ISⅡ 進化の果てへ   作:小坂井

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久しぶりの投稿です。いろいろあって挫折していましたが、緩やかに続けていきたいです。


7話 暗闇の証明

「これはひどいな・・・・」

 

医師が子猫に見た最初の言葉がそれだった。時刻は明け方となった時間帯、住宅街は閑散とした就寝となっている中で不自然に明かりが灯っている建物があった。

 

「こいつは助かるんですか?」

 

「何とも言えないな、だけどあと数時間遅かったら諦めていただろう」

 

そういい、白衣を着た初老の医師は子猫の口に人工呼吸器をつけると点滴と入れ、診察していく。当然ながらこんな時間帯に動物病院など営業しているはずもない。目の前のドクターも急患と言っても受け入れてくれなかったのだが、衣音が差し出した札束でその考えは180度変わり、こうして診察してくれている。

 

まったく医者とは現金なものであると思うが、それ故に信頼できる。これだけの大金がかかっているのだ、そう簡単に見捨てることはないだろう。

 

「この子はお前の飼い猫か?」

 

「違います、そもそも飼い猫ならばこんなに重体になってから大金を積んで病院に来ないでしょう」

 

「それもそうか、無粋な質問をしたな」

 

そうこうしている間に全身の傷口の消毒、包帯を巻き、麻酔で眠らせる。やはりそれなりのキャリアはあるらしく、腕は確かなようだ。

 

「ひとまずできることはやった。あとはこの子の生命力と体力に期待しよう」

 

「申し訳ない、こんな時間に開いてくれて。これはお礼です、受け取ってください」

 

そういい先ほど見せつけた札束を差し出すが、医師は目覚めのコーヒーを飲みながら受け取りを拒否する。

 

「まだ代金はいい。これほどの大金だ、治療、入院、予防接種、すべてを終わらせた後でもらおう」

 

「いいんですか?」

 

「良いも悪いもそれが医者の仕事だ。患者を途中で投げ出したりなんかしねぇよ」

 

その言葉には医者としてのプライドを感じられた。てっきり、現金な闇医者だと思っていたが、意外と善意や親切心があったらしい。

 

「で、これからどうするんだ?」

 

「え、これから・・・ですか?」

 

「こいつの身柄だよ」

 

苛立ちを混ざった声で安らかに眠っている猫を指さす。そういえばそうだった、自分はこの子猫を飼うことはできない、といってもずっと入院させているわけにもいかない。里親を探そうにも障害をもった猫を引き取ってくれるお人好しがいるわけもなく、山に戻しても生きていけるはずもない。

 

「どうしましょうかね・・・・どのくらいで治りそうですか」

 

「大目に見て約一か月と言ったところだ、それ以上は入院させようにも空きがない、そうなったら保護施設行きだな」

 

「殺処分されろと?それでは助けた意味がないでしょう」

 

根本的な話、生半端な覚悟でこの猫を救ったわけではない。そもそも途中で投げ出すぐらいなら初めから背負ってなどいない。

 

「大丈夫です、こいつは僕が必ず引き取ります」

 

「お前みたいな奴ばかりが飼い主だといいんだけどな、ほら、飲め」

 

その子供のいびりとは違う心意気を気に入ったのか、コーヒーを出してくれた。そういう気遣いができる辺り、意外と彼はいい人なのかもしれない。

 

「まあ、どうしようにもこれから数週間は絶対安静だ。それまで待ちな」

 

「どうも・・・・」

 

挨拶もそこそこにカルテのための記入を済ませると病院を後にする。時刻は午前6時頃、このまま帰ろうと思ったが騒がしい朝はまだ終わらない。

 

『衣音!』

 

「うおっ!?」

 

病院を出るや否やエストが大きな声を出して出現する。病院内では静かにするべきと思うに加え、医師にエストの存在を説明するのが面倒なゆえに通信を遮断していたのだが、いったい何が出てくるのだろうか。

 

「どうしたエスト?」

 

『これを見てください』

 

そういい表示されたのは一つの朝のニュース映像であった。大きな事故が起きたような煙や爆発が起きたらしく、画面いっぱいに黒い煙幕で埋め尽くされている。そして画面の右上には生中継を表すLIVEという表示があった。

 

「なんだこの映像は・・・・っ!」

 

すると、画面の端で拘束に動く無数の機影を捉える。その一つに漆黒の機体AXEがあった。

 

「エスト!今すぐこの場所に案内してくれ!!」

 

『わかりました、ナビゲーションします』

 

位置情報を習得するとヴァリアントを展開し、飛び立つ。状況がよくわからないが、あのAXEがいる以上何かが起こっているのは確かだ。それを確かめなくてはならない。全く変な猫に懐かれるわ、朝早々戦闘は起こるわで騒々しい日だ。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

ここで少しマドカという存在の話をしよう。正直、マドカはなぜこの小倉雄星と協力し合っているのか自分でもわからない。昔は彼とは敵対している関係であったというのに、最近は武器を持たずに彼の部屋を訪れることもあればさっきのように送り迎えのために車の運転席を座ってあげることもある。

 

そして今のように互いに力を合わせて戦っている。まあ、自分も巻き込まれているというのもある。直接攻撃を受けた以上、自分だけ見逃してくれるだなんて都合のいい話はないだろう。ならば、なぜ今自分は本気で戦っているのだろうか。

 

まるで小倉雄星を守るように、仲間である彼を死なせないように、今の自分は本気で相手を倒そうとしている。なぜ?どうして?

 

『彼が仲間だから?』

 

ーーーーいや、それはない。一度も彼とは協定も協力関係も結んでいない。彼は大切な仲間かと聞かれたら自分は間違いなくNOと答える。

 

『彼のことが好きだから?』

 

ーーーーそれはもっとない。そもそも自分は人間として、女として異性に対する好意など持ち合わせてなどいない。今まで男とであってこの男と結婚したいと思ったこともなければ、この男の子供を産みたいと願ったこともない。

 

『ではなぜ彼のために戦う?』

 

ーーーー決まっている、それはこの男が自分を受け止めるに値する器の持ち主(・・・・・・・・)だからだ。かつて自分は『力が強すぎる』と言われたことがある。そして失敗作の烙印を押され、誰にも愛されなかった。だが、この男は違う。自分の互角・・・いや、それ以上の大きすぎる力を持っている。だから自分を受け止めてくれた、それがどれほど嬉しかったことか。

 

結局自分は拠り所を欲していた。そしてそれを理解してくれたのが小倉雄星だったという話だ。

 

「貴様に恨みはないが、ここで死んでもらう!!」

 

マドカ大型バスターソードとAXEのソードがぶつかり合う。互いの武器をぶつけあう黒き機体、そこには明確な殺意があった。

だが、未知の機体AXEはそんなマドカの攻撃を易々と受け流すと、腹部に蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「くっ!」

 

大型の武装であるがゆえに取り回しが悪く、隙ができる。相手はその弱点を的確に突いてくる。

 

「ならばこれならどうだ!」

 

黒騎士装備である一対のランサービットを打ち放つが、それすらも背中に装備されていた物理シールドで防ぐと、手に光の刃を発生させて急接近してくる。その素早い接近戦に対抗しようとバスターソードを引き抜くが遅かった。

圧倒的スピードで接近したAXEは黒騎士のランサービットをまとめて切り落とす。

 

「ちいっ!!」

 

だが、これは好機だ。接近されたというのならばカウンターでダメージを与える。切り伏せようとするが、その刃ですら安易に物理シールドで受け止められた。

 

「まったく、その反応速度ですらあいつゆずりか(・・・・・・・)

 

苦言と同時にAXEの瞳が不気味に揺れる。ほんと、厄介な奴を敵に回したと思う、ここまで格上の相手とは。だが、あいてのほうが強いからといってそう簡単に引き下がることはできない。

 

「ならば、このまま切り伏せる!」

 

『フェンリル・ブロウ』にエネルギーが集まっていき、チェーンソーのような光の刃が出現し切り裂いていく。勝てないのならば、せめて腕ぐらいは取らせてもらう。だが、その考えすらもAXEの前では無意味に帰す。

 

「っ、なに!?」

 

ぶつかり合うAXEの物理シールドと黒騎士の大型バスターソード。先に悲鳴を上げたのは黒騎士の剣だった。ピシッと物が壊れる亀裂の音、それが黒騎士のバスターソードから発せられた。少しずつだがAXEの物理シールドに黒騎士の武装が耐えられなくなってきている。

 

「それでも!!」

 

腕はだめでもせめてその物理シールドだけでも、そう願いながら腕に力を込めるがその願いが叶えられるよりも早く、その刃はAXEの腕部に内臓されたビームサーベルで切断される。そしてそのままその光の刃がマドカを切り裂こうとするがーーー

 

「っ!」

 

上空から数発の射撃が打ち放たれ、黒騎士からAXEを引き離す。そしてそのまま白と青のカラーリングをした機体が降下し、AXEを切り飛ばす。

 

「貴様は・・・・」

 

紛れもなくその機体はヴァリアント。学園にいるはずの小倉衣音であった。

 

「また会ったなAXE」

 

その言葉に反応することなく、両腕にサーベルを装備させて対峙する。どうやら相手はまだやる気満々らしい。

 

「おい、あんたまだ戦えるか?」

 

「戦えるといえば戦えるが、残った武器は腕部のガトリングのみだ。あまりアテにしてくれるなよ」

 

「手助けしてくれるだけありがたい」

 

ここは下手な遠距離戦よりも接近戦だ。ライフルに背中のビットを組み合わせて大型ソード『ディバイン・スライサー』を握る。

 

「さあ、前の続きをしよう。今度は負けないぜ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

「忌まわしい機体に忌まわしい子供。本当に不愉快だわ」

 

「そういうなよ。これもあのレポティッツァの縁だ、ヴァリアントも駆け付けたし楽しもうじゃないか」

 

「ヴァリアントを操縦者しているのは確か小倉衣音・・・更識楯無の一人息子だったわね。あの子の目の前で母親を殺したら私の弟になってくれるかしら」

 

「いやいや、無理だろ」

 

ヴァリアントやAXEから少し離れた空ではまた別の戦いがあった。EXAとエクセリアのもはや別次元ともいえる激戦が繰り広げられている。エクセリアが手に鮮やかな文様が描かれている防御結界を発生させながら、EXAへ突撃してくる。

 

それを胸部から大量のミサイルを打ち放ち、わずかにスピードを緩める。その隙にサーベルを引き抜き、切りかかるがヴァリアントに似た大型ソードに受け止められる。

 

「ふん、その程度でやられないわよ」

 

「お互い死ぬはずだった身だ。今度こそこの世の未練を断ち切って地獄へ行こうじゃないか」

 

「っ!」

 

このまま強引に押し切ろうとするエクセリアだが、力を入れるよりも早くEXAの頭突きが額に直撃し大きくバランスを崩す。その決定的なスキを逃さず手元のバスターライフルで打ち込むがエクセリアを無数のシールドバリアーが出現し、防がれる。

 

「ちぃ、しぶとい」

 

相変わらずの機敏な動きに舌打ちをしつつ、ライフルのマガジンを取り換える。どのみちもうすぐ政府部隊が駆け付けるだろう。戦いを引き延ばすのは互いに良くない。

 

「もうやめろ、お前は小倉瑠奈でもないし小倉雄星ももういない。いつまで故人を引きずっているつもりだ」

 

「何言っているの?私は小倉瑠奈だし雄星もすぐそこにいるじゃない(・・・・・・・・・)それも『二人』」

 

その二人のうち一人は自分の肉体の持ち主を指し、もう一人を誰が指しているのかは容易に想像できる。あの作り物の小倉雄星で満足しているとは狂気に似た恐怖を感じる。

 

「違うな、あれは弟じゃない俺たちの息子っていうんだよ(・・・・・・・・・・・・・)

 

やはりだめだ、こいつを倒さなくては戦いの連鎖は終わらない。それが今の自分の使命であり、義務だ。

 

「決着だ、この呪われた因果ここで断ち切ってやる」

 

両手に武器を握り、一気に背中からピットを射出する。そして全武装を一気に打ち放った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ヴァリアントとのリンク値が上がったからか、優秀な後衛がいるからわからないが前のように一方的にやられることはなく、何とか互角に勝負を持っていくことができていた。だが、あくまで互角止まりで勝負を決める決定打に欠ける。

 

「ちょこまかと・・・」

 

黒騎士の両腕からガトリングを打ち放つが、AXEの動きを前では命中させられても大きいダメージにはならない。そんな黒騎士をうっとおしく思ったのか接近してくるが、間にヴァリアントが入って攻撃を防ぐ。

 

「ここ戦いはお互い勝っても負けても得がないんだ、退いてくれないか?」

 

『・・・・・』

 

その平和な交渉すらも剣筋で切り伏せ、攻撃を繰り出す。正直、この迷いのない純粋な殺意というのは中々に恐ろしいものだ。逃げたいところだが、ここで逃げてもいずれは決着をつけなくてはいけない運命だ。

 

「っ!!」

 

一瞬の隙をつき、AXEの顔面を蹴り飛ばしバランスを崩させるがわずかばかりにぐらついた程度だ。反撃と言わんばかりに顔面に拳を叩きこまれ後方へのけぞる。そしてそのままサーベルを振りかぶられるがそこで黒騎士が乱入し、AXEをタックルで吹き飛ばす。

 

「決める!!」

 

右腕の装甲を展開させ、エネルギーをためる。そして背中の両翼のスラスターで疾走しAXEに急接近し、渾身の一撃を叩きこむ。

 

「シャイニング・ブレイカーァァ!!!」

 

輝く手がAXEの顔面を掴み、大爆発を起こす。その衝撃に耐えられずAXEの顔面の装甲が吹き飛ばされ操縦者の素顔が晒される。そしてそこには自分がいた(・・・・・)。血で真っ赤に染まった自分と瓜二つの顔に長い白髪、まるで自分の分身が自分を殺すために殺意を向けていた。その現実離れした光景に頭が真っ白になる。

 

「お前は・・・・」

 

「くっ!!」

 

これ以上の戦闘続行は不可能と瞬時に判断すると、ヴァリアントと黒騎士を吹き飛ばしAXEは戦線を離脱する。そのあとにエクセリアが続くがその光景を見つつ先ほどの自分に似た顔が頭から離れない。あれは間違いなく自分だった、だがあの瞳は到底人が持てる憎悪ではない。

 

「なんなんだ・・・あれは・・・・・」

 

呆けている間に黒騎士を迎えにきたのかEXAがくる。そういえばまだこの話は終わっていなかった。さりげなく黒騎士を連れて逃げようとするEXAの後頭部にライフルの銃口を突きつける。

 

「さて、説明してくれるよね?父さん(・・・・)

 

「・・・・・・」

 

その一言で自分の正体が完全にばれていることを確認すると、顔面の装甲をはずして素顔を見せる。そこには苦笑いが混ざった笑顔を浮かべていた。

 

「どこでわかった?」

 

「さっきエストが教えてくれた」

 

ここは互いに正体を知って衝撃・・・・というのがテンプレではないのだろうか。それが実の息子から銃口を突きつけられて問い詰められるとは中々なレアケースだ。

 

「悪いがここで話すようなことはない。お前はさっさと学園に戻れ」

 

「その女性・・・確かマドカさんっとか言ったっけ。別の女を連れまわしていることを母さんに言うよ」

 

「彼女はただのパートナーだ。変な脅しはよせ」

 

「そう言って信じるならば世の中の浮気調査探偵に依頼はきてないよ。なんなら簪お姉ちゃんにも報告しておこうかな、もしかすると泣いちゃうかもね」

 

エストからの報告からか雄星が中々の愛妻家ということを知っており、的確に弱点を突いてくる。こんなことになるのならば、戦闘終了後黒騎士を迎えに来るよりも早く徹底すればよかった。普段ならば悩む程度の交渉だが、今はよりにもよってともにホテルを過ごした後なのだ。

 

キスをし、指輪をプレゼントした直後に浮気したなどという情報が伝わったら間違いなく彼女の逆鱗に触れる。それだけは何としても避けたかった。それは簪も同類だ。

 

「母さん、ああ見えて怒ると怖いからね。ばれたらどんな目にあわされるか・・・・想像するだけで悪寒を感じる」

 

「・・・・わかった。わかったから母さんに報告するのはやめてくれ、心が挫けそうになる」

 

「わかってくれてありがとう、とりあえず浮気をしていないことだけは伝えておくよ」

 

「・・・・別の女を連れまわしていることは黙っていてくれないのか」

 

これは次会った時間違いなく嵐が来るだろう。あのサディストな一面を持つ刀奈がどのような仕置きをしてくるのか。

 

「母さん、どんな報復をしてくると思う?」

 

「まあ、間違いなく噛みついてくると思う。最悪、鞭打ちの刑に処されるかもね、浮気は絶対に許さない人だから」

 

その会話内容で雄星は暗く沈み、衣音は励ますように肩に手置き、マドカは面白すぎる家庭事情に必死に笑いを堪える。結局は母は強しだ、あの偉大な妻の前では最強の兵士である破壊者(ルットーレ)すらも尻に敷かれ、服従と屈服の選択しかない。

まあ、本人たちが幸せならばそれで良いとしよう。

 




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