『三好in○○シリーズ』   作:零戦

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終われたー


三好inジパング後編3

 

 

 

 

「山本長官の第一機動艦隊より入電!! 敵残存上陸船団がサイパン島沖合から撤退を開始しました!!」

「……そっちは勝ったか」

 

 第一艦隊旗艦『大和』の艦橋で将和はニヤリと笑う。『大和』もリー中将の米戦艦部隊との交戦で大破していた。だが大破という代償は米戦艦部隊は全滅であった。

 

「ならば……そろそろ此方も勝たせてもらうか」

 

 『大和』は機関を停止していた。大破もそうだが後部の水上機甲板からの多数の侵入者が来ていたからだ。

 

「長官、敵のオートジャイロは我が方の陣風が撃墜したとの事です」

「ん」

 

 参謀からの報告に将和は頷く。『大和』の上空を絶えず飛行していたオートジャイローーSH-60Kは陣風6機に追い立てられ撃墜された。無論、パイロット達は戦死である。

 

「長官!? 侵入者が……」

 

 陸戦装備ーー100式機関短銃やベ式機関短銃等を手に持つ水兵が将和に告げ、予めMP28を持っていた将和は弾倉を装着し薬室に弾丸を装填するが参謀長の宇垣に預ける。

 

「持っとけ」

「はっ……しかし長官……」

「心配するな」

 

 そして侵入者である角松達が入ってきたのであった。

 

「三好将和ゥ!!」

 

 89式小銃を将和に向けて叫ぶ角松に将和はニヤリと笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方、貴方。そろそろ起きないと遅れるわよ」

「ん……」

 

 東京『都』麹町、夕夏に起こされた将和がゆっくりと布団から起き上がり身支度をする。

 時は1957年(昭和32年)の冬に入ろうとしていた時季だった。

 朝食を終えた将和は海軍省から回されていた車に乗り込み海軍省に向かう。海軍省の入口で将和を出迎えたのは草加大佐だった。

 

「おぅ草加、欧州の武官生活はどうだった?」

「懐かしい友に再会する事が出来ました」

「そいつは良かった」

 

 そして草加を伴い将和は自身の仕事部屋である『海軍大臣室』に入室した。

 

「大分……海軍省も涼しくなったようです」

「あぁ……米内が消え……宮様らも亡くなられたからな……」

 

 1944年(昭和19年)10月2日、ハワイ・オアフ島に於いて日本とアメリカーー連合国との講和会議が開かれ日本、米英仏の各国全権大使らにより和平条約が締結された。日本からの全権大使は廣田総理でありその海軍代表の随伴員として将和も出席していたのである。

 この和平条約締結により日本は三国同盟の破棄をドイツに通告、宣戦布告までは至らなかったがイタリア王国に続き枢軸国を脱し連合国に加わると表明するのである。なお、その直後にルーズベルトが病死し交渉していた日米交渉は副大統領のウォーレスが担う事になる。

 ウォーレスは開戦前にハル国務長官が提示したハル・ノートを修正した『ウォーレス・ノート』を新たに提示した。

 即ち、第二項の1、5、7、9を廃止したものであり、廣田首相は『ウォーレス・ノート』を受け入れる事にしたのである。

 無論、陸軍の一部は反発したが陛下らの強権発動もあり闇に葬られる事になる。

 同年12月から日本陸海軍は占領地域からの撤退を開始し翌年5月ーードイツが降伏する月まで順次撤退を完了させたのである。

 しかし1945年8月8日、ソ連が日ソ中立条約を破棄し満州及び千島列島、樺太に侵攻を開始。日本軍はこれを迎撃、幸い満州にいた民間人は5月まで撤退した事もあり民間人の犠牲は無いが満州国は史実通り崩壊した。

 なお、満州から撤退こそしたがその他の地域ーー北樺太の再奪取、カムチャッカ半島の攻略に日本軍は成功。後の日ソ和平条約では満州ーカムチャッカ半島を交換という形で幕を切らしたのである。

 その後、1951年に米ソの代理戦争とも言える朝鮮戦争が勃発し日本軍も米国を支援しつつソ連のウラジオストク艦隊を全滅させたりするのであった。

 朝鮮戦争終了後、米ソにより東西冷戦構造が作られる中で日本軍は近代化及びその一部縮小を実施し新たに結成された環太平洋条約機構に参加し自由主義陣営の一翼を担うに欠かせない存在となっている。

 

「如月、入ります」

「ん」

 

 後から如月少佐も入室し議題は本題に移った。

 

「『みらい』艦長は梅津だったな?」

「はい」

「本来であれば彼は昭和26年に生まれる事になる」

 

 将和は引き出しから茶封筒を取り出し中身を二人に見せる。

 

「密かに憲兵等を利用して調査したが……彼は昭和26年1月に兵庫県西宮市で海産物商店の三男として生きているのだ」

『ーーーッ』

 

 将和の言葉に二人は息を飲む。

 

「今は市立小学校の一年生であり大阪タイガースのファンだ。この梅津三郎が……『みらい』の梅津艦長であるかは俺も知らん。誰にも分からない……だが同じ生年月日、同じ両親から生まれた三郎という少年がいる。この事実だけは二人にも知ってもらいたかった」

「それは……つまり……」

 

 そこへ草加が口を開いた。

 

「おっと、その答えはまだ先だ」

「………」

「草加、お前に特命を命じる」

「………」

「『みらい』乗員の足取りを追え。その意味は……分かるだろう?」

「……私が引き金……とあの『資料室』を知る者であるからと……」

「その通りだ」

 

 『みらい』のパラオ繋留時、将和は草加と滝に命じて『資料室』にある全ての本の写本を命じていた。つまり、『資料室』にある本は日本にとって利益がある物だからこそである。その写本した資料を守るために『米内は病死』し『菊池と桃井は沖縄行きの飛行機ごと消息不明』になるのである。なお、乗員は全員軍人でありその意味はさてさて……。

 

「さて、これから青山霊園に行くが……来るかね?」

「お供します」

 

 場所は青山霊園に移る。三人は青山霊園にあるひっそりとした場所にいた。そこには碑銘等も記載されていない墓石がそこにはあった。それでも手入れはされており管理人の丁寧さはあった。

 その墓石に将和は花を添える。

 

「……この墓石は……」

「『みらい』の墓だ、乗員241名の墓だ。角松らも含まれている」

「あの時は……必死でした……」

 

 草加はそう呟く。あの時ーー角松らが艦橋に突入した時、将和が真正面から角松らを出迎えた。

 

「やぁ角松二佐。そしてさようなら」

「なッ!?」

 

 角松達は真正面にいる将和ばかりに目を取られていた。その横にーー艦橋入口の横にいた陸戦装備をした水兵らに気付かず、まず角松が撃たれ次いで柳、米倉らが撃たれ相次いで床に倒れた。杉本らは下がろうとしたが後ろから追ってきた水兵らの銃剣によって倒れたのである。

 

「惨めかな角松二佐?」

「……ゴボッ……みぃ…よ………じぃ……」

 

 薄れようとしていく角松の眼を見ながら将和はにこやかに笑う。右手にはM1911が握られ角松の頭に突きつけていた。

 

「君がいけないのだよ……俺の家族を……夕夏を殺そうとしたからな」

 

 そう言って引き金を引こうとしたがそれをする前に角松は息絶えたのである。そして『みらい』も逃走を始めていたが『出雲』が放った46サンチ砲弾が後部ヘリ甲板に不発弾として突き抜けた。それでも沈みはしなかったがその一瞬の注意を内に向けてしまった。

 接近していた駆逐艦『雪風』が放った12.7サンチ砲弾が『みらい』の艦橋でに命中、徹甲弾ではなく寺内艦長の判断による榴弾だった。

 炎上する『みらい』に更に『長波』が肉薄し残っていた最後の酸素魚雷四本を発射、三本が『みらい』左舷に命中、『みらい』は四つに折れて瞬く間にマリアナの海に消えていったのである。

 

「家族に手を掛けたのは許さないが……一人の日本人として、海軍軍人として彼等が残した航跡は此処で余生を過ごしてもらうものだ」

 

 将和はそう言うのであった。そして幾分かの時は流れる。

 

 

 

 

 

 200✕年、かつて、日本を破滅から救った三好将和。その将和もとうとう老いには勝てず、妻夕夏と共に永眠した。

 

「夕夏、あの世でもよろしく頼むよ」

「任されたわ貴方」

「暫くしたら私もそちらに行きますよ」

 

 息を引き取った二人に美鈴は涙を流しながらそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 200✕年6月、横須賀基地で日本海軍が建造した『雪波』型イージス巡洋艦四隻が環太平洋合同訓練のため出港しようとしていた。その見物人らの中に老いた草加と如月がいた。

 

「『未来』の乗員が来たぞ!!」

 

 見物人からの声に二人はその先に視線を向けた。行進してくる乗員達は紛れもなく『みらい』の乗員達だったからだ。

 

(梅津艦長……角松二佐……)

 

 先頭の梅津艦長、更に続いて角松、尾栗、菊池らが続き、草加と如月らがよく知る人物達が次々と『未来』に乗艦していく。

 ふと、草加はスーツの右ポケットを知らぬうちにまさぐっていた。そして目当ての物を取り出す。

 

「………」

 

 取り出したのはかつて『みらい』から盗んだ平成12年鋳造の100円硬貨であった。

 

「大佐?」

「……お前も帰ってきたのだな」

『総員、帽振れェ!!』

 

 梅津艦長の号令で『未来』乗員達は帽振れをする中、草加と如月は敬礼で見送ったのである。そして二人は『未来』が水平線に消えるまでその場にいた。

 不意に草加は先程の100円硬貨を握りしめて100円硬貨を海に向かって投げたのである。

 

「………」

 

 その様子を如月は黙って見ていた。

 

「……私のジパングはまだ終わってはいない。此処からが始まりなのだよ」

 

 振り返った草加は如月に笑みを浮かべるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、出港した艦艇は一隻の脱落も無く定刻にハワイ真珠湾へ入港した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで三好inジパングは幕を降ります。クラーク、出番少なく終わってワロスワロス


御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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