま咥えてしまった。すると髪の毛は更に強く発光し、意思を持ったように二本の髪の毛がキリンの後頭部にて結ばれた。さながらそれは、アプトノスやガーグァに付ける手綱のようだった。
「……彼女から、そうしろと言われたわけか」
──キュルル……!
早くしろと言わんばかりにキリンは乱暴に座りこむ。そんな幻獣に苦笑いを浮かべながら、ジオルドはキリンの側にまで近づく。
「それじゃ、失礼します……」
──キュウルルルゥゥゥイィィィ!!
「ちょっ速ァっ!?」
背中に乗り手綱を握った途端、キリンは乱暴に立ち上がり駆け出した。本当は『死んでも乗せたくない』とでも思ってたかのように。
──キュルルアァァァァ!!
「ちょっ、なんで壁を走るんだァァァァァァ!!??」
例え胴体がキリンから浮こうとも手綱だけは離すまいと、ジオルドはハンター歴21年間で最も強く物を握った今日を胸に刻んだのであった。
△▼△
「ぜぇ……ぜぇ……か、肩から先が吹っ飛ぶかと思った……」
──雲を突き抜け、雷鳴を聴き雨に打たれながら、彼とキリンは塔の頂上に辿り着いた。因みにジオルドを引きずり回した当のキリンは、ジオルドの苦言も全く気にせずそのまま奥に歩き始めた。
「……ったく、ここまで乱暴かつ傍若無人に来るとは思わなかった……」
「ふふ、当然でしょ?むしろかつて貴方にされたことに比べれば、この子の対応はまだ優しいわ」
──キリンを一瞥して思わず文句を垂れると、忘れもしない声を聴いた。慌てて立ち上がると、四ヶ月前から網膜に焼き付いた少女の姿がそこにあった。
「ッ!……お待たせしてしまいましたね、レディ」
「あら、丁寧ね。ご褒美に帰る時もこの子をつけてあげるわ」
「いやそれは結構……それで?俺が、そのキリンに何を?」
「ふふ、まあ仕方ないわよね。貴方とて人間、忘却は必然だもの。でも、
少女はキリンを手招きし、側に座らせた。しかしジオルドには、キリンがどこか嫌そうにしてるように見えた。
「大丈夫よ……何かあっても私がいるわ」
──キュルル……
「いい子ね。それじゃ、ご開帳よ」
たてがみが少女の手によってたくし上げられる。たてがみに隠れていた首筋には一本の黒い筋が入っていた。まるで刀傷のようであった。
「……っ……その黒い傷は……もしや……」
「そう、貴方がかつて撃退した子よ。貴方が戦った中で、唯一討伐できなかった古龍、それがこの子よ」
「……だからあれほど嫌がったのか」
──キュルルァ……
確認が取れ、用は済んだと言わんばかりに立ち上がり、白き幻獣は塔の頂上から去っていった。
「旧友の仇であり自分に傷を残した男だもの。会ってすぐ殺さなかったのが不思議なぐらいよ」
「旧友……それはもしや」
「
「……『子』という表現をする辺りから貴女と彼らの関係性は少しは伺える……故に今、俺が貴女に殺されていないのが不思議でならないのだが」
「ふふ……それは尤もね。だからこれから語らいましょう?」
少女は頂上の外周近くまで歩き、周囲を回り始めた。ジオルドも問答のために、彼女の後に続く。
「さて、あの時貴方に問いかけてからもうざっと四ヶ月。いっぱいお勉強出来たかしら?」
「……えぇ、おかげさまで」
「ふふ、それは良かったわ。貴方とじっくりお話出来そうだもの。……そうそう、口調が硬いわね。いつものように、あの時のような感じでいいわ」
「それはどうも」
四ヶ月前の時と同様、少女はジオルドを試し嗤うような話し方をする。だがジオルドはそれに臆し、身構えることをしない。
「……それで、どう思った?」
「『竜大戦』と、『
「それと、『彼』のこと」
「……ミラボレアスの事か」
「貴方達はそう呼ぶんだったわね。そうよ。そして知りたいの。事実を知った貴方の想いを。想いと理性が導いた答えを」
外周を回ることに
少女は塔の最も高く突き出た──正確には一箇所だけ残った──部分を眺めた。
「……どうした」
「問答をするには、些か薄暗い気がしたのよ。もう少し明るい方が目にいいでしょ?」
「それは助かるな。だができるのか?」
「ふふふ、まあ見てて」
そう告げると少女は、踊るようにその場で回り始めた。スカートの端を翻しながら何かを振りまくように。そんな当の彼女の顔は、目を薄く開き微笑むように口角をほんの少しだけ吊り上げていた。楽しむように。しかしその笑みには同時にどこか血生臭いものを、ジオルドは感じていた。彼は知っていた。モンスターが獲物を見定める時のそれであることを。やがて少女は回るのを止めた。
「ふふ、これでどうかしら」
「……ああ。確かに、これなら見やすいな」
実は彼女の表情への警戒で、少女が何をしていたかをあまり見ていなかった事は喉奥に押しとどめ、代わりの言葉を紡ぎ出す。しかし彼女の言う通り、確かに少女の周囲、それどころか塔の頂上全体が、先程よりも鮮明かつ明瞭に見えるようになっていた。不思議に思って辺りを見渡せば、所々に白く発光する物質が転がっていることに気付いた。
「あぁ、何が置いてあるかは気にしないで。でも、どうしても気になるなら問答の後で、ね?」
「……あぁ、良いだろう」
「ふふ、それじゃあ答えを聴こうかしら?」
「無論だ。俺はそのためにここまで歩んで来たのだからな」
改めて両者が向き合う。ジオルドは脚を少し開いて真顔の直立不動。少女は手を後ろで組んでゆったりと立つ。変わらず試すように微笑み、ジオルドに問いかける。
「一つずつ聴こうかしら。まずは貴方の『竜大戦』と『竜機兵』についての想いよ」
「『竜大戦』は『傲慢な生き物達が生んだ殺し合いの成れの果て』、きっかけとなった『竜機兵』は『殺戮を齎す死体の山そのもの』……ってところだ」
「ふふふ。遠回しだけどわかりやすい答えね。では、貴方はそれらに対してどんな答えがある?」
「無論、繰り返してはならない代物だ。忘れてはならないものだ……だが、無闇に伝えていいものでも無いだろう」
「それは何故?」
彼の答えの一つに、少女の眉がピクリと動く。予想外の答えが来たとでも言わんばかりに動揺が表れた。
「確かに、誰しもが悲しみや過ちを背負う。だが全ての人が同じ、そして大きな物を背負ってはいずれ崩壊するだろう。そしてそれ以上に──」
「……」
「人は、仲間が多いと頼りすぎてしまうものだ」
「……なるほど、そういう事ね。これは驚いたわ。でも、いい答えだわ。知るべきは背負える者のみだけでいい、か。納得いく答えね。人間の在り方に合わせた良いものだと思うわ」
ジオルドの真意を悟った少女は、今にも高笑いしてしまいそうな気持ちを抑えるように冷静な面持ちで答える。そんな彼女の返答に、ジオルドは少しの安堵を覚える。だがすぐに気を整えた。まだ問答は終わっていない。
「落ち着いた?じゃあ続けましょう?」
「いいだろう。決着が早いに越したことはない」
「ふふ。そうこなくっちゃ」
態勢を整えたジオルドを見て、少女は再び不敵に笑い出す。次なる問答の幕開けだ。
「『彼』──
「そうだ。かつて大国を滅ぼし、人類全てを滅ぼしうる彼の龍を俺は、俺達は確かに討伐した」
「そう。では貴方は、彼を討った意味を、そして討たれた彼はなんだったのか、分かるかしら?」
「……」
目を瞑り思考を巡らす。彼の目に浮かんでくるのは、三ヵ月前のシュレイドの闇空、11年前の決戦、そしてとある技術屋の日誌の中身だ。既に
「ミラボレアスは……いわば竜機兵に対する
「何故そう感じたの?」
「一つ、不思議に感じたことがある。──何故、奴の目撃情報や気配、そして奴の存在がある時特有のあの闇空が、シュレイドにしかないのか」
これは、かの大長老もシュレイド以外の情報を知らないが故の疑問であった。もし彼が『竜機兵による殺戮』を行った『人類全て』を滅ぼそうとしていたなら、『竜機兵』に
「彼の目的が『人類殲滅』ではなく『世界の再安定』を図ることにあったなら、『造竜技術』を使う者以上にその素材を取る者達や『竜機兵』の運用を欲する者たちを滅ぼしたことにも合点が行く、ということだ」
「ふふふ……いい答えね。じゃあ、そんな彼が──抑止力が消えたということはどういう事と思う?」
「簡単な話だ。──別に、なんてことはない」
「──それは、何故かしら?」
瞬間、時が止まったような感覚がジオルドを襲う。否、時というよりもそれは最早『生命の否定』とすら言える現象。この塔の頂上を席巻するのは、11年前のシュレイド城すらもパーティ会場と思えるほどの空前絶後の『圧』。ただそれだけがここを征していた。
「抑止力、なんて言ったがな。それは既に過去の話だ。誰もあの兵器を欲しない以上、奴は既に抑止力としての役目を終えている。それに──」
そこで一呼吸置いた。ジオルドは改めて少女の顔色を見る。先程の圧を緩めることなくジオルドを睨んでいた。しかし怯むことなく臆することなく、彼は言葉を紡ぎ続けた。
「自然の一部の生き物に、そんな大層な役は初めからなり得ないものだ」
「──」
それを聴いた少女は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で呆けていた。まさしく想定外の答えに固まっていた。
「……正直、驚いたわ。
「貴女が想像する通りだ」
「……なるほど。自然の一部を滅して世界の安定を図ろうなど、愚の骨頂、と。ふふ……あははは……!」
納得した少女は、堰を切ったように笑い始める。先程の圧は既に跡形もなく消え、塔の頂上は問答を始めた時程度の緊張感に戻っていた。
「……満足したか?」
「ふふ……あは……ふぅ……えぇ。100点満点を超えて120点よ。約束通り、『良い事』をしてあげるわ。少しだけ、サービスもするわ」
「その前に、俺なりの本当の結論を語らせてくれ」
「あら、まだあるのかしら。ふふ、勉強熱心なのね。いいわ、聴いてあげる」
少女はとてもご機嫌な様子でジオルドのすぐ側まで歩み寄り、問答を続ける姿勢を取った。
「人は過ちを繰り返すものだ。竜大戦以前にも、きっと何か大きな過ちがあっただろう」
「そうね。竜大戦程でないにせよ、ね」
「だが過ちだけじゃない事を、貴女は知っているはずだ」
「……そうね。過ちを繰り返すということは、正しさもあった証ね」
「だからどうか、見守ってほしい。少なくとも俺のいる限りのこの世界を、俺の想いが伝わっている限りの世界を」
「……ふふ、良いわ。サービスはそれにしましょう。じゃあ、約束の『良い事』よ。受け取りなさい」
少女はジオルドの胸元に手を当て、意識を集中させるように目を瞑った。口は何かを唱えるように細かく速く動く。次第に温かな光が二人を包み込み、そして──
「これで終わりよ。体の調子はどうかしら?」
「──信じられない。11年前の決戦の時、いやそれ以上に身体が軽い……!」
「満足してくれたみたいね。貴方の背中の
「そうか……ありがとう」
微笑みながら少女は再び中心にまで戻った。周囲の白い光は、少女の機嫌のようにより一層強くなっている。
「……いい時間を過ごせたと思うわ。貴方ならその剣で、その想いで、未来を守れると思うわ」
「ありがとう。……ところで、貴女にとっても
「ふふ、これを見れば分かるかしら?」
白いドレス──と言ってもキャミソールに近いが──の胸元を引っ張って開くと、そこには黒い二本の筋が走っていた。
「……そうか。なら、こいつの重みがより一層増すな」
「ふふ、大事にしてくれるようで嬉しいわ」
理解し合えた両者は互いに微笑み、そしてこの時間の終わりを悟った。
「……今日この時、俺は決して忘れない」
「ふふ、私もよ。二度と会うことは無いでしょうけど、今日の日が──この『人龍問答』が忘れられない限りは大丈夫よ」
「そうか……ではさらばだ。
「えぇ、さようなら。
瞬間、塔の頂上は白光に包まれた。雷鳴のような咆哮はフォンロンの地に鳴り響き渡り、しかし誰も怯え竦まないそんな音であったという。
△▼△
「……全く、報酬にしては豪華すぎるな」
軽く文句を垂れつつも、ジオルドは残された白く光る物体を拾い集めていた。これからは標としてではなく、己の力とするために。
「……さて、行こうか」
──キュウルルル……
「……本気だったのか、アレ」
音の方を向くと、既にキリンが座って待っていた。少女がここに来て最初に言っていたことを思い出し、若干ナーバスになる。が、そこで終わることはなく、キリンの側まで歩み寄る。
「……俺の事を永遠に許さなくても、お前にはその権利はある。だけど、どうか信じて欲しい。俺も、ただ未来を求めているだけなんだと」
──キュウルルル!
「わかって、くれるのか……ありがとう。では行こう。背中、失礼──」
──キュウウウウルルルァァ!!
「ぬぁぁぁ!?急に立つなぁ!?」
──キュウウウウウルルルル!!!!
「やっぱり壁を走るのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
今度は雷鳴ではなく、単なる悲鳴がこの地に響く。情けなく必死な──しかし誰の心にも通じるそんな叫び。そして彼に呼応してなのか、はたまた偶然か。彼が去った後の塔はいつになく晴れ渡ったという。それはまるで、この先そのもののようで──
『人龍問答』──決着
『人龍問答』無事完結いたしました。ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございました。
語りたい事などは活動報告にて詳細に。