THE KING OF STREET FIGHTERS   作:本城淳

35 / 57
ヤンキーズチーム

日本大阪

 

一文字伐は先日、母校である太陽学園で起きたシャドルーの襲撃事件での自分の不甲斐なさを痛感していた。

バツは確かにあの事件でシャドルーの構成員を倒し、母校を守り抜いた自負はある。

しかし、それは麻宮アテナや四条雛子、風間あきら、春日野さくらの外部の人間の力を借りた上での勝利だった。

それだけではない。被害は最小限に留められたと世間では言われているが、それでも学園祭のお客さんや生徒達関係者に怪我人を出してしまったことは事実だ。

これは死人こそ出さなかったこと自体、大したものだと誇って良いものであり、一介の高校生が自分の力だけで全てを守りきろうなどというのは無理な話なのであるが、正義感の強い熱血漢のバツにはそれが許せなかった。

 

バツ「何がバーニングバツだ……肝心な時に学校を守れないで……親父に鍛えられて強くなったつもりでいて…それでもこれか!くそっ!」

 

暗黒生徒会が起こした事件で自分の不甲斐なさを痛感したバツは、父親の忌野雷蔵に頼み、厳しい修行の果てに格段に強くなった。

その時に雷蔵からバーニングバツという名前を名乗り、暗黒生徒会の事件を解決した。

しかし……

 

バツ「まだだ……まだ俺は弱い!」

 

今回の事でアテナやさくらの実力を見せつけられたバツは、まだまだ世界レベルでは無いことを痛感した。

再度父親を頼り、修行を付けてもらおうとしたバツであったが……。

 

雷蔵「バツ。ワシが教えられる事は殆ど残っておらん。お前が世界レベルに達しておらんと思うのは、お前自身の地の力不足と言うことだ」

 

と、稽古を就けてくれることはなかった。

雷蔵が考えていることは草薙柴舟と同じであった。バツもまた、一人立ちの時期であると。

 

雷蔵「ワシを頼らず、自力で修行をしてみよ」

 

父親から告げられたその言葉を聞き、幾ばくかの旅費をもらってバツは旅に出た。

山籠りでもするか?いや………

 

バツ「恭介がいなくなる前に言ってたな。大阪の方にKOF常連の日本チームの奴らが住んでいるって……」

 

草薙京、二階堂紅丸、大門五郎。

日本人の格闘家でこの三人の名前を知らないものはいない。

 

バツ「伝説の日本チームに戦いを挑んでみるのも面白いかも知れないな」

 

彼ら日本チームなら間違いなく世界でもトップレベルの格闘家だ。自分の今の実力を知ることが出来るし、修行にもなる。

もしダメなら草薙京の弟子と言われている矢吹真吾と切磋琢磨してみるのも良いかも知れない。

バツは夜行バスに乗り込み、大阪の江坂へと向かった。

 

……………しかし。

 

バツ「ついてないってのはこう言うことだな……」

 

江坂に到着し、人づてに草薙流道場までたどり着いたは良いものの、草薙京は不在だった。それどころかその師匠である草薙柴舟も、矢吹真吾すらもいなかった。

いたのは草薙京の母、草薙静だけだった。

なんでも京は諸国漫遊の旅に出たまま滅多に日本には帰って来ないようで、高校卒業はおろかそろそろ退学の危機にあるのではないかと心配されるほどのようだ。

そして草薙柴舟。

彼はどうやら知己の空手かであるタクマ・サカザキと共に何処かへと出掛けたようだ。

極限流空手の事ならバツも聞いたことがある。

ジャスティス学園の教諭、島津英雄も若い頃にタクマ・サカザキに挑み、敗れたことがあるのだとか。

 

バツ「タクマ・サカザキ……極限流か。いつかはその極限流に挑んでみたいな……」

 

この段階でのバツは知らないことだったのだが、バツと入れ違いに柴舟とタクマは東京へと向かっており、ジャスティス学園の校長である父、忌野雷蔵をスカウトしに行っていたのである。

雷蔵は忌野流忍術の継承者。当然、世界を渡り歩いて武者修行をしていた柴舟とタクマとは知己であり、互いに腕を磨いていたライバル同士である。

 

更に間の悪いことに矢吹真吾も入れ違いに東京の神楽ちづるを訪ねており、不在だった。

二階堂紅丸も草薙京と同様に行方がわからず、大門五郎も休暇で不在。バツが望む対戦相手は誰もいなかった。草薙京と双璧をなすあの八神庵さえも。

 

バツ「とんだ無駄足だったな……」

 

バツは溜め息をついて大阪の華街、道頓堀を歩く。すると、何やら騒がしい声が聞こえてくる。

気紛れに声の方へと歩いて見ると、人垣ができていた。何やらケンカのようである。

 

??「だから!ワイは草薙条なんて知らんちゅうてるやろ!」

 

上半身裸の学生ズボンをはいた、長いハチマキをつけた一昔前の不良にいそうな大男が喚く。

 

バツ(誰かに似ているな……)

 

??「嘘だよ!草薙条の事を知らないわけ無いじゃん!」

 

一方で大男に詰め寄っているのはいかにもギャルという感じの女子高生だった。

この女もどこかで見たことがあるような気がしてならない。

 

バツ(草薙条………ねぇ)

 

関東の暴走族をしめる草薙条。

近年では外道高校ともトラブルを起こしかけているというチームのボスである。

 

??「この僕を甘く見てると怪我するよ?オジサン。高校生みたいな格好をしてさ!」

 

??「高校生て……ワイはまだ高校生や!確かにもうじき三十路になるけどな!」

 

バツ(もうじき三十路だって!?何年留年してるんだよ)

 

ここに雷蔵がいたら間違いなく説教ものだ。

 

??「良いから条の事を教えろって言ってんの!」

 

女子高生はイライラしたのか鋭いローキックを大男に放つ。丸太のような男の足からは女子高生の蹴りから出たとは思えない程の音が響く。

 

バツ(つええ!ただの女じゃねぇ!こいつは……たしか草薙条の彼女って言うキサラ!何だってこんな奴が大阪にいるんだ!)

 

??「ええ蹴りやないか?気に入ったで。ワイは溝口誠っちゅうんじゃ。ワイはプロの喧嘩屋や。喧嘩百段、なめとったらあかんでぇ?」

 

大男……溝口誠が指をボキボキとならし、キサラに殴りかかる。

バツには関係ない事であったが、これは放っておくわけにはいかず、割って入ろうと人垣を割って躍り出る。

しかし、バツよりも早く溝口誠の拳を止めた者がいた。

溝口と同じくらいの大男。バツにはその顔に見覚えがあった。

 

??「大の男が女相手にみっともない」

 

キサラ「君は……」

 

バツ「風間醍醐!」

 

行方不明だった外道高校番長で風間あきらの兄、風間醍醐だった。

その圧倒的な強さとカリスマで群雄割拠の外道高校をまとめ上げ、草薙条のチームとの抗争間近だったものを話し合いでおさめた人物である。

暗黒生徒会の事件の後に人知れず姿を消し、行方がわからなくなっていた醍醐だったが、こんなところで会えるとは思ってもみなかった。

 

溝口「ええガタイしてるやないけ。誰やお前」

 

醍醐「風間醍醐。関東の高校、外道高校の番長だ。女に拳を上げようとしているのを黙っていられなくてな。喧嘩百段は良いことだが、筋は通すものだ。それが男というものだろ?」

 

溝口「喧嘩に男も女もない。ましてやその女はただの女やない。強い奴がおる。それだけでワイら格闘家は喧嘩する理由になるやろ?せやけど、気ぃ変わったで。もっとええ気合いの入ったヤンキーがおるんやったら、より楽しめそうな方がええ」

 

醍醐「良いだろう。男の喧嘩と言うものをお前に教えてやる」

 

溝口「上等やないけぇ!後悔しくさるなや!」

 

醍醐と溝口の喧嘩が始まった。

いや、もはやケンカもいうレベルにはおさまるものではなかった。

プロの格闘家同士のレベルを思わせる力の技。

もはやこれはストリートファイター達の戦いだった。

 

バツ(すげぇ……醍醐も相当腕を上げている。こんなバトルを見れるなんてな……。でも、ついていけないレベルじゃない……俺も戦いてぇ!)

 

血が沸き、肉が踊る。

知らず知らずの内にバツの顔に笑みが浮かんでいた。

 

溝口「混ざりたいんやったら、混ざってもええでぇ!そこの兄ちゃん!まとめて相手してしたるわ!」

 

バツ「ありがてぇ!後悔するなよ!溝口誠ぉ!俺は太陽高校一文字伐!行くぜ!」

 

バツは嬉々としてそのケンカの中に混ざっていった。

 

「良えで!やらんかい!」

「溝口ぃ!東京のヤンキーどもに負けよったら承知せぇへんからなぁ!」

「いてこましたれぇ!東京モン!溝口をやったりー!」

 

キサラ「もう!僕をほったらかしにして盛り上がらないでよ!」

 

一人、置いてきぼりのキサラだった。

 

 

 

 

 

溝口「いやぁ!ええ喧嘩やったでぇ!風間ぁ!バツ!こないな満足のいく喧嘩は久々や!気に入ったで!」

 

醍醐「根からの喧嘩好きだな」

 

バツ「けど、燃えたぜ。こんなに熱くなったバトルは将馬やロイ以来だ」

 

顔を痣だらけにしながら互いの健闘を讃え合う三人。

 

キサラ「もう!僕の事を無視しないでよ!何で風間醍醐が大阪にいるんだよ!それに、太陽高校の生徒まで!」

 

バツ「親父に言われてな。武者修行の旅に出てるんだ。草薙京達日本チームと戦えば修行になるだろ?」

 

醍醐「親父?確かジャスティス学園の学長、忌野雷蔵だったな。忌野流忍術の……」

 

キサラ「げっ!ジャスティス学園ってあの!?それに忌野流忍術って……また忍者!僕って変な忍者に縁があるのかなぁ……」

 

キサラの言う変な忍者とは「フウマ」の事である。

因みにそのフウマのライバルである「ハンゾウ」と、覇王丸達の知り合いである「服部半蔵」との関係は不明。

 

バツ「俺は忍者じゃねぇよ。親父は物心ついた時には家にいなかったからな。最近になってやっと知ったくらいだ」

 

バツは忍者の息子ではあるが、忍者ではない。せいぜい暗黒生徒会の事件の時の修行で忌野流百舌落としを修得したこと以外は忍者らしい技はない。

 

バツ「それよりも醍醐。お前は何で大阪に?あきらが心配していたぞ?」

 

醍醐「俺も似たようなものだ。二度も洗脳され、騒ぎを起こしたからな。それは俺の心と体にまだ甘さがあったからだ。だから心身共に鍛える為に旅に出た」

 

醍醐は二度にわたり、ジャスティス学園の雹や暗黒生徒会の手駒にされ、事件を起こした。

バツや子分達に助けられた醍醐であったが、そんな自分を醍醐は許せなかった。

 

醍醐「それよりもキサラ…と言ったか?お前は何故こんなところで溝口と喧嘩していた?」

 

一番わからないのがキサラだった。

 

キサラ「僕の大事な条がまた行方不明になっちゃったんだよ。前にもこんなことが度々あって、とりあえずその時にトラブルがあったここに来てみたんだ。醍醐、バツ。条の事は何か知らない?そこのおっさんは何も知らないって言ってるし」

 

醍醐「いや……悪いが俺は長いこと旅をしていたからな。バツは何か知っているか?」

 

バツ「いや………でもこんなことがあったんだ……」

 

バツは自分が旅に出るきっかけになった太陽高校文化祭でのシャドルーの襲撃の事を話す。

 

醍醐「……それにあきらも関わったのか……」

 

溝口「シャドルー?なんやようわからんけど、この大会にもそのシャドルーっちゅうけったいな奴らが絡んどるっちゅう噂やな。なんでもギース・ハワードっつうメリケンのおっさんと共同で開催するゆうてたで?」

 

溝口はKOSFの招待状を取り出した。

溝口もまた、ギースに目を付けられている一人だ。

 

キサラ「ギース・ハワード!?超危険人物じゃん!僕も一回だけ戦ったことあるし!」

 

キサラは一度、ネオジオバトルコロシアムでギースと相対している。ギースのヤバさを直接感じたキサラは大声をあげる。

 

キサラ「そうだ!シャドルーやギースだよ!きっと条は何かされたんだ!」

 

ネオジオバトルコロシアムでもそんな勘違いが発端でキサラは殴り込みをしている。今回も同じ勘違いをしているようだ。

 

キサラ「オジサン!その招待状、僕に頂戴!KOSFに殴り込みをかけてやるんだから!」

 

溝口「けったいなこと言うんやないで!ワイだって出たいんや!招待状を渡せるわけないやろ!」

 

バツ「KOFか……確かに俺の実力を試すんなら、KOFの舞台が一番なのかもな……出たいぜ。KOFに」

 

実力を試すと同時に、世界で揉まれることで修行にもなるし、シャドルーに借りを返せるかもしれない。そう考えると、バツも大会に出たくなってきた。

 

溝口「あん?やらへんで?この招待状はワイの招待状や。お前らは自分で招待状探すか何かせぇ」

 

キサラ「ケチ!良いじゃん!頂戴よ!」

 

招待状を巡ってまたもや一触即発になりかける二人。

 

醍醐「確かその大会は四人一組だったな……キサラは言っても無駄だろう。ならばこの四人でチームを組むのはどうだ?俺も妹を危険に晒したシャドルーの事は許せん。放っておけばゲド高も襲われるだろう」

 

醍醐が提案すると、溝口はポンっと手を叩く。

 

溝口「おっ!その手があったんかいな!お前らの実力ならワイの足を引っ張らんやろ。頭ええな?風間」

 

キサラ「単におっさんが頭悪いだけじゃん。だからいまだに高校生やってんじゃないの?」

 

溝口「なんやとこのアマァ!」

 

醍醐「止めろ。キサラも煽るな」

 

煽るキサラ、暴れ始める溝口、それをいさめる醍醐。そんな彼らの姿を、しかしバツは見えていなかった。既にまだ見ぬ強敵と戦う自分を想像していた。

 

バツ(俺は……もっと強くなる!)




一文字伐…不明
ジャスティス学園

風間醍醐…不明
ジャスティス学園

溝口誠…喧嘩空手
ファイターズヒステリー、KOFMIA

キサラ・ウェストフィールド…不明
痛快GANGAN行進曲、ネオジオバトルコロシアム


やっと出せました、ジャス学主人公のバツ!
誰かを忘れていたと思っていたらバツを忘れてました!
バツファンの皆様、申し訳ありませんでした!

さて、ジャス学のバツと風間醍醐はご存知でしょう。
ではSNKは?
マニアックな2名を選出しました。

特に溝口誠!

キサラは正確にはSNKのキャラではなく、ネオジオ参入メーカーのADK(代表作は「ワールドヒーローズ」)のキャラですが、バトルコロシアムにもワールドヒーローズのハンゾウやフウマ、マッドマン、NEO・DIOと共に登場していたのでSNKにカウントしました。
NEO・DIO……今考えるとよく訴えられなかったですよね?

それでは次回もよろしくお願いいたします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。