『三好、打ったァァァッ!! 打球は大きくライトスタンドへ吸い込まれていったァァァ!! 入りました、今大会9本目のホームランです!!』
『三好のホームランに湧き上がる一塁スタンド側の恋恋高校!! 三好、ゆっくりとホームイン!! これで3-5、帝王実業との点差が2点差にまで縮まりました!!』
「これで2点差になったでやんす!!」
「まだ後、三回は攻撃出来る。ヒットで繋いで将和君まで回していくよ!!」
『オオォォォォォォォッ!!』
「………久しぶりにあの時の夢を見たな。ま、どうでもいいけど」
時刻は朝の0630を指していた。いつもなら朝練に向かう時間だが将和は朝練に向かう準備はせずそのまま0730までの二度寝を敢行するのである。
その後、0730には再度起床して着替えと朝飯を済ませて高校に向かうのである。
季節は8月も下旬を過ぎていた。甲子園に出場し、見事優勝にまで持っていった将和やあおいちゃんらは有終の美を終えた——筈だった。
優勝旗を恋恋高校に持ち帰った将和らを待っていたのは高野連からの通告だった。
「三好将和選手にドーピング疑惑があるとの情報がありました。本当かどうかはまだ我々も不明です。内密の調査にご協力下さい」
将和らも寝耳に水であった。そもそもドーピングをする理由もしているところも見た事無いしやった事ない。将和らは調査に協力し出せるモノは全て提出した。身に覚えのない事だから疑いは直ぐに晴れる。将和達はそう信じていた。
だが時代はSNSの時代であり、誰かが投稿したのを切っ掛けにネット、マスコミで取り上げられあっという間に将和の周囲は記者達に囲まれる次第である。
「ドーピングやったんですか?」
「やったんですよね?」
普通の高校生ならマスコミからのシツコイ質問に不調を来すが、将和は前世の事もあり慣れていた。
「あんたらマスコミはやったと言うがまず、その証拠を出せ。話はそれからだ」
「な、高校生の癖に生意気だ!!」
「マスゴミの癖に生意気だな? 言っておくが中継カメラ切り替えても此方はネットに生動画を挙げてるからお前らの失言は全部流れてるからな。それ込みで取材をしてこい、そもそも俺はホームランを打ちたいからホームランを打っているだけでドーピングとか訳の分からん密告とか頭おかしいんじゃないか?」
「過去にはメジャーリーガーもドーピングしていたじゃないか!!」
「で? だから? メジャーリーガーもドーピングしていた。で? だから何処から俺がドーピングをしていた理由になる? メジャーリーガーだからか? 小学生からやり直してこい」
『君はまず言葉の使い方から直すべきではないか? そんなのではプロでは通用しないぞ』
「あ、僅か一年しかプロに在籍せずしかも二軍で飲酒運転の交通事故問題を起こしてクビになった元プロ野球選手じゃないですか。野球の解説役には呼ばれずしょうもないワイド情報テレビしか呼ばれてない人じゃないですか? ……で、何の話でしたっけ?」
『……………………』
ああ言えばこう言う、そう言う態度にマスコミは連日熱を浴びるように放送していたがそもそもネットに取材時の生動画が流出しているので放送すればする程不利になるのはマスコミである。
そして検査や調査からも異常なしと発表されたが高野連は世間を騒がせたとして無期限試合停止処分を将和に掛けるのである。
「高野連も所詮、アホボケカスしかいない耄碌した爺の集まりという事でしたね。異常無しとしているのに世間を騒がせた……騒いでいたのはアホボケカスのマスコミと訳の分からん密告をした奴でしょ?」
良心的なテレビ系列の取材を受けた時、将和はそう笑いながら言う。
「まぁ良いです。無期限試合停止処分というなら自分は野球を引退します。恋恋高校を甲子園で優勝させた事に完全燃焼してますし」
そう言って将和は野球からの引退を宣言、取材後に皆に改めて退部を言うのである。
「やっぱ駄目か?」
「あぁ……駄目だな」
田中山の言葉に将和は頷く。皆——特にあおいは号泣している程である。
「でもッ、でも、こんなのって無いよ!! 将和君は何もしていないじゃない!!」
「でも取材では無双していましたよね……」
あおいの言葉に2年生の東條小次郎がポツリと呟く。既に次期キャプテンとして内定している東條だが、打撃は将和から教わったりしている程である。
「まぁいいさ。俺の事で変わればそれでいい」
「でも……ッ」
「泣くなよあおいちゃん。女の子に泣き顔は似合わんよ」
「……うん……」
(三好君ってああいう事は直ぐに言えるでやんす……)
将和の言葉に涙を拭き取り笑みを浮かべるあおいちゃんに矢部はそう思うのである。そして皆に惜しまれる形で将和は恋恋野球部を退部し普通の人間に戻った——筈であった。
「世界高校野球……ですか」
「はい。アメリカが言い出してきた事ですが……WBCがあるように高校生にも世界大会があっても良いではないか……と主張してきたのです」
11月のある日、校長室に呼ばれた将和が校長室に入るとそこには恋恋の校長と高野連の会長がいたのである。そして話を聞くと世界高校野球の大会に出場してほしいとの事であった。
「それで各高校にも声をかけている次第です。特に優勝高校の恋恋高校にも早川君や矢部君等……そして三好君にも是非とも出て頂きたい」
「虫が良すぎる話ですな。それに自分はそちらから無期限試合停止処分を受けている身ですので自分には関係ない話です」
「それについては御尤です……しかし、我々も新体制になり改めて再調査を実施した結果……密告した者の虚言と判明、密告した者はプロ入り確定していましたが獲得球団に通報、球団も獲得を無かった事になったとの事です」
正に因果応報であった。高野連は一連の件にて会長を含む上層部はクビ又は退任が決定し高野連は正に1からの出直しであった。また密告した者は蛇島という男であったが、指名された球団から入団拒否を通告され蛇島は何処かに消えたという噂であった。
「この件については公表を決定しており三好君の名誉回復も図る所存です。それを踏まえて代表選手になって頂きたいのです」
会長はそう言って将和に頭を下げるが将和はあくまでも冷静であった。
「御断りします。高野連が一新され名誉回復のなさるのは結構ですが、自分はもう野球には完全燃焼を優勝という形で果たしています。夜中に夢を見るのは十分に適していますし再び野球をするのは検討していません」
「み、三好君ッ」
そう言って将和は話は終わったとばかりに席を立ち、校長と高野連会長は慌てる。彼等にしてみれば将和の思考を甘く考えていた。マスコミへのパフォーマンスとして引退を口にしていたが此処までキッパリと言われ野球への想いも無いと言われるのは想定外だった。
それでも説得しようとした時、校長室の扉が開かれ中からあおいちゃんらが入ってきた。
「き、君達!?」
「ごめんなさい校長、でも将和君にどうしても言いたいんです」
そう言ってあおいちゃんは将和にグローブとボールを渡す。
「将和君……一緒に野球、やろう……?」
「ッ」
涙目であるもはにかみ、笑みを浮かべるあおいちゃんに将和も漸く野球への火を再び組み入れたのである。
「……仕方ねぇな、ケツデカのあおいちゃんにそこまで言われたらやるしかねぇな」
「ムー!? どういう事よそれは!!」
「痛ッ!? ちょ、本気で殴るのは反則だっての!!」
校長室で喧嘩を始める二人に校長と高野連会長は唖然とするがやがて会長が笑い出した。
「会長……?」
「ハハ……そうですな。彼等はただ単に甲子園を目指すのではない。『一緒に野球がしたい』それが力となり源となり彼等を動かす力となっている。我々はそれに気付く事が出来なかった……それが恥ずかしい……」
「確かに……我々教師もです……」
会長の言葉に校長は感慨深く頷く。かくして将和の復活は決まり、高野連も将和の名誉回復を図るのである。
そして世界高校野球のメンバーも次々と決まり、代表合宿が始まったのである。
「俺が監督の神童裕二郎だ。日本の高校野球は世界でも通用する事を証明しようじゃないか」
集まったメンバーに監督になった神童はにこやかにそう告げる。そして合宿には猪狩もいた。
「フン、やはり来たな」
「お、猪狩じゃないか。巨人への入団を拒否したらしいな」
「フン。貴様に12本もホームランを打たれたまま引き下がるボクじゃない。あかつき大で入念に鍛えて貴様を倒す。それだけだ」
(いや、プロ入りする気は無いんだが……)
ライバル扱いをする猪狩に困惑する将和である。
「三好君、捕手の控えもやってくれないか? 橘君の変化球を捕れる捕手は六道君しかいないし、六道君が怪我での負傷退場した時に必要だからね」
「分かりました」
「ふふーん。こんな奴が私のクレッセントムーンを捕れるわけないよッ」
「よっと。まぁあおいちゃんのマリンボールみたいなもんだしな」
「嘘ッ、取れたって言うの!?」
「ほぅ……」
将和がクレッセントムーンを捕れた事に驚く橘と珍しそうに将和を見る六道である。
そして世界大会は始まり、日本代表はアジア予選からスタートするのである。
『さぁ四回までのハイライトをお送りします。先発猪狩により奪三振ショーです!! 四回までに8奪三振を奪いました!!』
『そして四回裏、ツーアウト2,3塁で四番三好。此処まで色々と不幸な事が起きていた三好ですが、この世界大会のために仲間からの説得を受けて引退を撤回、今日は第一打席は四球でしたが2-2からの5球目にライトスタンドへの3ランホームラン!! 先発猪狩を援護します』
「やったでやんす!! 流石将和君でやんす!!」
「これで援護はしたぞ。後は頼むぞ猪狩」
「フン。次の打席も打つのだろ?」
「さーてね……」
猪狩の言葉に将和はフッと笑い、ヘルメットを置きベンチに座るとあおいちゃんがドリンクを差し出す。
「ナイスバッティングだね。相変わらずの打球だよ」
「ホームランは打ちたいからな。あおいちゃんも中継ぎは頼むよ」
「任せてよッ」
「彼女は私がリードする。任せておけ」
「むっ」
ムフーと意気込み六道であるが何故か彼女がそう言ってきたのかは彼女本人しか分からない。そこへズイッと参戦したのが小山だった。
「先輩、ヒット打ちますから必ず打って下さいね」
「ん? あぁ」
「……負けられないわね」
(試合に集中してほしいです……)
何故か三人が火花を散らす中、グローブを磨いている東條はそう思うのであった。
マスコミが叩かれるのはいつも通り(何
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