THE KING OF STREET FIGHTERS   作:本城淳

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キムチーム

香港

 

ヤン達が出発した翌日の昇龍軒。

そこでは香港警察のホンフーが笑顔で席に座っている地獄からの使者……もとい、正義の体現者であるかつての修行仲間の前で正座をし、ガタガタと震えていた。

その正義の体現者の名前はキム・カッファン。

韓国の至宝とも言われるテコンドーの達人である。

ニコニコと爽やかな笑みをたたえているが、彼を良く知るものはその笑顔がとてつもない修羅が誕生する前兆であることを知っている。

 

キム「ホンフーさん。私はあなたを信頼して秦兄弟を預かって頂くように頼んだのですが?」

 

ホンフー「そ、それはありがたくおもっとるっちゃ」

 

キム「それをシャドルーやギースの手先……それもあなたが長年逮捕をしようとしている山崎に連れ去られてしまうとは……非常に残念でなりませんね」

 

ホンフー「し、仕方なかばい!秦兄弟を拐う為にとんでもない数の兵隊がここに押し寄せたんだぎゃ。俺だって急いでここに向かってきよったっちゃ!ばってん、ありゃどげんとも出来んとよ!」

 

キム「…………ホンフーさん。まぁ、そこまでは仕方無かったのはわかりますが………。問題はその後です。ドンファンやジェイフンを何故止めなかったんです?ユン君とヤン君ですか?彼らとチームを組むのは私達でも良かったのでは?来てますよね?あなたにもコレが」

 

キムはKOSFの招待状を取りだし、ホンフーに見せる。

 

ホンフー「と、当然っちゃ。俺の所にも届いてるっちゃね。シャドルーやギースも俺の実力を認めてるっちゃねー」

 

キム「単に何度も彼らを邪魔しているから目を付けられているだけでは無いですか?私が把握している大会出場者はそんな人間ばかりと聞いていますよ?」

 

情報源はガルシア財団やマリーである。煙たがられてはいるものの、キムもKOFで何度も顔を合わせ、協力している関係で必要な情報を回してもらっていた。

何よりも、キム自身が厄介事を抱えてしまっている状態である。出来ればこれ以上の厄介事を増やさないでもらいたかった。それ故にタンから預かった弟子や秦兄弟を同門の仲間であるジョンやホンフーに頼ったのであるが。シュンエイと明天はジョンに、しっかり者の秦兄弟はホンフーに……。

しかし、その期待は見事に裏切られた。

キムは正座するホンフーの両肩に手を置く。

 

キム「ホンフーさん。あなたには妻のミョンサクを紹介して頂いたり、格闘家として切磋琢磨をしてきた仲ですから、このような事は言いたくないのですが……」

 

ホンフー(ガタガタガタガタ……)

 

キム「あなた、最近たるみすぎではないですか?」

 

ギリギリギリギリ……

徐々に強まるキムの握力。食い込んでくる爪。

 

キム「何年経っても捕まらない山崎竜二。彼がギースと手を組んで何度も私達KOF出場者に迷惑をかけている事をご存知無いわけが無いですよね?それなのにこの体たらくはなんですか?そんなことですからここの住人から信頼を得られず、若いユン君達の方が頼られてしまっている現状が出来てるのでは無いですか?」

 

ホンフー「そ、そげんことなかばい!」

 

ギリギリギリギリ!

 

キム「前々からあなたは更正させるべきだとミョンサクとも話していました。良い機会です。私と一緒に大会に出ましょう。丁度私の不肖の弟子二人もシャドルーにたぶらかされていますから、連れ帰る為に大会に出場しようと考えていたところです。秦兄弟を取り返し、ドンファン達とも話さなければならないでしょう。その大会の間に、あなたのその弛みきった精神を叩き直して差し上げましょう」

 

そう、キムの抱えている厄介事とは脱獄したチャンとチョイがこともあろうにシャドルーやギースの元に転がり込んだことである。

しかしあの二人は小悪党ではあるものの、シャドルーと手を組むほど大それた悪事ができるほどには堕ちていない。このままでは二人は良いように利用され、捨てられるのがオチである。そうなる前にキムは二人を救い出したかった。きっと二人も自分を待っているに違いないと思い込んでいるのである。

確かにあのデコボココンビはそこまで悪に染まっているわけでも無く、時にはちょっとだけ……本当にちょっとだけ正義に芽生える事があるくらいは堕ちきっておらず、そんな度胸もない。少しずつキムの教育が浸透してきていることも確かだ。よって、シャドルーやハワードコネクションとは水が合わない事は確かなのであるが、かといってキムの事を疎ましく思っていることも間違いないので、これは完全にキムの自意識過剰である。

だが、キム自身はそこに気が付いていない。

ホンフーもドンファンからその実情は知っているし、キムの更正の厳しさは長い付き合いでわかっている。どうにか逃げられないかと考えているが、あのテリーやライデンですらキムの更正の魔の手から逃れられなかった。

キムは一度決めたら絶対に譲らないのである。

更正云々はもう諦める他無いだろう。

 

ホンフー「ばってん、他のメンバーはどげんすると?」

 

キム「弟子のメイ・リーや春麗さんからメンバーの紹介を受けています。そろそろ到着する頃だと思いますが……」

 

???「メイ・リーや春麗さんから紹介された!正義の使者がいるのはここかぁ!」

 

大声で入ってきたのは………。ドクロの絵が書かれた全身黒タイツに赤いマフラー、メイ・リーが付けるような何かのコスプレをしている男だった。

 

キム&ホンフー「…………」

 

どうみても不審者。よく町中で捕まらなかったものである。

 

???「私は正義の味方、スカロマニアである!困っているのはあなた達か!?」

 

キム「え、ええ……あなたがメイ・リーから紹介を受けた方ですか?」

 

KOFに出場して以来、こういった手合いとのそれなりには付き合いのあるキムも、流石に引いていた。

 

スカロマニア「おお!あなたが高名な正義の味方、キム・カッファン殿か!あなたの正義への志、このスカロマニアはいたく感銘を受けている!是非とも私もその偉業を手伝わせて欲しい!」

 

ホンフー(やめてくれっちゃーーー!そげんなこと言った日にはこん男は………)

 

キム「おお!そうですか!格好はともかく、私の理念をご理解して頂けますか!良き同士に巡り会えた事に感謝します!メイ・リーも素晴らしき同士を持っていたのだな!私の教育は間違っていなかった!」

 

案の定、キムは細かいことを頭の隅に追いやり、スカロマニアを受け入れてしまう。正義心に付け込まれ、おだてられるとその気になり、なんでも受け入れてしまうのだ。それこそ何度もチャン達に騙されかける程に。

ホンフーはスカロマニアがおだてていると思っているようであるが、彼はキムをおだてようとしている気持ちはまったくない。メイ・リーとは同士であり、その師匠であるキムの事を本気でリスペクトしているのである。

 

ホンフー(メイ・リーも春麗刑事もなんばしよっとかー!もっとましな人間ば寄越せんかったと?)

 

ここで一応春麗の方もフォローしておく。

春麗はスカロマニアの趣味にはついていけないものの、その実力に関しては認めており、さらにスカロマニアと同じ趣味を持つメイ・リーの師匠であるキムならば、この特殊な男も受け入れるだろうと踏んでの紹介だった。

春麗も決してふざけてスカロマニアを紹介したのではなく、キム・カッファンという人物との相性を考慮しての紹介だった。

なお、この抜擢に関してはジョン・ブーンと麻宮アテナも噛んでいることを追記しておく。ジョンに関しては完全に嫌がらせ。アテナの場合は春麗と同じ理由だ。

 

???「ニーハオ!ここにキム・カッファンって人はいるアルか?」

 

次に現れたのはやたら袖が大きいチャイナ服を着た女性である。少女といっても違和感が無いほどだ。

 

キム「私がキム・カッファンですが、あなたは?」

 

???「あなたがキムさんアルか。私、レイレイ言うアル。春麗やフェリシア、麻宮アテナちゃんから紹介を受けたアル。暗器ありの格闘大会に協力してと言われたアルが、間違いないアルか?」

 

キム「ええ。それは間違いありませんが……失礼ですが大丈夫ですか?顔色もあまり良くないようですし、何より危険な大会ですよ?」

 

キムが言うように、レイレイは顔色は良いとは言えず、更には格闘が出来るようにはとても思えない程の可憐な少女だ。もっとも、彼女が口にしている麻宮アテナもあの細腕でありながら実力でKOF常連を勝ち取ってきた猛者であるので見た目だけで判断するのは間違っているとすぐに思い直したのだが……。

 

レイレイ「大丈夫アル!こう見えても私、もう死んでるから!」

 

一同「はい?」

 

突拍子も無いことを言われ、目が点になるキム達。

 

レイレイ「一般社会に溶け込むように化けてるけど、私はキョンシーアル。ほら、コレが本当の姿アルよ?」

 

レイレイは変身を解いて本当の姿になる。

 

キム「よ、妖怪!?君は悪なのか!?」

 

さしものキムもこれは流石に取り乱す。

いくらなんでも妖怪は無いだろうと。言われたレイレイはムッとする。

 

レイレイ「ちょっとちょっとぉ!春麗から聞いてるアルが、キムさんはオロチとかそういうのと関わりがあって慣れてるって言うから紹介したって言ってたアル。私は確かに妖怪アルけど、悪じゃないアル!」

 

言われてみれば春麗やアテナが悪人を紹介するはずがない。妖怪と言うだけで偏見の目を向けてしまった事をキムは深く恥じた。

 

キム「申し訳ないレイレイ殿!どうか許して欲しい!しかしレイレイ殿……あなたのような可憐な方が危険な大会に参加されても大丈夫なのですか?」

 

レイレイ「それも大丈夫アル!私、これでもダークハンターの真似事はしてきてるし、春麗や神羅のエージェントと一緒に世界を救ったことも2回ほどやって来たアル。バリバリの正義あるよー?」

 

ホンフー(春麗刑事……確か三回ほど行方をくらました事があったっちゃけど、そげんことしてたっちゃか!と言うか、春麗刑事のイメージがドンドン崩れてきたっちゃばい!)

 

まともな感覚なら妖怪と手を組むとかあり得ないだろう。しかし、キムの感覚は既にまともではない。そもそも普通ならばチャンやチョイのような犯罪者を引き取り、テコンドーの修行をさせて更正させるなんて事はまず考えないだろう。

そんなキムなら………

 

キム「そうですか!さすがは春麗刑事!世界を救われたお方を紹介して頂けるとは!先程は大変失礼致しました!是非とも世界に正義を示して頂きたく、ご協力願います!それにしてもフェリシア殿やアテナさんとも既知とは…」

 

案の定食い付いた。

 

レイレイ「ああ、フェリシアは私と同じで猫又の妖怪アル。でもフェリシアも私と一緒に旅をしたアル。で、アテナはフェリシアと共演して以来、種族を超えた仲として友達アル。私達はフェリシア通じて友達になったアルよ」

 

一応ここでフォローする。

春麗もアテナも冗談でレイレイをキムに紹介したわけではない。春麗は共に二度も世界を救った仲間としてレイレイを信頼し、アテナは強い友人として自信を持って正義仲間であるキムに紹介したのである。

ちなみにジョン・フーンも1枚噛んでおり、流石に妖怪は無いだろうと思っていたのだが、アテナが太鼓判を押したのなら熱狂的なアテナファンであるジョンが逆らえる訳もなく……。

 

ホンフー(アテナさーん!どうせなら自分の兄弟弟子の椎拳祟や包君、桃子ちゃんを紹介して欲しかったっちゃー!)

 

ホンフーの嘆きは至極まともだと誰もが思うだろう。だが、残念ながらキムを止められる人間は誰一人としてここにはいない。いや、世界中を探しても見つからないだろう。簡単に止められるようならばそもそもキム・カッファンという人物はこうはなっていない。

人格者として格闘家達の相談役であるパオパオカフェのリチャード・マイヤーですら彼の事を諦める程だ。

 

キム「スカロマニアさん、レイレイさん。実は今回の件なのですが……」

 

キムは彼らに事情を説明する。

 

スカロマニア「了解だ!是非とも協力しよう!」

 

レイレイ「任されたアル!」

 

キム「それと……ここにいる私の友人のホンフーなのですが………最近ちょっと弛んでいるようなので、この際大会を通じて更正させようと思いまして……」

 

スカロマニア「それはいけない!大会が終わる頃には彼も立派なヒーローにして見せましょう!」

 

レイレイ「任せるアル!神羅の堕フォックスでそういう手合いは慣れてるアルよ!」

 

3人のジャスティス(?)達の目が怪しく光る。

 

ホンフー(だ、誰か助けて欲しいっちゃーー!こげんな連中に混ざるだけでも勘弁して欲しいのに、こんな見たら職質かけたく連中に更正させられるば、俺はどげんなってしまうとかねー!?)

 

ホンフーの受難は始まったばかりだ。




キム・カッファン…テコンドー
餓狼伝説シリーズ

ホンフー…カンフー
餓狼伝説3、リアルバウト餓狼伝説シリーズ

スカロマニア…なりきりヒーロー格闘術
ストリートファイターEXシリーズ

レイレイ…暗器術
ヴァンパイアシリーズ


さて、キムチームです。
キム・カッファンとレイレイは格闘ゲームファンならば説明不要でしょう。
対してスカロマニアとホンフーはマイナー過ぎて皆さんは誰!?と思うかも知れません。

まずはホンフー。
餓狼伝説3においてキムに代わって登場したキャラ。英語の訛りが酷いという設定のもと、喋り方が博多弁の香港警察の刑事。当時の餓狼伝説スタッフのインタビューでは、イメージはジャッキー・チェンと武田鉄矢を掛け合わせたようなキャラだとか……。
性能はリストラしたキムにそっくりで、超必殺技のカデンツァの嵐はまんま鳳凰脚。
しかし、キムに丸かぶりな上にちゃらんぽらんな性格やらが災いしたのか、キム程の人気は出ず、更に続編のリアルバウト餓狼伝説では当のキムが登場した為に完全に影が無くなってしまった可哀想なキャラ。
久々に登場したのがカプエスの時。春麗と山崎の掛け合いに登場し、山崎の蛇使いでKOされるという役柄だったというなんとも締まらない役柄である。
宿敵の山崎はあんなに人気が出たのに……

次にスカロマニア。
ほくとでも紹介しましたが、ストリートファイターEXシリーズの色物キャラ。人気はそこそこあったキャラなのですが、いかんせんEXシリーズそのものがほぼ同時に出ていたストリートファイター3に負けており、ほとんど人気が出ないまま終わってしまった不遇な作品。カプエスほおろか、カプコン格闘ゲームキャラのオールスターゲームと言える『カプコンfighting jam』やナムコとのクロスである『namco X CAPCOM』にも一切のキャラが出ていないという不遇ぶり……。もしそれらに出ていたらスカロマニアも人気が出ていたと思えるだけに残念です。

そしてフェリシアの発言ですが、上記にも出ているnamcoとのクロスオーバーである『namco X CAPCOM』とその3作後の続編『project X zone』の事を指しています。フェリシアと共演したワンダーモモのポジションをアテナに代用してストーリーに組み込んで見ました。

それでは次回もまた、よろしくお願いいたします。
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