時系列は前作「IS 進化のその先へ」の最終話から数週間後の話であり、11巻から12巻、そして最終章辺りを範囲にしていきたいと考えています。
ただ、無理やり後ろから後付けした形となるので、いくつかの矛盾点がありますがご了承ください。
01
「マジカル・ミステリアスーー!」
「グギャァァァ!」
手元のステッキから放たれたきらびやかな光線が目の前のモンスターを消滅させる。真夜中のビルの上でドレスらしき衣装に身を包んだ1人の少女が立っていた。彼女の名前は魔法少女カタナン。人知れず、魔の手からこの町を守る正義の魔法少女だ。
「やったねカタナン。ミッション完了だよ!」
そう無邪気な声で足元いる直立二足歩行で歩く不思議な白猫、「サイカ」がハートのカタチをしたストーンを渡してくる。今からX年前、カタナンこと刀奈は偶然出会った魔法世界の使者「サイカ」と出会い、多くの魔の手からこの町の人々を守ってきた。初めは緊張や不安でいっぱいだったものの、今では随分と手慣れたものだ。
「これで今日の分は終わりかしら?それじゃあ、帰りましょう」
「うん・・・そうなんだけど、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「え・・・どうしたの?」
日頃の無邪気な声とは一変し、深刻な声で話すパートナーに奇妙な緊張感を感じる。そしてその予感は的中してしまうのだった。
「実は僕、もう魔法の国へ帰らなくちゃならないんだ」
「な、なんで!?」
突然すぎる告白に夜中だというのに大きな声で驚く。いや、それも仕方がないことだろう。なんの予兆もなければ告知もなく、何年も共に戦ってきた大切な相棒がいなくなってしまうのだ。狼狽えないほうが無理だ。
「どうして!?なんで!?何が理由なの!?」
「それはね・・・・」
「刀奈ちゃんがもう魔法少女っていう年じゃないからだよ」
「え・・・・」
予想の斜め上・・・いや、180度違う回答に先ほどの混乱が吹き飛び、思考が停止する。てっきり魔法の国からお迎えが来たとか、任期を終えたからとかそのような理由かと思っていたが、思いのほか大人すぎる理由だった。
「僕と出会った時、君はまだ可憐で無邪気な女の子だったけど、今じゃもう体も心も大人なんだよ?そんな人に魔法なんて使えるようにしたら絶対にいけなくて邪な目的で魔法を使うよね?」
「そ、そんなことするわけないじゃない!私は魔法はこの町を守るためにしか・・・」
「僕知っているんだよ?君がこの前、想い人であるクラスメイトの雄星君に一時自我をなくす魔法をかけて一緒にお風呂にはいったこと」
「うっ・・・」
「やっぱりこのまま続けていたら君は我欲を満たすために何をしでかすかわからない。もう、無理なんだよ」
「ち、違うのお願い!話を聞いて、これには訳が・・・」
「わかってはいたけど、清純な子が汚い大人に変わっていくのは見ていてつらいね。でも、変化があるから人間なのかもしれない」
そんな哲学めいたことを言うと、その白猫の体が光っていく。そしてそのまま浮かび上がると夜空の星へと消えていく。そしてその場に残されたものはビルのコンクリートに力尽きたように座りこみ、項垂れる魔法少女らしきコスプレをした心が穢れた女子高生だけであった。
「はっ!」
眠気もなければ疲れも感じづ、はっきりとした興奮によって目が覚めて朝を迎える。この興奮の原因は分かっている、昨晩みた夢のせいだ。現実離れしているくせになぜかその人間性がリアルすぎる奇妙な内容。かつて自分が思い描いていた魔法の国とは違いすぎるが、そんな夢物語だからこそ、夢なのだろう。かといって夢の中で現実を混ぜるのはいただけないが。
ニャー
自分の主が起床したことに気が付いた白猫が顔元に寄ってくると、朝の洗顔代わりなのか顔をなめてくる。そう、猫は所詮猫だ。決して魔法の国の使者だったり、なんとも醜くくて大人な人間倫理などいわないだろう。だが、無駄だと分かっていたとしてもどうしてもこれだけはいっておきたかった。
「サイカ、私は我欲のために使ったんじゃなくて自分のために使ったのよ?」
当然だが猫に人間の言葉が分かるはずもなく、顔をかしげるだけであった。
ーーーーー
「そうか・・・彼女は学校生活に復学したか。・・・いや、悪いがもう学園に行くつもりはない。あとは彼女の心の強さにかけよう。・・・・ああ、また連絡する」
朝露による濃霧につつまれた山奥。朝を告げるように鳥のさえずりが聞こえてくる。人の手が一切加えられることなく、ありのままの自然が残るこの地でとある少年の声が響く。必要最低限の整地しかされておらず、非常に足場が不安定な土砂のうえで腰かけ、大きな通信機器を片手に通話している一人の少年がいた。
彼に明確な名前はない。だが、人に名前をいうときは「小倉雄星」と名乗るようにしている。その雄星は通話を終えて手元の時計を見ると、背後にあった大きな荷物を背負い、立ち上がる。
「あれ・・・どこいった?」
きょろきょろと周囲を見通すと、少し離れた場所で樹木の枝にいる小鳥を見上げている一人の人物がいた。全身を覆うほどのコートにフードを深くかぶっており顔が見えず、その人物がどれほどの年齢なのか、男なのか女なのかすらわからない。
そんな謎の人物に雄星は近づくと、肩をポンポンと叩く。
「通話は終わった。この山を下ったところに宿がある、そこで休憩しよう」
その言葉にコクリと頷くと二人は静かに山中を歩いていく。一言も言葉を交わすことなく、ただ黙々と足を動かす。だが、その沈黙は不仲から来るものというよりも、互いが自身の考えの没頭からくる思考の時間であった。
「お二人様でのご利用ですか?はい、大丈夫です。お部屋へご案内いたします」
旅館の窓口で受け付けを済ませ、従業員に案内されて泊まる部屋へ入る。もっとも明日の早朝には出ていくつもりなのであくまで休憩目的といったところだ。大きな荷物を降ろし、小さく安堵のため息を吐く。野宿も別にいいが、寝るときに虫よけのために焚火をする必要がない点を考えると、やはり屋根があるというのはいいことのように思える。
そんなでくつろいでいると、フードの人物が立ち上がると荷物を漁り始める。
「風呂に入るのか?別に文句を言うつもりはないが・・・・大丈夫なのか?いろいろと」
「・・・・・・」
その疑問に返答することなく、タオルを出すと出入口にかけられているシャワーマークの立て札を指さす。
「へえ、室内に備え付けのシャワーを使うのか。いっておくが、別にお前が風呂をはいるのを止めるつもりはない。普通に大浴場に入ってきたらどうだ?」
「・・・・・・・・」
その提案にも答えることなく、手を軽く横に振り拒否するような仕草をすると、シャワー室へ入っていく。その光景を見届けると、空中投影ディスプレイを出現させて複雑な英数字に目を走らせていく。この先、何が起こるかわからない。だからこそ、楽観的な考え方はしない。必要な時、全力で動けるように準備を怠ることなく、今は静かに牙を研ぎ続ける。
これは本来あり得なかった未来、明けることのなかった夜の物語。
ーーーー
パリンッ!
IS学園の学生寮の一部屋で朝から大きなガラス質の割れ音が響く。落ちた衝撃で床に散らばる白い破片、その光景を二人の少女が驚いたような表情で見つめる。
「お姉ちゃん?」
「あ・・・ご、ごめんなさい簪ちゃんっ!すぐに代わりのお皿を用意するから!!」
そういい、明らかに動揺した表情で上の戸棚から新たな皿を取り出すが、またしても同じように手から滑り落ちて床に二枚目の皿の破片を広げる。もはや動揺や朝ボケなどといったレベルではない、根本的な思考が鈍っているといってもいいかもしれない。
「私がやるから、お姉ちゃんは先に食べてて」
「で、でも・・・・」
「いいから」
ほぼ追い出すような形で台所から出すと、部屋のテーブルに乗せられている朝食を食べ始める。正直、今の姉をひと時も目を離したくなかったが、いつまでも見張っていることなどできない。下に屈み、片付けを始めていく。ちらりと姉の方向をみると、焦点の合わない瞳でぼんやりと皿に盛られている朝食を見つめていた。
「お姉ちゃん、早く食べないと遅刻するよ?」
「え・・・あっ、そ、そうね・・・」
破片を集め、袋に詰めるとごみ箱に入れる。その時、ちらりと近くに壁にかけていたカレンダーが視界に入ってくる。そういえばそうだった。もう、あの日の出来事十日も経つのだった。あの完璧な姉もある日いきなり、あのようになったわけではない。十日前のある出来事が原因だ、それ以来、ショックで無残といえるほどに変わってしまった。
無論、簪も完全に立ち直れたわけではないのだが、姉があんななのだ。自分までダメになったらそれこそ世紀末のような状況になってしまうだろう。
「それじゃあ、学園に行きましょう」
「お姉ちゃん、カバン忘れてる!!」
「え・・・あっ・・・・・」
本当に頭が抱えたいような状況で頭痛がしてくる。姉は完璧超人であったがゆえに多少のショックではメンタルが崩れることはない。だが、それであるがゆえに一度崩れたメンタルはそう簡単に回復しない。人間とはそういうものだ。
階段から転げ落ちそうになること四回、道で転びそうになること四回、教室を間違えること一回、何度も危機を救いながら姉を教室まで送り届け、簪も自身の教室の席へ到着する。そして椅子に腰かけると、すでに一日分の徒労を吐き出すかのように大きなため息を吐くのだった。
「・・・・・・・」
外からワーワーとにぎやかな声が聞こえてくる。時刻は昼過ぎであるため、昼食を終えた生徒たちが食後の運動として屋上や校庭で元気よく遊んでいる。その中、簪は外に出ることなく学園内の保健室のベットの上で横になっていた。
一人になりたいとき、簪はよくこの保健室を使用している。今はこの保健室の担当は空席となっており、管理するものはいない。そのため鍵がかかっているのだが、パートナーであるエストが鍵の形状を記憶していたため、だれも使わないのならばと合鍵を作製し、無断利用させてもらっている。
最近は姉の面倒ばかり見ているが、無論簪もダメージがないというわけではない。だからこそ、一人になれるこのような場所が必要であった。
「エスト」
『はい、何でしょうか?』
「私を元気づけて」
『難しいことを仰いますね』
唐突すぎる頼みに困ったような声で返答する。なんやかんだで彼女も顔に出さないだけで疲れているのかもしれない。エストに肉体があればマッサージなどができたかもしれないが、生憎AIであるエストにはこうして話し相手をするだけで精いっぱいだ。
そうしていると、昼休みの終了を告げるチャイムがなる。そうなっては簪も教室に戻らなくてはならないのだが、ベットの上で横たわる簪はピクリとも動かない。
『チャイムはお聞きになられたはずです。お戻りになられないのですか?』
「午後の授業は・・・・休む・・・・・」
『そうですか・・・・ならばせめて・・・』
今できる精いっぱいの気遣いとして保健室を消灯して少しでも人がいない雰囲気を外に醸し出す。
「エストは・・・授業をさぼる私を叱らないの?」
『何度も言いますが、私の使命はあなたをサポートすることです。育成することでもなければ、教育することでもなく、サポートする。ならば、マスターのすること、行うことを肯定し、私のできることをするだけです』
「ありがとう・・・・エストは優しいね」
『あなたもご立派な人です。あなたのお姉さまと同じように誰よりも傷つき、疲労しているというのに必死に立ち上がり、自らを奮い立たせている』
「褒めすぎよ・・・私はただの・・・・」
そういい、眼鏡をはずすと枕に顔を押し付ける。食後なのもあってか、胃に血がいっている。そのためで脳がぼーとしているせいでそのまま眠気が訪れるのはすぐであった。
少し長い昼寝をしたせいで、多少元気となった簪はすっかり空は赤く染まった放課後の学園を歩いていた。目的は姉の教室である。無論、子供じゃないのだから送り迎えなど不要とは思っているが、今朝のこともあって本当に帰ったかだけ確かめたかった。
「え、嘘?そんなことがあったの?」
「本当よ本当、目撃者も何人もいるんだから」
二年生の廊下を歩いているが、なんだか騒がしく、落ち着きがない。それでも姉の教室にたどり着き、先に帰っていてほしいと願うが、現実は非常であった。
「あ、簪ちゃん、迎えに来てくれたの?」
「え・・・・・?」
教室内を除いたとき、まだ帰っていなかった姉である楯無の姿。それだけならばいい、異常だったのは彼女の顔であった。彼女の右頬全体を覆いつくすかのような巨大な湿布、そしてその湿布が剥がれないように医療用テープが張られていた。
「それ・・・・なんで・・・・」
「知らないの?」
そこでクラスメイトと思える人物が割り込んでくる。
「今日、会長が廊下を歩いていると会長の座を狙う剣道部員が一斉に襲い掛かってきて、木刀で右頬を思いっきり殴られたのよ」
「嘘・・・・」
自分の知らないところで起こっていた壮絶なことに対して声も出ずに絶句する。このIS学園において会長は最強である証である。その会長の座を狙う生徒は多少はいた。その者たちに対し、姉は危なげもなく会長の座を守ってきたはずなのに、こんな形で終わるとは。
「そのあとに反撃するかなって思ったら、そのままフラフラとどっかに行っちゃって。近くにいた別の体育部員が持っていた医療道具で手当てしたんだけど・・・。襲った部員たちもなんか無抵抗な会長が不気味に思ってビビッてどっかにいっちゃったんだよね」
「大げさね、ちょっと油断しただけよ」
そういい苦笑いを浮かべる楯無だが、その笑みはどこか乾いており虚しいだけであった。そんな姉の姿を見ていると心の奥から悔しさと悲しさがこみあげてくる。
「お姉ちゃんっ!帰ろっ!」
日頃の簪では想像できないほどの大きな声を出すと、楯無の机からカバンをひったくるようにとり、周囲の目から逃げるように手を引いて廊下を歩いていく。時間がたてば傷口は塞がるだろうと楽観的に考えていた自分が甘かった。このままでは自分と姉の傷心はどんどん広がり、何が起こるかわからない。先ほどのサボり行為と同じように、本人も気が付かないうちに忘れられない過去の禍根が彼女たちを絡めていく。その影響を姉が大きく表に出た、それだけの話なのだ。
「夕食は私が作るね」
「でも、それじゃあ・・・・」
「いいから休んでいて」
ほぼ寝かしつけるかのように楯無をベットで横たわらせると、夕食の準備のために台所へ入る。幸いなことに食材の仕込みは既に朝に終わっていたため、手早く調理器具を使って調理を進めていく。だが、簪の脳内は先の見えない未来に対しての試行錯誤でいっぱいだった。
だが、どうしても正解が見えない、解決策を見出すことができない。苦悩しながらちらりと楯無の方を見てみると、ベットの上で虚無を見つめるかのような暗い瞳で外の沈みゆく夕陽を見つめていた。ただでさえ精神的に衰弱している状況だというのに、今日一日の学園生活の肉体的疲労によって心身ともに疲労しきっている。もはや、限界など超えているのかもしれない。
「エスト・・・・」
『はい、何でしょうか?』
「お姉ちゃんと私を・・・・元気づけて・・・」
『難しいこと仰いますね』
つい先ほども似たような会話をしたことに困惑するような表情を浮かべるが、エストにそのような感情があるのかは不明だ。適当にネットから拾ってきた人間の困惑した表情を模写しているだけなのかもしれない。
「このままじゃ・・・ダメ・・・・だから・・・」
本当に人間とは面倒な存在だとエストは思う。機械はエネルギーを供給され、部品を入念にメンテナンスをすればいくらでも動く。だが、人間はほかの生き物を殺し、食材にして生きていく。しかも、それだけでは飽き足らず、心などという不明瞭なものを抱え込んで存在している。そして彼女たちはその不明瞭なものに悩まされ、苦悩し、今や全てを投げ出して自滅しようとしている。
だが、そんな者たちを愚かしいとは思わない。強固なもののとは裏腹に抱え込まれた脆い部分。そのバランスはとても美しいと感じている。
『・・・・一つだけ可能性があります』
「・・・・教えて」
簪の意志を確認すると、見慣れた日本列島の地図を表示する。そのまま、四国あたりをズームするがその場所は人里から遠く離れた山奥であった。
『この場所へ向かえば希望が見えてくるかもしれません』
「エスト、どういう意味?」
『行けばわかります。ですが、この場へ向かうという意味をよく考えてから向かうことをお勧めします』
「・・・・・?」
いまいち彼女の意図が理解できない。だが、今はそれが唯一の道しるべだ。今すぐ向かいたいところだが、日帰りで帰れるような場所ではない。何も考えず、何も考察せず、簪は自分と姉の分の外泊届を提出するために部屋を出ていく。
だが、彼女たちはまだ知らない。その希望に縋るという行為がこれから先、どのような出来事を起こし、そしてどれだけの血が流れる結末となるのかを。
「っ・・・・・?」
「・・・・・どうした?」
不意に山道の途中で立ち止まる。もうどれだけ歩いたのかわからないほどの距離を歩いたが、その顔に疲労の表情はない。だが、その代わりに何とも言えない危機感を感じる面持ちへと変わる。
「今・・・・風が変わった・・・・」
「いい方に変わったのか?それとも悪い方?」
「多分・・・・悪い方・・・・」
その時、強風が吹き荒れてかぶっているフードを大きく乱す。その時、隙間から見えた紅く輝く瞳が暗い夜空へと輝く。そのつかぬ間の黄昏の時期に日に二人の少女の顔が脳裏を掠める。なぜか彼女たちの姿を見ると胸が切なくなる。それはきっと、こんな結末を迎えてしまったが故の寂しさなのだろうか。
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