「いったい何を考えているのよあんたはっ!!!?」
「~~~~~っ!」
放課後の寮で響く鈴の怒声。まるで拡声器のような音量の振動に脳震盪を起こしそうになるが、何とか踏みとどまる。だが、鈴の怒りはそれでも収まらないらしく、一緒に部屋に来た千冬とシャルロットに止められる始末だ。
「落ち着いて、鈴。とりあえず衣音から話を聞かない?」
「そんなことやっている場合じゃないわよ!よりにもよって一年の主席と専用機をかけて戦うことになったのよ!?どうするのよ!?」
「過去を悔やんでも何も生まれませんよ?」
「あんたは黙っていなさい!!」
怒りの有頂天といった様子の鈴では話が伝わらなそうなので、ひとまずエストに鈴の相手を頼み、シャルロットと千冬に軽く事情を説明する。朝、教室で起こった出来事、アリス・オルコットというクラスメイト、そして自分の専用機を賭けて戦うことになったこと。
どうせなら、シャルロットと千冬にこの勝負に勝つための算段を考えてほしかったのだが、やはり内容が内容なだけにいい顔はしてくれなかった。
「衣音、悪いことは言わん。今すぐ相手の部屋へ行って勝負を取り消してもらえ」
「お断る」
「そうは言っても相手は入学主席にしてイギリスの代表候補生、しかも、貴族オルコット家の次期当主アリス・オルコットだぞ?IS訓練もかなり積んでいるだろう。いくらなんでも相手が悪すぎる」
「そんなの、やってみなくてはわからない」
「ならせめて機体だけでも許してもらおうよ?」
「機体を掛け皿からなくしたら相手は本気で戦ってこないだろう。それでは意味がない」
「もし負けたらどう責任を取るつもりだ?」
「責任?そんなものないだろ。負けたらヴァリアントは奪われ、僕は学園を去る。どこに誰が負うべき責任がある?」
「っ!」
反省の色なしといった衣音に頭を抱えながら、近くにあった椅子に腰かける。シャルロットも同じ心境らしく、苦悩しながら項垂れている。
「エスト、お前は近くにいたはずだろう。なぜ止めなかった?」
『止めても無駄だと判断したからです』
衣音は
「心配してくれるのは感謝する。だけど、戦うよ。自分が起こした戦いなんだ、自分で始末をつけないとね」
捻くれることなく、こんな自分を肯定し、否定するものと戦う。その決意のような言葉を聞いた瞬間、この戦いを止めるのは不可能だと薄々と感じ取る。
「さあ、ヴァリアント。お前が待ち望んだ戦いだ」
自身の身体に潜む最強の相棒に言い聞かせるようにつぶやくと、今日の疲れを癒すためにベットに横たわる。隣でギャアギャアと鈴の怒声が聞こえてくるが、一度瞼を閉じてしまえばこっちのものだ。
ーーーー
「馬鹿か君は」
「朝っぱらからバカといわれる日が来るとは思わなかったよ」
朝っぱらの食堂、そこで偶然会った織斑春香と席をともにして第一に言われた言葉がそれだ。もっと『おはよう』とかの挨拶言葉があるのではないだろうか。
「馬鹿と言われても、私はそこら辺の連中よりは賢いと思うけどね。私は新しい数学公式や新型の元素粒子を発見してきた。それは常人にできるものかな?」
「ならば、その頭を使って損得の計算をすることはできなかったのか?それも子供ができるような単純な計算をだ」
「君、言葉がきついな」
刺々しい言葉を聞きつつ、朝食をとる。肯定的な言葉を彼女に求めた自分がバカだった。昨日といい、今日といい他人から罵声を聞かされる日だ。別に誰かに理解してもらおうとは思わなかったが、ここまで周囲が否定的だと傷つく。
「相手は男である私が専用機を持つのはふさわしくないと言っていたけど、君も同意見?」
「否定はしないな、少なくとも私は私の父が母に勝っているところを見たことがない。それでは考えが偏ってきても仕方がないというものだ」
「そうか・・・・君の母さんはそんなに強いんだ」
「ああ、剣道の有段者なのだが、そんな母に父は毎日挑んでは負けて返り討ちになっていたな。それはもう見事なまでの負けっぷりだった」
「それも一種の夫婦愛なのかな・・・・」
愛のカタチも十人十色だ。彼女の両親のように剣道の腕を競い合っていくことで互いを認め、そして相手を見ることもできる。なんとも不思議な関係だ。それに対し、自分の両親はどのようなものだろうか。
母ーーー謎の美貌を持つ自分の母親。かつてISの代表生だったようだが、今はその片鱗を見せることなく自分を育ててくれた。だが、昔少しだけ見たことがある言葉、『楯無』。そこにはどのような意味が。
そして父はーーーー
「父さん・・・・」
「おい?どうしたんだ?」
「いや、別に何でもない。少し両親のことを思い出していただけ」
「そうか、ともあれこのまま戦っていても負けることは必須だ。それでどうだ、私がいろいろ教えてあげててもいいぞ?千冬さんをはじめとするISの関係者は周りにたくさんいるからな」
「いや、結構。気持ちだけ受け取っておくよ」
「え・・・・」
個人的に勇気を出して助け舟を出したつもりなのだが、それをあっさり断り、席を立つ。別に意地や感情の問題ではない、純粋に彼女の力を借りる必要がないと感じての返答だ。孤立は問題だが、過保護では自身の成長が望めない。ライオンは我が子を崖へ落とすという、ならば人間にもそれにふさわしい試練があってもいいだろう。
ーーーー
♬~♬~
薄暗い部屋にオルゴールの安らかなメロディが響く。その部屋には蛍光灯らしきものはなく、部屋の真ん中にあるほのかな明かりのランタンが部屋を照らしている。そんな部屋に設置されたソファーの上に白い髪が特徴の一組の少年少女がいた。
ソファーに腰かけた少女に少年が膝枕をされており、心地よさそうに頬を膝の上に置いている。そしてそんな少年を撫でながらオルゴールのメロディにそって鼻声で歌っている。二人とも同じ白髪のところを見ると、姉弟または兄妹なのだろうか。
「ねえ、あなたはこの世界は美しいと思う?」
「世界を問わず、この世の全ての美麗と醜悪は表裏一体だ。人は美しいものを好む、なのに醜いものは嫌いというものは少々都合がよすぎないかな」
「ならば、私たちは
「別にいいさ。僕たちは人ならざる者、この世界の理から外れた存在。人の常識などいらない、人間ごときの尺度で僕たちを図られてたまるか。
「よく言えました。ふふっ・・・」
頬を包むと、少年を起き上がらせて唇に自身の唇を押し付ける。互いの口をこじ開けられ、下を差し込まれる大人のように淫靡で妖しいキス。数十秒のキスの果てに口が離れる、二人の口の間を唾液でできた銀の橋でつながれる。
「でも、なんであの胡散臭いウサギーーーー條ノ之束の力を借りなきゃいけないの?あいつ、僕を実験動物を見るような目で見てきて殺したくなるんだけど」
「それは私も同じだけど、ダメよ殺したら。あの女はすべての用が済んだら殺せばいいわ、生かしておいていいこともないしね」
それはおそらく相手も同じことを考えていただろう。共通の目的を達成した後はあの女と手を組んでいる必要などない。もらえる物はもらい、奪えるものは奪う。それができてこそ完全勝利というものだ。そしてそこにいるのは自分とこの子のみでいい。ほかに勝者など不要だし必要ない。
「ねえ、もっとしようよ」
「ダメ、これ以上はベットでしないとソファーが汚れちゃうでしょ?」
「それもそうだね、じゃあこれで我慢する・・・・」
目線を下に向け、少女の着ているシャツのボタンをはずしていく。すると、小さくはない胸を包んでいる清楚かつ大人びた紫色のブラジャーが顔をのぞかせる。
「可愛らしいブラ。もしかして、僕がこうすること期待していた?」
「私はいつでもあなたがこうして甘えてきても大丈夫なようにしているだけよ。それとも、もっと刺激的なやつのほうがよかった?」
「次からそれも見てみたいな」
そういい、少女のブラを上にたくしあげ、可愛らしい乳房をむき出しにする。白い髪と同じようにシミ一つない綺麗な肌に柔らかそうな二つの膨らみ、そしてその膨らみの先端にあるピンク色の突起物。それが大きな母性と安心感を伝えてくる。
「っ・・・・」
その母性に身も心も任せるように顔をうずめる。顔いっぱいに広がる柔らかい感触と温もり、それをもっと得ようとぐりぐりと顔全体を胸に押し付けていく。
「気持ちいい?」
「うん、柔らかくて温かくて・・・・安心する」
「ふふっ、でも続きはベットでね?」
「えー、こんな中途半端で?」
「あそこでならいくらお互いがいくら汚れてもシーツを変えればいいんだから。ほら、早く服を脱ぎなさい」
顔を離させて立ち上がると、半脱ぎの状態だったYシャツとたくしあげられたブラジャーを脱ぎ、床に投げ捨てる。それに続いて、下に履いていたミニスカート、すらりと長い足を包んでいた黒タイツ、靴下を脱ぎ、最後の衣類である紫のブラジャーとおそろいの紫のパンツに足を通し、脱ぎ捨てる。そのとき、肉付きのいいお尻が左右に揺れる。
「ふう・・・・」
生まれたままの姿となり、全身にひんやりと冷たい空気が包み込む。この冷たさが世界だ。誰もが孤独で誰もが無価値だ。誰にも理解されることもなく、壊れればまた違うパーツと取り換えられる。自分を必要としない世界、人間はなぜこんな世界で生きていける、そしてなぜ生きていて幸せだと胸を張って言える。
世界は自分を必要としていなかった、ならば、こちらも何もいらない。自分には彼がーーーー
「
振り向くと、自分と同じように生まれたままの姿となった少年ーーー弟がいた。なんだか急に彼が愛おしくなって抱きしめる。それはまるで彼が最後の希望というように、もう二度と彼を離さないというように。
「今日は
「うん、お姉ちゃんを満足させられるように頑張る」
ベットに横たわって少年ーーー雄星に向かって両脚を開き、すべてを受け入れる体勢をとる。白い肌に瑞々しい肉体、そして男の情欲と性欲、そして本能を存分に刺激するであろう無防備な姿。それに流されることなく、雄星は優しく、そして丁寧に姉の身体と自分の身体を重ねる。
「んっ・・・」
刺激に我慢できずに両者の声が部屋に響く。今はもうすぐやることになるであろう仕事のこともすべて忘れて情事に没頭していたい。
「次はどんなことをしたい?」
「その・・・こっちでしたい」
腰に腕を回し、肉付きのいいお尻を鷲掴みにする。それだけで意図を理解すると四つん這いになり、左右の尻肉を開き、排泄口を見せつける。そこには恥じらいや不快感などなく、弟に自分の痴態を見てくれているという高揚感があった。そんな幸福感と安心感で溢れている二人だけの世界。他者が介入しない不変の世界。そしてこの世界ももうすぐそのようになる。それまでの辛抱だ。
ーーーー
『2.1の標準正規分布における確率は?』
「48.2%」
『正解、では3.3の標準正規分布における確率は?」
「確か・・・5%だったっけ?」
『残念、正解は5%ではなく50%です。少々記憶違いがありましたね』
「げっ、僕もまだまだだな」
「おい、何をしている」
第三アリーナのAピットにやってきたのは不機嫌そうな目つきをしている千冬であった。殺し屋のような鋭い目つきでのんきにくつろいでいる瑠奈を睨みつける。
「標準正規分布の確率の問題を出し合っているんだ」
「それ、楽しいのか?」
「意外とね、それで何か御用?というより、なんでここにいるの?」
「それはこちらのセリフだ。お前は今日ーーーいや、
言われなくてもわかっている。今日は翌週の月曜日の放課後、それはここ最近学園中で話題で持ちきりになっていたアリス・オルコットとの対決日であった。そう、今日、いや、今が試合時間だ。本来ならば既に試合が始まっているはずの時間、だというのにいまだに瑠奈はAピットでくつろいでいる。
「お前が出てこないから観客席からはお前は棄権したのではないかという野次が出ている。さっさと出撃しろ!!」
「僕は別にこの試合に誰かを招いたつもりはないんだけど・・・・勝手に来ておいてブーイングだなんて随分と理不尽なギャラリーだな。まあいいや、いこうか」
長い水色の髪をたなびかせ、ヴァリアントを展開する。過去に一回しか戦闘経験はなかったが、機体の着脱ぐらいは問題なくレベルでスムーズに行えるようになっていた。あとはヴァリアントと自分がどのくらいやれるかだ。
「あ、そうだ、出る前に一ついい?」
「なんだ、何か不具合でもあるのか?」
「いや、そういうのじゃなくて、素朴な疑問。僕の髪、切ったほうがいいかな?」
男にしては明らかに長すぎる水色の髪。これと容姿のせいで昔はよく女に間違われていたことがある。街を歩いていればチャラついた男に声をかけられ、ひどいときはモデル編集者やレズビアン同性愛者に金を握らされてホテルに連れ込まれそうになったこともある。
この長い髪がなければ少しはマシになるかもしれないと思ってはいたが、なかなか実行には踏み出せずにこうしてダラダラとこの髪と付き合ってきた。別にコンプレックスという意味ではないのだが、場所が場所だ。思い切ってイメチェンしてみるべきか。
「いや、お前はそのままでいい。その髪も容姿も親からもらったものだ。頑なに否定することはない」
「そうか・・・・ありがとう、少しだけ勇気をもらったよ。そろそろ出る。下がっていてくれ」
軽い風圧とともに機体が浮き上がり、静かに飛び立っていく。
千冬としては彼とは教師と生徒との関係でありたかったのだが、最近は身内のように砕けた口調で会話を交わしていた。まあ、今更彼に『敬意を払え』と言ったところで従うとは思えないが、内心千冬も喜んでいるのかもしれない。
過去の因縁と責任で自分には彼と話す資格すらないはずだ。だから、彼が生まれて十数年、会いに行くことはおろか連絡をとることすら避けて日々を過ごしてきた。だが、運命の悪戯かそれとも宿命か、父親の力を受け継ぎ、この戦いの戦火に身を投じていく。そしてその火蓋が切って落とされた。
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