ISⅡ 進化の果てへ   作:小坂井

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しばらく執筆から離れていたため、拙い部分があってとても恥ずかしいです。


AFTER STORY 次の世代へ 前編

窓1つない密室となった空間でガチャガチャと金属音が鳴り響く。そこには精密機械のような機材が所狭しと置かれており、1人の少年が神妙な顔でノートパソコンのキーボードを叩いている。

 

「よし、これでどうだ・・・・エスト、準備は整ったか?」

 

『はい、いつでも大丈夫です』

 

肉体を持たない友人の確認を取ると、失明を避けるためゴーグルを身に着け、機械の電源を入れる。すると、バチバチと目の前の金属のリングらしきものが入っている真空管に青白いプラズマが発生し、光を発する。

 

「エスト、パワー上昇率はどのくらいだ?」

 

『現在45%までの上昇を確認、依然としてエネルギーは上昇し続けています』

 

「少しずつ機材のリミッターを慎重に外していけ、この準備に10日もかかったんだ、失敗すると面倒だからな」

 

細かい変化に注意しながら少しずつ実験を続けていく。だが、突如機材がけたたましいアラーム音が発せられ、実験機材が振動によって震えていく。

 

「やばっ、どこかでミスったかな・・・・エスト、実験は中止だ!すぐにエネルギーの供給をーーー」

 

そこまで言ったところで、実験器具の真空管から強烈な衝撃波が発せられ、少年を吹き飛ばす。それならまだいいのだが、その少年の上にほかの吹き飛んだ実験機材が降り注ぎ、下敷きになってしまう。死にはしなかったが、10㎏近くあるその重量が体に降り注ぐのだ。

痛いよりも先に脳を強く打ち、意識が朦朧としてくる。

 

「あ・・・あ・・・・・」

 

なんとか機材をどけようとするが、それよりも早く体が白旗を上げるのが早かった。大量の冷たい金属の中で力尽き、心地よくない眠りに入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーん!!」

 

「---おん!!」

 

「う・・・・・」

 

暗く沈んだ意識に女性の声が響く。重い瞼を開けると、セミロングの青い髪が特徴の眼鏡をかけた女性が自分の顔をのぞき込んでいた。

 

「衣音っ!!大丈夫?」

 

「簪お姉ちゃん・・・・?」

 

自分の名を呼ぶのは簪。自分こと衣音(いおん)の母親の妹ーーーつまり、叔母にあたる人物だ。だが、叔母といっても衣音にとっては母親も同然の存在だ。なので『簪お母さん』と呼ぼうとしていたのだが、母親が2人いるのもおかしいので、『簪お姉ちゃん』と勝手に呼んでいる。

 

「もう、また無茶なことをして!!」

 

「ご、ごめんなさい・・・・・」

 

部屋に散乱している機材を見ておおよその状況を把握したのか、説教というより説得のような口調で叱りつけてくる。どうにもこういう言葉は苦手だ。保身などではなく、本気で自分を心配してくれるその態度は父親や兄弟がいない衣音は母親以外であまり言われたことがないため、耐性がない。

 

「ほら、上で休みましょう?立てる?」

 

「うん、大丈夫・・・・あ、そうだ!」

 

懐から小さなコントローラーを取り出すと、部屋に設置されているアームが動き、散らかった目的の物を探し始める。こんなひどい目にあい、大切な家族である簪からは怒られたのだ。相応の成果がなくては釣り合わない。

 

「おっ、あったあった」

 

ボロボロに壊れた機材の中で不思議に光る金属のリングがアームにつままれて姿を現す。もう危険性がないことを確かめると、最終確認を始める。

 

「エスト、検索を頼む」

 

『了解しました。該当原子番号なし、粒子特性不明、分子構造未登録。おめでとうございます、新しい元素粒子を発見しました』

 

「おお、それはよかった。データをいつものファイルに入れておいてくれ」

 

『了解しました、ごゆっくりお休みください』

 

後始末を任せると、簪に支えられながら実験室を出ていく。当然だが、あとでこの散乱した部屋の片付けもしなくてはならない。その面倒事に逃避するように目をそらしたとき

 

 

 

ーーーイオン

 

 

 

 

「・・・え?」

 

突如、自分を呼ぶ声が聞こえる。自分を支えている簪かと思ったが、声が人間味を感じない中性的な声だった。

 

「今のは・・・・」

 

「衣音、どうしたの?」

 

心当たりのない声から空耳か幻聴なのだろうと勝手に決めつけると、吹き飛ばされたときに頭を強く打ったせいか、ズキズキと痛む後頭部をさすりながら部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

「ほら、動いちゃダメ」

 

「いてて・・・・・・」

 

騒音と被害を最小限にとどめるため、地下に作られている実験室を抜け、リビングに入ると床に座らされ手当てをさせられる。時間を見てみると、意外と長い間気絶していたらしく日は沈み、夕方となってしまっていた。

 

「頭にたんこぶができているわよ。もうこんなことになって・・・・」

 

「簪お姉ちゃんは心配しすぎだよ。大丈夫、これくらい・・・」

 

「衣音!!」

 

「ひっ・・・・」

 

怒りの有頂天といった声を上げられて体が震える。すると、紅茶を入れたカップをお盆に乗せた母が苦笑いを浮かべながらやってくる。ニコニコと笑顔を浮かべる母だが、その姿を見ればおそらく誰もが眉をしかめるだろう。

 

外見が余りにも若々しすぎるのだ。今年で15歳になる衣音から推測すると、どんなに計算しても30代は超えているはずなのだ。なのに、その外見は衣音と同じか少し年上ぐらいにしか見えない。若さの秘密を聞いたところ、『私は高校生の時から年をとっていないのよ』とメルヘンチックな返答が来た。

 

一時は姉か何かと思ってアルバムをみたが、生まれたての自分と思われる赤ん坊と共に写っているのは正真正銘、目の前にいる母だった。まさにミステリアスという言葉が似合う女性だ。

 

「簪ちゃんは心配しすぎよ。エストちゃんもいるんだし、本当に危ないときはあの子が知らせてきてくれるわ」

 

「お姉ちゃんはいつもそうなんだから・・・・」

 

確かに自立型思考AIプログラム、通称『エスト』は優秀だ。衣音が小さい頃からガードマンやボディーガードのような役割となり、見守ってきた。今ではこうして共に実験する良きパートナー的存在ではあるが、どうやら昔は簪と組んでいたらしく、簪のことを『マスター』という敬称で呼んでいる。

 

詳しいことはわからないが、エストから聞いた話だと母親とその妹である簪は昔、宇宙開発を目的に開発された、マルチパワードスーツ、通称IS(インフィニット・ストラトス)の代表候補生であったらしく、それなりに優秀な人物であったらしい。

 

その興味深い話をさらに教えてくれるように頼んだが、どうやら口止めされているらしくそれ以上は何も聞かせてくれなかった。まあ、誰にでも知られてほしくないことの1つや2つあるだろう。どんなことがあろうと、たった2人の家族なのだ。

 

「はい、氷をあてて冷やしていなさい」

 

ポンッと痛む後頭部部分に氷をあてられて治療終了を告げられると、母が運んできた紅茶に口を付ける。その美味な紅茶が傷だらけの心や体を温めていくように感じる。

 

「てゆうか、簪お姉ちゃん帰ってたんだ。お帰り」

 

「ええ、ただいま、衣音」

 

それだけ言い残し、簪は身支度を整えるため部屋に向かっていった。嵐が通り過ぎたことを確認すると、ため息を吐く。

 

「簪ちゃんは衣音に対してすごく厳しいわね。嫌になった?」

 

「まさか、僕のたった2人の家族なんだ、何を言われても愛しているに決まっているじゃないか」

 

昔からこうだ。普通の人ならば新しい元素粒子や新たな物理法則を見つけたらすごいと褒めるだろう。だが、母や簪はそれで衣音を褒めたことは1度ない。その反面、衣音が危険なことをしたら鬼のような形相で叱りつけてくる。この自分の身を第一に考えてくれる母と簪が衣音は大好きだ。

 

「甘えん坊な所もあの人に似たのかしらね・・・・」

 

「ん?母さん、何か言った?」

 

「いえ、何でもないわ。ほら、もうすぐ夕飯にするからお風呂に入ってきなさい」

 

「簪お姉ちゃんと入りたいんだけどいい?」

 

「ダメに決まっているでしょう。それにあの浴槽に2人も入れないわ」

 

「ちぇ・・・」

 

拗ねたような声を出すと、衣音は着替えを取るため部屋に戻っていった。時間を見るともうすぐ午後の6時を回ったころだ。それを確認すると、母も夕飯の準備をするべく料理を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「エスト、何で僕は簪お姉ちゃんと結婚できないんだろう?」

 

『倫理の問題ですね』

 

夕食を終え、自分の部屋に戻るとエストとくだらない雑談を交わしながら今日の研究成果を整理していく。今日は新しい元素粒子を発見したが、その詳細は不明のままだ。それをじっくりと研究していかなくては。

 

ーーーイオン

 

「・・・・え?・・・・うっ!!」

 

突然のことだ。研究室で聞いた声が聞こえたと同時に、頭に電流のようなものが駆け巡る。痛みはない、不快感もない、違和感もない。ただ、頭の中を電流が通ったことで出来た細く真っ直ぐな穴に記憶の断片が映し出されていく。

夜空でぶつかる2機の機体。そしてその中で血だらけで苦悶の表情で戦う自分に似た1人の少年の姿。そしてその中には脆く弱っている母親の姿があった。

 

「い、今のは・・・・」

 

未知の場所、知らない戦い。だが、知っている、その戦いの真実を。

 

「そうか・・・僕は・・・・」

 

知ってしまった、分かってしまった。自分は親に望まれた存在ではないのだ。大きな流れのなかで偶然的に自分は生まれた。自分の正体を知ったからか、複雑な気持ちが心に渦巻いていく。

だが、これからどうすればいい?このことを母親や簪に伝えるべきだろうか。だけど、そうしたらもう自分を家族として見てくれないのかもしれない。知らぬが仏という言葉もある。

 

だけど、自分の正体を確かめなくてはならない。重い足取りで母親の部屋へ向かっていくと、ぼそぼそと母親の話し声が聞こえてきた。

 

「そう・・・やっぱりあの人の血縁者でないと・・・・機体は動かせないのね。・・・・・ダメよ、あの子を機体に触れさせるだなんて・・・・もう嫌・・・・」

 

誰かと話しているのだろうか?だが悲しげな声が聞こえてくる。数回ノックして部屋に入ると、偶然か室内には母親と簪が座っていた。

 

「あら、どうしたの衣音?こんな遅くに」

 

「いや・・・その・・・・」

 

状況が状況だけにどう話を切り出したらいいのかわからない。それでも自分の正体を確かめたい。そう強く願い、口を開いたとき、強烈な爆撃音と震動が家を包む。地震や地盤沈下などではない、明らかに人為的な音だ。

 

「な、なんだ・・・・エスト!!」

 

『周囲の監視カメラによる高解像度画像を出します』

 

そこで表示された画像に映し出されていたのは無数に佇む銅の乙女のような印象を受ける機体だった。黒いマネキンのようなスマートなシルエットの背後に大きな砲口が空けられているバックパックを背負っている。見たこともない機体だが、その正体は大体想像がつく。

 

「あ、IS・・・・・?」

 

なぜこんなところで自分たちを襲撃しに来たのか考えるよりも早く、母親が衣音の腕を掴んで地下の研究室へ避難し始める。

 

「衣音っ!!早く避難するわよ!!」

 

「待って、母さん!!なんでISがこんなところに!?」

 

「そんなのいいから早く!!」

 

頑丈とは言えない家のつくりだが、地下の研究室となれば多少はマシだろう。外で応戦するため簪とは研究室前で別れ、母親と衣音は研究室に入り、ロックを掛ける。

 

「大丈夫、大丈夫から・・・・・」

 

壁に寄りかかると、衣音を抱きしめて繰り返し呟く。だが、その言葉はどちらかといえば、衣音よりも自分に言い聞かせているように見える。きっとこの人は怯えている。もう忘れかけていたどす黒い因縁がこうして這い上がってきて、自分たちの命を狙っていることに。

 

「母さん・・・・・」

 

元気づけるように母親の手を握った瞬間、天井にピシリと亀裂が入る。次の瞬間、その亀裂が天井全体に広がっていき、一斉に崩壊する。おそらく、外で戦っていた簪と襲撃者のISの流れ弾が偶然天井の真上に直撃したのだろう。

 

「衣音っ!!」

 

降り注ぐコンクリートの塊から衣音を守るように抱きしめるが、そんなことで防ぐことが出来るはずもない。そのまま2人とも生き埋めになるかと思った時、母親の胸が淡く輝くと同時に大量の粒子が放出され、2人を包み込む。まるで鉄壁の中にいるのかと思うほどにその防御は固く、次々と降り注ぐ瓦礫を押しのけていく。

 

全ての瓦礫から2人を守り抜くと、包み込んでいた粒子が再び動き始め、1つの機体へと姿を変えていく。青と白のカラーリングに全身に金色の筋のような線が入っており、背中には大きな翼のような装備。そんな神秘的な雰囲気を持つ機体が2人を守るように覆いかぶさっていた。

 

「こ、この機体は・・・・・」

 

偶然でも何でもない、この機体は間違いなく自分と母親を守るために動いた。そしてこの機体は自分のことをしっている。

 

「・・・・・・」

 

その機体の真意を確かめようと近づこうとするが、母親が手首を掴み、静止させる。

 

「ダメ・・・あなたまで失いたくない・・・・」

 

恐怖で掠れる声を振り絞り、必死に訴えかけてくる。

 

「外で簪お姉ちゃんが戦っている。助けに行かなきゃ」

 

「あなたが行っても何も変わらないわ・・・・あなたまで危険にさらすわけにはいかないの・・・・」

 

破壊者(ルットーレ)

 

「っ!」

 

かつて忘れようと努力し、そして忘れかけていた忌まわしい言葉。その言葉が愛すべき息子の口から発せられた。

 

「それが僕の正体なんでしょ?戦いのみを求められ、そして全てを超越した最強の兵士。その血が僕の中に流れている」

 

「あなたは衣音よ!!小倉衣音、私の・・・・家族・・・・」

 

ダメだ、このままでは彼は行ってしまう。かつて自分の愛した者が戦いのなかで消えていってしまったように、この子も戦ってしまう。それは彼を身籠った時から絶対にしないと決意していたことだ。例え、この体が八つ裂きになったとしても絶対に離さない。

そう決意するように衣音の手首を必死に掴んでいる母、だが、そんな母に衣音は微笑んだ。

 

「安心してください」

 

優しく、穏やかな口調で話すと、自分の手首を掴んでいる手を優しく握り返す。顔を見ると、衣音の両目が紅く輝いてた。

 

「僕がーーー僕たち(・・・)がこの子を守ります。だから、そんな顔をしないでください。刀奈さん」

 

微笑む衣音のその顔は夫の忘れ形見を彷彿とさせるほどにそっくりだった。その懐かしい優しさに手の力が抜け、その場に座り込む。その光景を見届けると、衣音はゆっくりとかつて自分の父親が乗っていた最強の機体へ歩みを進めていく。

 

父親と同じように逃れられない戦いの宿命。その中へ進んでいく衣音を止められない無力な自分。その非情で残酷な現実に救いを求めるように消えてしまいそうな声で小さく呟く。

 

 

「あの子を守ってあげて・・・・雄星君・・・・・」

 

 

 

 

 




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