時刻は深夜二時を回り、他の乗客も完全に就寝したのか他の部屋からは物音一つ聞こえない。通路も閑散な雰囲気となっており、人の気配は皆無だ。そんな列車の中で灯りが漏れている部屋がある。一人客用の個室宿泊部屋であるため、いくら夜更かしをしようが苦情は一切来ない。それは「彼」の絶好の狩場であった。
♪~♪~
部屋に置かれていた最低音量のオルゴールが心地よいBGMとなり、気持ちを落ち着かせてくれる。できればこんな空間にずっといたいと考えるが、生憎これからそれ以上のお楽しみがある。
「・・・・・ふんっ」
軽く鼻を鳴らすと、ベッドから体を起こしてオルゴールを止める。そしてわずかに耳を澄ましてこの部屋に通路から接近するものがいることを感じ取る。常人ならば通路から存在するものがいるなんて気が付かないかもしれない。だが、彼には分かる、この部屋に誰が近づいているのかを。
ギィィィィ
低い音を立てながら個室のドアがゆっくりと開かれる。ノックや声もかけずに他人のドアを開ける行為は本来ならば失礼なことにあたるのだが、彼は怒らない。獲物が自分から自分の狩場へ来てくれるのだ、起こる理由がどこにある。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
ひどく息を荒らしている。足取りも朧気でまるで酔っ払いのような様子だ。だが、彼は警戒することなく、手元のリモコンを操作して扉のオートロックを起動させる。これで扉にはロックがかかり、部屋には彼と不法侵入者のみ。
「よくきたな」
コツコツと歩みを進め、侵入者の前に立ち、頬を撫でる。そうして彼ーーー瑠奈の瞳に侵入者の顔が映し出される。
「眠れなかったかな?簪」
侵入者の正体は本来ならば別室で就寝中である簪であった。だが、先ほどから息は大きく乱れており、頬は赤く染まっており、瞳もどこを見つめているのかわからない虚ろなものだ。まるで誰かに操られているかのように今の簪には自我や意識のようなものが感じられない。
「ふむふむ、順調に出来上がっているな」
「はあ、はあ、はあ、・・・・ゴクッ」
ベッドに戻った瑠奈を目指すようにおぼつかない足取りで歩き始めるが、その歩みは直前になって静止をかけられる。
「待て、その前にお前にはやることがあるだろう」
「うう?あう・・・・」
「そこで服を全部脱げ」
あまりに非常識で常識外れな命令だが、その命令に簪は反抗することなく今着ているパジャマに手をかけてゆっくりとボタンをはずしていく。上着を脱ぎ捨て、今度はズボンを脱ぐ。そして下着姿になるが、彼の命令は「全ての服を脱ぐ」ということだ。ブラジャーのホックをはずし、パンツも脱ぎ捨てる。そして見事に生まれたままの姿となる。
「うーん、お前の肉体はやはりいい。何度見ても飽きないな」
二次性徴を迎え、徐々に大人の身体になりつつある少女の身体。子孫の出産に備えて全身に脂肪が付き、少しずつだが大人の色に染まり始めている。普通ならばこのまま彼女は大人になっていったのかもしれない。そう、普通ならば。
「舐めろ」
ベットに腰かけ、全裸の簪に足先をつきだす。言わずもながらこれは自分の足を舐めろという命令である。その命令にも文句一ついうことなく、膝をつき、優しく両手で足を掴む。そしてーーー
ジュプッ、ペロペロ
舌先で足先を舐めて奉仕する。全裸の少女が目の前の少年の足を必死に舐めて奉仕する。服従、従属、屈服、奴隷、まさにそんな言葉がこの光景にはふさわしい。
チラッ、チラッ
「そんなに俺の顔色を窺わなくていい。十分にお前は奉仕できている」
自分の奉仕がお気に召しているかどうか顔色を窺うように上目遣いで見てくる簪に優しく、温かい言葉をかける。すると、その誉め言葉に恍惚するかのように虚ろな目を細めると、足の指先だけでなく、指の間にも下を這わせて奉仕する。
「んふっ、はむっ・・・れろ・・・」
人の足を舐めるなどという屈辱的な行為のはずなのに、簪には嫌悪の表情はなく、まるで酒を飲んだ時のように全身がほんのりと赤く染まっている。そんな状況が十分ほど続いたころだろうか。唾液まみれとなった足の指先をつかって簪の顎をあげて自分を見上げさせる。
「前に俺がいない間に俺の枕を使って自慰行為をした非礼はこれで許してやる。さあ、こっちにこい」
「はぁ・・・・」
その言葉に歓喜するように口角を上げて喜びの表情を浮かべるとゆっくりと瑠奈のもとへ歩み寄る。ちらりとさっき簪がしゃがんでいる場所をみると、そこには彼女の体液による小さな水たまりができていた。
「今夜は随分と『出来上がって』いるな。まあいい、っ!」
「ひゃんっ!」
小さく、吐き捨てるような声で呟くと目の前の簪の両手首をつかむとベッドに押し倒す。それによって小さな悲鳴が出るが、相変わらず簪に嫌がる様子はない。
「今日もそのかわいらしい体に蔓延る情欲を解消させてやる」
舌を簪の首筋に置き、少しずつ下へ這わせていく。首筋から鎖骨、鎖骨から胸の谷間を通過し、腹部、下腹部、そして最終到達地点へ。
「はうっ!」
限界まで盛り上がった体に自分ではない者によって与えられる刺激に反射的に声がでて、脚を閉じようとするがそんなこと彼が許すはずがない。
「脚を閉じるな。広げたままにしろ」
ビチャビチャと彼の舌が自分の体液を弾く音を聞きながら少しずつ簪は脚を開いていく。だが、快楽は際限なく与えられたせいで大きく上半身を悶えさせるが、それでも必死に耐え続ける。これはいい兆候だ。少しずつ彼女の身体が瑠奈を『同族』の格上ということを覚え始めている。
毎晩しっかりと入念に簪の身体を「仕込んでいる」おかげで、夜になるとほぼ自動的に彼女は自分のもとへ向かってくるようになった。そしてその事実は簪の身体が少しずつ人間でなくなっていることの証でもある。いや、ここまでくると、もはや人間として生きるなど不可能かもしれない。
この更識 簪という少女の肉体は既にこの
ーーーー
「おー、これがパリか・・・・って寒っ!」
列車を降りるや否や想像以上の冷たさに身を震わせる。一応、季節ということもあって学園の冬服を着てきたのだが、それでも肌寒いほどの気温の低さであった。
「さ、笹原さん、寒くないか?」
「まあ、少しだけ寒いかも」
「じゃあさ、その・・・・俺マフラー持っているから一緒に巻かないか?」
「ええ、ありがとう」
手元のバッグからマフラーを取り出すと、一夏は亜紗日の首にマフラーを巻き、余った部分で自身の首に巻く。
だが、他人と同じマフラーを一緒に巻くという日頃の一夏では想像できないほどの大胆な行動に千冬が驚いた表情でいる。
「瑠奈、私もあれがやりたいのだが・・・でかいマフラーはあるか?」
「少し待て。確か・・・ああ、あった・・・」
一夏と瑠奈を指さし、まるでうらやましかる子供のような発言をするラウラの要望を応えるため、バッグから大きなマフラーを取り出す。これはこの前冗談半分で楯無からもらったジャンボサイズのマフラーだ。何かの役に立つかもしれないと思って持ってきたのだが、その用意周到さは意外と侮れない。
「ふむ、やはり密着すると温かいな」
「もう少し入れそうだな、ねえ、簪?」
「・・・・・・」
ラウラと瑠奈が小柄なのもあってかもう一人分ぐらい余裕がある。そこで近くにいた簪に声をかけるのだが、返答がない。
「簪?」
「え?ひゃあ!?」
不審に思い、肩をゆすると瑠奈の存在に気が付いた簪が驚きの声を上げる。
「な、なに?どうしたの?」
「いや、寒いから一緒にマフラーを巻かないかっていう話なんだが・・・・」
「う、うん、ありがとう・・・・」
そんな明らかに挙動不審な様子の簪とともに駅をでる。すると、そこには豪華なリムジンの高級車とともに執事服姿の初老の男性が待っていた。
「お嬢様とご友人の方々、ようこそパリへ。社長がお待ちしております、お車へお乗りください」
会社のなかで複雑な立場にあるシャルロットであるから、てっきり使用人も彼女を冷遇しているのかとおもっていたのだが、その言動からはシャルロットに対して深い敬意を感じた。
「うん、わかったよ。それじゃあ、いこ!」
催促の言葉を聞き、それぞれの面子は車へ乗り込む。
「一夏くん、そろそろ・・・」
「あ、ああ・・・・」
車内は暖房が効いており、もう大丈夫と言わんばかりに一夏へマフラーを返す。
「寒かったらまた言ってくれ。また貸すよ」
「ええ、ありがとう」
昨晩での夜での出来事のせいか、不思議と彼との距離が近いような気がする。まあ、多少自分のことを話すぎたような気がする。そのせいで彼は自分と親近感を抱いているのだろう、そうに違いない。
デュノア社が所持する特設ISアリーナ。その前に高級スーツに身を包んだ厳格な雰囲気を纏う中年の男性がいた。
「遅い」
頭ごなしにそう言い放つ。その対応に一夏がムッとするが、空気が読めない人物が混じっていた。
「誰だあの人?」
後ろでわざと大きな声ーーーいや、普通の音量で話す瑠奈にその男はじろりと睨みつける。
「申し遅れた、私の名はアルベール・デュノア。デュノア社の社長にしてシャルロットの実父だ」
「へぇ・・・・」
それを聞くともう興味はないとばかりに大きな欠伸をする。自分から聞いておいてその態度にアルベールは苛立ちを募らせる。
「そろそろ本題に入らせてもらおう。シャルロット・デュノアには第三世代ISへの乗り換えを行ってもらう。そのための準備は既に整っている」
「ちょ、ちょっと待ってください!乗り換えって、そんな・・・僕はリヴァイブを降りる気はありません!」
「お前の意見は聞いていない」
食らいつき、拒絶の意志を示すシャルロットだが、アルベールは一瞥しただけであった。自分の意志を無視し、勝手に物事を進めていくそのやり方と態度にシャルロットは拳を握りしめる。
「本人が拒んでいるのに無理やりやらすのが親のすることですが!」
「新世代機ではシャルロットの実践データが生かせないでしょう。それは愚策というものだ」
シャルロットを擁護するために一夏とラウラが千冬の静止を振り切って、アルベールの前に立ちふさがる。シャルロットを新世代機に乗せたがるアルベールとそれを拒むシャルロット、見事に膠着するこの状況にとある人物が声をだす。
「ならば競わせればいい」
その声に一夏だけでなく、アルベールも顔を向ける。その先には堂々とした振る舞いをした白髪の少女、亜紗日がいた。
「その新世代機と彼女のリヴァイブ。その両方を戦わせ、勝利した方を彼女の専用機にするのが単純かつ、合理的なやり方では?強いものが弱い者の上に立つ、それが間違いや過ちが起きない方法だ」
「ふむ・・・・なかなか良い案だ。君、名前は何という?」
「亜紗日です。私の名前は笹原 亜紗日」
「ふむ、では笹原 亜紗日。君の提案を受け入れよう。それでは実践データ収集をかねた模擬戦を行う。それでリヴァイヴが勝つのならば、今までの無茶を許そう」
それだけ言い残すとアルベールはアリーナへ歩いていく。こうして戦いの火ぶたが切られると思われたのだが、生憎まだやらなくてはならないことがあった。
「・・・・・そこをどきたまえ」
アルベールの先を立ちふさがるように瑠奈が立つ。
「お前たちが遅れてきたせいでスケジュールが大幅に遅れている。それだけでは飽き足らず、またしても私の予定を狂わせるつもりか?」
「ええ、ご存じです、お互い多忙の身しょう。ですが、大事な大事なお話があるのです。それはとても大事なお話がね・・・・」
大胆不敵で挑発的な笑みを浮かべると、視線をアルベール・・・・ではなく、シャルロットの方に向ける。
「おたくの娘さんが過去に私の機体のデータを盗み出そうとしたことがありましてね。子供の責任は親の責任、というわけで謝罪していただきたいですよ、社長であるあなた直々にね」
その言葉にシャルロットははっと思い出したかのような表情を浮かべる。そういえばそうだった、学園に転入した時期に彼の部屋に忍び込み、データを盗もうとしてバレたことがあった。今では過去のものであり、シャルロット本人も忘れてしまっていたのだが、彼は執念深く覚えており、よりにもよって最悪のタイミングで告発した。
実の娘が盗みをしたという都合の悪い事実にシャルロットだけでなく、アルベールも動揺するが、それを表に出さずに押し殺す。動揺していることがバレたのならばあっという間に相手のペースに乗せられるからだ。だが、どんなに感情を押し殺しても、彼には関係ない。それほどまでに事態は既に収束に向かっているのだから。
「それは娘が失礼なことをした。後に会社に報告し、相応の謝罪をさせてもらおう」
「いえいえ、そんなことをする必要はありません。今ここであなたが私に謝ってもらえれば許してあげます。あなたが頭を下げてくれればね」
『許してあげる』それは格下の相手に投げかける言葉だ。目の前の子供よりも自分の立場が下、その事実はアルベールの高いプライドを逆撫でする。
「人も物を盗んではいけない、それは子供でも知っている常識だ。・・・・・おたくの娘さんはどのような教育をなさっているのでしょうか?しっかりと対処してもらってもよろしいでしょうか?」
「・・・・もし、断るといったら?」
反抗心と意地からでた素朴な疑問。その疑問に瑠奈は最終忠告と警告を兼ねた言葉を返す。
「お前は中絶手術をしたい産科医がいると思うか?」
なんの答えにもなっていない返答だが、そのたとえ話が瑠奈のやり方を物語っている。もうはぐらかすことはできないと判断するとアルベールは脚をそろえ、腰を曲げる。そしてーーーー
「私の娘があなたに失礼な行いをした。誠に申し訳ない・・・・」
頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。先ほどまでの厳格な雰囲気とは一変し、心の底から許しを請うその態度にシャルロットだけでなく、一夏、ラウラ、簪、そして千冬までも驚いた表情をする。
「軽い頭だ」
それだけ呟くと、瑠奈は千冬たちの元へ戻っていく。その異端ともいえる立ち振る舞いにアルベールの背筋に冷たい汗が流れる。
「随分と根に持っていたんだね」
「命綱を奪われそうになったのに、こうして社長の頭一つで勘弁してやったんだ。だいぶサービスしただろ」
「そういえば彼女と対戦する最新鋭機の名前は『コスモス』っていうらしいよ」
「俺はキンモクセイが好きだ」
「ああ、昔よく香りを嗅がせてほしいって言ってきたね」
その時、強風が吹いて瑠奈と亜紗日の髪を大きくかき乱す。混合する白と黒、合わさっているのに決して混じることのないその色はこの二人の立場と存在を明確にしているように見えた。