「それでは英国にて。ごきげんよう、みなさん」
「ああ、またなセシリア」
陽の光が降り注ぐ駅のホームで列車にのったドイツ経由チームが手をふる。それに続いて別のホームに到着していたフランス行きの列車に千冬たちも乗る。あとはもう何もすることもなく、あとは待つだけである。
「それにしても珍しいね。君が人間に認めるような発言をするだなんて」
「発言?ああ、あの試合での出来事か」
向かい合いの座席で正面に座った亜紗日が思い出したかのように話しかけてくる。隣に座っていた簪も不思議そうな顔をして見つめてくる。
「別にあの女を認めたわけじゃない。賞賛される部分を賞賛しただけだ。少なくともその価値はあの操縦者にはあった」
「そういうのを認めるっていうんだよ。でもいいことだと思うよ。人間の中でも他者の良い部分を認めることができない人間もいるからね」
「うん、すごい立派なことだと思う・・・・」
「・・・・ふんっ」
亜紗日と簪の自分に対する誉め言葉にむず痒くなったのか、肘をついて無表情で外を眺める。一応、彼には人間としてのルールは教えているのだが、こうして言葉では教えられない部分の成長を感じることができるのは喜ばしいことであった。
「ここ、いいか?」
すると、招かれざる人物が入ってくる。その人物は引率教員である千冬であった。
「あんたが話しかけるべき相手はこっちじゃなくて、あっちじゃないのか?」
指さす方向には憂鬱そうなシャルロットを相手に元気づけるように話しかける専用気持ち達がいる。「自分を冷遇している父と会う」その複雑な家庭環境に戻ることに対してシャルロットの気分は察するが、別に瑠奈としては励ますつもりもなければ勇気づける気もない。ここでどんな言葉をかけたところでそこから湧き出る勇気や希望は所詮安物のロケット花火のようなものだ。どうせ消えると分かっているような言葉など元からかけるつもりはない。
「生徒の相手は生徒に任せるさ。ところでお前の方の調子はどうだ?」
ちらりと千冬は亜紗日ーーーいや、白髪の少女、小倉瑠奈の顔を見る。信じられないようだが、この少女の中には少年の魂が入っている。その何とも言えない状態に奇跡を感じずにはいられない。
「なぜ、お前は小倉瑠奈に人格データを入れたんだ?自分を殺そうとしたこの女の体にどうして・・・・」
「同じ
嫌悪する千冬が相手だからだろうか、その口調はどこかおちゃらけていてずさんなものだ。だが、千冬としてはこうして再び彼と話すことができる日々が訪れたことに対する喜びを感じていた。
「亜紗日、女としての暮らしはどうだ?もう慣れたか?」
「トイレのやり方は覚えた。だけど仕草がまだかな。よく脚を組んで怒られる」
「あと、ブラジャーがうまくつけられない・・・・」
「ははは、そうか」
軽い近況報告に笑い声をあげる千冬。それにつられてか簪もわずかに笑みを浮かべている。すると、列車が次の駅に停車する。
「一夏、すまないが購買で全員分の軽食を買ってきてくれないか?少し小腹が空いてな」
「いいけど、全員分持てるかな?」
「じゃあ、私も行く」
そういい、名乗り出たのは意外なことに亜紗日であった。ただの気まぐれか、それともそんな気分だったのかはわからないが、意外な出来事に軽く驚く。
「そ、そうか、一夏、笹原、頼むぞ」
「ああ、ほら笹原さん行こうぜ」
「ええ」
列車を降りると、丁度いいことに移動購買らしき男性と出会う。
「ボンジュール、おいしいサンドイッチはいかがですか?」
「一夏君、サンドイッチだって。それにしよう」
「ああ」
様々な種類のサンドイッチを見ている一夏だが、その時ふいに販売員の男性と目が合う。
「もしかして君・・・・織斑一夏かい?」
「は、はい、そうですが・・・って、なんで俺の名を」
「そりゃあ、有名人さ!世界で唯一ISを使える男性!俺たちの希望の星なんだから!そっちの女性は恋人かい!?」
「ただのクラスメイトです」
大興奮といった様子の販売員の男性に亜紗日は冷静な声を出す。
「なんだよ、恋人とかだったら大スクープだったのに・・・・あ、サインもらっていい?」
「こ、恋人って・・・」
そのワードに顔を赤くしながら差し出された紙とペンにサインを綴る。はたから見れば自分と亜紗日はそんな風に見えていたのかと思うと少し照れてくる。
「今日はすごい日だなぁ。あ、サンドイッチおごるよ」
「結構です。お気持ちは嬉しいですが、あなたに物を恵んでもらう理由がありませんので」
「わかった、じゃあ半額でどうだ?」
「一割引きで」
「じゃあ、四割引きでどうだ!?」
「二割引き。これいじょうの気持ちは受け取れません」
「わかった、じゃあ間をとって三割引きにしよう。これでどうだい?」
「異議なし」
なんだかよくわからない値段交渉の末、全品三割引きの値段で買い物を終える。
「それにしても笹原さんってすごいな」
「何が?」
「いや、自分の意見をあんなにはっきり言えるなんて、相当頑固なんだな」
それは誉め言葉なのかわからないが、亜紗日としては返せない貸し借りは作りたくないのが本音だ。その保身でのあの行動なのだが、それが一夏にとって素晴らしい行動に見えたらしい。つくづくこの男とは価値観が違うのだなと感じるが、まあ別にどうでもいい。両手いっぱいの軽食をもって列車へ戻る。
時刻はもうすぐ夕方となる。どうやらフランスへ着くのは明日になりそうだ。
ーーーー
フランス列車の旅は続いていき、とうとう日は落ち、夜が訪れる。夜が訪れれば人は寝る。それは大昔から続いてきた人類のサイクルだ。だが、その就寝を目の前にして一つの問題ができた。
「部屋割り・・・・どうする?」
人数は七人。そのため三人部屋を二つと個室が必要となる。そしてその部屋を借りること自体は成功したのだが、その部屋割りに対して頭を悩ませていた。
「個室が一つに対し、男子は二人だ。誰かが女子二人とともに寝ることになるな」
「その女子の中に織斑先生は含まれているのかね」
できるならば事情を知っている千冬か簪を瑠奈と亜紗日の同室にしたいところだが、どっちにしろ女子二人に男一人が同室で寝るという現状は変えられない。頭を悩ますこと数十分、熟考に熟考を重ねた結論を千冬が言い放つ。
「部屋割りはデュノア、ラウラ、更識が同室。私は一夏と笹原と同室にし、瑠奈は個室だ」
「え?」
その部屋割りに一夏が疑問のような声を上げる。てっきり、瑠奈と同室かと思ったのだが意外な人物との同室に驚きを感じてしまう。
「千冬姉、俺が笹原さんと同室なのか?」
「嫌か?」
「いや、嫌っていうわけじゃないけど・・・・」
ちらりと亜紗日の方を見てみるが、無表情でいるだけであり、特に一夏と同室であることに嫌悪するような様子は感じられない。それだけみると安心できるが、やはりクラスメイトの女子とともに一夜を明かすというこの現状に何とも言えない緊張がでてくる。
「よし、それでは各々荷物をもって部屋に移動しろ。明日の日程は後々伝える」
その千冬の指示を受け、皆移動を始める。こうして意外な人物とともにここフランスの夜は始まっていく。
「へぇ、部屋は意外と広いんだな」
部屋に入ると、想像以上の部屋の豪華さに驚きの声がでる。列車だから必要最低限のものしかないと思っていたのだが、意外なことに様々な装飾や調度品が備わっており、まるで高級ホテルのような内装であった。
「一夏くん、ベッドはどうする?」
「笹原さんが先に選んでいいぜ」
「じゃあ、一番下をもらうね」
三人部屋だから当然だが、部屋の中には三段ベッドが置かれており、その一番下の段の占拠を宣言すると、荷物を置き、ゴソゴソと中を漁り始める。その姿を見ながら一夏も二段目に上ろうとしたとき、亜紗日が信じられない行動を起こす。
ヌギッ
「なっ!?」
突然、亜紗日が一夏の目の前で制服を脱ぎ始める。男の目があるというのにそれを構わず突然始まるストリップショーに驚くよりも早く、体を反転して彼女を視覚の外へ追いやる。
「さ、笹原さん、何をやっているんだ!?」
「何って・・・・今から寝るから寝間着に着替えているんだけど」
「こ、この部屋に男の俺がいるんだから、それは俺の目が届かないところでしてくれ!!」
「それもそうね・・・・一夏くん、あっちを向いてて・・・・って、もう向いているか」
無気力な声でそういうと亜紗日は着替えを続けていく。後ろから聞こえてくる衣擦れの音に理性が壊されそうになるのを耐えること数分、音が収まる。
「一夏くん、もういいよ」
「まったく、笹原さんももう少しはーーーぶっ!」
振り向き、彼女の姿を見た瞬間、再び驚きの声が口から飛び出る。目の前の亜紗日の着ている寝間着は、黒の下着の上に薄いシースルーの生地のワンピースを羽織っただけのほぼ下着に近いものであったからだ。目を凝らせばわずかにキラキラと光る生地の下には大きな胸を包むブラジャー、下を見ればはち切れそうなお尻を包む黒の布地に、そこからのびる瑞々しく、程よい肉付きの太もも。
「あまり可愛げのないパジャマでごめんね。次はもう少しおしゃれなやつを着ていくから」
「か、可愛げがないって・・・・」
これで可愛げがないとなると、次はどんな寝間着を着るのだろうか。見てみたい気がするが、その刺激的すぎる寝間着のせいでなかなか顔を動かせない。
「一夏くんも寝間着に着替えたら?私、向こうをみてるから」
「そ、そんなことをいったって・・・」
ちらりと見てみると、そこには彼女の癖だからかすらりと長い素脚を色っぽく組んで手元のスケジュール帳に目を通している亜紗日の姿がある。過去に彼女の下着姿を寮でのハプニングのため見てしまったことがあるが、それよりも彼女を異性として見てしまっている自分がいるのだ。
(やばい・・・・やばいぞこれ・・・・)
自分の中で何かが崩壊しようとしている。それが崩れ去ったとき、彼女に何をしてしまうのか自分でもわからない。
「おい、明日の日程がきまっ・・・・」
それに耐えていると、打ち合わせを終えた千冬が部屋に入ってくる。だが、部屋で刺激的な下着を着た亜紗日にそれに必死に目を逸らしている一夏。そのカオスな状況に言葉が止まる。
「・・・・どういう状況だ?」
「あなたの弟が私にセクハラした」
「なっ! 一夏、お前・・・・」
「ち、違う、俺は何もやってねぇ。頼む、信じてくれ!」
わりと冗談抜きで笑えない冗談を言われ、危うく冤罪にかかりそうになる。そんな必死に自己弁護をする一夏を意尻目に亜紗日はベットに寝っ転がり、読書に耽るのであった。
「おい、せっかく同室になったんだ。お前たちの間で親睦を深めてみてはどうだ?」
夕食を終え、一息ついているとふと寝間着のタンクトップ姿の千冬がそんな提案をしてくる。
「親睦?」
「ああ、笹原は学園にきてまだ日が浅い。一夏、この機会にクラスメイトとして少しは親しくなっておけ」
そう言われ、亜紗日の方を見るがすぐに目を逸らす。先ほどは色っぽく脚を組んでいたのに対し、今は部屋に備え付けられていた椅子の上に座り、右脚を抱えるような体勢でいる。そのせいで真っ白な脚とパンツが丸見えの状態となってしまっていた。
「せっかくだ、お互いに気になることを質問しあってみてはどうだ?」
「質問って言っても私は特に彼に聞きたいことはないんだけど・・・・・」
それは遠まわしに「お前に興味がない」と言っているようなものであり、少し気分がへこむ。だが、肝心の一夏は質問したいことは山ほどある。だが、一方的に質問するというものも不公平だろう。
「じゃあ、こうしようぜ。俺が笹原さんをマッサージするから、マッサージしている間だけ笹原さんは俺の質問に答えられる範囲で答える。これなら不公平じゃないだろ?」
「まあ、それなら・・・・・」
「っ!?」
マッサージしやすいように気を使ってか、上に着ていたシースルーのワンピースを脱ぎ去り、完全な下着姿となるのだが、その突然の動作に一夏の心臓が高鳴る。だが、そんな一夏の心境など知るはずのない亜紗日はベッドにうつ伏せの体勢で横になる。
「優しくお願い」
「は、はい、それではやらせていただきます・・・・・」
目の前には下着姿の美女。シミ一つない真っ白は背中と対面し、正直どこから手を付けたらいいのか困惑する。なんだか見ていて恥ずかしくなり、視線を下に逸らすとそこには彼女の張りのあるヒップ。もともと布地が少ないパンツだからか、お尻の谷間に布地が食い込んでTバックのような状態になってしまっている。
(さ、笹原さん、いつもこんな下着履いてるのか・・・・)
「おい、一夏」
挙動不審な一夏を警戒するように千冬が上のベッドから顔をのぞかせる。その前には同じ年の下着姿の異性に対して邪な行動をするのではないかという疑いが伺える。
「ち、千冬姉、そんな目で見ないでくれよ・・・・」
「私はいつもお前を信じているぞ?まあ、その信頼が今回で少し歪んだがな」
さらっと傷つくことを言われながら背中のマッサージを開始する。やはり、女性の体だからか男の筋肉よりも若干脂肪が多く、柔らかい感触であった。
「それで、何が知りたいの?」
「えっと、笹原さんは学園に来る前はどこに住んでいたんだ?」
「寂れた田舎町の普通の女子高生だった。だけど、ある日IS適正が高いことが判明して
あらかじめ作っておいた設定に若干の補強をいれて適当な嘘を言う。もし相手が関係者だったのならば危ない綱渡りだったのかもしれないが、幸いなことに相手は一般生徒。その程度であったら十分誤魔化せる。
「そうなんだ・・・・家族とかっているのか?」
「誰もいない。だからずっと一人暮らしだったの」
「へえ、じゃあ俺と同じだな。俺も両親がいないからずっと千冬姉と暮らしてきたんだ」
自分と同じような家庭環境であったせいか、心なしか一夏の表情が嬉しそうに聞こえる。だが、亜紗日は彼の家庭環境や生活環境などどうでもよかった。
「次の質問をどうぞ」
「えっと・・・・・さ、笹原さんの好きな人のタイプってなんだ?」
「そんなことが聞きたいの?」
「いや・・・・ちょっと気になって・・・」
なんだか修学旅行の夜に交わされるような話題に疑問を抱きつつも、別に答えられないような質問でもないので本音交じりの理想像を話す。
「私の全てを受け入れてくれる人かな。私の身体、心、全てを認めて肯定してくれる、そんな人が好み」
「そうなんだ・・・・」
彼女の身体と心を受け入れる。その瑞々しい肉体に対してその乾いた心、それらをすべて受け入れた時、彼女はその者の所有物となる。なぜだろう、そのことに不思議な探求心がでてくる。それを例えるならば宝島に挑むトレジャーハンターといったところか。
「背中はもういいから、次は脚をお願いできる?」
「え、あ、ああ・・・・」
身体をわずかに動かして下に移動する。亜紗日の脚は日頃ニーソックスに隠れているため、見たことがないが、やはり肌荒れ一つない綺麗な脚であった。その生足の太ももを指で優しく押していく。だが、その指を圧押したときの圧力で脂肪が大きく上に押し出される。次に指を離すとその脂肪の盛り上がりが解除されるのだが、その拍子に彼女のお尻に波が立ち、ヒップが小さく揺れる。
その煽情的で色欲な光景にマッサージ中であることを忘れ、見とれてしまう。もし、もしだ、もし彼女を手に入れることができたのならば、この肉体を好きにすることができるのだろうか。どこを触っても、どこを眺めても怒られることなく、恍惚な表情を浮かべてさらに求めてくる。そんな彼女の妄想が一瞬、脳裏をよぎる。
「どうしたの?急に体調でも悪くなった?」
「だ、大丈夫。ちょっと綺麗な脚だから見とれちゃってて・・・・」
「それはどうも・・・・」
邪な妄想を振り払い、次の質問を口にする。それは今、一夏の中で最も気になっているものであった。
「笹原さんってその・・・・瑠奈と仲がいいのか?」
「彼は私の恋人よ」
「え!?」
その衝撃的な一言に反射的な声が飛び出る。
「る、瑠奈と恋人なのか・・・・?」
「ええ、少し前に知り合ってね。あまり大きな声では言えないけど肉体関係もあるわ」
その衝撃的な事実に対して驚きはあった。だが、それ以上に一夏の心から湧き出たのはなぜか嫉妬という感情であった。彼女のこの素晴らしい肉体をあの男は触れ、そして禁断の領域へ踏み入った。自分が知らないものを見て、自分が生涯触れられないものに触れた。羨ましい、妬ましい、そんな感情がムクムクと湧き上がってくる。
「なーんてね」
「え?」
「冗談、彼とはただの教師と生徒の関係に過ぎないから安心して」
まるで男を弄ぶ遊女のような無邪気な声を出すと、先ほどの発言を撤回する。そのことに安堵する一夏であったが、冗談とわかっていても先ほどの発言によって生まれた感情は簡単には消えてはくれない。
「笹原さん、その・・・・悪いこととはいわないからあまり瑠奈と関わらないほうがいいぜ」
「どうして?」
「あいつには・・・・うまく言葉にできないけど危険な雰囲気がするんだ。代わりの相談や協力ならばいくらでも俺がするからさ。笹原さんも頼りにしてくれていいんだぜ」
さらっと間接的にかつての自分の悪口を言われているわけだが、そのことに対しての嫌悪感を顔に出すことなく聞き流す。それでも見かけ上は何も知らない女にいつも一緒にいる男の悪口ーーーいや、陰口をいうのは見かけ上、いかがなものか。