THE KING OF STREET FIGHTERS   作:本城淳

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アッシュチーム

アメリカ

ニューヨーク

 

そこにフランス出身の謎の男と、中国上海の喧嘩師が街を闊歩していた。

 

シェン「良いのかよ?お嬢様がクラウザーに呼び出されてる間に抜け出して来ちまってよ」

 

一人はシェン・ウー。生粋の喧嘩バカで、三度の飯よりも喧嘩が好きだという男である。

三度のKOF出場が名を高め、最近では上海の拳鬼、元と戦えばどちらが勝つか、裏ではオッズが交わされている程だ。

 

アッシュ「良いんだよ。僕がいつまでも大人しくしているなんて、べティだって思ってないさ」

 

もう一人はアッシュ・クリムゾン。

遥けし彼方より出ずる者たちとの戦いで先祖を消してしまい、タイムパラドックスによって一度は存在が無かったことにされたが、KOF14大会で現れた化け物、バースの力によって奇跡の復活を果たし、エリザベートの献身的なリハビリの元、昔の力を取り戻していた。

先祖である斎祀を消す目的を果たした事により、アッシュが大人しくしているものだと思っていたシェン。だが、一週間前にヒョコッとシェンの元に現れたアッシュはこれまでの事がまるで無かったかのように「ねぇシェン、カニ食べに行こうよ」と言ってきた。

本当にマイペースな男である。

KOF11大会でオズワルドの報酬として売られた形になったことはまだ怒っていたシェンだが、元々細かいことは気にしない脳筋な性格と、(シェン的にはであるが)どこか憎めないアッシュの性格も相まって上海の街に繰り出す事になった。

それがいつの間にか口八丁手八丁でニューヨークまで連れて来られたのである。目的も何も話さないまま。

 

シェン「で?お前はわざわざニューヨークまで俺を連れ出して何をするつもりなんだよ?相変わらず目的を言わねぇ男だな」

 

アッシュ「まぁまぁ。僕とシェンの付き合いじゃん?お散歩に付き合ってよ」

 

シェン「上海からニューヨークまで、飛行機を使った旅行をお散歩とは言わねーよ!いい加減話せ!」

 

アッシュ「アハハハ!まだヒ・ミ・ツ。だって今言っちゃうとシェンは絶対に怒って帰っちゃうでしょ?」

 

シェン「今から帰っても良いんだぞ?」

 

アッシュ「お金も無いのに?」

 

シェン「サウスタウンに行って適当にストリートファイトでもしてればそのくらいは稼げるってんだ。このシェン・ウー様のステゴロにかかればな」

 

サウスタウンはストリートファイトの聖地だ。腕に自信があれば金の稼ぎなどファイトマネーでどうにでもなってしまう。

幼き日のリョウ・サカザキやテリー・ボガードなどはそうして生きてきたのだ。シェン程の強さがあれば上海までの旅費を稼ぐことなど造作もないことだった。

 

アッシュ「そんな所よりももっと面白い喧嘩が楽しめるよ?どうせならシェンもそっちの方が良いでしょ?」

 

シェン「確かにそうだけどよ…そうやってお前の口車に乗せられて大変な目に毎度遭ってるだろうが。どうにも信用出来ねーんだよな。オメエはよ」

 

アッシュ「大丈夫だって♪少なくとも全部を言わないだけであってさ、嘘だけはついたことないでしょ?」

 

だからこそ余計に始末が悪いのだが、アッシュはそう言ってのらりくらりとかわしては、シェンを上手く転がす。

 

アッシュ「いたいた♪彼だよ?彼。最近出てきたストリートファイターさ」

 

シェン「あんなのと?まぁ良いけどよ」

 

 

久々の休日、アレックスは家族でもある父の親友のトムと、その娘のパトリシアと共にドライブにでも出掛けようとし、その準備の為に愛車を整備していた。

そんな時である。背後から妙な気配を感じたアレックス。

 

アレックス「ん?何だ!」

 

シェン「オォォォォォォラァァァァァァァ!」

 

突然アジア系のチンピラがアレックスの背後から躍り出て、殴りかかってきた。

 

アレックス「何だお前は!」

 

半ば不意討ち気味で拳を打ち込んできたそのチンピラ。

だが、ストリートファイターとして実力を付けてきたアレックスにとって、そんな力任せの攻撃を素直に食らう程間抜けではない。

サイドステップでチンピラの攻撃を回避する。

直感でわかった。こいつの拳をまともに受けてはいかないと。

その直感は正解で、アレックスが整備していた車のエンジンにチンピラのパンチが直撃。

ドコォォォォォォォン!

車のエンジンルームが一気にへこんでしまう。

 

アレックス「あーあ………お前、どうしてくれる?これじゃ今日のドライブは中止じゃねぇか。パットが楽しみにしていたってのによ」

 

ストリートファイターとして強い者と闘うのはアレックスにとっても大歓迎な事ではあるが、かといって楽しみにしていたドライブを強制的に中止にされては面白くない。アレックスは青筋を浮かべてチンピラを睨む。

なによりいきなり車を壊される程の事は身に覚えがない。

 

シェン「オメエ、強そうじゃねぇか。ストリートファイトに洒落込もうぜ?」

 

ただストリートファイトを挑むためにこんな無茶をしてきたチンピラに更に怒りを覚えるアレックス。だが、アレックスも一流の格闘家。チンピラが見た目通りのただのチンピラでは無いことを一目で見破った。

 

アレックス「誰だ?お前……ただのチンピラじゃあ無さそうだが?」

 

どこかで見たことがある……そんな気がしていた。

 

シェン「俺はシェン・ウー。上海の喧嘩師だ」

 

アレックス「シェン・ウー?ああ、聞いたことがある。あのKOFに連続で上位トーナメントに出場していたシェン・ウーか………」

 

格闘技の祭典であるKOF。当然その存在はアレックスも良くしっていた。見たことがあるのも当然である。

KOFは元々ストリートファイトを大会化したものだ。アレックスもいつかは出場したいとは考えていただけに、その出場者であるシェンと戦えるのは願ったり叶ったりではあった。

こんな迷惑な現れ方さえしてこなければ。

アレックスは迷惑な奴が嫌いである。どれだけ嫌いかと言えば、履歴書などの書くほどだ。

 

アレックス「何でわざわざ俺の所に来たかは知らんが、ただで済むと思うなよ?シェン・ウー」

 

シェン「良いねぇ。やる気になったって言うなら、何だって良いさ」

 

エンジンがかかってきたシェンと、とにかくシェンをぶちのめしたいアレックス。これからぶつかり合う……そう思われたとき、割って入るものがいた。

アッシュである。

 

アッシュ「はーい、ストップ。ダメだよシェン。目を離すとすぐこれだから。Désolé(ごめんね)、ムッシュアレックス」

 

シェン「ちょっ!テメェ、アッシュ!これはお前が……モゴモゴ!」

 

お前がけしかけておいて何を言ってやがる!と良いかけたところでアッシュに口を塞がれるシェン。本当にアッシュは何をしたいのかよくわからない。

 

アッシュ「良いから良いから。こっからが面白いんだからさ」

 

アレックス「お前はアッシュ・クリムゾン……だったか?」

 

アッシュ「へぇ?僕の事も知ってなんて。ボンジュール、ムッシュアレックス。ごめんね?うちのシェンが車を壊しちゃってさ。シェンってば強い人を見付けるとすぐに喧嘩始めちゃうんだ。困っちゃうよね?」

 

アレックス「まったくだ。噂通りの狂犬だな。どう責任を取ってくれるんだ?シェン・ウー。アッシュ・クリムゾン」

 

アッシュ「御詫びと言っては何だけどさ。僕の方で弁償させてよ。ね?シェン?適当に話を合わせてよ?君に演技力はあまり期待していないけど♪

 

シェン「あ、ああ。つい嬉しくなっちまってな。わ、悪かったな?」

 

アレックス「弁償してくれるならまぁ許してやるぜ」

 

アッシュ「じゃあさ、サウスタウンまで行こうよ。今、安売りをやってるからさ。君の家族も一緒にどうだい?」

 

シェン(結局サウスタウンまでいくのかよ……こいつの事だからまた何か企んでるんじゃないのか?)

 

アレックス「わざわざサウスタウンまでか?そんな話は聞いたこともないが……まぁ良い。ピクニックの代わりにサウスタウンに繰り出すのも悪くないだろう」

 

アッシュに何らかの作為を感じつつもアレックスは家族を呼びに行く。

 

シェン「テメェ……これで面白くなかったら後でどうなるか分かってんだろうな?」

 

一方で嵌められた形となったシェンが不愉快そうに言う。嵌められた上にせっかくアレックスがやる気になり、面白くなったところを中断されたのだから当然だろう。

 

アッシュ「大丈夫♪もっと面白い事になるからさ。君だったらきっと気に入るはずだよ」

 

その辺のチンピラ程度なら裸足で逃げ出すシェンの睨みも、いつものヘラヘラとした笑いで涼しく流すアッシュだった。

 

 

サウスタウン

実質的にギース・ハワードが治めるKOFを産み出したストリートファイター達の聖地である。

ニューヨークと同程度に発展したこの街は、やはり同程度に暴力と欲望が渦巻く街でもある。

ニューヨーク、メトロシティ、サウスタウンの3つはアメリカ三大犯罪都市としても有名だ。

サウスタウンの場合はその首領が犯罪者なのだから当然とも言える。

 

パトリシア「何でピクニックがサウスタウンへのお出掛けになっちゃうの!?信じられない!それも変な二人も加わってるし!」

 

トム「まあまあ……サウスタウンも悪くは無いだろうが。新しい車も弁償してくれるって言うし」

 

パトリシア「弁償は当然でしょ!?最悪なのは何でネイルアートが趣味の気持ち悪い男とチンピラ男と一緒にドライブしなくちゃならないのかって事!」

 

シェン「……チンピラって……確かにそうだけどよ…キモ男と言われてるぞ?アッシュ」

 

レンタカーを運転しているシェンがイラただしげに言う。一方の助手席のアッシュはガタゴト揺れる車内で器用にネイルアートをしていた。

 

アッシュ「アハハハハ!いつもの事だよ?君もどうだい?爪のお手入れは美容に良いからね。女性のたしなみだよ?」

 

アッシュはパトリシアの手を取る。

 

パトリシア「触らないで!爪のお手入れくらい自分でやってるから結構です!」

 

アレックス「パットに触るな、アッシュ・クリムゾン」

 

大好きなアレックスとのお出掛けを楽しみにしていたパトリシアの機嫌は最悪だ。

そして、アレックスもパトリシアの事は妹のように大事にしており、アッシュのような得体の知れない男に触れられるのは我慢ならない。

 

トム「それにしてもシェン・ウーにアッシュ・クリムゾンか。KOF出場者に挑まれるなんてアレクも大分名が売れてきたじゃないか?」

 

アレックス「……作為的な物を感じるがな。いい加減に話せ。アッシュ・クリムゾン。何を企んでいる?」

 

アッシュ「企むなんて人聞きが悪い。スカウトに来たのさ♪ねぇねぇ君達さ。今日、ここで何が行われるか知っているかい?」

 

アレックス「いや………」

 

アッシュ「あれさ」

 

アッシュが指を指したのは『全世界プロレス世界一決定トーナメント大会』と書かれた看板だった。

噂ではザンギエフやグリフォンマスクなどの豪華な選手が出ているという。アレックスもプロレスを続けていたならば出ていたに違いない大会だった。

 

アレックス「あれに出場しろとでも言うつもりか?」

 

アッシュ「冗談でしょ?あれにはちょっと特殊な事情を抱えた人が出場する予定なんだよね~♪その彼を待ってるのさ」

 

シェン「特殊な事情?」

 

アッシュ「そうそう。シェンも見かけたら喧嘩を売りたくなる程強い人だよ♪だけど、僕たちみたいな人は彼も嫌いそうなんだよね。どうしようか♪」

 

アレックス「俺もお前らとは初対面な上に、どちらかと言えば第一印象は最悪だけどな」

 

あんな出会いで好かれる人間はまずいないだろう。

 

アッシュ「あ、来たよ♪彼だ」

 

トム「あれは……ラモンと同じくらい実力を持つサンダーホーク!何故彼が!?」

 

アッシュ「彼が出るからじゃない?」

 

アッシュはビッグベアの写真を取り出す。

 

アレックス「……誰だ?こいつは」

 

シェン「あれ?こいつ……KOF13にキム・カッファンと出ていた……」

 

アレックス「そうだよ?彼の名前はビッグベア。だけど知っている人は知っている彼の裏の名前はライデン。そっちの名前は知っているんじゃないかな?」

 

当然、アレックスも元々はレスラーだったために暴走超特急ライデンの名前は知っている。近年ではKOFに返り咲いた事も。そして、ビリーに並ぶギースの片腕だったことも。

 

アレックス「ライデンとサンダーホーク……それが何の繋がりが……まさか………」

 

アッシュ「そうさ。そしてこれは君の希望も叶えるチャンスじゃないのかな?」

 

アレックス(こいつ……どこまで知っている?薄気味悪いのは見た目だけじゃないな……)

 

アッシュ「トムさんとパットちゃんだったっけ?僕のカードを渡すからさ、君達だけで車を買ってきなよ♪どんな車でも好きな物を選んで良いからさ♪」

 

トム「あ、ああ……」

 

パトリシア「アレク……気を付けてね……」

 

二人はレンタカーから降り、アレックスを心配しながらもカーショップへ入って行った。一方でアッシュ達はサンダーホークに話しかける。

 

アッシュ「ボンジュール。ムッシュ・サンダーホーク」

 

サンダーホーク「貴様はアッシュ・クリムゾンとシェン・ウー。それにアレックス……何の用だ?」

 

アッシュ「僕は君をお手伝いに来たのさ。この大会に出るのもライデンが目的でしょ?ギース・ハワード…いや、シャドルーの情報を入手する為に」

 

サンダーホーク「貴様……何を知っている?」

 

サンダーホークの睨みを先程と同じように人を小バカにしたニヤニヤ顔を浮かべて流すアッシュ。

 

アッシュ「残念だけど、ライデンは何も知らないよ。彼はもう完全にギースと縁が切れてるからね。それに、君が接触する前にレッドサイクロンや最強の人類の邪魔が入るさ。彼らは国家クラスの支援を受けてるからね。それだったら、僕の提案にのった方が利口だと思うな♪」

 

毎度思うことだが、どこからそういう情報を持ってくるのか……シェンは思う。

アッシュはヘラヘラとした軽い態度とは裏腹に、必要な情報を集め、必ず目的を果たす。

 

アッシュ「KOSFさ。君は再びシャドルーに拐われ、行方不明になった彼女を探す情報が得られるし、上手くいけば奴等の懐に入れる。アレックス君は孤高の格闘家、リュウとの再戦を果たせるチャンスが出来る。ケン・マスターズが動いているからね。必ず出てくるはずさ。シェンは強いやつと戦える。僕は僕で目的がある。どうかな?僕たちで出てみない?」

 

シェン「この野郎……ここまでの茶番はこの為かよ」

 

アレックス「なるほど……断る理由はないな。俺もいつかはKOFに出てみたいとは思っていた。いい機会だ。やり口は気に入らないがな」

 

サンダーホーク「ジュリアを取り戻せるんだな?」

 

アッシュ「確証は出来ないよ?でも、ベガは確実に出てくるはずさ。KOFで何も起きなかった事なんて、今の今まで1度も無かったからね」

 

サンダーホーク「良いだろう……。ジュリアを取り戻せるならば、やり方は問わん。貴様の提案を飲もう」

 

シェン「で、お前の目的は何なんだ?アッシュ。また消えるような事になったら、今度こそ許さねぇからな」

 

アッシュ「単に三種の神器の人達に謝りたいだけさ。彼らもどうせ出てくるだろうからね♪」

 

はぐらかすアッシュ。

だが、アッシュの目的はサンダーホークと変わらないかも知れない。

 

アッシュ(僕の事を心配してくれる友達らしい友達なんて、べティ、シェン、デュオロンくらいだ。いつも付き合ってくれるシェンには本当に感謝だよ)

 

奴等が関わって来るかも知れない……。デミトリ・マキシモフからもたらされた情報を素直に話せばシェンは殴ってでもアッシュを止めるだろう。

 

アッシュ(遥けし彼方の地より出る者たち……ご先祖様達は出現させないよ?シャドルーやギース……君達の野望はとんでもないものを呼び寄せようとしているのに気付いていないんだ)




アッシュ・クリムゾン…我流
KOFシリーズ(アッシュ編)

シェン・ウー…我流
KOFシリーズ(アッシュ編)

アレックス…プロレス、レスリング
ストリートファイター3シリーズ、5

サンダーホーク…プロレス?(ルチャ・リプレ?)
ストリートファイターシリーズ



はい、今回はKOFアッシュ編の主人公、アッシュ・クリムゾンとストリートファイター3の主人公、アレックスのチームです。
二人に共通するのは……どちらも主人公(笑)であることですね。特にアッシュはアッシュ編のラストたる13では主人公でありながらエディット専用で、しかも最後の最後はラスボス化……。

一方でアレックス。これは彼は何も悪くない。

というか、2代目3代目の主人公って、初代がインパクト強すぎて大抵霞みますよね?
リュウ、草薙京、テリー・ボガード、リョウ・サカザキ、覇王丸、モリガン……。奴等の存在が大きすぎるのです。あれ?何か一人変なのが混じりましたか?

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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