ISⅡ 進化の果てへ   作:小坂井

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なぜ人間は心底どうでもいいことをいつまでも覚えているくせに、重要なことはすぐに忘れるのだろうか。これは雄星ーーーー亜紗日が昔からずっと思っていたことだ。それと同時になぜ自分が想像する悪いことが必ず起こるのだろうか。

 

そんな一種の哲学のような疑問も今ならばわかる気がする。この悟りを開いた今ならば。

 

「おそら・・・・きれい・・・・」

 

晴れた日の午後のアリーナでそんなことを呟きながら生気の失った瞳で空を見上げる。まるで自分の死期を悟った者のような状態の亜紗日を近くにいた簪が宥める。

 

「あ、亜紗日、そんな顔しないで・・・・似合ってるから・・・・」

 

「簪・・・・今日も君はかわいいね」

 

「今日もって・・・・さっきから何度も会ってる・・・」

 

昼食が終わり、午後の授業が始まった。それ自体はいい、午後の授業が始まることは時の流れから必然といえることだ。だが、午後の授業はISの実習演習、つまりーーーー

 

「ISスーツ似合っているから・・・・」

 

めでたく笹原亜紗日はISスーツデビューを決めたというわけだ。体に張り付くように着用しているISスーツがさっきからうっとおしくて仕方がない。

 

「笹原さん、すごい肌キレイ・・・・」

 

「ねえねえ、お肌の手入れってどうやってるの?教えてよ」

 

「太もも舐めていい?」

 

周りからの視線や言葉が心に突き刺さる。正直、ISスーツなど死んでも着たくなかった。だが、ほぼこの学園において最重要科目をサボるなどしたら間違いなく目立つであろう。自身のプライドとの葛藤の結果、授業に参加することにしたわけだが、さすがに同じ更衣室を使うわけにはいかないので保健室で着替えて参加している。まあ、そのとき瑠奈に見られて笑われたわけだが、今の状況に比べれば前菜のようなものだ。

 

「っ・・・・んっ・・・」

 

とにかくさっきから全身が圧迫されるような感覚がうっとおしくて仕方がない。まるで全身の血管が塞がれそうだ。簪はすぐに慣れるといっていたが、不快な感覚には変わりない。そして顔を下に向けたら胸元には二つの大きな膨らみ。

 

女子高校生にしてはいささか育ち気味な胸。それがなおさらに圧迫感を感じる要因となっている。

 

(お姉ちゃん、意外と胸が大きかったんだな・・・・)

 

「や、やあ、笹原さん・・・・」

 

すると特注の男性用のISスーツを着た一夏が声をかけてくる。

 

「さっきはごめんな、笹原さんがいるのに俺の連れが怒鳴っちまって」

 

おそらくさっきの保健室の出来事を言っているのだろうか。そのことをこうしてわざわざ謝りに来るとは意外と几帳面な性格なのだろう。

 

「・・・・・別にお気にせず。あの場にいるって決めたのは私だし」

 

「そ、そうか、ありがとう。あとISスーツ似合ってるぜ」

 

「どうも・・・・」

 

似合っているといっても一夏の目線はチラチラと亜紗日の胸元に注がれている。本人はバレてないと思っているかもしれないが、正直丸わかりだ。

 

(人の胸をジロジロみるな、このスケベ野郎が・・・・)

 

男の性であるがゆえに理解できなくもないが、それを許せるかどうかは別問題だ。好きでもない男に体を見られるのは気持ちの良いものではない。

 

「ほら、織斑先生がきたよ。整列しないと」

 

「え、あ、ああ・・・・」

 

教員である千冬と真耶がきたことを知らせると、亜紗日と一夏は小走りで整列しに向かう。その時、走った拍子に胸が大きく揺れて一夏の視線を釘付けにする。女性の胸が大きいのはいいことはあっても悪いことはないと思っていたが、どうにも悩みどころとなる。これは幸せな悩みなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はISの格闘技術の演習を行う。各グループはISをハンガーから搬出しろ!」

 

準備運動後、千冬の指示と同時に実習演習グループに分かれて作業を開始する。その肝心のグループなのだが、そこには意外な人物が混ざっていた。

 

「あちゃひ~」

 

気が抜けるような声と同時に一人の女子生徒が近づいてくる。眠そうな目にフラフラとおぼつかない足取り、その人物を亜紗日は知っている。

 

「よろしくね、本音ちゃん」

 

「ういっ、こちらこそだよ~」

 

偶然にも同じグループの中には簪の(形式上は)従者の本音がいた。贅沢を言えば、簪が良かったのだが、彼女は専用気持ちということで専用機持ち専用のグループになってしまっているため助力を得ることができない。そのため多少は心配していたが、心身共に鈍い本音が一緒であれば多少ボロを出しても気が付かないであろう。これは嬉しい誤算だ。

 

「よろしくね、笹原さん」

 

「よろしく!」

 

「よろしくねーー」

 

次々と同じグループのメンバーが集まってくる。ある程度の手順は知っているが、ここは転入生っぽくするためにカマトトぶるとしよう。

 

「それで、まずはどうしたらいいの?」

 

「最初はISが入っているハンガーを出すんだけど、重いんだよねぇあれ」

 

「そうそう、しかもうちには本音がいるからさらに苦労するし」

 

「も~ひどいなぁ!この本音ちゃんも頑張っているのに~」

 

そんな年相応の会話をしながらハンガーを出そうとするが、確かにISが収納されているだけあって重い。一応、全員の力を込めて少しずつは動いているが、本音がほとんど戦力になっていないのに加え、この年の非力な少女だけでは苦労するだろう。

 

(仕方がない・・・・っ!)

 

「お、動いた!!」

 

わずかに力を込め、ハンガーを引っ張る。そうするとさっきまでは微々たる速さでしか動かなかったハンガーのスピードがわずかに上がる。

 

「どこに置けばいいの?」

 

「グループごとに練習場所が分かれているから、私たちの場所に運ぶの。ほら、あそこ!」

 

指をさした場所にハンガーを運ぶと、パネルを弄ってIS『打鉄』を出現させる。正直、重機を使えばいいと思うのに、なぜわざわざこんな手間をかけさせるのだろうか。

 

「いやー笹原さん、すっごく力強いね。鍛えているの?」

 

「まあ・・・・ストレッチはやっているかな・・・ははは・・・」

 

愛想笑いを浮かべながらちらりとさっき自分が握っていたバンカーの取っ手をみると、力をかけすぎてしまったからか少しひしゃげてしまっていた。やはり、今の状態で暮らしていくのは危険すぎる、なんとかしなくては。

 

「それじゃあ、運用演習からいこうかな。笹原さん、いける?」

 

「え、あっ、うん、大丈夫」

 

IS適正は低かったが、今の自分の肉体は女性だ。理論上はISを動かせるはずだが、どうなるか。四肢を固定され、教科書通りのやり方でISを起動させていく。

 

「接続よし、メイン電源も問題なし。いけるかな・・・・」

 

緊張しながら電源スイッチを入れ、次々にシステムが立ち上がっていく。どうやらISは亜紗日を操縦者として認めているようだ。

 

(よし、問題はなーーーっ!)

 

次の瞬間、大きな反発と衝撃で意識を失いそうになる。外から攻撃されたわけではなく、体の内側から弾き飛ばされそうな感覚。その原因となる犯人が誰かはわかっている。今乗っているISだ、このISから発せられたものだ。

 

「悪い子だな、いい子にしろ・・・・」

 

「笹原さん?どうしたの?」

 

「いや、ちょっと手順を間違えちゃって。すぐに直すから少し待って」

 

吹き飛びそうな意識を堪え、できる限りの平常心を保って返答する。今乗っている乗機から感じるのはひたすら拒否の意志だ。お前を認めない、お前は相応しくない、おそらくこのISは本能的にたった今知ったのだ、亜紗日が破壊者(ルットーレ)であることを。

 

自分たちを滅ぼす可能性をもった存在であることを。

 

(大人しくしろ・・・・今の主は僕だ!)

 

感覚を集中させ、この拒絶の根源を力ずくで押さえつける。これは例えるならば暴れ馬を人間の力で強引に押さえつけるようなものだ。意思疎通や和解など縁遠く、力あるものが弱い者の上につくという単純な考え。

 

「くっ!・・・・・ふんっ・・・・」

 

そのわずかな息遣いとともに機体の抵抗は沈静化する。強引に押さえつけ、強制的に従属化させることができたが、少し押さえつけを緩めたら一気に反発してくる。

 

「それじゃあ、軽く歩いてみるね」

 

そういい、あぼつかない足取りで少しずつ歩いていく。そのまま一通りのトレーニングをこなすと、次の人へ搭乗を代わる。

 

「ふう・・・・」

 

思わぬアクシデントがあったが、なんとかISに乗ることができた。だが、適正は『C』どころではない、『E』判定ですら生ぬるいことがわかった。

 

「笹原さん、すっごくISに乗るの上手だね。どれくらい乗っているの?」

 

「そんなに上手だったかな?別にたくさん経験があるわけじゃないよ。数回乗ったことがあるぐらいだし」

 

適当な嘘をつき、地面に座り込む。不意打ちな出来事であったためか、意外と動揺してしまった部分がある。そんな気持ちを落ち着けるかのように呼吸を整える。Is学園でISから拒絶される、それは例えるならば猫カフェの店員が猫アレルギーであるようなものだろうか。

 

乗れないという最悪の事態は避けれたが、そこそこ面倒な事態となった。これも瑠奈に報告しておこうと軽くため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは今日の主な課題である接近戦の模擬戦闘を行う。織斑、前へでてISを展開しろ」

 

「はい」

 

名前を呼ばれた一夏が一歩前へ、専用機「白式」を展開する。

 

「これから織斑と接近戦の演習を行ってもらう。相手はそうだな・・・笹原、お前だ」

 

(マジか・・・・)

 

千冬はさっきISに乗った亜紗日の身に起こったことを知らないーーーというより、時間がなくて報告できなかったため知らない。千冬としては別に悪意があったわけではなく、ただ純粋にどのくらい動けるか見ておくというテストを兼ねたつもりなのだろう。

 

「織斑とお前のグループで使用した打鉄で軽い演習をしてもらう。やれるな?」

 

「は、はい・・・・」

 

これほどの大衆の前で拒否ができるはずもなく、二言返事で引き受けてしまう。そしてよりにもよって自分が使う機体はさっきやんちゃを起こしてくれたあの打鉄。もはや悪い予感しかしない。

 

「くっ・・・・・っ・・・」

 

再び搭乗してみても案の定、先ほどと同じような感覚が襲い掛かってくる。それでも必死に堪え、模擬戦闘用の非殺傷ブレードを構える。

 

「今回は接近戦のイメージを見せることだ。飛行、武装の使用は禁止する。織斑、笹原は経験が浅い、あまり激しい攻撃は加えるな」

 

「はい!」

 

大まかな説明を終え、二機のISは適度な距離を取って構える。

 

「いくぜ、笹原さん」

 

「ど、どうぞ・・・・」

 

それと同時に白式が接近すると同時にブレードを振るう。手加減しているためか、動きは遅いものであったが、満身創痍な状態である亜紗日にとって対応するのは一苦労であった。

 

「くっ!」

 

剣の軌道と自分の間にブレードを挟み込み、何とか防ぐ。だが、次々と出される攻撃に防御が間に合わない。それでも思った通りに動かない機体に鞭を打ち、剣筋をわずかに逸らしたり、弾いたりして防いでいく。だが、このまま続けてもジリ貧になることは明らかであった。

 

(ならばっ!)

 

一か八か勝負に出るために、渾身の力を込めて白式の剣筋を力強く弾いてわずかばかり後方にのけ反らせる。

 

「うわっ!?」

 

さすがに予想外の力だったらしく、驚嘆の声とともにわずかに隙が生まれる。

 

(今しかないっ!)

 

その隙を逃さないとばかりに大きく足を踏み出し、ブレードを振るうがわずかばかりに攻撃に気を向けたのが悪手であった。

 

(っ!?)

 

この時を待っていたといわんばかりにISから放たれる拒絶反応が亜紗日の意識を大きくぐらつかせる。そのせいで全身が大きくふらついたせいで前に重心が傾き、そしてーー

 

「うわっ!」

 

「うっ!」

 

目の前の百式を押し倒すような形で二機のISが倒れる。大きな轟音と金属音が響き、周囲に土煙を舞い上げる。そして二機の機体は静かに沈黙するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぅ・・・・・」

 

真っ暗となった視界の中、体全体に大きな圧迫感を感じる。

 

「どうなったんだ・・・・」

 

なぜか頭が動かず、周りを見渡しても真っ暗な空間が広がっていくだけだ。いや、圧迫感の他に胸元に温かくて柔らかい感触を感じる。これの正体は分からない、だが、味わっているとなんだか安心するような奇妙な感覚だ。

 

「あれは・・・」

 

すると、目の前の暗闇に美しい紅い二つの球体が浮かび上がる。この暗闇の中、なぜか美しく光り輝いており、その美しさは宝石や着色料などでは到底再現できないであろう輝きを発している。

 

「すげぇ・・・・」

 

歓喜、感動、だたそれしか出てこない。今まで見たことのない美しさが眼前にあった。それを手に取り触ろうとしてもなぜか体が動かない。それが悔しくて恨めしい、なぜ動かない、なぜ触れられない。その後悔とともにどんどんと輝きに魅了されていく。そしてーーー

 

「いつまで覆いかぶさっているつもりだ!!」

 

そんな聞き慣れた幼馴染の怒声とともに、ほのかな芳香剤の香りとともに、真っ白な髪とともに目の前に光が広がっていく。周りを見てみると自分を囲うクラスメイト達、だが、その表情はどこか赤い。

 

「え?え?」

 

状況が理解できない状態で前を見ると、専用機である『紅椿』とそれによって持ち上げられている亜紗日がのる打鉄がいた。

 

「大丈夫ですか織斑君?」

 

心配したように真耶が寄ってくるが、それでも状況が呑み込めなかった。

 

「な、なにがあったんですか?」

 

「演習の途中で笹原さんの乗るISが織斑を押し倒したんです!それで・・・・それで・・・・」

 

そこまで行ったところで真耶の顔が赤くなり、言葉が途切れる。

 

「お、織斑君と笹原さんの体が合わせるように倒れて・・・・はたからみると・・・・その・・・」

 

自分と笹原の体が合わさった。ということは、あの輝きは彼女の目であったということだろうか。だが、あんなに素晴らしい輝きを放つ目など聞いたことがない。ちらりと彼女の瞳を見てみても、その瞳はいつもに戻っており、いつも通りであった。

 

「ごめんなさい、痛かった?」

 

「あっ・・・・いや・・・・」

 

謎の余韻が抜けきらないまま、反射的な返事をしてしまう。だが、ひとまず生徒たちに接近戦の例を見せられたということでひとまず模擬戦は終了する。

 

「これから近接戦闘の演習をグループごとに開始する。細心の注意をはらって開始しろ!」

 

千冬の指示とともに生徒たちはそれぞれの場所へ向かっていく。その中でひときわ目立つ亜紗日の後姿を一夏は見つめていた。あの輝きが、先ほどの光景がどうしても忘れられない。そして、やがて少年の心には彼女に対しての奇妙な好奇心と興味が生まれてくる。

 

「笹原亜紗日、君は・・・何者なんだ・・・・?」

 

その問いに答えられるものは存在せず、風にかき消されるだけであった。

 




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