『みらい』は横須賀に投錨していた。無論、民間人等からは見えない位置でありその地域も海軍関係者も限られた者しか入れない特別地域に指定されており、土日の上陸は認められていた。(その地域内のみ)
海軍ーー元より将和はなるべく下手に出て『みらい』の暴発をしないようにしていたのだ。
だが将和も再び戦いの海に行かなければならない事態が発生する。
米軍がソロモン諸島のガダルカナル島に上陸したのである。ガダルカナル島にいた設営隊と守備隊である海軍陸戦隊一個大隊は上陸される恐れもあった事から史実のように物資を置き去りにする事もなくジャングルの中へと後退したのである。
(やはり史実通りに占領されたか……)
史実を教訓に先にブカやブイン、レカタに基地を設営していたのでラバウル航空隊の零戦隊の一部は進出はしていたのでこれらの零戦隊が先にガダルカナル島上空に進入して制空権の確保に努める事に成功、またラバウルに停泊していた三川中将の第八艦隊(巡洋艦六、一個水雷戦隊)は夜間にガダルカナル島泊地に突入して砲雷撃戦を展開し三個警戒部隊を壊滅させ輸送船団も全滅させる事に成功したのである。
「俺達の歴史と違っているな……」
「あぁ……それも三好長官が何らかの形で関わっている」
『みらい』の艦長室で梅津や角松達はそう話していた。
「だが洋介、確証は無いぞ?」
「それは分かっている。だが、歴史が変わっている部分には必ず三好将和の名前が存在するのは確かだ」
「………」
角松達がそう話す中、梅津は顎を撫でる。怪しい、確かに三好将和は怪しい存在だった。
(だが下手に動けば……やられるのは此方かもしれない)
乗員の命を預かっているからこそ故に梅津は慎重に慎重を重ねていたのだ。だが『みらい』に接触をしてきたのはまた別の人物だった。
「何? 山本五十六が?」
「はぁ、数日後のアポをと……」
梅津は考える。流れが変わってきたのかもしれないと。
「……分かった。面会しよう」
そしてこの面会は後に『みらい』の乗員を二つに裂ける出来事だったのである。
「三好長官、貴方は一体何者だ?」
(流石は角松二佐。いきなり弩直球で来た、梅津艦長なら世間話から入っていたと思うが……)
『みらい』に乗艦し艦橋に入室し梅津艦長と挨拶を交わした上で隣にいた角松二佐が踏み込んできた。恐らく、全乗員にも聞こえるよう艦橋にスピーカーは大にしているだろう。将和の隣にいる草加はただ角松らのやり取りを見ていた。
草加自身もある程度は分かっているのだろう。いや、分かっている上でこそ草加は将和の口から知りたかったのだ。
「この世界の歴史が変わる毎に貴方の名前が記載されている……日本海海戦、第一次世界大戦、ロマノフ家、ワシントン軍縮、ロンドン軍縮、日中戦争、そして太平洋……全て貴方の名前があった」
「それに明治天皇を始め各官僚ーー伊藤博文や山縣有朋等からも信頼されていたのは把握している」
「………………(よく調べたものだな……いや、協力者は山本か)」
山本が『みらい』に接触したのは将和側も掴んでいた。彼が何をしたのかは細部不明であるがその数日後に『みらい』からの将和への会談要請だったのだ。
「三好長官、貴方は……」
「よくぞ此処まで調べたな」
将和は角松らに拍手をする。
「正解した御褒美だ。確かに俺は君たちと同じく、21世紀の日本から逆行してきた『未来の日本人』だ」
『…………………』
将和の告白に艦橋は元より聞いていた『みらい』乗員達は息を飲む。隣にいる草加はうっすらと笑みを浮かべてさえいる。
「……何の因果かは分からない。平成と呼ばれた日本で俺はただの大学生だった。しかし、一瞬の隙に俺は明治の世に、明治大帝の前にタイムスリップをしていた。明治大帝が俺の話を信じてくれた事で日本の歴史は変わり、俺はその責任を取るため日本の歴史を塗り変えていく事にした。『日本が最良の道を目指す』が為にだ」
「……三好長官、貴方に歴史を変える権利は無い」
「権利? そのような是非を問われるとしたら八百万の神々に問われるくらいだろう。別に問題が無ければ俺が取る行動を批難する謂れは無い筈だが?」
将和の言葉に角松は反論出来なかった。だが菊池が口を開く。
「だが三好長官、そのせいでタイムパラドックスが発生し未来が変わり、本来死ぬはずであった人間が生き、死ななくても良い人間が死ぬことになったとしても、構わないと言うのか? 下手すれば貴方自身、急に存在が消えてしまうかもしれないんだぞ?」
「歴史は一つではない」
「ッ……」
「『平行世界』……聞いた事はあるだろう?」
「幾つもの世界が同時平行にあるが少しは変わっている……まぁ簡単にはこんな感じだろ?」
「その通り。俺はタイムスリップした時点で平行世界の日本に逆行したのだと認識した。菊池が言う存在が消える事はなかったからな」
尾栗の問いに将和はそう答える。そして角松が最後とも思える問いをした。
「未来のことを黙って、この世界のことはこの世界の人達に任せて静かに暮らして言っても良かったんじゃないのか?」
「……それもあった」
「なら!!」
「だが俺は日本人だ。国土がB-29によって火の海に包まれて焦土化し多くの日本人が息絶えていくのを見過ごす程、俺はお人好しじゃない!!」
『ッ!?』
将和の答えに一同は息を飲む。
「確かに異なる未来になるだろう。平成の21世紀の日本では無くなるかもしれない。だが、あの『悲劇』を回避を出来るならその回避したおかげで良い未来が出来るなら俺は進んでその道を選択する。悪魔にでも鬼でもなろう。俺の身体で俺の行動で、俺の意思で救える命があるなら俺はそうしたいと願う一人の人間だ」
『……………』
将和の独白が終わり、場を沈黙が支配する。乗員達も揺れる思いはあった。葛藤していた。どうすればいい、どうすれば目の前(三好将和)の存在を受け入れられる? 『消せばいい』のか? どうせコイツはこの世界には元からいなかった存在だ。
そうだ、もしかしたらコイツを『消せば』俺達は『みらい』は『帰れるかもしれない』……?
誰かが動く。その行動を見て今まで黙っていた草加が叫んだ。
「やめろ!!」
その声に咄嗟に将和は伏せようとした瞬間、ドンと鳴り響く一発の銃声があった。
『ッ!?』
将和の右脇腹から流れ出る血、即ち撃たれて出血したのだ。下手人は未だ14年式拳銃を将和に向けてブルブルと身体を震わせるーー立花二尉だった。
「立花!?」
「……三好将和は権利は無いと言っていた……ならば僕が……僕がコイツを撃つ行動の権利を止める必要は無いですよね……?」
叫ぶ角松に立花は涙に流しながらそう告げゆっくりと膝から床についた。
「僕は……僕は……」
「三好長官!?」
ブツブツと言う立花を余所に菊池は将和に駆け寄るが将和はそれを制した。
「弾は抜けてる……が、幾分かの肉は削がれたがな」
そう言いながら将和は部屋を出ようとするが振り返り梅津艦長に視線を向ける。
「梅津艦長」
「……はっ」
「この場での事は内密にしておくし咎められないようにする……が、燃料及び諸々の積み込みが終われば『みらい』には出てもらう。このままでは『みらい』が此処で朽ち果てるかもしれんからな」
「それは……しかし宜しいので? 我々は引き金を引いてしまいました」
「この日本は受け入れは出来んだろう君達は? 我々は成すべき事は最後までやるが君達がそれを阻止しようとするのであれば掛かってこい、相手になってやる」
痛みに耐えながらもニヤリと笑う将和である。
「角松二佐」
「………」
「君達の思う行動を取れ。それが我々を邪魔するのであればするがいい。我々は全力で答える」
そう言って将和は草加と共に『みらい』から退艦するのである。その足で将和は直ぐに横須賀の軍病院に搬送された。その途中、将和は草加に問い掛ける。
「草加少佐」
「はっ」
「立花二尉が撃った拳銃……君が『用意』したのであろう?」
「……気付いておられましたか」
「我々は軍服は供与させたが兵器までは供与していないからな……それでどう行動を取る?」
「……私が思うジパング……私のはまだまだだったのかもしれません。ですので……長官の思いを支えたいと思います」
その表情は覚悟を決めた顔であった。その様子に将和は苦笑しながらも告げる。
「『みらい』の資料室は見ているな?」
「無論です」
「『マンハッタン計画』これを日本でやれるか思案し実行しろ」
「………………」
将和の言葉に草加は目を見開いた。彼自身も資料室での結果から『原爆』これを作るしかないと判断していたのだ。
「資金と場所については……まぁ宮様と相談して出してやる。計画を見積もれ」
将和の言葉に草加は無言で頷くのである。斯くしてそれぞれの思想を持つ者達は動き出した。
ソロモン作戦ーーソロモンキャンペーンは日本軍の勝利に終わった。
堀聨合艦隊司令長官は戦局を一気に打開するため可能な限りの基地航空戦力及び空母機動部隊と水上部隊の投入を決定。
ラバウルに展開した第24航空戦隊とブインに展開した第25航空戦隊による大規模航空攻撃と大湊鎮守府長官から第二機動艦隊司令長官に『復帰した』山本五十六大将と第三機動艦隊司令長官の山口多聞中将、第二艦隊司令長官の近藤大将の水上、機動艦隊がガダルカナル島を攻撃したのである。
山本五十六の現役復帰は本人たっての希望だった。彼が将和の病室に訪れたのは将和が撃たれてから二日後の事であった。
「三好長官、申し訳なかった……」
開口一番、彼は将和に頭を下げた。山本の事は以前から知ってはいたがいきなりの謝罪ーーしかも土下座は将和自身も思ってもみなかったのだ。
「山本……頭を下げていては話も出来んよ」
「あぁ……」
「『みらい』……それを見たかったのだろう?」
「あぁ……草加の言葉に俺は自身の運命を見たかった……そして知ったよ、俺は本来なら来年の4月18日、ソロモン諸島のブーゲンヴィル島上空で戦死する」
「それでどうする? 俺を殺して堀の代わりにGFの指揮を取るか?」
「馬鹿を言え……GF長官は堀にやらせるのが適任だ。だが俺はやりたい事がある」
「やりたい事?」
「頼む……俺を現役復帰させてほしい。最前線の指揮官でも構わない、俺は俺自身の運命に抗いたいッ!!」
「………………」
将和は山本の眼を見た。その眼は汚れも無くただ輝いていた。やがて将和はゆっくりとベッドから起き上がり備えられていた机に紙を置き何かを書く。書き終えると山本と向き合う。
「山本五十六の意思……確かに伝わった。これを堀に届けてくれ」
「これは……」
「お前の機動艦隊司令長官願い届けだ。流石に俺の一航艦はやれんが……小沢の二航艦なら大丈夫だろう。山口は三航艦司令長官の予定だからな」
「三好……ッ!?」
「頼むぞ山本……?」
「あぁ……あァッ!!」
将和の言葉に山本は涙を流すのである。そのようなやり取りがあり山本は現場復帰が可能となったのである。なお、二航艦から異動となった小沢は療養する将和の代理として一航艦司令長官に就任するのである。そしてソロモン作戦に勝利した日本軍はニッケル等の鉱石資源があるニューカレドニア、そのニューカレドニア攻略の拠点とするニューヘブリデス諸島を相次いで攻略し占領、鉱石資源を獲得したのである。
占領に沸き立ち提灯行列を成す日本国民を余所に陰から観ていたのがいた。元海軍大臣の米内光政であった。
(あれから山本とは疎遠になったが……山本が唯一残してくれた手掛かり……『みらい』)
山本は米内にも『みらい』の事は話していた。そのため米内は『みらい』に接触しようとしていたのだ。
(あの草加とか言う少佐の言葉を聞くのもあれだが……乗るしかないか)
元海軍大臣も動き始める。戦争の終わりを求めて、自身の影響力復活も求めて……。
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