Project・Avanzare   作:ラジラルク
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第7回総選挙、プロジェクト・アヴァンツァーレ組はしゅがは意外皆圏外っ!w
唯一ボイス無しの聖來さんのボイス実装は一体いつに……。


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ⅰ:呪い

 

 

 

 『夢というのは、呪いと同じ。呪いを解くには夢を叶えなければならない。夢を叶えられず、途中で挫折した人間は死ぬまでずっと呪われたままである』

 

 随分昔、それこそ15年ほど前のことだろうか。

 まだ私が中学生だった頃、何気なく点けた朝のテレビで放送されていた子供向けの特撮ドラマ。その劇中で出演者が口にしたこの言葉が、ものすごく印象的だったのを覚えている。

 夢の力は絶大だ。夢は日常生活に多大な影響を及ぼし、退屈な日常でも、失敗して眠れない夜も、自分の身に降りかかるネガティブな要素を大きな活力へと変えてくれる不思議な力を持っている。

 夢があるから辛い現実にも耐えられるーー。夢が持つ不思議なエネルギーといったら、さながら魔法のようなもの。

 

 だが、その魔法は次第に“呪い”へと姿を変えていく。

 夢が与える影響は計り知れないものがあり、時には自分を励まし、幾度となく奮い立たせてくれる。

 だがその魔法に頼れば頼るほど、魔法の力は自分自身の人生そのものを狂わせてしまう呪いになって、自身を縛る鎖となってしまうのだ。

 この呪いを解く方法はただ一つ。その夢を叶えるしかない。

 本気で願った夢を叶えられなかった人生に、幸せなど訪れない。待っているのは幾度となく自分を襲い続ける後悔と未練に耐え忍ぶ、辛く苦しいまさしく苦行のような負け組の人生。どんなにお金持ちになって贅沢な暮らしをしようと、夢を叶えられなかった人間は幸せにはなれないのだと思う。

 

 だからこそ、本気で願った夢は叶えないといけない。そうじゃないと、本当の意味での幸せは勝ち取れないのだから。

 

「今日は……、ドラマの撮影だっけか」

 

 空欄が目立つスケジュール帳を確認して、先日事務所から送られてきた撮影の詳細メールを確認する。

 撮影場所は自衛隊基地の近くで、時間は14時から。まだ10時前だから、移動時間考えてももう少しゆっくりできるかな。

 スマートフォンを机に置くと、外の光を遮っていたカーテンを広げて窓を開ける。

 寒い冬を乗り越えた東京の街の上には、雲一つない青空が広がっていた。

 

「もう、春か……」

 

 春は出会いと別れの季節。何かが始まり、そして終わりを迎える季節でもある。

 少しだけ冬の寒さを含んだ春風に吹かれ、ふと東京に上京してきた日のことを思い出した。

 もう何年前のことだろうか、長野から夢を追って単身東京に上京してきたのは。初めて東京にやってきたあの日がつい先日のようにも思えれば、遥か遠い過去のようにも思えてしまう。そんな風に記憶が曖昧になってしまうほどに、長い年月が経ってしまっていた。

 日本の首都であり、多くの夢と希望が詰まった街、東京ーー。

 その大都会の真ん中で、長い時間を経てもなお私は未だに夢という鎖に縛られ、呪われ続けたままでいた。

 

 

 

ⅱ:歌姫……?

 

 

 

 聖來さんのスカウトに成功した翌日、俺は東京のとある自衛隊基地へと向かっていた。

 

『噂なんですけど、なんでも“自衛隊?の歌姫”とかなんとかって言われる美人で歌が上手い人がいるそうなんですよ』

「歌姫……、ですか?」

『はい。その方がどうも明日の自衛隊基地近くで行われるイベントに出るそうなんで、声をかけてみたらどうですか?』

 

 昨日の朝に、ちひろさんからかかってきた電話。

 スタステ開発部のちひろさんが何処でこんな情報を仕入れてきたのかは分からないが、何のアテもなく闇雲にスカウト活動をしていた俺にとっては有り難すぎる情報だった。オーディションまで残り日数が少ない中、こういった情報に賭けない手はない。ましてや提供者がスーパーアシスタントのちひろさんなのだから、信憑性も確かなはずだ。

 だが、ちひろさんが教えてくれた情報はあまりにも漠然としたものだった。

 “自衛隊の歌姫”といった不確かな呼び名はあるものの、本名は不明。何をしている人なのかも判明しておらず、未成年なのか学生なのかも定かではない。不定期で自衛隊主催のイベントに出演しては、その度に歌を歌っているらしいから、もしかしたら何処かのイベント会社やコンパニオン事務所に所属しているMCの人などかもしれない。既に何かしらの会社に所属している人なら、スカウトはではなく引き抜きになるため、話もややこしくなる。

 

「ちひろさん、何か他に特徴ないんですか? これだけだとあまりにもアバウトすぎて……」

『そうですねぇ。ともかく、その人は存在感が別格らしいですよ。一目見ただけで、他の人とは違うってモノを感じるんだそうです』

「存在感って……」

 

 ちひろさんにこれ以上聴いても、有益な情報を知ることはできなかった。

 噂の歌姫に関する情報はあまりにも少なくて、その真相はベールに包まれたままだ。だからこそ、実際に足を運んでみて、実物がどのようなものなのかを確かめなければならない。

 そう思って、わざわざ346プロ本社から遠く離れた辺鄙な場所にある自衛隊基地までやってきたものの、自衛隊基地周辺は閑散としており、とてもじゃないが今からイベントが行われる雰囲気には見えなかった。

 

ーーもしかしてガセネタ掴まされたか?

 嫌な思考が頭をよぎる。

 タイムリミットが迫っている中で掴んだ貴重な情報だっただけに、かなり期待をしてここまで足を運んでいた。それが無駄足となれば、落胆するのも無理はないだろう。

 わざわざこんな辺鄙なとこまで来る時間があれば、それこそまだ新宿や池袋で街頭に立って目を凝らしながら通行人を眺めていた方が有意義だったはずだ。オーディションまで時間がない今、一日たりとも無駄にする時間はないだのだから。

(仕方ない、帰るか)

 落胆して来た道を引き返そうとした時ーー、

 

「カットカットっ! もう一回やり直して!」

 何処からか、メガホンを叩く音と苛立ちの混じった男性の叫び声が耳に届いた。

 

 

 

ⅲ:エキストラ

 

 

 

「そこのキミだよ、きみ! 変な服の子!」

 

 監督のメガホンが、この場にいる全員の出演者の視線を乗せて私に向けられる。

 あれ、もしかして今、私ってば注目されてる?

 大勢の人間の視線を一身に受けるのは、何度経験しても悪い気がしなかった。誰かから注目される、視線を向けてもらえる、芸能人を目指して上京してきた私にとってこれ以上幸せを感じる瞬間はない。

 ただーー、

 

「きみ、エキストラのくせに目立ちすぎ!」

 

 もう少し、温かみのある眼差しを向けてくれたら、もっとスウィーティーなのになぁと思う。

 メガホンを私に向ける監督は眉間にシワを寄せて、呆れを通り越して怒り狂うようなノンスウィーティーな視線を私にぶん投げていた。その視線が好意的なモノではないのは一目瞭然だ。

 ちょっとやり過ぎだったかも……。

 力作であるこの服を“変な服”呼ばわりは少し頭にくるが、まぁこれも仕事のためだ。そう思うやいなや、私はすぐさま頭を切り替えてモードをシフトチェンジすることにした。

 

「え、目立ってるー? 知ってたー☆ でもごめんなさーい、マジで許してー? ほんとここに居させてー☆ マジでマジでマージーで☆ そんでもってあわよくばスカウトしてぇ、はぁとを幸せにしてー☆」

 

 もうここは、はぁとの限界突破したスウィーティー力を発揮して勢いで誤魔化してみせるかしない。

 そう思って死ぬ気で演技派女優を演じてみたものの、この監督には通用しなかったのか、監督は大きく溜息をついてメガホンをそっと地面に置いた。

 

 

 

ⅳ:佐藤心

 

 

 

 ちひろさんが話していた“イベント”は、ドラマの撮影現場を意味していたらしい。

 いやいや、それなら普通にそう言ってくれよって話ではあるが、とりあえずわざわざここまで来たのが水の泡にならずに済んで良かったと内心ホッとしていた。

 そしてこのドラマの撮影現場に、ちひろさんが話していた“歌姫”が紛れているはずだ。外見的な特徴は何一つ判明してないけど、確か一目見ただけで分かるくらいの存在感があるってちひろさんは言ってたっけ。あまりにも情報がなさすぎて漠然としたこの話で、頼りになる情報は“存在感”だけだ。その唯一の頼りを目印に、大勢の人が入り混じっている撮影現場を端から順々に確認していく。

 あの女性の人は綺麗だけど存在感は薄そうだし、その隣のセーラー服を着た女性もなにか違う気がする。奥の女性に関しては明らかに年増でアイドルなんか無理だ、その隣はーー、

 

(え、もしかしてあの人っ!?)

 抜群の存在感を放つ人間が視界に入り込んだ。

 分かりやすいくらいに目立っていて、逆に浮いてしまうほどのダントツの存在感を見せる、一人の女性。ヘンテコな羽のついた衣装を着たツインテールの女性は、責任者と思われる大柄の男性に半ば強引に押し出されるようにして幾多のカメラが向けられた撮影現場から弾き出されている。

 確かに、存在感にステータス全振りしたような女性だった。ていうか、存在感が不自然すぎるくらいに溢れていて、見ていて逆に不安になるレベルだ。例えるなら、阿寒の北極にラクダが悠々と歩いているような、そんな誰が見ても感じるであろう致命的なレベルの違和感を放っている。

 本当にこの人がちひろさんが提供してくれた情報の人間なのだろうか……。俺の想像していたのとは大きくイメージが異なっていたため、少しばかり心配になってしまった。

 そもそも今回の情報の手がかりは抜群の存在感と、“歌姫”という意外に何処にでもありそうな呼び名があるだけだ。一応歌姫の前には自衛隊という名詞があったものの、それも曖昧らしいから結局“歌姫”という部分しかアテにならなさそうだし、見た目だけでは判別できそうになかった。

 ならば、とりあえず確認してみるか。

 そう思って、俺はヘンテコな羽が生えた衣装の女性に声をかけることにした。

 

「……すみません、ちょっと良いですか?」

 

 ツインテールを揺らし、振り向く女性。

 少しだけ驚いた女性の表情を見て、ヴィジュアルは……、まぁまぁだなと思った。比較的若い顔つきをしていて、歳は俺と同じくらいか少し上くらいにも思える。

 

「すごい目立ってましたね」

「でしょー☆ あ、この服ね、はぁとの手作りなんだ☆ ちょーかわいくて、ちょーセクシーでしょ?」

 

 これ、ドラマの衣装じゃなくて私服だったのか……。

 しかもこの独特な口調、めちゃめちゃキャラが濃ゆい人だな。確かに一人だけ存在感(違和感?)バリバリだったわけだ。

 

「そ、そうなんですね……」

「で、あなたはだぁれ? 変質者だったらどっか行ってね☆ ていうか、ぶっとばす☆」

 

 童顔の可愛らしいルックスから、この物騒な発言だ。

 どこで生まれてどこで育ったら、こんな個性の暴力のような人間が育つのだろう。

 色々と気になることや突っ込みたいことが多々ありすぎる人間だった。だがこの人は言葉の通り平気でぶっ飛ばしそうな雰囲気があったから身の危険を考慮し、これ以上考えることは一旦放棄して、俺はスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出すことにした。

 

「346プロの島村と申します。実はある噂を聴きつけて今日はやってきたんですけど……」

「え、もしかしてスカウト!? マジで!? やーん、スカウトしてしてー☆ てか、し・ろ・よ☆」

「いや、そういうわけじゃなくて……」

 

 346プロの名を聞くや、すぐさま俺の名刺を奪い取った女性は目を輝かせながら露骨を通り過ぎてもはや一種の芸術の域に達した眼差しで、俺に猛烈なアピール光線を送っている。

 なるべくその視線と目を合わせないに、話を続けた。

 

「今日は“歌姫”と呼ばれている方に会いに来たんです。この現場にいると聴いていたんですが、誰かご存知じゃないですか?」

「やーん、ここにいるじゃん☆ それ、はぁとのこ・とっ☆ 小学生の頃から“夏祭りの歌姫”って言われてたんだぞっ?」

 

 マジすか……………………………。

 まさかとは思っていたけど、まさか本当にこの人だったとは……。“はぁと”と自称する女性は得意げにウインクをしながら俺にポーズを決めると、近くにあったペットボトルをマイク代わりに、「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・スウィーティー♪」なんて訳のわからない発声練習までして自身の歌声を俺に証明して見せてくれた。

 歌が本当に上手いかどうかは実際にマイクを持たせてみないと分からない。だが歌唱力以上に目を引くことになりそうなのは、この独特のキャラクターだった。個性豊かなアイドルが多いと言われる346プロの中でもこの人のキャラは群を抜く濃さだ。ていうか、もはやダントツ、彼女は346プロに入ったとしても周りを曇らせるほどの存在感を放ちまくるだろう。

 

(でもまぁ、一応ちひろさんのオーダーだし、人足りてないし……)

 本当にこの人がちひろさんの言う“歌姫”だとは、にわかに信じ難いが、とりあえず俺は確認も兼ねて幾つかの質問をしてみることにした。

 

「名前と年齢教えてもらっても良いですか?」

「佐藤心、28歳でぇーす☆ “しゅがーはーと”ってスウィーティーに呼んでねっ☆ てか、呼べっ☆」

「うわっ、ギリギリじゃん……。ちなみに佐藤さんは、今芸能プロダクションとかに在籍はしていませんよね?」

「おい、さらっと失礼なこと言うなっ☆ あとしゅがーはーとって呼べって言ってんだろ☆」

「それで心さんは芸能プロダクション等には……」

「聴けよ、人の話っ!」

 

 年齢に関してはP・Aの対象年齢の上限ギリギリではあったが、他は特に問題はなさそうだった。

 今はコンパニオンとして働いているものの、契約は1年単位で今月末まで。本人曰く、全くスウィーティーな会社ではないため、今月以降は契約を更新をする気はないらしい。よく意味が分からないけど。

 佐藤さんは芸能人になるために高校卒業と同時に長野から東京へ上京してきて、今まで約10年もの間、主にコンパニオン会社やモデル事務所を中心に点々としていたらしい。まぁコンパニオンやモデルから有名になっていく前例も腐るほどあったため、おそらく佐藤さんもその成り上がりルートを狙って今まで活動してきたのだろう。

 バックグラウンドとしては悪くはない。聖來さん同様にP・Aのコンセプトに沿った人間だとは思う。ただ……、

 

「ねーお願いっ☆ 裏工作でもなんでもするからさ、はぁとを入れてあげてーっ? もう色々と崖っぷちでヤバイの、マ・ジ・でっ☆」

 

 このカンストしたキャラクター性が問題だった。

(……本当に大丈夫かなぁ)

 何かこの人は色々と問題を起こしまくりそうな気がする。最後までそんな不安はあったものの、とりあえず俺は名刺とオーディションの案内と資料を渡し(というよりほぼ強奪されたに等しい)、しゅがーはーとこと佐藤心さんのオーディションへの参加が正式に決まった。

 

 クビになった(らしい)ドラマの撮影現場から、オーディションの資料を受け取ってウキウキで帰っていく佐藤さんの姿を不安げな心境で見えなくなるまで見送った直後、俺のポケットに入れていたiPhoneが揺れた。

 ディスプレイに表示されているのは、あまり見たくなかった人間の名前。一瞬見過ごそうかと思ったが、それもそれで後々面倒なことになりそうな気がしたから、俺は大人しく応答ボタンを押すことにした。

 

『久しぶりだな。スカウトの方は順調か?』

 

 淡々とした専務の声の後ろから、何やら英語のような外国語のアナウンスが聴こえてくる。

 「順調ですよ、専務の方もわざわざこのクソ忙しい時期に行くバカンスを楽しんでますか?」なんて皮肉が喉元まで出てきていたが、俺は何とか口に出す前に飲み込んだ。言ったら最後、俺はこの二年間耐え忍んで得た今の地位を失ってしまうことくらい、疲れ切った今の俺でも分かっていたからだ。

 

「……まぁ、ほどほどに。昨日も一人確保して、今日も今さっき一人確保しました」

『ん? 今日確保したのはちひろから聴いていたやつか?』

「そうですけど、専務もあの噂知っていたんですか?」

『知っているも何も、私が昨晩ちひろに電話で伝えたのだからな。そうか、あの歌姫のスカウトに成功したか……。よくやったぞ、島村。やればできるじゃないか』

「は、はぁ……」

 

 まさかちひろさんが教えてくれた情報が、専務伝いの情報だったとは思いもしなかった。

 そして専務は俺が佐藤さんのスカウトに成功したと聴いて、未だかつてないくらいにご機嫌な様子で俺を褒め称えていた。

 専務がここまでご機嫌になるくらいだから、あの佐藤心という人間はかなりの逸材だったらしい。とても俺の素人目にはそうは見えなかったけど……。まぁ目利きのスカウトや専務のような熟練者から見れば、俺のような素人には見出すことのできない魅力があの佐藤さんには詰まっているのだろう。

 この時、俺は専務の会話で多少の違和感を感じていたものの、専務もあの個性の塊のような人間を欲すとはなんか意外だなー、程度にしか捉えていなかった。今感じている小さな小さな違和感が、後にものすごく大きな食い違いを引き起こすことなどを、今は知る由もなく。

 

 それから暫く世間話をして、専務はご機嫌な声色で「帰ってからのオーディションが楽しみだな」と言い残して電話を切った。

 何かが引っ掛かる気がするけど、とりあえずこれで二人目の確保に成功した。あと最低でも二人、このペースで行くと美城専務の帰国までになんとか数は揃えられそうだ。

 俺は小さな違和感を抱えたまま、次のスカウトへ向かうべくその場を後にしたのだった。

 




佐藤心のウワサ①

芸能人デビューをして自分のファッションブランドを創るのが夢らしい。







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