ISⅡ 進化の果てへ   作:小坂井

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大変お待たせいたしました。長い間止まっていた今作ですが、このまま少しづつ再開していきたいと思っています。


9話 迫りくる魔の手

波乱万丈な夜と朝を乗り切り、ようやく訪れた平穏な日々である学園生活。だが、それすらも学園への取り調べという面倒ごとで始まった。さすがにニュース報道までされたこの状況では言い逃れできるはずもなく、自分がEXAの操縦者とコンタクトを取っていたことを伝え、AXEへの今後の対処法を学園に依頼した。

 

一応EXAの操縦者が父であることは言ってないのだが、その話を聞いている途中千冬の表情はずっと険しいままであった。少しでもその不安を和らげようとEXAは自分たちと敵対するつもりはないと弁明してあったが、学園側がこんな生徒一人の言葉を信じてくれるはずもなく、学園には厳戒態勢がとられるようになった。

 

教員のISは二十四時間常に戦闘可能状態で待機、場合によっては日本政府から増援をもらう可能性もあるという。自分の身内の揉め事で学園には大きな迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思うが、厄介者には厄介ごとがついてくるものだ。それを引き受けるのが教師であり、大人の役割だろう。

 

「はぁ・・・」

 

放課後の食堂で響く溜息。騒動が終わり、お茶を片手にくつろいでいるが、どうにも落ち着かない。やはり学園の中で女子しかいないこの空間では精神的疲労はある。だが、殺し合うよりはマシだ、安心できる。

 

「隣、よろしいですか?」

 

「どうぞ」

 

聞いたことがある声に短く返すと、瑠奈の隣に腰かける一人の少女。それは先日クラス代表となったアリス・オルコットであった。友達とはいえないが、共にAXEの脅威を体験した者同士、どうにも不安を感じている様子だ。

 

「今朝は大変でしたね。あんな町中で戦闘になるなんて・・・・」

 

「大変なのはお互い様さ。代表候補生でありながら、クラス代表も兼任するだなんて多忙もいいところだね」

 

「わたくしならまだしもあなたは命を狙われている立場です」

 

「まあ、自分の身は自分で守るさ。ところで、君はライガーって知っている?」

 

「・・・え?まあ、少しは」

 

唐突すぎる質問に戸惑いつつ、答えを返す。ライガー、確か父がライオンで母がトラの雑種の生物であったはずだ。それは知っているが、なぜこのタイミングでライガーの話が出てくるのだろうか。

 

「結局、あの生物ってライオンなのかな?トラなのかな?」

 

「どちらかと聞かれましても・・・・」

 

生物学者ならば答えられるかもしれないが、生憎学者でもなければ専門家でもないアリスには答えられない。だから、答えではなく、自分の意見を言うことにした。

 

「どちらでもよろしいのではないのでしょうか?」

 

「どちらでもいい?」

 

「はい、人はライオンかトラか、どちらなのかという答えを求めているのかもしれませんが、肝心の本人は自分がどちらなのかなんてことは気にしていませんでしょう。気にして、考えたところでわかるわけでもないですし、決めたところで何かが変わるわけでもありません。ならば、どちらでもよろしいのでは?」

 

「秀才ならぬ大雑把でシンプルな答えだね」

 

「こういうのは考えすぎてはいけないとわたくしは心得ています。それよりも、もうすぐ行われるクラス対抗戦のお相手をしてくださいますか?」

 

「・・・・いいよ、気が済むまで付き合おう」

 

ライガーは自分がライオンかトラなのかは気にしない。気にしたところでわかるわけではないから、確かにそうなのかもしれない。だが、自分はどうなのだろうか。小倉刀奈の息子である小倉衣音として生きるか、父の機体と力を受け継いだ破壊者(ルットーレ)として生きるか。

 

はっきりと割り切りたいとこだが、既に半身を浸かっている身だ。どちらを選んだところでまっとうに生きていけるわけでもない。それでもいつかは決めなくてはならない。重く、苦しい決断だ。だが、こうしてどちらでもない身だからこそわかる。戦うことしかなかった父や破壊者(ルットーレ)でありながら無力で悲しい思いを味わった母。

そんな二人がいてくれてこうして選ぶことはとても幸せなことなのではないのかと。

 

「それでは行きましょうか。時間が惜しいです」

 

「ああ、わかった」

 

結局その日は遅くまで特訓は続いた。もうすぐ行われるクラス対抗戦に対する意気込みだからか、AXEに対する危機感からか。だが、あの襲撃が二人に大きな向上心を生み出しているのは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

「ではこれよりISの基本的な操縦飛行を実践してもらう。小倉、オルコット、試しに飛んで見せろ」

 

「はい!」

 

「了解」

 

次の日、昼下がりのアリーナで千冬の声が響く。アリーナ内で整列する1年1組のクラスメイト。前にはISスーツを着た担任である鈴とシャルロット、そしてスーツ姿の千冬がいた。普通の授業では学年主任である千冬は参加しないのだが、ISを扱うこの実習では非常事態にそなえて参加するらしい。

 

空中に飛行するためには当然ながら、機体を展開しなくてはならない。だが瑠奈(衣音)がすぐに機体を展開できたのに対し、アリスは中々機体を展開できずにいた。どうやらまだ昨日の特訓の疲労が残っているらしい。

 

「はやくしろ、それともイギリスの代表候補生はまともに機体の展開も習得できていないのか?」

 

「うっ・・・く・・・」

 

必死に集中しようとするが、疲労や周囲へ対する焦りからか雑念が頭をよぎって中々機体を展開できない。

 

「深海だ」

 

「え?」

 

「静かな深海の中を想像するんだ。そしてその中で自分のペースでゆっくりと意識を集中させていけばいい」

 

「はい・・・」

 

目をつぶり、静かな深海をイメージする。無音の空間、静寂の世界。そんな空間で少しずつぼんやりとした光が集まり始め・・・・

 

「っ!」

 

すると、アリスの耳に着けているイヤリングから光の膜が放出され、全身を覆いつくす。そしてアリスのISであるブルー・ティアーズmarkⅢが展開される。

 

「展開にいつまでかかっているつもりだ。たるんでいるぞ」

 

「も、申し訳ありません」

 

きついお叱りの言葉を受けて、飛び立つ。ひとまずアリーナをぐるりと一周してくるが、その時瑠奈は相変わらずの仏頂面であるが、アリスは落ち込んだ様子であった。

 

「気にしなくていいさ。あんな教師一人に昨日僕たちがやった訓練を分かられてたまるか」

 

「随分と小倉さんは織斑先生を毛嫌いしているようですね?」

 

「嫌になるほど彼女からお叱りを受けて、それでも尊敬するならばそいつの神経を疑うな。ただのマゾだよ」

 

そういえばそうだった。彼はあの千冬を前にして顔色一つ変えない強靭な度胸の持ち主であった。その強さとメンタルを少しは見習いたいものだ。

 

「完璧主義ほど小さなミスをいつまでも気にするものだけど、それをいつまで引きずっていてはただの重石だ。邪魔なだけさ」

 

「ふふっ、あなたらしい考え方ですね」

 

楽しそうにほほ笑むアリス。なんやかんだで何事にも完璧を求めてしまう彼女には瑠奈のような考えがいい緩和剤となっているのだ。すると、千冬から新たな指示が届く。

 

「小倉、オルコット。急降下と急停止を実践して見せろ。目標は地表から10㎝だ」

 

「了解、それじゃあお先に失礼するよ」

 

軽く挨拶を交わし、地表に向かって一気に突っ込む。全身で感じる風邪を切る音、それに耐えながら視界に地表が広がっていく。そしてそのまま顔面が触れる瞬間、上半身をそらす。すると、ビュンという音がすると同時に体勢が整い、地表ギリギリのところで急停止する。

 

その動きに周りから驚きの声が出るが、千冬は不満そうな顔をしている。

 

「私は10㎝で急停止しろといったはずだ。お前は地表から15㎝で停止している。訓練が足らないぞ」

 

「すみません、いかんせん最近はよくわからない刺客に命を狙われてまともに訓練する時間も取れませんでしてね」

 

千冬のダメ出しを軽く受け流し、続いてアリスの番となる。だが、さすがはイギリスの代表候補生といったところだろうか。千冬の指示通りの距離で停止し、自分の技量の高さを見せつける。どうやら、さっきの会話がいいリラックス効果を醸し出してくれたらしい。

 

「よし、次はISの基本的な実習に移る。6つの班に分かれ、それぞれ打鉄Ⅱ型をハンガーから運べ!!専用機を持っている小倉とオルコットは実習の手伝いと補佐に回れ」

 

千冬の指示で生徒は動き出すが、精密機械で超重量の装甲を装着しているIS。ハンガーやカーゴを使っても女子だけで運ぶのは中々厳しい。

 

「ぐぐぐ・・・・重い・・・・」

 

「ほら、皆もっと力を入れて!!」

 

それぞれの班が必死にISが入っているハンガーを押しているが、なかなか動かない。すると、押しているハンガーが急に軽くなる。

 

「え・・・」

 

不信に思い、見てみるとそこには瑠奈のヴァリアントに抱え込まれている打鉄Ⅱ型があった。

 

「ハンガーだけで運ぶのは大変だ。私が運ぼう、皆は先に行ってくれ」

 

「おおっ!ありがとう小倉さん」

 

意外な親切心に喜びながら、生徒たちは実習を開始していく。千冬は自分たちでハンガーを運べと指示したのだが、瑠奈が善意で行っていることだ。間違っていることではないのでひとまず目をつぶっておくことにした。

 

「・・・・・・」

 

ひとまずすべてのISを運び、実習が開始されるとやることもないので隅で座り込み休む。別に突かれたというわけではないのだが、なぜかこうしたくなったのだ。

 

破壊者(ルットーレ)、小倉瑠奈、小倉雄星・・・・・」

 

自分にまとわりつく数々の因縁。そして相手の目的は自分を含めた一家の根絶。だとすると、自分の命を狙って自分のドッペルゲンガーとあの小倉瑠奈は今も見ているのだろうか。自分を仕留めようと息をひそめ、好機を待ち、万全の態勢で。

 

「どうすればいいんだか・・・」

 

「小倉さーん!!」

 

遠くで自分の名前が聞こえる。顔をあげると、遠くで自分に向かって手を振っているクラスメイトがいた。

 

「ちょっと助けてー!!」

 

「どうしたの、困り事?」

 

「ええ、間違って直立状態で降りちゃって・・・・次の人が乗れないのよ。ちょっと手伝ってくれる?」

 

「ああ、もちろん。・・・・行こう」

 

休憩もそこそこに立ち上がると、助けを求めるクラスメイトへ歩いていく。そういえば打鉄といえば、叔母である簪の専用機を思い出す。学園にあるⅡ型は安全面を重視し、鎧のように装甲で纏われた機体だが。簪の弐式は火力面と機動性に重点を置いた機体だった。

 

昔はよく簪のISに抱きかかえられて空を飛んだものだが、今は自分で自立飛行ができる状態になってしまった。そういえば、入学前の襲撃以来、保護や手続きとやらで立て込んでいて簪と会えていない。今、簪はどこで何をしているのだろうか、元気にしているといいが・・・・

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

暗い夜道を一人のスーツを着た女性が歩く。少し癖っ毛でセミロング髪形に眼鏡が目印の簪であった。とあるIS技術研究所の技術者として働いているため、残業やスケジュール合わせのために泊まりになったり帰りが遅くなることも珍しくなかった。

 

「はぁ・・・・」

 

ハイヒールの音を響かせながら首を回すと疲労からか、骨の音がなる。首の筋肉の疲労に加えて肩や足の筋肉も疲労で凝ってきている。それも無理はないだろう、簪もいまは30過ぎなのだ。どんな超人も疲労や老いを克服することなどできない。

 

いや、老いを克服した者が身内にいた。だけど、いつまで経っても変わらないあの肉体を見ると、妹でありながら一人無様に年を取っていく自分が醜く思えてくる。おまけにこの年になっても婚約者はおろか、男性との付き合いもない自分に対し、姉は子持ちだ。

このまま誰もいない一人暮らし用のマンションに帰ると思うと、なんだかみじめに思える。

 

「・・・・ん?」

 

すると、前方で奇妙な人影があった。まるで簪を待ち構えていたかのような立ち方で佇んでいる。顔を見ようにも月が雲に隠れてしまっており、月光がなくて誰だか分からない。

 

「あの・・・私に何か御用ですか?」

 

恐る恐る声をかけるが、返答はなく沈黙の空間が続く。だが、数テンポ遅れて相手の声が聞こえてくる。

 

「更識簪、初めましてというべきかしらね?」

 

「え?」

 

口調と言い、声の高さといい相手は女性なのだろうか。だが、聞いたことのない声だ、しかし相手は自分の名前を知っている。いったい彼女は何者なのだろうか。

 

「すみません、心当たりがなくて・・・顔を見せてくれますか?」

 

「ふふっ、誰だか分からないとここまで無防備とは・・・哀れね」

 

誰だか分からない簪をあざ笑うかのような声が響く。だが、そんな言葉に頭をかしげている簪の表情が次の瞬間、凍り付く。

 

「っ!」

 

目の前の暗闇に不気味に浮かび上がる2つの紅き光。機械のような人工的な光ではなく、宝石のようにどこまでも磨き上げられた鮮やかな輝き。その輝きを簪は知っている。

 

「あ、あなたは・・・・」

 

その時、雲の隙間から月が顔をだし、月光が周囲を照らしていく。自分の前に立ち、紅い双眸をもつ女性。それは紛れもなく

 

「昔、雄星が世話になったようね、更識簪?」

 

「小倉・・・瑠奈・・・・」

 

白い髪が夜風にたなびかせているかつて想い人の義姉、小倉瑠奈であった。その正体を知った瞬間、簪の体が無意識に防衛行動を起こす。

 

「くっ!」

 

素早く後方に下がると、瞬時にISを展開しようとする。いくら相手が破壊者(ルットーレ)であってもISが相手では何とかなるかもしれないとおもっていたが、その考えが甘かった。まるで獣のような瞬発力で距離を詰めると、打鉄弐式の待機状態である指輪がつけられている手首を押さえつけられ、反対側の手で首を掴まれる。

 

「うぅぅ・・・ぐぐぐ・・・」

 

「確かに私は尋ね者の立場だけど、そうも警戒されるとどうしようもならないのよね。とりあえず、明確な敵意をむき出しにするのはやめてくれるかしら?」

 

呆れが半分、警告を半分といった口調で伝えると簪の首を掴んでいる手を放して開放する。ゲホゲホとせき込んでいる簪から少し離れる。一応、これは相手に警戒心を与えないための処置だ。無論、仕留めようと思えばすぐにできる距離だが。

 

「私は今日、あなたに話があってきたのよ。もちろん、あなたと戦うつもりはないけど次ISを展開させようとするのならば、その指輪ごと指を切り落とすわよ」

 

「っ・・・・」

 

冗談でもなければ脅しでもない、正真正銘の警告に体の背筋が凍る。だが、自分と交渉をしに来たというのは意外だ。

 

「わ、私に何の用?」

 

「単刀直入に言うわ、私に小倉刀奈の居場所を教えてくれないかしら?更識簪」

 

「そ、そんなの言うわけないでしょ・・・・」

 

考える間もなく即答する。自分の姉は前の襲撃によって政府の保護施設に行くことになった。当然ながらその場所は最高機密で誰にも知られていない。さらに情報漏れを防ぐため、自分以外の唯一の肉親である衣音ですら、その場所は知らない。小倉瑠奈に姉の居場所を教えたら、間違いなく姉を殺しに行くだろう。それを分かっていて教えるはずがない。だが、その考えが大きく揺らぐ

 

「もちろんただとは言わないわ。もし、私に話してくれるのならばあなたを破壊者(ルットーレ)にしてあげる」

 

「え・・・」

 

破壊者(ルットーレ)、その言葉の意味を知っている。かつてISを根絶することを目的に作られた最強の兵士。紅い瞳と不老の肉体、そして驚異的な身体能力をもつ存在。

 

「わ、私を・・・破壊者(ルットーレ)に・・・?」

 

「ええ、なにも難しいことじゃないわ。私が持っている雄星の種をあなたの体に人工着床させるの。その結果、あなたは妊娠することになるけど、別に結婚や付き合っている男性もいないんでしょ?好都合じゃない」

 

「そんなこと・・・できるの?」

 

「難しいことじゃないわよ。元々破壊者(ルットーレ)は試験管からの体外出産ではなく、人間を母体とした人工着床で生まれさせることを目的に調整されているのよ。そのほうがコストも時間も短縮できるしね」

 

同じやり方であるのならば、破壊者(ルットーレ)を母体に人間の種を植え付けるという方法があるが、それでは生産効率が悪く、限界がある。そのため母体の負担が最低限になるように調整されているのだ。現に、刀奈も人間の身でありながら衣音を出産し、破壊者(ルットーレ)となっている。

 

「どう?別に悪い話ではないわよね」

 

「っ・・・・」

 

その話に魅力がないはずがない。簪も老いを克服したいと思っているし、不老を手に入れられるのならば願ったり叶ったりだ。だが、それと引き換えに要求されたのはただ唯一の肉親の命。易々と差し出せるはずがない。

 

「このままあなたは醜く老いていく。老いを克服した姉と違って皺だらけになり、誰にも愛されることなく」

 

「やめて・・・・」

 

「そんなあなたを破壊者(ルットーレ)である姉はこう思っている。『妹は所詮人間だ。だけど、自分は違う、もはや妹とは別の生き物なのだと』」

 

「お願い・・・・言わないで・・・」

 

「あなたはどこまでも姉の劣等種。格下の存在にすぎないのよ」

 

「いやぁぁ!!」

 

かつて過去に感じていた暗い気持ちが、コンプレックスがこみあげてくる。永遠の美貌を手に入れ、衣音という子宝にも恵まれた完璧の女性、最高の母親。それに対して自分はなんだ。醜く老い初め、異性を惹き付けるような魅力もない。誰にも愛されず、誰にも見られず、一人ぼんやりと生きていくだけの人生。

 

ボタボタと涙を流し、悲痛な現実に泣き叫ぶ。そしてそんな弱り切った簪に小倉瑠奈はさらに追い打ちをかける。

 

「言っておくけど、あなたの恋人である小倉雄星ももういない。これを見なさい」

 

そういい差し出される一枚の写真。それは繁華街のなかで取られた写真だ。写っているのは姉である小倉刀奈、そして一緒に写っていたのは・・・・

 

「嘘・・・・」

 

長い黒髪の十代後半と思われる若い少年、紛れもなくそれは小倉雄星だ。彼が姉に手を引かれてホテルへ連れ込まれている写真であった。その衝撃的な写真に頭の中が真っ白になる。

 

「雄星が戻ってきたことを雄星自身も姉もあなたに伝えていない、隠している。それはなぜか、簡単なことよ。破壊者(ルットーレ)ではないあなたはもはや二人の前では劣等種。恋愛対象ではないのよ」

 

「そんな・・・」

 

「悔しいわよね。自分も雄星を学園にいる間必死に支えてきたのにおいしいところはすべて姉に取られちゃって。残ったのはこのまま無様に生きるしかない人生だけ」

 

知りたくない、知らないほうが幸せだった真実。それが一度に降りかかってきて理解しきれない。わかることはただ一つ、自分は姉の劣等種ということだけ。その否定できない現実の刃が心を切り裂いていく。

 

「言っておくけど私もあなたを思って交渉しているのよ?姉である私、そして姉がいるあなた。似たような人だから私はあなたに手を差し伸べたいの。わかってくれるかしら?」

 

涙があふれ出る顔を上げて小倉瑠奈を見る。そこには自信にあふれた顔があった。もし、同じ破壊者(ルットーレ)となったら自分もこうなれるのだろうか。瑞々しい肉体、不変の美貌。それを手にしたらもう一度学園にいた頃のような幸せを味わえるのだろうか。

 

「まあ、伝えたいのはこれだけよ。もし、話に応じる気があるのならば私を呼んでその時はどんな時間帯でも駆け付けるわ」

 

最後に『私はあなたの味方よ』と手を優しく包み込んで話すと、闇に溶けていく。あとに残されたのは残酷な事実に傷だらけとなった簪のみ。そしてこの日を境に少しづつ日常の歯車が狂っていく。

 




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