THE KING OF STREET FIGHTERS   作:本城淳

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サガット…ストリートファイターシリーズ
流派…ムエタイ

アドン…ストリートファイターシリーズ
流派…ムエタイ

ジョー・東…餓狼伝説シリーズ
流派…ムエタイ

キング…龍虎の拳シリーズ
流派…ムエタイ


ムエタイチーム

ムエタイのタイトルマッチ…ジョーにとってはいつものチャンピオン防衛戦。だが、その実ジョーにとってはつまらない内容だった。

今のムエタイ界にジョーを燃え上がらせる強敵はいない。実質ジョーの独走状態だった。

今日の相手もそうだった。1ラウンドKO勝ち。

 

ジョー(つまらねぇ……)

 

ジョーとてチャンピオンの栄光に不満があるわけではない。むしろ自己顕示欲が強いジョーにはチャンピオンの座は栄光の象徴であろう。

だが、ジョーがムエタイに求めているのはそれだけではない。

強敵……自身を燃え上がらせてくれる強敵が欲しかった。だが、近年のムエタイ界にはそんな強者はいない。

これならばキング・オブ・ファイターズで毎回出場しているキングの方がよほど歯応えがある。

 

ジョー(つまらねぇ……つまらねぇ……つまらねぇつまらねぇつまらねぇ!)

 

ジョーのムエタイ界に対する失望と飢えがそろそろ限界に達しつつあったとき、騒ぎが起きた。

 

??「ジャガークウ!」

 

突然の乱入者の鋭い蹴りがジョーを襲う。

 

ジョー(つえぇ!誰だ!)

 

乱入者は赤い髪を独特の形にまとめた男だった。まるで八神庵の髪型を逆にしたような男……

ジョーはその男を知っていた。いや、この男と戦いたいと望んでムエタイ界に入ったに等しい。

その男の名前は…

 

観客A「アドン様だ……」

 

観客B「ムエタイ界を去って久しいアドン様がお戻りになられた……」

 

そう、サガットの弟子として彼が去った後にムエタイの神話を築いた男……アドン。

ジョーがホア・ジャイよりも戦いたいと切望した男であったが、タイトルマッチを挑めるようになった頃にはムエタイ界に見切りを切って去っており、繰り上がりでホア・ジャイがチャンピオンになっていたムエタイ界の神、アドン。

求めていた人物の帰還にジョーの闘志が燃える。

 

アドン「お前がハリケーンアッパーのジョーか!俺様がいないムエタイ界でチャンピオンになって調子に乗っている日本人がいるって聞いたんでな。鼻っ柱を折りに来てやったぜ!」

 

ジョー「へっ!俺にビビってムエタイ界から逃げ出したくせによく言うぜ!キング・オブ・ストリート・ファイターズ出場前の肩慣らしに丁度良いぜ!」

 

長年望んでいた男との戦いにジョーの喜びは最高潮に達していた。

 

観客「良いぞー!やれー!」

 

心配「こ、困ります!アドン様!チャンピオンも!」

 

アドン「うるせぇ!いつから協会は俺に指図できるようになったんだ!」

 

ジョー「いつもつまらねぇ相手ばっかりと対戦させやがって!こんなおもしれー対戦に限って止めんじゃねぇ!ハリケーンアッパー!」

 

アドン「しゃあ!ジャガーキック!」

 

ジョー「黄金のかかと!」

 

アドン「ライジングジャガー!」

 

ジョー「タイガーキック!」

 

ぶつかり合うジョーとアドン。

突然のサプライズファイトに沸き立つ観客。

協会も止められない。止めたら暴動が起きることは目に見えていた。

ジョーとアドンの二人の戦いは、通報を受けて突入してきた警官隊に止められるまで続いた……。

 

ー控え室ー

 

そこでグラスを片手に互いを称え合うジョーとアドンがいた。同じムエタイファイター相手ならアドンも気さくな人間なのだ。

 

アドン「わかってねぇなぁ!警官も!こんな面白いバトルを止めるなんてよ!」

 

ジョー「まったくだ!会えて嬉しいぜ!アドン!」

 

アドン「ホア・ジャイから連絡を貰ってな。ジョーの奴がムエタイ界にフラストレーションを溜めているから相手をしてやれってよ」

 

いつもはジョーのセコンドをやっているホア・ジャイがいないのはアドンに会うためだったらしい。

これは嬉しいサプライズだった。

 

ジョー「最近のムエタイ界も質が落ちちまった。相手になるのはKOFのキングくらいなものだぜ!」

 

アドン「キング?」

 

ジョー「ああ。KOFの常連として女性格闘家チームのリーダーをしている女だ。トーナメントで当たったときは毎回熱いバトルをしてくれるぜ」

 

アドン「そんな奴がいたのか。俺様が世界でストリートファイトに明け暮れている間にそんな奴が現れていたんだな。俺も参加すりゃ良かったぜ!」

 

ジョー「お、それなら今回も届いているからどうだ?俺とチームを組まねぇか?」

 

ジョーがバックからKOSFの招待状を取り出してアドンに見せる。

今日のタイトルマッチが終わったら、メンバー集めの旅に出る予定だったのだ。

毎度のメンバー、テリーとアンディ、マリー辺りと組むつもりでいたが、そろそろ別のメンバーで出場してみたいと思っていた。毎回仲良しこよしで出るのも良いが、テリー達とは親友ではあれどライバルでもある。

いつかは決着をつけなければいけないとも考えていた。

だが、そうなると他のメンバーが問題だ。

 

アドン「面白そうだが、後のメンバーは決まっているのか?」

 

ジョー「そこなんだよな……誰か宛はあるのか?」

 

アドン「あるにはあるんだが……」

 

アドンは渋面を作る。

アドンはリュウのようにストリートファイトの対戦相手と良好な関係を作るような事をしていない。

心辺りがあるとすれば決別したかつての師匠、サガットくらいなのだが……

 

アドン「サガットくらいだな。だが、俺も逆らってばかりだから受けてくれるかどうか……」

 

ジョー「帝王サガットか!いつかは会って挑みてえと思ってたんだ!居場所は知ってるのか!?」

 

ジョーが憧れた人物……帝王サガット。

ジョーも含めた誰もがその強さに憧れ、彼のようになりたいと思っていた。

そして、チャンピオンに上り詰めたジョーは考えていた。サガットとアドンを越えない限り、真のチャンピオンとは名乗れない。ジョー伝説は二人を倒してから成り立つのだと。

 

アドン「今はサウスタウンにいるって聞いているぜ?」

 

ジョー「サウスタウンか!あそこなら俺もちょくちょく行っているから詳しいぜ!ついでにダメ元でキングも誘ってみるか!」

 

サウスタウンは親友テリーとアンディの故郷。それに、度々KOFを始めとした数々の格闘大会が開催されているので、ジョーは強者と戦いたいときなどはたまに足を運んでいる。また、親友のアンディの彼女である不知火舞を通じて女性格闘家チームのリーダーであるバー・イリュージョンの店長兼オーナーのキングとも知り合いであり、サウスタウンを訪れた時はパオパオカフェと同じくらいバー・イリュージョンに立ち寄っている。

落ち着いて飲むときはイリュージョンの方が適しているからだ。

 

ジョー「そうと決まれば行くぜ!アドン!」

 

アドン「ちょっ!俺はまだタイに戻ってきたばかりなんだっての!」

 

アドンの愚痴もジョーの耳には入っていない。サガットに会える……それだけがジョーの頭の中身を占めていた。

 

 

ーアメリカ・サウスタウンー

バー・イリュージョン

 

オーナーであるキングはいつも通り、カウンターの中でグラスを磨いていた。

いつもなら酔いどれ達で賑わう店内だが、今日はとある客が居座っており、それを怖がって店内にいる客は少ししかいない。

普段だったら売り上げに支障をきたすのでため息もので不機嫌になるところではあるが、今日のキングの機嫌は悪くない。それどころか良い方だ。

 

サリー「キングさん、今日の売り上げは悪いのに機嫌がいいやよね?エリザベス」

 

エリザベス「そうよね?姉さん、何か知ってる?」

 

双子のウェイトレスのサリーとエリザベスが不思議な顔でこそこそ話をしている。

これが普段だったら極限流空手のリョウと何か良いことがあったか、弟のジャン関連かと考えるのだが、リョウは例年通りの山籠りの修行に出掛けてしまったし、開店前までのキングは普通だった。むしろリョウが山籠りから中々帰ってこないことに不機嫌だったくらいだ。

 

キング(ふ……格闘家じゃなければわからないよ。この人が店に来てくれた光栄さは)

 

キングは上等なワインをグラスに注ぎ、軽いつまみと一緒にその男に出した。男の注文ではない。キングからのサービスだ。

 

男「頼んでないが?」

 

体格が良すぎ、禿げ上がった頭に眼帯をかけ、少しくたびれたマント一枚でカウンターに陣取っていた男はギロリとキングを睨み付ける。

イリュージョンには似合わない…それどころか世界中の人間が集まるこのサウスタウンでも不審者として通報されかねない風貌の強面の男。

この客こそが今日の売り上げを著しく下げている男なのだが、むしろキングはそれを光栄に思っていた。

 

キング「あたしからのサービスですよ。ムッシュサガット」

 

そう、帝王サガットだ。

 

サガット「俺を知っているのか?」

 

キング「あたしら格闘家で帝王サガットを知らない人間はもぐりさ。特にあたしみたいにムエタイを嗜む者にとってはね」

 

サガット「帝王か……その名は今の俺には相応しくない」

 

キング「それでもあたしらムエタイファイターにとっては憧れの存在さ」

 

サガット「ふ……店長。名は?」

 

キング「帝王サガットに名を聞かれるなんて光栄だね。あたしはキング。もちろん、本名ではないけどね。リングネームみたいなもんさ」

 

サガット「帝王は止めてくれ。そうか……聞いたことがある。KOFで上位トーナメント常連チームに名を連ねる女ムエタイファイター…キング。お前がそうだったのか」

 

キング「おや。ますます光栄だね。あたしなんかの名前がムッシュサガットの記憶に残っていたなんて。サウスタウンにはどういった用で?」

 

サガットは注がれたワインを煽り、出されたソルトピーナッツを口に含む。

 

サガット「俺を倒した男、リュウがこの街の極限流道場にいるリョウ・サカザキを訪ねていると聞いてな。久々に闘いを申し込みに来たのだが、極限流道場には誰もいなくてな……仕方がないので一杯飲みに来たのだが…パオパオカフェでも良かったのだが、今日は落ち着いて飲みたかったのでこちらに来た。俺なんかが来店したせいで売り上げに影響が出たであろう。これはチップを兼ねた迷惑料だ」

 

サガットはマントのポケットから数枚の紙幣を出そうとするが、キングはそれを制する。

 

キング「要らないよ。むしろお代は要らないくらいさ。ムッシュが来てくれて凄く光栄なくらいさ」

 

サガット「む…そうか。お言葉に甘えよう。華麗なるムエタイマジック、キング」

 

キング「ごゆっくり。ムッシュサガット」

 

互いに柔らかく微笑み合うサガットとキング。

 

キング「しかし、リョウが山籠りのでいないのはわかっていたけど、ユリやタクマまでいないのはおかしいね。何かあったのか?」

 

サガット「そうか……リョウ・サカザキやタクマ・サカザキはいないのか。無駄足だったようだな」

 

残念そうにワインを飲むサガット。彼は強い格闘家と出会うことを好む。どうやらリョウもサガットのお眼鏡に叶っているようだ。

 

サガット「だが、あのキングとこうして出会えたのだから完全な無駄足ではなかったと言うわけだがな」

 

キング「お上手じゃないか。ムッシュサガット。今日は大赤字覚悟でご馳走するよ」

 

サガット「そういうつもりではなかったのだがな。せっかくだから頂こう」

 

そんな時だ。バーの入り口が騒がしくなる。

せっかくの落ち着き、和やかだった店内をぶち壊しにする連中が入店してきた。

ジョーとアドンだ。

 

ジョー「ようキング!サガットの情報を何か知らないか?」

 

雰囲気を読まないジョーが大声でキングに話しかけてくる。

上機嫌だったキングの眉間に皺が刻まれた。

 

キング「ムッシュサガットならそこにいるよ。それにしても相変わらず騒がしいねぇ。少しは静かにできないのかい?ジョー。こうして一緒にいるとムッシュサガットとの格の違いがハッキリわかるねぇ」

 

アドン「サ、サガット!まさかいきなり会えるなんて思わなかったぜ……」

 

穏やかな雰囲気を邪魔されて不機嫌になったのはキングだけではない。サガットもだ。

 

サガット「アドンと…ジョー・ヒガシか。俺に何の用だ?試合なら別の機会にしろ。今は試合という気分ではない」

 

サガットはそう言うとワインのお代わりをキングに注文する。

それを受け取ると、一口だけそれを煽り、ジョーに目を向ける。

 

サガット「ジョー・ヒガシ。いつかは会いに行こうとは思っていた。日本より単身タイに渡り、瞬く間にチャンピオンに上り詰めた快男児の事は聞いていた。会うのを楽しみにしていたんだがな……こうまで騒がしい男だったとは……ムエタイ界の低迷は本当だったようだな。こんな格の低い男に頂点を譲り渡すとは」

 

少し失望気味のサガットがジョーに辛辣な言葉を浴びせるが、ジョーは気にした様子はない。

格がどうとか言うのは言われ慣れているし、細かいことは気にしない性格だ。

 

ジョー「会えて光栄だぜ!サガット!単刀直入に言わせて貰うぜ!俺達と一緒にこれに出場してくれ!お前もだ!キング!」

 

キング「はぁ?あたしはあんたがそれにもいつものテリーやアンディと一緒に出場すると思っていたよ。舞も既にチームを組んだと聞いたからてっきり……」

 

既にキングは舞がチームを組んだということで、一緒にチームを組めないという謝罪の連絡を受けていた。

今度開催されるKOSFには誰と出場するか…キングもそれを悩んでいたが、まさかジョー・ヒガシから誘われるとは思っていなかったので思わず変な声をあげてしまった。

 

サガット「貴様達と?ミズキングならいざ知らず、貴様達と組むなどお断りだ。俺の格まで疑われる。話がそれだけなら帰れ。もう俺に用はない」

 

サガットはとりつく島のない態度で酒を楽しむことを再開する。

だが、ジョーは聞き捨てならないことを口にした。

 

ジョー「そっか。そりゃ残念だ。そうそう、キング。さっき極限流のロバートから連絡が来たんだけどよ。リョウとユリもエントリーしたらしいぜ?」

 

キング「へえ?リョウとユリもねぇ。あたしはあんたとロバートが連絡を取り合う仲だって事に驚きだけどね」

 

ジョー「ああ、最近アイツの会社、タイに進出しようとしているらしくてな。タイに来たときは連絡が来るんだよ。お互い実力が近いから手頃なスパークリング相手としてピッタリなんだよ。それでよぉ、リュウとケンって知ってるか?ケン・マスターズは有名だから知ってるけどよ、リョウはそいつらと組んだみたいだぜ?」

 

サガット「なにっ!?リュウだと!?」

 

サガットは急に立ち上がり、ジョーの胸ぐらを掴む。

 

サガット「リュウがケン・マスターズとリョウ・サカザキと組んだというのは間違いのない情報なのだな?!」

 

ジョー「あ、ああ。ロバートとリョウは昔から同門の親友でライバルだからな。その情報もリョウからロバートにされた報告だから間違いねぇよ。知っているのか?」

 

サガット「もちろんだ。リュウはこの俺に唯一土を着けた男……そのリュウが出場する大会に、この誘い。これぞ御仏のお導きか……フフフフ………フハハハハハ!」

 

大声で笑い始めるサガット。

 

サガット「小僧!気が変わった!その大会には俺も出る!そのKOSFとやらの大会でリュウと決着を付けるのも悪くない!他にもリョウ・サカザキ、ロバート・ガルシア、草薙京、八神庵、テリー・ボガード……血が騒ぐではないか!」

 

ジョー「なんだかしんねーけど出てくれるなら良いや。キング、おめぇはどうするよ?」

 

キング「本当ならあんたの誘いなんてお断りだけど、帝王サガットと並び立てるなら光栄だわ。あたしもそのチームに入れさせて貰うから、足だけは引っ張るんじゃないよ」

 

ジョー「っしゃあ!決まりだな!燃えてきたぜ!アドン!」

 

アドン「あ、ああ……」

 

サガット(待っていろ、リュウ。この大会でお前に必ず勝つ!)




今回はムエタイファイターで固めてみました。

それでは次回もよろしくお願いいたします!

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