ぶっちゃけちゃいますと、おそらくこの作品もその例にもれなく、駄作になる可能性が大です。それでも自分の書きたい事を書き続けていきたいと最近思うようになってきました。
人生山に谷あり、一難去ってまた一難、そんな難儀続きの人生だが、その難儀の後には大抵休息というものがあるはずなのだが、ここIS学園にはそんな余裕はないらしい。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
取り調べ室のとある一室、そこで机越しに無言で対面する瑠奈と千冬がいた。てっきり先ほどの襲撃を無事に切り抜けられたことに対する労いの言葉をかけてくれるかとおもっていたが生憎、織斑千冬という女にはそのような優しさはなかった。
「もう一度訊く、先ほどの襲撃で起こったことを報告しろ」
「お望みならば何度でも言ってやる、あの黒い機体は私をボコボコにしたあと勝手に立ち去って行った。他は知らない」
千冬を始めとした教員による密室での尋問と質問を繰り返すこと一時間、何度も聞いた返答をいわれる。あの襲撃直後、事件処理という名でアリス・オルコットと小倉瑠奈に取り調べを学園側は受けさせた。なんでもアリーナでのカメラはジャミングによって使えなくなっており、あの襲撃者の正体の説明を学園はアリス・オルコットと小倉瑠奈に求めているらしい。
だが、アリス・オルコットは襲撃者と交戦することなく撤退しており、手がかりになりそうなものは手に入れていない。だとすると、頼みの綱は瑠奈にあるのだが、それすらもないということをこの一時間で味わっている。
「生徒は教員のいうことを聞くものだ。いつまでもお前に割いている時間はない、さっさと白状しろ」
「しつこい女は嫌われるよ?まったく、そんなんだからアラフォーになっても嫁の貰い手がいないんだよババア」
「っ!!」
売り言葉に買い言葉、そして反論できない正論に苛立ちをぶつけるように目の前の机をバンと叩く。無論、何も知らないなど嘘の報告だ。『AXE』に『EXA』報告するべきことなど山ほどあるが、それを報告するのは口が阻まれる。
何となくだが、この学園を信用できないし報告する義務があるとは思えないのだ。
「もう無理だよ、いくら私をゆすったところでこれ以上は何も落とさない。わかっているだろ?」
千冬も瑠奈の報告が虚偽であることはわかっている。だが、千冬には瑠奈の報告を虚偽だと証明できる証拠がない。カメラは全滅、目撃者もないとなると千冬を初めとした教員も学園側も瑠奈の証言を信用せざるを得ない。その緻密さと口の堅さも父親譲りだ。
「もう質問がないなら行っていい?休みたい」
「ちっ・・・もういい、行け」
退室の意志を確認すると瑠奈は部屋を出ていく。それに入れ替わる形で鈴とシャルロットが入室してきた。
「どうでした、何か言っていました?」
「いや、ダメだった。あいつめ、全く私のことを信用していなかったよ」
「やっぱり僕が取り調べをしておいたほうがよかったかもしれません。織斑先生は必死すぎるんですよ」
瑠奈ーーーいや、衣音と千冬はもしかすると根本的な部分でずれているのかもしれない。教員として行動している千冬の一生懸命さと使命感が衣音には心のどこかで滑稽に思っており、馬鹿らしく思われている。もしかすると、先ほども必死になっている千冬を心の奥底で嘲笑っていたのだろうか。
「もういい、地下の解析室にいく。もしかしたら映像を復元できるかもしれない」
それだけ言うと、千冬も部屋を出ていく。ともあれ、誰一人負傷者を出さずに事態を収束できたことを喜ぶべきなのかもしれない。だが、根本的な部分が解決できていない。あの黒い機体、他の対策を考えなくてはならなくなった。なんとなくだがこのまま敵が引き下がるとは思えない、自分の予感がそう告げているのだ。
ーーーー
「ふう・・・・」
オレンジ色に染まる夕暮れの学園、寮へ続く道の途中に設置されているベンチに寝そべると安堵の息が漏れる。とにかく疲れた、ヴァリアントを起動させたときも実戦を経験したが、今回はその時とは比にならないほど疲労感が体に残る。
集団戦よりも手練れとの対決のほうが緊張感と緊迫感が桁違いだ。その疲れを少しでも癒すため缶コーヒーを片手に持っているが、缶を片手にベンチに寝そべっていると完全に酔いつぶれた酔っぱらいにしか見えない。現に周りの生徒が自分を指さしてクスクスと笑っている。まあ、別にいいが。
「・・・・・・」
極度の戦闘の後にはなぜか頭が冷静になる。あの黒いエクストリーム『AXE』、学園は政府に所属不明の無人機と説明したが、明らかに違う。あの機体には自分に対して明確な殺意ーーー敵意があった。だとすると敵の目的はヴァリアントか自分か・・・・多分、両方だろう。なんというか面倒な奴に目をつけられてしまったものだ。
「ちょっとよろしいですか?」
「ん?」
頭上から聞き慣れた声、顔を向けると先ほどの試合の対戦相手アリス・オルコットがいた。どうやら、既に互いの取り調べは終わっていたらしい。神妙な顔つきを察してか、体をずるずると動かして起き上がる。
「隣、よろしいですか?
「どうぞ、あと取り調べお疲れ様、お互い無事で何よりだ」
「は、はい・・・」
すると両者の間で沈黙が続く、別に瑠奈としては彼女に用件はない。せいぜい『お互い無事でよかったね』程度だ。互いの無事を喜び合うような仲ではないだろう。
「あ、あの・・・・」
「ん?」
「その・・・ありがとうございます。助けていただいて・・・」
「ああ、あの時か・・・・」
多分、彼女はAXEに切りかかれた時、瑠奈にカバーしてもらった時の礼を言っているのだろう。どうやら、あの剣筋と不気味さは彼女の中でトラウマになってしまったらしい。
「別にいいさ、見殺しにするのも気分が悪かったしね」
「それと、ごめんなさい。あなたのお名前を侮辱してしまって・・・」
「っ・・・」
そういえば根本的な部分を忘れてしまっていた。今日のあの試合はヴァリアントの所有権と自分の名前を侮辱したことに対する謝罪を賭けたものだった。それを謝るというものは負けを認めたということだ。正直、これは意外だった。プライドが高い彼女のことだから『勝負はうやむやになってしまったため、後日再戦を行いましてよ!!』と性懲りもなくかかってくると思っていたのだが。
「こちらこそ悪かった。君をよくわからない事情に巻き込んでしまったようだ」
「結局、あの機体はなんですの?学園は所属不明の無人機と発表していますが」
「多分・・・あれは無人機じゃない。無人機にしては敵意や仕草、動きが滑らかすぎる。そして躊躇いもせずに警告もない不意打ちをしてくる所をみると、相当の手練れなことがわかる」
「そうですか・・・・」
それから再び沈黙が続く。アリス・オルコットはその沈黙が気まずく感じられ、困ったような表情を浮かべていたが、瑠奈は対して気にした様子もなく飲みかけの缶コーヒーを飲みながら夕焼けを眺めていた。だが、カフェインを摂取したことで少し元気になったからか、どこか饒舌そうな口調で口を開いた。
「さっき謝ってもらったところ悪いけど、私の名前である小倉瑠奈っていうのは本名じゃないんだ」
「偽名・・・なのですか?」
「ああ」
なんとなくだが、それは感づいていた。明らかに女性の名前である名前に加え、彼の筆跡を見てもどこかぎこちなさを感じる文字だった。例えるなら自分の漢字を親から教えてもらったばかりの子供だ。
そして決めては先ほど母へ報告を兼ねた連絡をした時の反応だ。イギリス代表候補生という立場や完璧主義な母からすると今回の敗北は間違いなく自分の評価の下方修正は避けられないと思っていた。
だが、彼の名前ーーー小倉瑠奈の名前を伝えると母は少女のような楽しげな笑い声をだして『そう、それならば仕方がないわね。大変かもしれないけど頑張りなさい』という投げやりな返事だけだった。母まで懐柔させる存在である小倉瑠奈はいったい何者なのだろうか。そしてなぜ彼はその名前を使ってこの学園に来たのだろうか。
「まあ、まだ私の機体を諦めきれないというのならば一度本国と相談して作戦を立ててからくるといい。それこそ、あの襲撃者を相手でも勝てるほどの完璧な作戦をね」
さらっと皮肉を交えた冗談を言うと、これ以上の会話は不要と思ったのか立ち去っていく。既に体力の限界からかフラフラと危なっかしい様子だったが、まあ、大丈夫だろう。その時、夕涼みの風が吹いてアリス・オルコットの長い金髪をなびかせる。
「・・・・・・・・」
波乱に溢れた日だったが、不思議と自分の中で何かが成長したような手ごたえがある。それを自覚している自分がいるのだ。
「それじゃあ、一年一組のクラス代表はアリス・オルコットに決定したわ。はい、拍手」
次の日、教卓にあがった鈴のかけ声とともにパチパチとアリス・オルコットへ拍手が送られる。だが、それに一番戸惑っているのはアリス・オルコット本人であった。昨日の試合で自分より小倉瑠奈の方が優れていることは明らかだったはずだ。
だが、それなのに自分がクラス代表となっている。その理由は今朝の寮内までさかのぼる。
朝一で瑠奈が自分に言った言葉は『君がクラス代表をやってくれ』であった。当然ながら、遠慮した。昨日の試合では間違いなく自分は負けていたし、自分自身も敗北だと認めている。ならば優れた者がクラス代表をするべきなのは当然と言えば当然だろう。
だが、彼には肝心のやる気がなかったらしい。昨日の試合は私情での戦いであるがゆえに、クラス代表を決めるのは別の話だ。ならば、やる気のある人間がやった方がいい、それが彼の意見であった。そこまで言われたらクラス代表をやらないわけにはいかず、渋々引き受けたわけであった。
幸いなことにクラスメイトから実力は認められており、反論の声はなかった。ちらりと彼の方を見てみると目覚ましの缶コーヒーを飲みながら拍手を送っている。それを見るとなんだかいろいろ負けたような敗北感がこみ上げてくるのは気のせいではないはずだ。
「そ、それではこのアリス・オルコット。精一杯尽くさせてもらいますわ」
あいさつ代わりのスピーチをすると、妙な気恥ずかしさを感じて顔が赤くなる。小倉瑠奈、少し変わった人間だが悪い人間ではなさそうだ。そう思いながら授業が始まるため、アリス・オルコットは教科書を開いた。
ーーーー
青く澄み渡る青空、その下を衣音の母親である小倉刀奈が歩いていた。前まで彼女は政府に保護状態であったのだが、なんとか事態の落ち着きを見せ、外出許可がでたのだ。外に出られるようになったら最初に行くところは決まっていた。
襲撃によって破壊されてしまった我が家だ。見たいものではないが、現実から目を逸らしてもいられない。そのためこうして渋々足を運んでいる。
自慢の長い花畑を歩き、丘を越え、自然いっぱいの道を歩く。
「え?」
すると、ほぼ全壊状態である自分たちの家の前に佇む1つの人影があった。遠くからで顔は良く見えないが、黒い上着を着て、長い黒髪が特徴の人物であった。そしてその人物を刀奈は知っている。
「っ、まさか!?」
そう思うが否や走り出す。そしてその人物はやはり刀奈が知っている人物であった。
「嘘・・・あなたは・・・・」
風によってたなびく髪を抑えながらゆっくりと振り向く。その人物は10代後半と思われる若い外見をしている少年だった。まるで女性のように腰まで伸びた長い黒髪に紅く光るオッドアイの瞳。そして息子である衣音に瓜二つの顔。
「・・・・お久しぶりです、刀奈さん」
その人物は紛れもなく自分の夫にして衣音の父親である小倉雄星であった。意外すぎる人物の登場に目を見開き、驚く。十年以上前から行方不明となっていた彼がなぜこうして突然姿を現したのだろうか。だが、そんなことはどうでもいい、彼に出会えたことに対しての安心感が湧き出てくる。
「おかえりなさい、雄星君」
涙目になりながら愛する夫の胸元へ飛び込む。雄星と刀奈、この2人は子持ちの夫婦なはずなのだが、外見からはとても想像できない。せいぜい、学生カップルと想像するのが精一杯だろう。だが、既に生き物や自然の理から外れた2人にはそんなこと関係ない。
宝石のように輝く紅き瞳に卓越した身体能力、そしてその代償として老いることが許されず、自然の摂理に従って死ぬことのない不老の肉体。かつて人間の生み出してきた醜態と醜悪の具現化した姿。
「僕は・・・・雄星じゃない。彼の皮を被った化け物です」
「そんなこと言わないで・・・・あなたは私の夫なんだから・・・・」
否が応でも離さないといった刀奈を抱きしめる資格を今の自分にはない。だが、ここで下手に突き放しても彼女を傷つけるだけだ。過度なボディタッチを避け、ぎこちない手つきで刀奈の頭を撫でる。正直、この反応は予想外だ。十年以上会わずにいたのだ。別の男と再婚していてもいいはずなのに、彼女はずっと自分を待っていたというのか。
「ねえ、キスして・・・・」
「僕にそんなことをする資格はありません、僕はーーーんぷっ!」
そこまで言いかけたところで後頭部に手を掛けると強引に唇を押し付ける。流石にまずいと思って引き離そうとするが、必死にしがみつき口づけを続ける。その仕草が不意に可愛らしく感じてしまい、いつの間にか抵抗を止め、身を任せていた。
「んっ・・・」
しばらくして2人の唇が離れる。しばらく流れる沈黙、だがそんな空間で雄星が刀奈の体を優しく抱きしめる。
「ただいま帰りました、刀奈さん」
「ふふっ、待たせすぎよ」
小倉刀奈は夫をーーー小倉雄星を愛している。それは自身の肉体と同じように不変の意志だ。彼の本名を知り、過去を知り、苦しみを知った。そして政府の暗殺部隊の姓も責務も投げ出し、衣音の母親となって今日まで生きてきた。自分は衣音や簪を愛している、家族を愛している、家庭を愛している、そして夫も当然ながら愛している。
それを感じた時、『彼』はこの女性が抱いている自分への愛を感じ取る。そうか、こういう風に強引で狡賢く、可愛らしくて美しい。だから相棒はこの小倉刀奈という女性を自らの命を犠牲にしてまで救いだしたのだろう。長年、分からなかった謎が1つわかったような気がした。
「お互い言いたいことがたくさんありそうですね、場所を移しましょうか」
「ええ、なら2人っきりで話せるとっておきの場所があるわ。ほら、行きましょう」
手を繋ぐと30近くとは思えないほどの無邪気な笑みを浮かべて歩き出す。どうやら肉体だけでなく、精神的な面でも成長や老化はないらしい。そんな久しい再開と同時に行われた初デートを初々しい仕草をしながら楽しんでいく。だが、大人となった今、小倉刀奈がどのようなデートプランを立てているのかその時予想できなかったのが最大の失点であったことをその時気づけずにいた。
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