ISⅡ 進化の果てへ   作:小坂井

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「笹原さん、昼食にしようぜ」

 

午前の授業が終わり、昼食の時間となった教室で数少ない男子生徒が話しかけてくる。その男子生徒の名前は織斑 一夏、クラスメイトである。

 

「そうだね」

 

先ほどの授業に使用した教科書を仕舞い、登校前に受け取った弁当箱を持って席を立つ。そしてちょうど食事をとれる場所へ案内される。

 

「・・・・他の人たちは?」

 

「ああ、皆は学食らしい。俺たちは俺たちで昼食を食べようぜ」

 

いつも引っ付き虫のようにくっついている面子だというのに、なぜ今回に限って別々になったのだろうか。まあいい、騒がしいよりはマシだ。正座し、今朝受け取った弁当箱を開ける。内容は白米に色とりどりのおかずが入っている。

 

「織斑くん、料理ができるんだ」

 

「ああ、家だと俺しか料理する人間がいないから。一時期は知り合いの店で食べるときもあったんだけど、結局は自炊するようになったんだ」

 

「へえ・・・・」

 

知らなかったが、心底どうでもいいことに適当に返事を返す。亜紗日としては一夏の過去などに興味はないのだが、そんなことはお構いなしにペラペラと喋ってくる。

 

「笹原さんはもう学園には慣れたか?」

 

「まだ来て二日目だからね。もうすこし時間がかかるかも」

 

「もしわからないことがあったら遠慮なく聞いてくれ。力になるぜ」

 

「そう、ありがとう」

 

織斑 一夏、彼は優しい。だが、その優しさは悲しいことに万人受けするようなものではなく、他人の中にズカズカよ入り込んでくるようなものだ。それに対して不快感を示すものもいるだろう。少なくとも彼は嫌いそうだ。

 

「笹原さん、ISを動かしてどのくらいなんだ?」

 

ふと、食事中にそんな会話を投げかけられる。一夏本人としては特に他意はなく、亜紗日という少女をさらに知りたいという好奇心からでた質問なのだろうか。

 

「そんなに動かしたことはないね。その未熟さゆえに、昨日のような事故が起こっちゃったわけだし」

 

「それなら、俺たちと一緒に今日の放課後ISの練習しないか?皆で協力すればすぐに上達するさ」

 

「申し訳ないけど、今日の放課後には先客がいるの。気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい、無理ね」

 

「い、いつなら一緒に練習できるかな!?」

 

「・・・・なんでそんなに私の練習に付き合いたいの?」

 

そんなに練習したいのか、身を乗り出してグイグイと迫ってくる。ここまで亜紗日の練習に同行したいとなると、何か他に他意があるのではないかと疑ってしまう。

 

「私のことを心配してくれるのは嬉しい。だけど、織斑くんも織斑くんのやるべきことがあるんじゃないの?」

 

「そ、それはそうだけど・・・・」

 

諭すような口調で言われて頭を冷静にして考える。まるで彼女の教師になるような口調だが、一夏本人も別にそこまで優秀というわけではなく、むしろ教えられる側だ。同じ教師役ならば、優秀で教え上手なシャルロットなどの方が適任かもしれない。

 

「ご、ごめん、こんながっつくようなことをして・・・・」

 

「そんなことないよ。転入生である私にこんなに親切にしてくれてありがとう」

 

「っ・・・・」

 

二コリとまるで天使のような笑顔。その笑顔に不意に一夏の心臓の鼓動が高まり、顔が若干赤くなる。

 

「ほら、早く食べちゃおう織斑くん。もうすぐお昼休みが終わるよ」

 

「そうだな。あ、あと、俺のことは織斑くんじゃなくて一夏って呼んでくれ」

 

「・・・・いいの?」

 

「ほら、担任も織斑っていうだろ。まあ、俺の姉なんだけど・・・・ややこしいから一夏って呼んでくれ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて一夏くんって呼ばせてもらうね」

 

会話だけ見たらごく普通の学生の会話であろう。ということは少なくとも今の自分はこの学園の生徒、笹原 亜紗日として暮らしていけているのだろうか。

 

「ごちそうさま、とてもおいしかったよ」

 

「ああ、良ければまた弁当をつくってもいいかな?もっと俺の弁当を食べてほしいんだ」

 

「本当?ならば、またお願いしようかしら」

 

空となった弁当箱を返して、亜紗日は「歯磨きをしてくるね」といって教室を出ていく。そして残された一夏は人知れず、大きな満足感を得ながら手元の弁当箱を見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、君はここにいる生徒と仲良くする気はある?」

 

「全くないな」

 

放課後、保健室のベッドに寝っ転がりながら彼に不意にそんな質問を投げかけるが、返答はとても冷徹なものであった。

 

「俺と人間ーーーここの生徒は水と油だ。混ざり合うことはなく、分かり合うこともない。ならば、互いが最適な距離を取るべきだ。それだったら誰も傷つかないし、傷つけない」

 

「僕と一緒にこの学園に戻ってきてくれると聞いたときは人間にすり寄ってくれるかと思ったんだけど・・・・気のせいだったかな?」

 

「お前のために学園に来る?己惚れるな、お前のために好きでもない種族の中に飛び込んで、暮らすほど今のお前に価値はない」

 

「ひどいこというなぁ、じゃあなんで君は学園に戻ってきたの?」

 

「最高な人間が見つかったからだ」

 

「さっきと言っていること矛盾してない?」

 

さりげないツッコミをいれると、自分と並んで横になっているサイカの顎下を撫でる。少し、時間が空いてしまったが、相変わらずこの愛猫は初対面の者でも人見知りすることなくそのあざとい可愛らしさで今日も周囲の人間を夢中にする。

 

「なんでお前(サイカ)は人間に好かれるのに、僕たちは好かれないんだろうな・・・・・」

 

指先で顎下を撫でると、気持ちいいのか目を細めて喉をゴロゴロと鳴らして寝返りをうつ。まあ、猫に人間の悩みを持ち込むなどナンセンスであろう。

 

「そういえばお前の機体はどうする?一応、この学園のアリーナであれば降下ポイントとして使えるが」

 

「そんなんことしたら降下の衝撃でアリーナが吹き飛ぶじゃないか。そうなったら千冬が大激怒するよ。今は待機状態でいい、必要になったらエストを通じて動かす」

 

「なんだよつまんねぇな」

 

ぼそりと本音を呟くと同時にちょうど今日一日分の仕事を終える。軽く内容を確認するが、書類にミスや間違いはなく、きちんと仕事をできている。

 

「仕事には慣れた?」

 

「一応は。お前はその体での学園生活には慣れたか?」

 

「その質問がされるのは二回目だね」

 

かみ合っていそうでかみ合っていない会話の繰り返し。そうしていると、目の前で眠っていたサイカが喧しそうに目を覚まして鳴く。

 

「悪かったよ、静かにするよ」

 

再びサイカを寝かしつけ、自身も目を瞑る。慣れない環境だが、少しずつ馴染めている。そう感じてはいるのだが、残酷なこの時間がそんなことを大きな波乱が始まろうとしていた。

 

「し、失礼いたしますわ」

 

数回のノックの後に一人のロール状の髪型をした女子生徒が入室してくる。その人物は瑠奈と亜紗日は知っている。

 

「何か体調が悪いのかな、セシリア」

 

その生徒はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生にして、亜紗日のクラスメイトである。一応、前までは戦友として戦っていた時期もあったが、今はただのクラスメイトという関係にまでなり下がった。

 

「どこか体に不調が?それとも悩み相談?」

 

「い、いえ、そのようなご用件はありません・・・・・きょ、今日は一つお誘いをするためにお伺いをしたのですが・・・・」

 

チラチラとセシリアは亜紗日を見る。どうやら、そこそこ重要な要件のようで今ここにいられては邪魔らしい。数回顔を軽く振ると、サイカを抱っこして亜紗日は部屋を出ていく。そして部屋に残されたのは瑠奈とセシリアのみ。

 

「で、そのお誘いというのは?」

 

「ら、来週の日曜日にご予定はございますでしょうか?もうなければ・・・私と・・・・ここに・・・・」

 

後半はほぼ聞き取れないほどの音量になりながら、ポケットから二枚のチケットを取り出す。それは都内にある大きな遊園地のペアチケットであった。

 

「なんで私なんだ?ほかにも誘う人間はいるはずだ。私でなくてはいけない理由はないはずだが」

 

「それはそうなのですが・・・・・」

 

少し、威圧のある口調で言い過ぎたせいか、セシリアの視線がきょろきょろと動き、落ち着きがなくなる。別に瑠奈としては問い詰めているつもりはなく、少し会話をしているだけの話だのだが、すこし攻撃的過ぎただろうか。

 

「ら、来週の日曜日は、わたくしの誕生日なのです!せめて、誕生日ぐらいは、その、愛しの人と・・・・形だけでもよろしいのでわたくしと過ごしていただけないでしょうか!」

 

後半はいろいろと吹っ切れたのか、ほぼ叫ぶような口調で話す。来週の日曜日というと、ちょうどクリスマスイブであった。幸いなことにカレンダーには予定はない。

 

「・・・・・・」

 

正直、彼女のしぶとさには心底呆れる。あれほどの目に遭い、拒絶されたというのにまだこの少年に縋りつき、自身の安堵を求めている。その諦めの悪さとしつこさには逆に感服する。ここでそのことを言って、差し出されたチケットをはたき落とせば無事完全に失恋となるであろう。立ち上がると、緊張した様子のセシリアに近づき、差し出されているチケットをーーー

 

「わかった、来週の日曜日の予定は空けておく」

 

片方のチケットを受け取り、ポケットに入れる。その反応は張本人であるセシリアですらも予想外だったらしく、驚いたような表情を浮かべている。

 

「よ、よろしいのですか・・・・・?」

 

「誘ってきたのはそっちだろう。幸いなことにその日に予定はない。まあ、こうして再び会えたのも何かの縁だ、付き合うよ」

 

「あ、ありがとうございます、瑠奈さん!!」

 

心底嬉しそうな声と表情を浮かべてセシリアは部屋を出ていく。そしてその入れ替わるようにしてサイカを抱っこした亜紗日が入ってきた。

 

「・・・・・何を考えているんだい?」

 

「わざわざ誕生日に苦い体験をすることもないだろう」

 

「・・・・また変な期待をさせることになるよ?」

 

「勝手に期待して、勝手に失望する。それが人間の愚かしく、身勝手な部分の一つだな」

 

正直、亜紗日としてはそのデートに対して不安しかない。彼は戦闘技術は超一流だが、それに対しての人間社会に対して多くの部分が抜け落ちてしまっている。そもそも生まれてーーー肉体を得てまだ十日余り、おまけにその十日間は人里離れた山中での世捨て生活。

そんな状態で付き合いーーーデートなどできるのだろうか。

 

「亜紗日、一つ質問がある」

 

「なに?」

 

「遊園地ってなんだ?」

 

「・・・・・・」

 

めでたいことにさっそく不安の種が一つ増えた。これは亜紗日も動かなくてはいけない事態になるかもしれない。なぜ、他者のデートに自分が動かなくてはならないのか疑問だが、このままにしてはいけないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

晴れた日の休日というのはとても爽やかな気分になる。だが、今は冬であるがゆえに外にでるのが嫌になる者もいるであろう。亜紗日としては別に外が嫌いというわけではないのだが、今はこのような状態であるがゆえに、不用心に外に出歩くという事態はできるだけ避けたい。

 

「・・・・・・・」

 

それは重々承知しているのだが、今日はどうしても外出しなくてはいけない要件がある。それはこうして物陰から除いている存在であった。

 

「あ、瑠奈さん、こちらですわ!」

 

さっきから度々男性の視線を釘付けにしているおしゃれをした金髪の少女が元気そうに声を上げる。今、いるのは休日の人々がごったがえしの状態である都内の大きな遊園地。休日に遊園地へ行くというのも別に悪くないが、残念なことに今日の目的は遊ぶことではなく、目の前に現れた要注意人物の監視だ。

 

「ごめんセシリア、少し遅れた。なかなか仕事が片付かなくて」

 

「遅れたといってもたったの一分ではないですか。それよりも早く参りましょう」

 

金髪の少女ーーーセシリアと肩を並べて歩き出す一人の少年。その外見はとても見慣れているものだ、つい昨日も見たものなのだから。

 

「よし、おかしなことはないな」

 

掴みだしは大丈夫なことを確認し、二人は園内へ入っていくところを見届けると安堵のため息を吐く。だが、こちらもこちらで問題があった。

 

「簪ちゃんっ!?簪ちゃんっ!?」

 

「あう・・・・・ふあ・・・・」

 

さっきから自分の後ろで勝手に騒いでいる姉妹ーーー馬の空といった様子の簪を楯無が活気づけている。

 

「簪はどうですか?」

 

「ダメ、今日も頬けてて・・・・どうしたのよ・・・」

 

最近、簪はずっとこんな調子だ。何事にも集中できず、焦点が合っていない瞳で虚無を見つめている。初めは何かの精神病かと思って検査をしてみても異常はなし、カウンセリングをしようとしてもそもそもカウンセラーの言葉に対して反応がない。

 

正直、こんな状態の簪を連れてきたくはないのだが、目を離すと逆に何をしでかすかわからずに不安なのだ。そのため、あえて足手まといになるとはわかっていてもこうして連れてきている。

 

「・・・・・というか、楯無さん、あなたが寮で簪を見張っていればよいのでは?」

 

「嫌よ。セシリアちゃんと破壊者(ルットーレ)のデートなんて見逃せるわけないじゃない。それに非常時に備えて人手は多いほうがいいんじゃない?」

 

最もらしいことをいっているが結局は彼女は放心状態の簪を連れてまで、あの二人のデートを見たいというだけだろう。

 

「尾行する気があるのならば、もう少し静かにしてください。このままじゃ目立ちすぎます」

 

「あら、あなたも人の事言えないんじゃない?」

 

今の亜紗日の服装は白のセーターにウールでできた白の帽子という見事に白に統一されたものだ。その眩しいまでの純白は大衆の中ではいささか目立ちすぎる。

 

「一応、違和感がないようにしたんですが・・・・失敗だったか・・・」

 

「まあ、物陰から除いていくのならばなんとかなるんじゃないかしら。ほら、二人が入園したわ、私たちも行きましょう」

 

その掛け声を聞くと同時に、亜紗日は懐からサングラスをかけて歩く。正直、それのせいで見かけだけいえばハリウッド俳優のようで、さらに目立つこととなるのだが、とても似合っていたのであえて声はかけないでおく。

 

「エスト、簪から目をーーーって、今はいないんだった」

 

遠目で注意深くデート中の二人を見ながら、亜紗日、楯無、そして放心状態の簪は入園していく。正直、こんなことになるのだったら一体化しているときに、人間のマナーや常識を教育しておくべきだったと後悔するが、既に遅い。一時も目を離せない色々な意味でドキドキのデートは開始したのであった。

 




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